ネクストライスクール地下、分厚い鉛と電磁シールドで固められたアーティファクト研究部の最奥室
白熱灯の柔らかな光が照らし出す無機質な実験テーブルの上で、青花ヒバナは細いピンセットを巧みに操り、青白く発光する微小な結晶回路を基盤へと組み込んでいた
「……よし、これで熱伝導のロスは最小限に抑えられるはず」
呟いた声には、研究者特有の心地よい疲労感と、それ以上に強い探求心の昂りが混ざっていた
ヒバナの前世は、最先端の物理学および材料工学を専攻する研究者だった
このキヴォトスという、理不尽なまでの超常現象と神秘が支配する世界に放り込まれた当初は戸惑いもあったが、地下から出土した「未知のオーパーツ」の解析に成功して以来、彼女の知的好奇心は完全にフル回転を始めていた
彼女の持つ神秘――「機械遠隔操作(リモート・リンク)」は、肉体的な接触を介さずとも、肉眼で見えないレベルの微細な電子機器や構造体を脳内で直接リンクさせ、自由自在に制御・構築することを可能にする。顔にかけたスマートメガネの『テクニック・コネクター』に展開されるホログラムUIを介して、ヒバナは今、数千ものパーツを同時に組み上げ、一つの特殊な装備を作り上げようとしていた
他でもない、佐藤アリカのための装備を
数日前、カイザーPMCの戦闘部隊が北棟の裏手へ奇襲をかけてきた一件は、ネクストライスクール全体に大きな衝撃を与えた。その最前線で、単身突撃を敢行し、愛用のショットガン『ゴー!ジャンプ!』を振るって敵の包囲網を粉砕したアリカの姿は、防衛部の面々だけでなく、研究者であるヒバナの脳裏にも深く焼き付いていた
(アリカちゃんの戦い方は、レイカちゃんみたいに空間を切り裂くわけでも、ミナサちゃんみたいに世界の音をすべて聴き分けるわけでもない。……もっと泥臭くて、もっと直感的で、そして何より『感情』の爆発力に依存している)
ヒバナはキーボードを軽く叩き、前回の戦闘時に回収されたアリカの銃のデータログを呼び出した。AA-12をベースにしたその重火器は、アリカの手によって『ゴー!ジャンプ!』と名付けられ、過酷な使用環境に耐えうるようチューンされていたが、先日の戦闘で発動した「パルスチャージの全解放」は、銃身や機関部に想像以上の負荷を強いていた
一歩間違えれば、銃そのものが暴発し、アリカの小さな身体を傷つけかねない危険な賭けでもあったのだ
「あの子は『自分には目立った神秘がない』なんて笑って言うけどさ……」
ヒバナは眼鏡のブリッジを指先で押し上げながら、ふっと小さく微笑んだ
前世を含めれば、人間という存在の限界や、物理法則の壁を嫌というほど見てきた。その壁を、アリカは「学園を守りたい」という強烈な意志と、コロコロと変わる豊かな感情エネルギーだけで軽々と飛び越えてみせる
だからこそ、技術者である自分が作るべきは、その「感情の爆発」を安全かつ最大限に増幅し、彼女の背中を後ろから思い切り押してやれるような、最高の相棒(ギア)でなければならなかった
「……お、そろそろ組み上がってきたかな」
作業台の中央で、銀色の合金パーツが淡いチェリーピンクとゴールドのラインを描きながら、滑らかに噛み合っていく
ベースとなるのは、アリカの愛銃『ゴー!ジャンプ!』の機関部に直結する補助拡張ユニット――名付けて『エモーショナル・パルス・ブースター』だ
このユニットは、アリカが戦闘中に高ぶらせる感情の起伏、あるいは心拍数や体温の微細な上昇をセンサーで読み取り、オーパーツから抽出したエネルギーの出力を無段階で同調させる。つまり、アリカが「怒り」や「気合」を爆発させればさせるほど、銃身のパルスチャージが効率よく最大化され、反動の制御と弾丸の初速が跳ね上がるという、極めてヒバナらしい、理論と情熱が融合した代物だった
コンソール画面に最終のシミュレーション結果が表示される。エラー率はゼロ。構造強度も完璧
「ふう……我ながら、またとんでもないオーバーテクノロジーを作っちゃったもんだわ」
ヒバナが伸びをしたその時、実験室の重厚な自動ドアが軽快な電子音と共にスライドして開いた
「ひーばーなちゃーん! ちょっとちょっと、聞いてや! 今日の土建部の手伝い、めっちゃハードやったんやから!」
ガチャガチャと騒がしい足音と共に飛び込してきたのは、お馴染みの金髪ツインテールを揺らした佐藤アリカだった。動きやすいスポーティーなジャージ姿のまま、彼女は額の汗を拭いつつ、ズカズカと研究室の奥まで歩いてくる
「お疲れ、アリカちゃん。相変わらず元気やね」
「そら元気出さんとやってられへんわ! で、なんやこの綺麗な機械は……? ウチの銃となんか関係あるんか?」
アリカの視線が、作業台の上に鎮座する真新しい拡張ユニットへと釘付けになった
ピンと直感が働いたのか、彼女は目を輝かせながら、トコトコとテーブルに近づいていく
「これね、アリカちゃんのための特製パーツ。『ゴー!ジャンプ!』の性能をもう一段階引き上げるための、パルス拡張ユニットよ」
「えっ……ウチの銃に……?」
アリカは驚いたように目を見開き、それから愛おしそうに自身の背負ったショットガンを下ろした
ヒバナは椅子から立ち上がり、手際よくそのユニットをアリカの銃へと組み込んでいく。金属が噛み合う小気味よい音が、静かな実験室に響いた
「先日のカイザー戦のログを解析してね。アリカちゃんがもっと安心して暴れられるように、感情の波にエネルギー出力を合わせる仕組みを入れておいたの。これがあれば、無理にパルスチャージを全解放しなくても、普段の撃ち合いだけで同等の衝撃波を生み出せるようになる」
ヒバナの説明を聞きながら、アリカはそのユニットの表面を指でそっと撫でた
冷たい金属の手触りの奥に、かすかな温もり――オーパーツのエネルギーが安定して循環している証拠が感じられた
「……すごいなぁ。ウチ、こんなん大層なもん似合わん気もするけど……でも」
アリカは顔を上げると、いつものコロコロと変わる豊かな表情をパッと咲かせ、満面の笑みを浮かべた
「めっちゃ嬉しいわ! ひばなちゃん、ありがとうな!」
「どういたしまして。あ、ただし、無理な無茶は厳禁。壊したらタダじゃ置かないんだからね」
「わかっとるわ! これでもっとドカンと派手にいけるってことやろ? 最高やん!」
アリカは嬉しそうに『ゴー!ジャンプ!』を抱え込み、その場で軽く身構えてみる。
ユニットが組み込まれたことで重量バランスがわずかに変わり、むしろ彼女の小柄な体躯にしっとりと馴染むような感覚があった
その様子を眼鏡の奥で見つめながら、ヒバナは静かに微笑む
キヴォトスの片隅で、前世の記憶とそれぞれの「神秘」を胸に集まった者たちが、こうして互いの技術と想いを持ち寄り、少しずつ確かな形にしていく
ネクストライスクールという名の、まだ誰も見たことのない新しい物語の歯車は、確かな音を立てて未来へと回り始めていた
「よし、じゃあ性能テストを兼ねて、射撃場に付き合ってよ、アリカちゃん」
「おっ、ええやん! 誰の的が一番綺麗に吹き飛ぶか、勝負や!」
軽口を叩き合いながら、二人は連れ立って実験室を後にする
その背中を見送りながら、ヒバナは心の中でそっと呟いた
――この学園を守るための力は、まだここから何倍にも膨れ上がっていく
外の世界がどれほど脅威を向けようとも、私たちには、自分たちの手で切り拓く未来があるのだから
あとがき
はい!アンケートで決まった二つを書いてみましたが………
ネクストライスクールについて色々とかけてよかったなあって思ってます!
さて、次回からまた次のステップへと移っていくそうですね………
そして、2~3日間の間に書き貯めすると思いますので、毎日更新があやしいかもしれませんがよろしくお願いします
それではまた次回!
青花ヒバナ
元研究者の転生者で、ネクストライスクールにおいてアーティファクト研究部の部長であり、発展に大きく貢献した人物でもある
見た目は黒のショートヘアで身長は約157cmぐらいで、白衣を常に身に着けている
持ち武器はアナリス・フィードバックといい、ベレッタ Px4ストームが元ネタとなっている
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