DUシラトリ地区の一角に位置する「子ウサギ公園」
その周辺一帯は、普段ののどかな公園の佇まいからは想像もつかないほど、異様なまでの物々しい緊張感に包まれていた
一歩そのエリアに近づくだけで、ピリリと肌を刺すような空気の重さを感じ取ることができる
道路の随所にはヴァルキューレ警察学校の制式装甲車両が何台も無愛想に並べられ、周囲は幾重ものバリケードと規制線によって完全に封鎖されていた。一般市民の影は一切なく、一帯は完全に緊迫した治安維持の隔離区画と化している
その規制線の向こう側、公園の入り口へと目を向ければ、そこに広がる光景はさらに異常だった
バリケードの向こうは瓦礫や即席の障害物、さらには何やら危険な雰囲気を醸し出す仕掛けが幾重にも張り巡らされており、容易な接近を一切拒絶する要塞のような様相を呈していたのだ
シャーレでの急なやり取りを経て、DU管理ビルで予備のタクティカルギアと通信機を回収した赤坂レイカと夜月サトネの二人は、指定された合流地点へと到着し、先導する先生の背中を追ってその現場へと足を踏み入れていた
「すごいな……。聞いてはいたが、想像以上にガチガチの包囲網じゃないか」
レイカは愛銃『ゼロモーメントポイント』のグリップに軽く手を当てながら、周囲の警戒態勢を鋭い観察眼で見回した
その隣で、サトネもまた特殊部隊の隊長としての冷静な足取りを崩さず、周囲の視線や死角を無意識にチェックしている
現場の中心では、ヴァルキューレ警察学校の公安局長である尾刀カンナが、険しい顔つきで部下からの報告を受けていた
先生は足早にそのカンナの元へと歩み寄り、レイカとサトネもそれに続く
「――状況はどうだい、カンナ」
先生が声をかけると、カンナは疲労の色が濃い顔を上げ、深い溜息をつきながら首を横に振った
「……最悪ですよ、先生。あの中の連中は一歩も引く気がない。正面からの説得なんて全く取り合わないし、下手に突撃しようものなら、どこからともなく飛んでくる罠やトラップでこちらの足止めを食らう始末です」
カンナがそう言い終えた矢先、公園の内部方向から、煤まみれになり、ボロボロの制服を纏った一人のヴァルキューレの生徒がフラフラと這うように戻ってきた
その生徒はカンナの姿を見るなり、半泣きになりながら報告の声を張り上げた
「き、局長……ダメです! 公園の周辺一帯に、あいつらお手製の対人地雷や巧妙な罠が仕掛けられていて……迂闊に踏み込めば即座に吹き飛ばされます! 特殊車両すらまともに近づけない状態で、私たちじゃどうしようもありません……!」
「くっ……!」
カンナは歯噛みし、頭を押さえた
彼女の手元には現在、治安維持にあたる人員がごくわずかに残されているのみだった。それも、過酷な警備や日常業務に追われた「生活安全局」の生徒たちがかろうじて動員できる程度であり、このような高度な制圧・突破作戦を遂行できる専門の戦闘部隊の余裕など、今のヴァルキューレには残されていなかったのだ
現場の膠着状態を打破すべく、先生は少し考え込んだ後、きっぱりと言い放った
「なら、私たちで何とかしよう。幸い、頼もしい協力者もいることだしね」
先生が親指で背後のレイカとサトネをくいっと指し示すと、カンナは驚愕に目を見開いた
「は……? この状況に、民間人を巻き込む気ですか? 相手は元SRTの生徒たちです。一筋縄では……」
「大丈夫。生活安全局の子たちと、この二人がいれば、きっと別の突破口が見つかるはずだ」
先生の揺るぎない信頼に満ちた言葉を聞き、カンナはしばらく二人をじろじろと観察した後、観念したように大きく息を吐いた
「……ふう。あなたがそこまで言うなら、もう止めませんよ。どうせ、このままじゃお手上げの泥沼だ。好きにやってくれ」
カンナがそう許可を出した、まさにその瞬間だった
「お疲れ様です、カンナ局長! 生活安全局、ただいま到着しましたぁ!」
底抜けに明るく、場違いなほど軽やかな足取りで、重厚な盾を片手に持った一人の少女がトコトコと駆け寄ってきた
その制服の着こなしはどこか緩く、緊迫した現場の空気などどこ吹く風といった様子で、彼女はひょこっと頭を下げて見せる
カンナはその生徒の顔を見ると、幾分か肩の力を抜いて頷いた
「……お前が来てくれるなら、少しは心強いか。よし、先生、人員の配置を頼む」
先生はうなずき、新しく合流したその生徒に向き直った
「君が生活安全局の……」
「あ、初めまして先生! 私は生活局長の
トアと名乗ったその少女は、初対面とは思えないほどフレンドリーに、まるで旧知の仲であるかのように先生の両手を握りしめてブンブンと振ってみせた
その様子を少し離れた位置から眺めていたレイカとサトネは、思わず顔を見合わせた
(御調トア……? 生活局長……?)
サトネは細い眉をひそめ、自身の記憶の引き出しを高速で検索する
(SRTやトリニティ、ミレニアム、ゲヘナ、そしてヴァルキューレ……。『ブルーアーカイブ』の原作知識を隅々まで記憶している私でも、そんな名前のキャラクターは聞いたことがない……。一体、どういうことだ?)
レイカもまた、内心で激しく首を傾げていた
(御調トアなんてキャラクター、原作ゲームのどこにも存在しなかったはずだ……!)
二人が戸惑いを隠せずにいる中、先生は気に留める様子もなく、今回の作戦計画を全員に共有し始めた
「よし、作戦を説明するね。カンナたち警察学校の本隊は、引き続き正面の包囲網を維持して敵の注意を引きつけておいてほしい。そして、別動隊として――キリノやフブキを含めた生活安全局の生徒たちには、西側のルートから迂回して潜入してもらう」
先生は地図を広げ、スラスラと指し示ていく
「そして、もう一つのルート……。東側の最も複雑でトラップが多そうな死角ルートから、レイカ、サトネ、そしてトアの三人で隠密裏に潜入し、内部の撹乱と交渉の糸口を作ってほしいんだ」
その配置を聞いたレイカは、思わず我が耳を疑った
「……待ってくれ、先生。正面を避けて迂回するとはいえ、たった三人であの地雷原とトラップだらけのエリアに突っ込むのか? さすがに人数が少なすぎやしないか?」
先生は困ったように笑い、肩をすくめた
「うん、正面から大勢で突撃すると向こうを過剰に刺激しちゃうからね。あくまで『隠密重視』の小規模潜入にしたいんだよ。だから、この人数がベストなんだ」
サトネはわずかにためらった後、プロの軍人としての冷静さで納得の息をついた
「……仕方がありませんね。少数精鋭による隠密潜入であれば、私たちの専門分野です。戦術的には不合理ではありません」
トアもまた、ピンと背筋を伸ばし、にこやかに敬礼してみせた
「トアちゃん、任務了解しまーす! 二人の足を引っらないように頑張りまーす!」
こうして、誰一人として完全には納得しきっていない奇妙な編成ながらも、それぞれの役割分担が決定し、いよいよ『子ウサギ公園立てこもり事件』への介入作戦が開始されたのだった
作戦開始の合図とともに、レイカ、サトネ、そしてトアの三人は、包囲網の東側――最も危険なトラップ地帯の潜入起点へと静かに足を踏み入れた
周囲の木々や柵の陰を利用しながら、三人は慎重に、かつ一定のペースで前進していく
先頭をサトネが鋭い眼光で索敵しながら進み、中央をレイカが警戒を怠らずに歩き、しんがりをトアが軽快な足取りでついていくという隊形だ
静寂の中、足元の枯れ枝を踏む音すらない緊張した空気を破ったのは、意外にもトアの呑気な声だった
「ねえねえ、お二人さん。ちょっと気になったんだけどさ……」
トアはスタスタとレイカの隣に並び、小声で、しかしはっきりと問いかけてきた
「レイカさんとサトネさんって、どうして今回の臨時当番になんて志願したわけ? ぶっちゃけ、あんな面倒くさい立てこもり事件なんて関わらない方が絶対に楽だったっしょ?」
その問いかけに、レイカとサトネはぴくりと動きを止めた
だが、それ以上に彼女たちの神経を逆撫でしたのは、トアの口から零れ落ちた「その言葉」のニュアンスだった
トアは自身の言葉に自分で頷くように、小さくボソッと呟いたのだ
――『まあ、原作にこんなイベント無かったし、どう転ぶか見物ってところか……』と
(……いま、何て言った……?)
レイカの耳が、その小さな独り言を聞き逃さなかった
隣を歩いていたサトネもまた、ピタリと足を止め、冷徹な視線をトアに向ける
レイカはゆっくりと振り返り、トアの目をまっすぐに見据えて低い声で尋ねた
「おい、トア……。いま、『原作に無い』って言わなかったか?」
「え……?」
トアは自分の失言に気づいたのか、ビクッと肩を跳ね上げ、あわあわと両手を横に振った
「い、いやだなァ、そんなこと言ってないって! 聞き間違いじゃないの〜?」
「ごまかしても無駄だ」
サトネが冷ややかな声を重ねる。彼女の手はすでにホルスターの近くに添えられていた
「あなたのその口ぶり……そして『原作』という単語。……私たちと同じ、元の世界からこのキヴォトスへと飛ばされてきた『転生者』ですね?」
隠し事をしても無意味だと悟ったのか、トアは観念したようにふーっと息をつき、それまでのフレンドリーでふにゃふにゃとした雰囲気をスッと消し去った
「……え?う、うんそうだよ、アタシも君たちと同じ『こっち側の人間』さ」
トアは肩をすくめ、苦笑してみせた
「驚いたな……。まさか、ヴァルキューレの生活安全局の中にまで、転生者が紛れ込んでいたとはね」
レイカは呆れたように額に手を当てた
「アタシだって好き好んで警察学校になんて入ったわけじゃないっての! 目覚めたらこの治安の悪い世界だしさ、生き残るために必死こいて身分を安定させようとした結果がここだよ。……でさ、君たちは確か、あの新興の『ネクストライスクール』の連中だよね? 正直、アタシの知ってるブルアカの原作知識にはそんなデカい学園なんて一切出てこなかったんだけど……一体どういうバグ?」
トアが面白半分、しかしどこか本気で疑問に思っているような顔で問い返す
「こっちにも色々事情があってだな……。まあ、お互い苦労してるってことだ」
レイカが苦笑交じりに返した、その時だった
三人が会話に気を取られ、足元の警戒をほんのコンマ数秒だけ緩めてしまった――まさにその瞬間
「あ……」
トアの足が地面を踏みしめた瞬間、猶予など一切なしで、足元から地獄の炎が猛り狂った
――ドカンッ!!
踏んだ瞬間に即座に起爆するタイプの対人地雷だった
信管の猶予すら与えない完全な即死トラップが、トアの足元で容赦なく爆発したのだ
「踏んだ――ッ!?」
考えるよりも先に、レイカの身体が反射的に動いていた
これ以上の思考や迷いは死を意味する。レイカは自らの神秘である『絶対加速』のスイッチを脳内で極限まで叩き込み、全身の運動エネルギーの基準を強制的に再定義した
――バシュッ!!
常人の動体視力では捉えきれないほどの凄まじい残像を残し、レイカの身体が文字通り光の速さで爆炎の真っ只中へと突っ込む
彼女は爆風に巻き込まれて絶叫するトアと、状況を瞬時に察知して身構えたサトネの腰を両腕でガッチリと抱え込み、熱波と破片が肉体を切り裂くコンマ数ミリの隙間に、全身全霊の加速を乗せてその場から跳躍した!
直後――
――ドォォン!!
凄まじい爆音がDUシラトリ地区の空気を震わせ、大量の土煙と熱風が三人がいた地点を完全に呑み込んだ
爆風の余波がレイカたちの背中を激しく叩き、周囲の木々の枝葉がめちゃくちゃに吹き飛ばされる
だが、レイカの超人的な『絶対加速』による強引な離脱がわずかに早かった。爆風の直撃を免れた三人は、数メートル離れた安全圏の地面へと転がり込むように着地した
「ぐっ……! はぁ、あぶなかった……っ!」
トアは冷や汗を滝のように流しながら、自分の足元と、今自分がいた場所で激しく燃え盛るクレーターを交互に見つめ、ガタガタと震え上がった
「い、いまの……踏んだ瞬間即爆発するタイプのやつじゃん……! 冗談抜きで踏んでたよね!? 振んじゃってたよねアタシ!?」
「当たり前だ、ぼさっとしてるからだろ……っ!」
レイカは荒い息を整えながら、なんとか立ち上がった
サトネは素早く周囲を索敵しつつ、冷ややかな、しかし呆れ果てたようなため息を吐きながらトアに視線を向けた
「はぁ……これで私たちの『隠密潜入作戦』は、今この瞬間に完全に失敗しました」
「うっ……! それは、その……ごめんなさい、本当に……!」
トアが頭を抱えて平謝りするのも無理はない
先ほどの凄まじい爆発音は、子ウサギ公園の周辺一帯、そして内部に立てこもっているRABBIT小隊の耳にまで、あまりにも鮮明に届いてしまったのだから
「ど、どうしますか?」
「はぁ……ばれたのだったらやることは一つだろ?」
一方その頃――
子ウサギ公園の内部、簡易的なバリケードとテントの影で周囲を警戒していたRABBIT小隊のリーダー、月雪ミヤコは、遠方から響いた突如の爆破音に眉をひそめた
「……今の音は? 東側の外周方向……?」
ミヤコは無線機を手に取り、公園の監視担当である氷室ミユへと呼びかけた
「ミユ、聞こえますか。東側の外周で今、大きな爆発音がしました。何が起きたか、スコープで確認を」
「は、はい……! 今、確認します……っ!」
テントの上部、身を潜めながら高倍率のスコープを東側の森林エリアへと向けたミユは、青白い顔のまま息を呑んだ
彼女の視線の先には、先ほどの爆発によって巻き上がった土煙と、派手に吹っ飛ばされたトラップの残骸が広がっている
「み、ミヤコちゃん……! 東側のトラップエリアで、誰かが……地雷を踏んだみたいです……っ!」
「なんですって? ヴァルキューレの連中か、それとも他の野次馬ですか?」
「わ、わかりません……。でも、爆発したはずなのに、その人たちは何故かその場で倒れていなくて……。え、えっと……?」
ミユは混乱しながら、スコープの焦点をさらにその場所へと合わせ直した。
しかし、その直後。
――ドォォン!!
再び、先ほどよりも近い位置で、凄まじい爆破音が鳴り響いた
なんと、地雷を踏んで罠が次々と誘爆しているにもかかわらず、その中心にいた者たちは恐怖して引き返すどころか、「そんなの関係ない」と言わばかりの勢いで、まっすぐ自分たちのいる子ウサギ公園の方向へ向かって猛進してきているのだ
「っ……嘘……!? 地雷なんて関係ないみたいに、こっちに向かってまっすぐ走ってきてる……っ!?」
ミユはあまりの光景に、スコープを覗く手がブルブルと震え始めた
彼女が正気を失いかけた頭で、懸命にその侵入者たちの姿をレンズの向こうに捉え、特徴を確認しようとしたその時――
ミユの脳裏に、最近キヴォトスの裏社会や各学園の間でまことしやかに囁かれていた「ある噂」がフラッシュバックした
(――待って、あの姿は……っ!?)
ミユは息を呑み、絶句しながらも、震える声を無線機に乗せて仲間たちへと報告した
「み、ミヤコちゃん……! サキちゃん、それにモエちゃん……っ! ど、どうしよう……っ!」
通信の向こうで、霞沢ミユのただならぬ様子に気づいた風魔サキが、物騒な銃を抱えながら鋭く声を返した
「おいミユ、どうしたんだ? ヴァルキューレの突撃部隊でも来たのか?」
ミユは泣きそうな顔のまま、スコープ越しに見える「信じられない光景」をそのまま言葉にした。
「ち、違います……っ! 私たちのほうに向かって突撃してきてるのは……噂に名高い『ネクストライスクール』の赤坂レイカさんと……! あと、行方不明になってたはずの、私たちの元・副生徒会長である夜月サトネ先輩……じゃなくてサトネ先輩じゃなくて、サトネ……っ! それに、なんでか分からないけどヴァルキューレの生活安全局長まで混ざってて……っ!」
「ハ……? はぁっ!?」
サキの間の抜けた声が無線機から響く
「な、なんだって……!? ネクストライのナンバー2に、私たちの元副生徒会長が、なんで地雷原を文字通り『踏み潰しながら』こっちに正面突破してきてるんだよ……っ!?」
ミヤコもまた、無線から聞こえてきたその滅茶苦茶な報告に、思わず言葉を失い、ポカンと口を開けたまま東側の入口を見つめた
地雷もトラップも、警告もすべて無視
常識外れのスピードと戦術眼で、キヴォトスの台風の目となりつつある面々が、今まさに怒涛の勢いでRABBIT小隊の立てこもる子ウサギ公園へと突入しようとしていた――
オマケ
防衛部の新装備
資金が回ってきた防衛部はどうせならと戦車を購入する事になったのだが……
ハ「……なんですか?この戦車?」
ツ「なんか、ヒバナ部長が私達が買った10式戦車を改造したいと申しまして……」
ハレカは戦車の砲塔を見る……
ハ「……10式戦車の砲塔ってこんなんでした?」
ツ「……いいえ、ヒバナ部長がレールガン仕様に換装しました」
防衛部はレールガン戦車を手に入れた