デュエル・マスターズOverLordW(オーバーロードダブル) 作:シグレサメ
あの事件から3日。ボクは、病院にいた七海さんと拓海さんに、会いに行くことができた。
「緑くん、久しぶり。守ってくれたんだよね、ありがとう」
「緑くん、『この子』に会わせてくれて、ありがとう」
七海さんの腕には、幸せそうに目を瞑る赤ちゃんがいた。
「今はまだ眠いみたいだから、緑くんを見たりはできないけど」
「大丈夫です、ボクは顔が見れただけでも幸せですから」
「改めて言わせてくれ、緑くんとそのお友達が守ってくれなかったら、僕たちはこんなこともできなかったんだから」
「……だっこしてみる?」
「え、いや、そんな、拓海さんとかが……」
「大丈夫、僕も抱っこさせてもらったよ」
思わず遠慮の言葉が出てしまった。でも、拓海さんが良いよと言ってくれて、ボクは赤ちゃんの前に連れてこられた。
「横抱きっていって、利き手で背中とお尻を、もう片方で頭を支えるの」
「で、でも……」
「大丈夫、緑くんなら優しくできるって思ってるから」
「は、はい!」
ボクは言われた通りその子を抱っこした。これからこの赤ちゃんを育てる七海さんの言っていたことだから信頼はしていたけど、でもやっぱり緊張する。だって、こんなに小さな命が、こんなに暖かい命が。
「………」
「あ、目を覚ましたね」
「抱っこの仕方が悪かったんですかね」
「そんなことないから大丈夫よ」
その子と目が合う。その子はまだ何もわかっていないみたいだったけど、でもそれでも、沢山のことを学んで、沢山の人に出会って。そうやって大きくなっていくんだと、ボクは確信した。絶対幸せになれるって。
「その子の名前、渚(なぎさ)って名前にしたの。女の子よ」
「僕たちは偶々名前に海が入っていたから、子供ができたらそうしようと思ってたんだけど」
「海そのものっていうよりは、もっと色んな人と繋がれるようにって。海と陸の境界線、渚って名前をつけたの」
「境界線、ですか?」
「うん、僕たちは君達が居なかったらここには居なかっただろう。だから」
「そう、貴方と友達になれたおかげよ、緑くん」
ボクは渚さんを、優しく七海さんに返す。暖かい身体を七海さんに返したけど、その分ボクの心は、暖かい気持ちでいっぱいだった。
「ありがとうございます。ボク、本当に幸せ者です」
「こちらこそ。渚がもう少し大きくなったら、家に呼ぶわ」
「その時は、渚のお兄ちゃんとして、会ってくれると嬉しいよ」
「渚さんの、お兄ちゃん」
病室を出るまで、ボクは何度も何度も頭を下げた。あの時、2人を助けた時ボクにあった、何かを埋めようっていう感情は、今のボクにはもうなくて。でもその代わり、これからの幸せはいっぱいなんだろうなと、渚さんに会うのが楽しみだなと、そう思えるようになった。
皇龍病院から出るバスに乗って、ボクはゆうや達との待ち合わせ場所に向かう。バスの中は人がまばらで、隅の方に座ればゴルファンタジスタと話せそうだった。
「ねぇゴルファンタジスタ」
「おうよ」
「ありがとう」
「こっちのセリフだ、何から何までな」
「えへへ。ねぇ、ボクの本当の名前、『翠霞』って、なんでその名前だったんだと思う?」
「あんな風になった奴らでも、緑は情があるって言いたいのか?」
「うん、そう思うよ。だって、ボクが貰った2つの贈り物のうちの、大事な一つだし」
「もう一つは、お前自身か。まぁあくまで俺の考えだが」
ゴルファンタジスタは、そう前置きして喋り出した。
「翠というのは、カワセミそのものであったり、萌葱色(もえぎいろ)という青がかった色などが当たる」
「カワセミも、そんな感じの色だよね」
「まぁな、俺は見たことはないが、色だけは知ってる。そして霞っていうのは、文字通り霞という空や周りがぼんやりと見える現象だな。ちなみに、美しい情景に言ったりもするらしい」
「……つまり?」
「月並みだったら、の考え方になるが、どこまでも霞のように広がる翠色、霞のように広がっていけるカワセミってことになるかな。変な話だが、渚と名付けられたあの女の子に、言葉の意味合いが寄っちまったな」
「うぅん。ありがとう。意味を考えてくれて。でも、ボクはこれからも守木緑だよ。それも変わんないから」
「あぁ、そういや降車ボタン、押したのか?」
「………。あ!次止めてもらわなきゃなバス停だ!!」
(本当の答えがどうであろうが、それをどういう意味で取るかは緑次第だ。だから、緑がどんな選択肢を取ろうと、俺様はお前を助けるぜ)
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夕哉達4人は緑の降りたバス停から歩いて2分程度のところ、回転寿司店の前で緑を待っていた。
「遅れてごめん!皆!!」
「大丈夫、皆で指スマしてたから」
「火奈、お前なんらかのイカサマ使ってるよな…!?」
「あらぁ?うちの頭脳、飛水くんがお手上げですか〜?」
「あぁ言うけどただただ運いいだけだからね、火奈」
「あぁ、いつものなんだね……」
「さて、今日はお寿司を食べましょう!私流れるお寿司初めてなので楽しみです!」
御白がサラッと上流階級な発言をする中、緑は財布を気にしていた。
「ねぇやっぱりボク以外の4人で支払うって申し訳ないよ」
「でも1番活躍したの緑じゃん、沢山食べて?」
「そうだな、こういう好意は甘えておけ、緑」
「ボク、『特別扱いされたくないなぁ……』」
緑がそう言うと、他の4人がフリーズする。4人は善意でそうやっていたが、緑にとっては辛いことであると気づいたのだった。
「……マジですまん、緑」
「ごめん緑、いや、払ってもらうからごめんじゃないような、どうしよ」
「どうしましょう、そりゃ平等がいいんでしょうけど……」
「皆ー?緑が払うって言ってんだから払うでいいじゃん、早くお寿司食べたいんだけどー?」
火奈の発言のお陰で、3人の気負いが解かれるのだった。
回転寿司店は17:30ということもあって空いており、5人は後ろのファミリー席に通される。チェーン店によくある2〜3人座れる長椅子が向かい合っているものであり、片方の奥側から夕哉、緑、飛水の順に座り、反対側に火奈、御白の順番で座った。
「まず回転寿司初めてって人?」
そう火奈に言われて緑と御白が手を挙げる。それを確認した火奈が、テキパキと指示を出す。
「じゃああたしがメニュー表開いて2人の食べたいもの聞くから、夕哉はそれ入れて。飛水はその時間で5人のお水汲んできて」
「んなっ……!……了解しましたよ、火奈お嬢様」
「飛水、お疲れ様……」
「ねぇ2人とも。流れるのを取るのもありだけど、注文したものが新幹線で届くの、めちゃくちゃワクワクしない?」
「「新幹線(ですか)!!?」」
そう言って皆それぞれ頼みたいものを注文していった。緑はマグロやイクラ、コーンマヨのような子供が喜ぶようなものを中心に、夕哉はサーモンやハマチなどをバランスよく、御白は一瞬いつものノリでアナゴやウニなどを頼もうとしたが、すぐに取りやめて夕哉と同じものを頼むことにした。
「ふっふっふ。ここのお店はね、ラーメンが美味しいんすよ」
「ラーメン?そうなんですか?こう言うところではお寿司を食べるのがマナーかと」
「そう言う人もたまにいるけど、メニューにある以上は食べていいんだから」
「あ、許せなさそうな人が目の前にいるよ」
火奈が飛水に目をやると、飛水は中々に怒り心頭だった。
「いや、許せないわけじゃない。許せないわけじゃないが、若干赤坂に失望してる」
「えーっ!?美味しいじゃんラーメン!」
「美味しいとは思うが寿司屋きて頼むもんじゃねぇだろ!」
「分かってないね飛水、そんな寿司屋でもラーメンを食べてもらえるように、お店の人たちの努力が詰まってるんだよ……」
「じゃあ余計本業のもの食べた方がいいじゃないか?」
飛水と火奈が言い合いするのを夕哉は流しながら、流れてきたものを皆に渡す。
「こう言う時夕哉くんってお兄さん適正あるなぁって思いますね」
「そう?まぁぽいとは言われるけど」
「……ゆうや、お兄さんってどうやったらなれるの?」
「どうやったら!?」
「うん、どうやったら、カッコいいお兄さんになれるのかなって……」
「えぇ……?ちょっと待ってて、この卵誰の?」
「俺の、そこに置いといてくれ、そこの赤坂と決着をつける」
「ラーメン批判しといて自分は卵?こっちのこと言えないんじゃない?」
「卵は歴史があるんだよ、口直しとしてのな」
火奈と飛水がいつも以上にヒートアップしている。夕哉と御白が「いつも通りのことをやれてるけどそろそろ止めるか」と思った瞬間、緑が飛水にラーメンを、火奈に卵を食べさせていた。
「もうそこまで。これ以上は迷惑でしょ?」
「モグモグ」「モグモグ」「ゴクン」
「……思ってた以上の、味だった。海鮮スープ美味いし、寿司屋での温かいのっていいな」
「……本当に出汁効いてる。お寿司じゃなんとなくイメージ低かったけど、美味しいじゃん」
「2人とも、お互いに言うことあるよね?」
「その、久しぶりにこう言うノリできるの嬉しくて、言いすぎた」
「あたしも、なんか言い返したくなっちゃって……。言いすぎちゃった」
「「ごめんなさい」」
緑が仲直りをした2人を見て安心したように腰を下ろす。夕哉と御白は拍手をしながら、緑を迎え入れた。
「それができるなら立派なお兄さんだと思うよ緑。周りを見て、人に優しくできるんだから」
「一妹の意見ですが、かっこいいお兄さんだったと思いますよ!」
「そうかな?えへへ……」
夕哉達はその後、美味しく、楽しく、お腹を満たしていった。そしてそれぞれかなり満足してきた時、夕哉が切り出した。
「ねぇ御白、相談があるんだけど」
「どうしました?」
御白はハンバーグの軍艦をモグモグと食べながらそう答えた。
「前にジャシンに言われたんだ、もし本物に近い2つがあったとして、本物になれなかった方は淘汰されるって」
「……それは、ジャシンを強くしたいということですか?」
「いや、それだけじゃなくて。俺自身が強くなるのも必要らしいんだ。モルスが持っているヴリドガルドは、ジャシンの合わせ鏡。その時本当に最後に勝敗を分けるのは、使い手の精神力だって」
「使い手の精神力、先に折れた方の負けってことか?」
飛水の問いに夕哉が頷くと、ジャシンがデッキから飛び出してカードから顔だけを出し、こう発言してきた。
「つまり、夕哉の精神を強くしなければならない、モルスと当然ぶつかっても問題ないような」
「でもゆうや、凄く心は強くない?これ以上どうやって強くなるの?」
「うん、だって御白ちゃんや夕花ちゃんのためなら、どこまでも頑張れるよね」
「ちょっ、火奈ちゃん、何言って」
「そこが問題なのだ」
「……どういうこと?」
火奈の言葉を受けてジャシンはそのまま言葉を続ける。ふと昔のジャシン自身は人間5人に何を重要な相談をしているのだと言われそうだと思ったが、それどころではないと自分を律した。
「ワルドバロム戦、真名月と戦った際に、光屋御白達は一度吹き飛ばされた」
「はい、恥ずかしながら……」
「そこを言いたいのではない。黒井夕哉は原動力を他人に依存している以上、このような事態が起きた時に一気にメンタルが弱る。あれは戦いの相手が真名月であり、余が至高の魂となって光屋御白を助けられたから良かったとはいえ、もしこの4人の、大事な人間の誰かに危害を加えられていたら、夕哉、お前は今この瞬間のように立っていられるのか?」
「……無理だよ。あの時だって、皆なら何とかしてくれるって思って、どうにか立て直したくらいだし」
「そうだろうな。そしてそんな隙を晒せば、モルスの、もう1人の余の前では命取りになる」
ジャシンはそのように締めた後、御白達にこう言った。
「夕哉の原動力、夕哉本人の原動力を探してくれないか。恐らく、ここからが本番となる。だから頼む、貴様らの力を貸してくれ」
「ジャシンの言うとおりだ、お願いします」
「「「「………」」」」
ジャシンが頭を下げた。人に頭を下げるなど、昔の自分では考えられなかったことだった。しかしヴリドガルドに乗っ取られないため、夕哉を守るためには必要なことだった。そう思うと、頭を下げることに自然と屈辱は感じなかった。ただ、夕哉を助けたいと言う気持ちだけが、そこにあった。
「……当たり前じゃないですか、夕哉くんの原動力、夕哉くんの夢、しっかりと決めるお手伝いができるなら手伝わせてください!」
「俺ができることはそう多くねぇけど、同じ気持ちだ」
「運動はいいよ、スポーツ仲間を増やせるチャンスなんでしょ?」
「ボクも、ゆうやがやっていて楽しいことを増やせるならやりたいなあ」
「貴様ら……」
「ありがとう皆、これからお願いします!」
夕哉はそう言って手を出すと、他の3人は夕哉の手を握ってくれた。御白も少し遅れて夕哉の手を掴む。
「まぁ、私達一介の学生なので、そこまで期待はしないでくださいね?」
「大丈夫、でも頼りにしてる」
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「明星 駆蹴(あけぼし かける)くん、君に相談したいことがあるんだ」
そう言ってモルスは、明星に話しかけた。ここに来てもう3日になる。明星が周りを見渡しても、どこまでも白い空間が続いているだけで、自分とモルス以外誰もいない。
「お前が、真沢の言っていた災厄か?」
「……当たらずとも遠からずかな、ヴリドガルドは確かに災厄足り得る」
「煮えきらないな、何を隠している?」
「隠しているつもりはないよ、だって本当のことだから」
「………」
モルスは明星に体を近づける。黒井夕哉の顔でそれをやってくることに明星は嫌悪感を感じるが、ヴリドガルドの触手から作った鎖で繋がれており、何もできない。
「大前提として結局、何をしようとも、世界はクリーチャーに滅ぼされる運命にある」
「は?」
「ジャシンに乗っ取られた少年によって世界が滅ぼされそうになった、コンプレックスに飲まれた1人の少女によって世界から心が消えそうになった。悪魔神に魂を売った男によって世界の全てが弱肉強食のクリーチャー世界に変えられそうになった。分かりやすく具体的にはこの3つかな」
「………。お前はなぜヴリドガルドを使う」
「……俺のいた世界では、そんなのなく滅んだからだよ、一切の選択肢なんてなく、唐突に。でも俺は死ななかった、死ねなかった」
「八つ当たりか?この世界への」
モルスは一呼吸開けた後、こう答える。
「確かに、色んな滅びの可能性がある中でこんな風にのほほんと生きていたり、日々しょーもないマウントやら立場のために小競り合いをするのはあまりにも愚かだとは思うけどさ」
「思っているのかよ」
「まぁね。でもそこじゃない。もう一つのジャシンに、さらに力を注ぎ込む。そうすると真名月、ワルドバロムすらできなかったことができる」
「何をやるつもりだ」
「そりゃあ、選択肢を作るんだよ、新しく。君も同じ気持ちだろう?ここに真沢がいたら、どれだけ状況が好転しただろうって」
「………!!」
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夕哉達が寿司を食べて気持ちを新たにした翌日、須谷遥風は面会の時間を迎えていた。面会する相手は、《DARK MATERIAL COMPLEX(クラヤミノコンゲン コンプレックス)》を使い、街を混沌に落とそうとした主犯。
「久しぶりぃ、お姉ちゃん」
「風音(かぜね)、久しぶり」
「最近御白ちゃんはどぉ?」
「元気ですよ」
「えへへ、良かった」
風音はそのようにして、遥風に質問を投げた。まだもう少し、時間はかかる。けれども色んな調査が進み、彼女自身もCOMPLEXによる精神干渉から抜けつつあった。
「お姉ちゃん、あのシールドはどう?」
「有用に使わせてもらっています。無ければ、かなり危なかったこともありました」
「そっかぁ、じゃあ私、お姉ちゃんの役に立ててるんだぁ」
「そう言うのを気にしては行けないと言ったじゃないですか。私は何があっても、風音のことが大切で大好きなんですよ」
少しずつ、2人の間で軽口も言えるようになってきていた。どこからが本音なのか、お互いになんとなくわかるようになってきた。今の遥風の言葉が本音であることも、風音にはすぐわかるほどに。そう言われて風音は顔を赤くする。
「もう少し早く、お姉ちゃんと話せてればなぁ……」
「私も同じ気持ちです、風音」
「……でも、そう言う気持ちが強すぎたら、良くないよねとも思うよ」
「それで今からどうこうなりませんからね」
「ねぇお姉ちゃん。もし本当に全部戻って、私がこんな風にならないようにできるとしたら、お姉ちゃんはどうするの?」
「………難しい質問」
「えへへぃ……」
「次に会うときまでに、答えを先送りしても良いですか?ちょっと、そう簡単に私には決められないから」
「良いよ、待ってるねぇ」
風音はそう言って遥風と軽くハグをするのだった。
「夕哉と!」「御白の!」「今日のカード紹介!」
「夕哉くん、今日のカードは?」
「今日のカードは、《邪侵入(ジャスト・イン・ユー)》!」
「3コストの呪文で山札の上から4枚を墓地に置き、墓地からコスト4以下のアビスを呼び出せる呪文ですね!」
「とにかく色んなアビスを呼び出せるカードで、今は《邪龍 ジャジーブラッド》や《至高の邪騎 スベルニル》を出したりするのが専らだよね」
「昔は《アビスベル=ジャシン帝》を呼び出したりしてましたし、ずっと夕哉くんのデッキに入っているカードですよね」
「強いからなぁ、ジャシンを使う上では、自然を使わない限りは絶対使いたいカードかなぁ」
「と言うわけで次回、『ただ、積み重ねて・前』」
「「お楽しみに!!」」