Vol.1 海からの招待状
トリニティ総合学園の一連の騒動が落着し、連日連夜続いていた緊張感が幾分か和らいだある日のこと
ネクストライスクール本校の広々とした生徒会室には、主要メンバーが一堂に会していた
レイカやハレカ、ヘルタやカリネなどの面々が仕事に追われていた
「ふう……やっとこさ、ここのところのバタバタも一段落って感じかぁ。いやー、マジで肩凝ったわ!」
アリカが両手を大きく頭の後ろに組み、盛大に背伸びをしながら椅子をギギッと鳴らした
「本当っすよねー! いやもう、リーダーのところもウチらのところも、最近は事件が起きすぎっすよ。たまには平和な日常をかみしめたいっす」
ヘルタも自分の席でふにゃあと気だるげに机に突っ伏しながら、大きな欠伸を一つかみこむ
「はあ、仕方ないさて……ここはキヴォトスなんだから……」
カリネがため息をしつつ、手元のタブレット端末をスワイプして正確なスケジュールを確認する
「いいじゃねえかカリネ。これだけデカい学園の事務処理を連日こなしてんだ、多少の息抜きは必要だっての」
アリカがフンッと鼻を鳴らすと、ミナサが穏やかな微笑みを浮かべながら二人の間に割って入った
「ふふ、二人とも。アリカちゃんもカリネちゃんも、お疲れ様。でも、みんながこうして無事で戻ってこられたのが一番だからね」
「ミナサ先輩の言う通りだな。だが、気が緩みすぎるとまた足元をすくわれるぞ。……っと、ちょうどいいところに、新しい郵便物が届いたみたいだが」
レイカがデスクの端に置かれていた一通の重厚な封書をひょいと持ち上げた
差出人は――「オデュッセイア海洋高等学校」
ハレカが丁寧にペーパーナイフで封を切り、中に納められていた煌びやかな装飾が施された書簡を取り出す。そこに入っていたものを確認した瞬間、生徒会室の空気が一変した
「……えっ? えっ!? ちょっと待って、これ……!」
ネカが丸眼鏡を押し上げながら目を丸くして文字を追いかけ、思わず声を上擦らせた
「どうしたネカ、そんなに慌てて。何か面倒なゲリラからの要求書でも入ってたか?」
レイカが怪訝そうに眉をひそめると、ネカは信じられないといった顔で首を横に振った
「違います、違いますよレイカ先輩! これ……『ゴールデンフリース号』のAクラス宿泊チケットです……!!」
「「「ご、ゴールデンフリース号――!?」」」
オリジナルイベントストーリー
船上のドリームバケーション
執務室にいたヘルタ、カリネ、ネカ、ジュカの4人が、文字通り椅子から飛び上がるように声を揃えた。原作ゲームの知識を持つ彼女たちにとって、その船の名が持つ意味合いは痛いほどよく分かっていた。キヴォトスでも予約年数が2年を超える超大型クルーズ船。その中でも「Aクラス宿泊チケット」となれば、極上のバカンステータスそのものである
原作知識を持たないアリカとミナサは、突然騒ぎ出した後輩たちを見てキョトンと首をかしげた
「なになに? ゴールデンフリース……? なんかめっちゃ高級そうな名前やけど、そんなにすごい船なんか?」
アリカが不思議そうに首を傾げる
「すごいも何もありませんよアリカ先輩! 船内にはカジノあり、レストランあり、果ては巨大プールまで完備されてる、キヴォトス一といっても過言じゃないほどのクルーズ船なんすよ!」
ヘルタが興奮した様子で身を乗り出し、早口で説明する
「しかも、ただの乗船券じゃない……『Aクラス宿泊チケット』だよ。一般の乗客じゃ絶対に入れない最上階層のエリアに泊まれるやつだ……」
カリネも珍しく目を輝かせ、小さく息を呑んだ
「へぇ……そんなヤバい船のチケットが、なんでうちの生徒会室に届いてるわけ?」
アリカが面白そうにハレカの手元を覗き込む
周囲がざわつく中、レイカとハレカの二人は冷静に同封されていた案内状へと目を通した。ハレカが綺麗な所作で手紙の要約を読み上げる
「……どうやら、うちの学園の『AIRFLY部』が関わっているようね。彼らが最近整えた空中輸送ルートや物流支援によって、オデュッセイア海洋高等学校への海上物資の搬送効率が飛躍的に向上したそうね。その功績に対する謝礼と、間を取り持ってくれた生徒会へのお礼として、この特別招待状が贈られた……ということね」
「なるほどな。AIRFLY部の連中、知らん間にそんなデカい手柄を立ててたのか」
レイカが感心したように頷く。前世の知識や技術を持ち込んだ転生者たちが揃うネクストライだからこそ成し得た、実に彼ららしい実績であった
「で……ハレカ、このチケットはどうする? 超豪華客船のAクラスなんて、滅多にお目にかかるもんじゃないぞ」
レイカがニヤリと不敵な笑みを浮かべ、ハレカへとチケットを押しやった
ハレカはチケットを見つめながら、少し困ったように上品な眉を寄せた
「そうね……学園の代表として受け取った以上、無駄にはできないけれど……。私には日頃の行政や外交の公務もありますし、他の誰かが……」
「何言っとんねんハレカ先輩! いつもウチらのために裏で書類と格闘してくれてるんやから、たまには仕事忘れてクルーズ船で美味しいもん食べて、優雅にバカンスしてこなあかんって!」
アリカがバシバシとハレカの背中を叩いて力強く後押しする
「そうっすよハレカ先輩! リフレッシュも大切な仕事のうちっす! ずっとデスクに張り付いてたら、美肌にだって響いちゃうっすよ!」
ヘルタも両手をぶんぶんと振って乗っかる
「ジュカも、先輩が日頃どれだけ無理をなさっているかよく存じております。ぜひ、この機会に休息を取られるべきかと」
立火ジュカも真面目な顔で静かにうなずいた
「ああ、俺も同感だ。ハレカ、お前は働きすぎだ。たまには羽を伸ばしてこい。チケットが腐っちまうぜ」
レイカもニカッと笑って背中を押すと、ハレカは観念したようにふっと柔らかく微笑んだ
「……ふふ、みなさん、そんなに熱心に勧めてくださるなんて。そこまで言われたら、遠慮するのはかえって野暮というものね」
ハレカが首肯すると、執務室にはパッと明るい空気が広がった
「では、せっかくのAクラスチケットですもの、同伴者を二人ほど連れて行かせていただくわね。……カリネ君、ジュカ君。一緒についてきてくれるかしら?」
指名された二人は一瞬驚いたものの、すぐに姿勢を正した
「僕ですか? わかりました。ハレカ先輩の護衛兼、旅程のサポートとしてお供します」
銀髪の冷静な後輩、街肩カリネが頷く
「自分も同行いたします。現地での備品管理や安全確保はお任せください」
真面目な1年生、立火ジュカも引き締まった表情で敬礼した
こうして、ネクストライ生徒会からはハレカ、カリネ、ジュカの3名が、純粋なバカンスとリフレッシュのために豪華客船ゴールデンフリース号へと向かうことが決定したのだった
――同時刻。ミレニアムサイエンススクール、セミナー執務室
ネクストライの平和で微笑ましい空気とは対照的に、こちらの生徒会室は怒号と混乱の渦の中にあった
「コユキぃぃぃぃ!!!!!!」
セミナーの会計である早瀬ユウカの絶叫が、頑丈な部屋の壁を突き破らんばかりに響き渡る。
原因は明確だった。セミナー所属の1年生、黒崎コユキ。彼女がミレニアムの莫大な裏金のみならず、保管されていた極めて重要度の高い機密資料を持ち出し、姿をくらませたのである
「落ち着きなさいユウカ。叫んだところで逃げたコユキが戻ってくるわけではないでしょう」
混乱するユウカの隣で、冷静に、しかし完璧な「セミナー副会長」としての立ち振る舞いで声をかけたのは、八金タチカであった
タチカはミレニアムの要職に就きながら、裏では転生者としてネクストライに協力している人物である
「落ち着いていられませんよタチカ副会長! コユキがどれだけの金額とデータを持ち出したと思ってるんですか!? 監査が入ったらウチらの首が何個あっても足りません!」
頭を抱えて頭痛をこらえるユウカに対し、タチカは迅速に指示を出した
「コユキの足取りと逃走ルートを考えれば、通常の正義実現委員会や風紀委員会に頼むのは時間がかかりすぎる。……ここはシャーレの先生に連絡し、C&Cを動かしてもらうのが最善」
「っ……! 確かにおっしゃる通りです。C&Cなら極密裏に、かつ確実にコユキを拘束できる……! すぐに先生へ連絡を取ります!」
ユウカはすぐさま端末を手に取り、シャーレの先生へと緊急の協力要請の通信を開始した
手際よくユウカに指示を出し、完璧な副会長としての公の顔を保っていたタチカだったが――
(やっばい……! まじでやばいってこれ!!!)
心の中では、冷や汗が滝のように吹き出していた
公には「ミレニアムの機密資料」と処理されているが、コユキが盗み出したその資料の正体を、タチカは知っていた
それは、ミレニアムサイエンススクールの最新技術と、ネクストライスクールのアーティファクト研究部が共同で密かに開発を進めていた――「新規格特殊弾薬」の極秘設計データだったのだ
万が一外部やブラックマーケットに流出……はたまたカイザーに流れるとすれば、ミレニアムの情報管理能力を問われかねない……
(なんでよりによって、コユキはネクストライとの共同開発資料まで一緒に持って逃げてんの!? あっちと良好な関係を築いてるのにこれでパーになるの嫌だよ!?)
内面のパニックを必死に押し殺し、タチカはポーカーフェイスを維持しながらコユキの逃走ルートを脳内で逆算する
コユキが潜伏先として選ぶ場所、そしてその盗んだ大金を使って派手に遊ぼうとする舞台。原作の知識を持つタチカには、行き先がどこであるかがはっきりと分かっていた
「……ゴールデンフリース号」
かくして――
一方は純粋なバカンスと豪華客船の旅を楽しむために
もう一方は、トラブルメーカーが持ち出した超危険な機密資料を極秘裏に回収するために
全く異なる目的を抱えた二つの陣営が、豪華クルーズ船「ゴールデンフリース号」という一つの舞台へ向けて、動き出そうとしていた
イベントストーリ設定ー
船上のドリームバケーション
実装生徒
西条ハレカ ☆3
街肩カリネ ☆3
立火ジュカ ☆1(配布生徒)
ミレニアムでのユウカからコユキを連れ戻す依頼を受け、C&Cと共にゴールデンフリース号へ乗り込む
だが、そこにいたのはコユキだけではなかった……