豪華客船「ゴールデンフリース号」での前代未聞の大騒動がどうにか幕を閉じ、数日が経過した
キヴォトスを包む澄んだ空気が流れる中、ネクストライスクール本館の生徒会室では、整然とした静けさの中で書類をめくる音だけが規則的に響いていた
デスクに向かっているのは、ネクストライの生徒会長・西条ハレカである
彼女の手元には、今回の一件に伴う莫大な事務処理と外交交渉の書類が山積みになっていた
今回の事件でミレニアムサイエンススクール「セミナー」に対しては、コユキの逃亡劇に巻き込まれて部下たちが不当なリスクを背負わされた分の「迷惑料」を正式に請求済みだ。もっとも、相手が普段から技術交流や外部協力で懇意にしている八金タチカや早瀬ユウカということもあり、通常の対外制裁や外交賠償と比べれば、かなり控えめで良心的な金額に抑えてある
そして、ハレカを最も頭痛ませていたのが、オデュッセイア海洋高等学校から「お詫び」として強引に無償譲渡されてしまった例の排水量8,000トン級の大型軍艦の始末であった
「……ハレカ先輩。オデュッセイアから引き渡されたあの大型艦ですが、受入書類の手続きが一通り完了いたしました。……それで、あの船の今後の運用方針はどうされるおつもりですか?」
書類の束を抱えた生徒会執務補佐の立火ジュカが、真面目な面持ちで尋ねてきた
ハレカは磁器のカップからダージリンティーを一口含み、上品に息を吐くと、トントンとデスクの上の書類を揃えた
「そうですね。我が校の防衛部でそのまま戦闘用艦艇として運用する……というのは、さすがに時期尚早でしょう。維持費や港湾設備の問題もありますし、何より連邦生徒会への登録上、過剰な不法武装とみなされかねません。ですので、あの艦は兵装を一部オミットした上で、アーティファクト研究部主導の『水上実験・相転移測定艦』として名義変更・運用する形にしようかと考えています」
「水上実験・相転移測定艦……ですか」
「ええ。青花ヒバナさんたちの研究部であれば、広大な甲板や船体スペースを有効活用して、新しいパルス技術や環境測定の実験場として有意義に使ってくれるでしょうから」
ハレカの言葉を聞き、ジュカは「なるほど……」と頷きつつも、脳裏に白衣を着た研究部長の顔を思い浮かべた
(ヒバナ先輩のことだから、絶対に『素晴らしいわ! さっそく船体に高周波パルス増幅器と試作型の電磁投射砲を増設して頂戴!』とか言って、速攻で怪しい実験艦に改造し始めそうだな……)
そんな未来の光景を察しつつも、実務・備品管理担当としてのジュカは静かに頭を下げた
「了解いたしました。では、その方針でアーティファクト研究部と行政総務へ書類を回しておきます」
二人がそんな行政上の手打ちなやり取りを交わしながら、黙々と業務を処理していたその時――
生徒会室の窓際に置かれた長机で、今回の事件の出収支帳簿を電卓片手にチェックしていた生徒会補佐の街肩カリネが、ふと手を止め、銀髪の頭を傾げた
「……ん? おかしいな……」
「どうしましたか、カリネ君?」
ハレカが顔を上げると、カリネは二丁拳銃「タッチ&ラン」のメンテナンスクロスを置き、首をかしげながら帳簿の数値を指差し、画面をハレカたちに見せた
「ハレカ先輩、ジュカ。今回のゴールデンフリース号への乗船前と、下船後の生徒会予備費の帳簿を照合していたんだけど……なぜか、戻ってきた後の方が『全体資金』が増えてるんだよ」
「えっ? 増えている……ですか?」ジュカが驚いて覗き込む
「ああ。カジノでの資金移動や、Aクラス・Sランクへの手続費用、さらに乗船中に発生した経費を全て差し引いても、どう計算しても数千万円相当の使途不明な浮き額が存在しているんだ。他の部署の帳簿や領収書も全て確認したけれど、どこにも辻褄が合う記載がない。……僕たちの計算違いか、それとも船側のシステムエラーだろうか?」
カリネの分析的な指摘に、ハレカも眉をひそめた
「おかしな話ですね……。オデュッセイア側からの謝罪金やミレニアムへの請求分は、まだ正式に入金手続きが済んでいないはずです。一体どこからこの莫大な資金が……?」
名交渉人であるハレカにとっても、理由のわからない「正体不明の資金」の存在は不気味だった。
三人が揃って帳簿の数字を睨みつけ、うーんと頭を悩ませていた――まさにその時である
バタン! と生徒会室の扉が元気よく開いた
「ちわーっす! ハレカ先輩、カリネ、ジュカ! なんかみんないい顔して固まってるっすね~!」
入ってきたのは、お馴染みのトラブルメーカー兼生徒会補佐・霧状ヘルタだった
ヘルタは手に持っていた紙パックのジュースを飲みながら、トコトコと三人へ近づいてくると、カリネが抱えていた帳簿を興味津々に覗き込んだ
「なになに~? 帳簿の数字が合わない? ふむふむ……うわっ、なんか思ってたよりお金が増えてるじゃないっすか! なにっすかこれ、二人がカジノで学園の資金でも賭けて大儲けでもしてきたんすかー? 冗談っすけど!」
ケラケラと笑うヘルタ
だが――その冗談交じりの一言を聞いた瞬間
ハレカ、カリネ、ジュカの三人の動きが、ピタッと止まった
「「「…………あ」」」
三人の口から、完全にハモった間抜けな声が漏れた
部屋の中に、数秒間の完全な静寂が訪れる
「……あ、あの、みなさん……? 自分、なんかマズいこと言ったっすか……?」
急に真顔になった先輩たちの迫力に、ヘルタが引きつった笑顔で一歩後退りした
ハレカはそっと手に持っていたペンを置き、目元を押さえて小さく息を吐いた
「……思い出しましたわ。……コユキさんを追う際、彼女を生け捕りにするための『懸賞金』として全館アナウンスで提示した、あのお金です……」
「……あ」とカリネも額に手を当てた
「……そうだ。元々は、僕とジュカがCクラスからAクラスへ自力で這い上がるためにカジノのルーレットとブラックジャックで稼ぎ出したチップだったね。結局、ハレカ先輩がSPECIALチケットを手に入れてSランクになったから、そのお金が必要なくなって懸賞金に回したんだ」
「そうです……! あの後、乗客の皆さんが一斉にコユキを追い回してくれましたけれど……結局、最終的に彼女を捕まえたのは、先生とC&Cの皆さん、そしてハレカ先輩たちでした……」
ジュカもハッと目を見開いた
そう――全館アナウンスで盛大に告知した「コユキ逮捕の懸賞金」だったが、実際に彼女を追い詰めてお仕置きしたのは当事者であるハレカや先生たち自身だったため、懸賞金を支払う相手が存在しなかったのだ
結果として、カリネとジュカがカジノで稼ぎ出した莫大な勝利金は、そのまま誰の手にも渡ることなく、ネクストライの口座へ綺麗に還流していたのである
「……まったく。あの怒涛の怒りと騒動の勢いで、自分たちが賭けた懸賞金の存在をすっかり失念していました……」
ハレカは少し呆れたように微苦笑を浮かべると、手元の端末を操作して帳簿の数値を整理し始めた
「さて……理由が判明した以上、この浮いた資金をこのままにしておくわけにも行きませんね。カリネ君、ジュカ君、この資金の処理ですが……半分をAIRFLY部へ、もう半分を防衛部の予算へ特別編入として配分しておきなさい」
「えっ、防衛部とAIRFLY部ですか?」ジュカが問いかける
「ええ。今回のオデュッセイアからの大型艦艇受入や、今後の学園周辺の警備・移送体制の強化において、防衛部とAIRFLY部の負担は確実に増えるでしょうから。『今後の活動への期待と、日頃の苦労への労い』という意味を込めて、特別部費として処理するように伝えておいてください」
生徒会長らしい、実利と配慮を兼ね備えた見事な采配
「了解したよ、ハレカ先輩。さっそく財務処理に回しておくね」
カリネが手際よく端末へ入力を行い、不意に発生した莫大な資金の行き先も無事に決定した
「へぇ~! 防衛部もAIRFLY部も大喜びっすね! じゃあ今夜は祝杯として、みんなで美味しいものでも食べに行きますかー!」
能天気に声を上げるヘルタに対し、ハレカは優雅に微笑みながら頷いた
「ええ、そうですわね。今回のバカンスは踏んだり蹴ったりでしたから……今夜くらいは、全員で美味しいものをいただきましょう」
窓から差し込む夕空の光の中、生徒会室には穏やかな笑い声が満ちていた
こうして――波乱に満ちた豪華客船「ゴールデンフリース号」を巡る生徒たちの長い休息の一件は、今度こそ完全に幕を閉じたのであった
……はずだった
――同じ刻。キヴォトス中央特区、D.Uシラトリ地区
ネクストライスクールが所有するビルではSRT特殊学園の元副生徒会長の部隊が尋ねてきていた……
オリジナルイベントストーリー
船上のドリームバケーション
CLEAR!
あとがき
いやー……昨日のブルあからいぶのヒフミとアズサ……貯めてた石で狙うのありだなと個人的に考えています!
あとネクソンへ変わるのゲームより二次創作面ですごく不安なのと、書いたストーリーが一部書き直しになりそうになってます(´;ω;`)