デュエル・マスターズOverLordW(オーバーロードダブル) 作:シグレサメ
夕哉 シールド0 マナ5
《ヴォルカ=グルーカ》、《至高の魂 アビスベル=ジャシン帝》×2(両方進化状態、うち1体超魂X、《テブルカッケ=エディ》)、《ストーム・ハイパーXX》
ユウヤ シールド4 マナ4
「オレのターン」
ユウヤはカードを引き抜く。ヴリドガルドはやられたが、何事もなかったかのように、いや、それすらも織り込み済みであったかのように彼のカード捌きは軽やかであった。
「まずは3マナで《魔誕の悪魔 デスモナーク》を召喚。山札の上から4枚を見て、NEOクリーチャーの《魔誕音像 スカルテット》を手札に加え、そのまま2マナで召喚する。ターンエンドだ」
「分かった、俺のターン」
夕哉はカードを引き、思考する。
(バトルゾーンの質はこちらの方が高いけど、シールドが1枚もない。ジャシンが俺を守ってくれる回数はNEOクリーチャーのアンタップを入れて3回だし、何より相手からの除去でブロッカーが剥がれる可能性もある)
「オリジナル、悩んでくれてるの?」
「まぁね。厄介なデッキだよ、それ」
(盤面を組みながら、相手の盤面を減らす。これで行こう)
夕哉はカードを動かし始める。ジャシンは自分の相棒が何を選び取るのか、無言で見ている。
「まずは2マナで《フォック=ジャック》を召喚。進化はさせない」
「成程、進化元運用ってわけだね」
「フォックを《邪龍 ジャジーブラッド》にG-NEO進化。出た時に3枚墓地を増やして《シャワ=アガール》を回収。コスト3以下のクリーチャーを破壊できるから、デスモナークを破壊する」
ジャジーブラッドが一番自分に適しており使い方をわかっている。闇のマナを使い水を圧縮。それを自分の体内で高熱で燃やせば、3つの文明の力が混ざったとんでもない水鉄砲いや、砲台の完成となる。
「ジャジブラァァァアアア!!」
邦題から放たれた高温の水がデスモナークを貫き吹っ飛ばされるが、ユウヤはむしろ笑顔で、
「流石オリジナル。ここまでやってくれるとなると嬉しいよ」
とニコニコしている。それに気味の悪さを覚えながらも、夕哉はジャジーブラッドに攻撃を命じる。
「ジャジーブラッドでシールドをWブレイク!ジャシンの効果で初めてアビスがタップした時アンタップする効果付きだ!」
ユウヤ シールド2
「うーん、トリガーなし」
「ジャジーブラッドでもう一回攻撃!」
「ジャジラァァアア!!」
ユウヤ シールド0
「ストーム・ハイパーXXで……」
「待ってよオリジナル。まだまだ、楽しみたいからさ」
ユウヤが手に持っていたカードを見て夕哉は戦慄する。それは自分のピンチを何度も救ってくれたカード、《Rev.タイマン》であった。
「効果で相手1体、ジャシンのパワーをプラス4000し、攻撃を止める。そして革命2発動。この呪文を唱えたときシールドが2枚以下だから、相手クリーチャー全てに攻撃できない効果を与える」
ジャシン達夕哉のクリーチャー全てに蔓が巻きつき、動きを止める。少しでも無理に動けば、蔓は更に締め付けを強くしてくるのだった。
「なんで……!?」
「オリジナルのことならなんでも知ってるから。オリジナルがRev.タイマンで救われた試合がいっぱいあるって聞いてたから、オレも真似してみようかなと思ったんだ」
「そんな猿真似ごときで……!こんな蔓ごとき、今すぐちぎって!」
「ジャシン無理しないで。……ターンエンド」
「オレのターン、ドロー」
「ねぇ、もう一人の俺。どこで俺のことを知ったの?」
「えー…?強いていうなら、オリジナルは沢山人を救ったでしょ?」
「俺一人の話じゃないけどね」
「そしてその途中で、別世界からすらの侵略者も退けてみせた」
「真名月のこと?」
「そうだよ。ワルドバロムは敗れたけど、それで全部のクリーチャーが掃討されたわけじゃない。オレはそれを利用して、ジャシンの身体と君の経験を手に入れた」
ユウヤはそう言って手札を見せる。デーモン・コマンドばかり使っていたのも、納得がいくものだった。
「じゃあ、君はワルドバロム、真名月の後釜ってこと?」
「真名月とは違うよ。仲間の居場所を作りたいだなんて矮小な願いじゃ、いずれ何処かで無理が祟ってただろうし」
「じゃあ何を考えているのだ、貴様は」
「そりゃあ、ジャシンの身体を使ってやることなんて一つでしょ。いや、一つしかできない」
「……?」
ユウヤは一拍置いて、こう言った。
「オリジナル。ジャシンの力は本来滅びの力だ。ただ壊して、蹂躙して、支配する。その為だけにジャシンの力は存在する」
「そんなことない!ジャシンは人間世界にきて、どんどん優しくなってる!感情を学んでる!ジャシンは、ただの暴君にはもうならない!」
「夕哉……」
「あーー……。そこから食い違ってるのか。じゃあ分かんないと思う。今言ってもね」
「何を言って……」
「デュエマを続けよう。それならオレの元に、ジャシンの力を手に入れるだけだから」
ユウヤはカードを手札から2枚引き抜き、一気に進化させる。
「こっちも進化速攻だ。2マナで《魔誕邪脚 ブレイズ・イヤリング》。その上にNEO進化クリーチャーとして2マナ軽減して4マナ、《悪魔神 フレアスポーン》をバトルゾーンに」
「これでクリーチャーが2体…!」
「そう、そして手札から2枚目のフレアスポーンを捨てる。これで山札を2枚めくって、そのコスト以下になるように出すことができる」
「2枚捲るというのか、スピードアタッカーを!」
「そうだよ、無理な話じゃないのはジャシンもわかるでしょ?」
ユウヤが1枚目のカードをめくる。めくったカードは、《無敵魔誕 カースペイン》。
「スピードアタッカー…!」
「そうだね。これで次もスピードアタッカーをめくれば、オレの勝ちだ」
緊張が走る。ユウヤが2枚目を捲るまでの間、一瞬なのか永遠なのかわからない時間が夕哉とジャシンの間で過ぎる。
「《魔誕幻獣ボンメェ》。出た時にクリーチャー破壊かマナを加速するカードだけど4以下を破壊しても勝てない。大人しくマナを加速するだけかな。ターンエンドだよ」
「………俺のターン。至高の魂 アビスベル=ジャシン帝で、ダイレクトアタック」
ジャシンが飛び出し、ユウヤに拳を叩き込む。ヴリドガルドが身体を滑り込ませ拳を受け止めるが、ジャシンの攻撃は止まらずヴリドガルドを吹っ飛ばす。更にもう一撃とユウヤに向けて拳を振り、白煙が上がり、決着はついた。はずだった。
「2人とも、焦ってるね?」
「!?」「なんだと!?」
ジャシンが手を退けると、ユウヤはドロドロの何かとなっており、そのドロドロが緩く形を作っていく。まるで粘土細工のような姿に夕哉とジャシンは度肝を抜かれるが、ユウヤは気にせず続ける。
「オレは、死ねない身体なんだ。何があってもね。空から落ちても、海で溺れても、世界の境界線がぐちゃぐちゃになっても」
「なんだと……」
「オレは終わりが欲しいんだ。まぁただ自分で自分を終わらせたいわけじゃないけど。その為にヴリドガルドを使う。真名月の計画が成功して、クリーチャーになれてたらもっと楽に終われてたんだけどね」
「待って、ユウヤ!!」
「オレの本当の名前は『モルス』。君たちの攻撃は痛かったし、すごく効いた。これで死ねたら良いのにね。でも、流石にしばらく回復に時間が必要かな」
「待て、夕哉モドキよ!」
「君たちは折角の命なんだ。大切にしなよ」
そう言ってユウヤはドロドロになって消えた。自分のような何かに変わる。そんな恐ろしいものを見たが、何より自分の中で敗北しかけたあの瞬間が、自分がいなくなるような瞬間に立ち会ってしまうように思えた夕哉にはどうしても印象的に写ってしまったのだった。
「夕哉くーん!!」
「ゆうやー!」
「……2人とも、遅れてごめん」
続いて聴き慣れた、安心する2人の声が聞こえてくる。夕哉は自分が日常に戻ってくるのと同時に、とんでもないものが現れたことを伝えなければならない事に、気を重く感じるのだった。
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「夕哉、2日連続でクリーチャー絡みに巻き込まれるのは、お祓い行った方が良いぞ」
「……そうかもしれない」
「ジャシンがいるから神様逃げ出しちゃうんじゃない?」
「その場合は余の前に跪かせて無理矢理福をばら撒いてもらうとしよう」
「神頼みの意味変わってきちゃってますね……」
夕哉は御白達と共に、皇龍市住宅街の地下にある秘密基地へとやってきていた。大きな机は5人が余裕を持って座れるほどスペースがあり、他に3人ほど椅子が置いてある。
「久しぶりだね、夕哉くん達。まぁ、トラブルで会いたくはなかったけどね」
夕哉達にお茶を出しているのは正路公輝(しょうじ こうき)という男だった。彼は警察としてクリーチャーと適応するための人体実験の事件を追い、その事件を解決後はそこから繋がるクリーチャー世界のゲートを監視するついでに、夕哉達デュエマ部の拠点の管理人として、夕哉達をサポートしている。
「こうきさん。最近休めてたのにごめんなさい」
「謝ることじゃないよ、緑くん。君たちじゃなくて、悪いことをする人が良くないんだから」
「でも、思ったより大事になっちゃいましたね」
「それもそうだね。遥風くん。書記をお願いして良いかい」
「はい。いつでも」
公輝が椅子を自分の分ともう一つ取り出して、須谷遥風(すたに はるか)に渡す。彼女は公輝の右腕のような存在であり、夕哉達がクリーチャー界の探索を始めてからというもの、公輝と共に夕哉達に協力を惜しまなかった、影の功労者だ。
「じゃあ纏めますけど、テクノ・サムライってのは、人間界に斥候として現れたのとぶつかったわけっすね」
「質問!なんで人間界来てるの?」
「分からないんだ。俺がデュエマを教えた子が泣いてるのを見て、泣くのを止めようとしてるのは分かったんだけど」
「それだけ聞くと良い人じゃない?」
「いえ、色々無視してクリーチャーとしてこの世界に来ているのは、間違いなく良くないことです」
「御白がそこまでキッパリ言うの珍しいね」
夕哉がそう言うと、御白はこう答える。
「夕哉くんの言うようなクリーチャーだったとしても、自分の都合を押し付けてるようにしか聞こえません」
「まぁ、結局人間界に勝手に出てきてることには変わらんからな」
「なるほど……」
「スチーム・ナイトというのも気になりますね。皆さんは聞き覚えは?」
遥風の問いに、皆が首を横に振る。
「クリーチャー世界にもそんなクリーチャーいなかったよ。だから本当に変だと思う」
「緑くんの言うとおりだ。竜也から貰った情報でも、そのようなクリーチャーが確認された事実はない」
「うわ、手詰まりだぁ……」
「じゃあ、ヴリドガルドの方行きましょう」
「ヴリドガルド。夕哉に化けたスライムみてえなやつ、モルスだっけ。これ、話聞く限り、テクノ・サムライやスチーム・ナイトと無関係なんだな?」
「うん、ヤマ張ってみたけど、ちゃんと引っかかってくれた」
「確かに、ゆうやと同じ力なら、テクノ・サムライ達に狙われててもおかしくなかったもんね」
「時々言動に幼さが目立ちますね。プロファイリングしやすくて助かります」
「つまりこれ、ヴリドガルドとテクノ・サムライ、スチーム・ナイトっていう3つの脅威が並行してあるってことじゃないですか…?」
御白の言葉に、会議場の空気が重くなる。
「最悪を想定するならそうなるよね」
「一旦纏めるぞ」
・人の悲しみなどの感情を止めようとするテクノ・サムライ
・テクノ・サムライが敵対しているスチーム・ナイト(テクノ・サムライと敵対するなら人の悲しみの感情を集めたい?)
・ワルドバロムを受け継ぎ、強くなろうとするヴリドガルドと夕哉の偽物(モルス)
「これだけ相手にしなきゃいけないってこと…?」
「モルスの方は倒した時に暫くは出てこれないみたいなことを言ってた。だから今はモルスというより……」
「テクノ・サムライとスチーム・ナイトってことだよね」
「うん、まずはそっち。何が目的かも分からないし」
夕哉がそう言うと、公輝の電話が鳴る。公輝が電話を取って話し、暫く経つと、5人をこちらに引き寄せるジェスチャーをした後、電話を切った。
「5人とも。スチーム・ナイトを名乗るものが現れた」
「え!?」「タイミング良いのか悪いのか…」
「そりゃそうだろうな、今は成人の日の午後、悲しませる目的が本当なら悲しませがいのある新成人がいっぱいだ」
「なるほど……」
「お願いできるかい?」
「「「「「はい!」」」」」
「じゃあ行こう皆、早くスチーム・ナイトと戦って、目的を……」
そう言った夕哉が、後ろから飛水に捕まえられる。
「夕哉、突っ走りすぎだ。お前昨日1日イベント出て、偽物のお前と戦って、間違いなく疲れてるだろ」
「そんなことは……」
「夕哉くん、何かあったんですか?」
御白の圧に夕哉は負ける。いや、一度だって勝てたことはない。
「……正直、もう少しでもう1人の俺に負けそうだったんだ。かなり、ギリギリで、1枚分の引きで勝った感じ。だから……」
「すぐ抱え込むなっつの。一人でなんとかなるわけねぇんだから。特に今回はだ」
「うん、だからあたし達が頑張ってくるから少し待っ……」
「火奈、火文明から呼ばれている。件のテクノ・サムライが現れたらしい」
「嘘!?」「まずいですねこれ…」
「赤坂くんと飛水くんでクリーチャー界の方に行ってくれ、ナビゲートは須谷くんがする」
「分かりました、ついてきてください」
「待っててカイザー、すぐ行くから!」
「なんだかんだクリーチャー世界、久しぶりだな……」
「光屋くんと緑くんはスチーム・ナイトの方を頼んだよ」
「分かりました!」
「うん、行ってくるね公輝さん!」
そう言って4人はそれぞれの持ち場へと走っていった。後に残されたのは公輝と遥風と夕哉。遥風はすぐにヘッドホンをつけてしまったため、すぐに夕哉は公輝と2人きりの空間になってしまった。
「……光屋くんの言葉に答えてたけど、それだけじゃないだろ」
「え?なんで……」
「夕哉くん、見たことない顔をしているからね。顔を洗っておいで」
「でも、ここで皆の帰りを……」
「ジャシンと、話しておいで」
夕哉は洗面所へ行き、ジャシンを呼び出す。
「貴様」
「ジャシン。なんか急に公輝さんが喋れって言い出して」
「貴様、顔が晴れぬな」
「え」
夕哉は洗面台で自分の顔を見る。夕哉の顔は、引き攣っていた。
「ずっとそうだったぞ。特に、モルスの話をするときはな」
「……俺、怖いんだ。モルスのこと」
夕哉はそこで実感した。ジャシンはそんな夕哉にこう聞く。
「なぜだ。貴様は余を使いながらも、何度も負けてきたはずだろう。何を今更怖がっている」
「わかんない。わかんないけど……」
「……余には恐怖は分からん。だが、恐怖の根源が何か、一緒に考えるくらいはできる」
『あぁ、身体にはいつしかまた別の魂が宿るんだ。魂だけのそっちと、身体だけのこっち。生き残るのはどっちだろうね?』
「ねぇ、どっちが生き残るのかな」
「当たり前だ、余の方だ」
「……あいつは、人に成り代われるって言ってた。実際できるところを見たし、それができると思う。でも、何より」
「………」
「ねぇジャシン。俺は、どうやったら自分を証明できるんだろう」
「?」
「顔も、身体も、声も同じで、やろうと思えば性格だってなりすませるようなやつに負けて、もし俺が本物だって証明できなかったら。俺は、どうなるの」
「……弱い方が淘汰される。奴はそのつもりで余達に勝負を挑んできた。そして奴は負けた」
「でも、次は?次負けて、俺が皆と会えなくなったら……!」
「負ける前提で話を進めるな、様子がおかしいぞ、夕哉よ」
「俺は頑張ってきたけど、そのせいで皆がやられたら……」
夕哉は恐怖に囚われていた。自分が強くなった分強くなる敵と会うことなど、普通あるはずがない。そんな気持ちも、夕哉の恐怖の増大に一役買ってしまっていた。
(こやつ、アイデンティティを周りに頼っていたからか)
「夕哉よ、前に聞いた夢は、まだ言えないのか」
「言えないよ、まだ……。俺は、気持ちで負けてたんだ……。あいつは、強かった。心も、何もかも。偶々、俺が生き残ってるだけの……」
夕哉がそう言う中、火奈と飛水がテクノ・サムライの居所に近づいたことを示す連絡が、遥風の元に入っていた。それをなんと無しに聞いていた夕哉を観察すると、ヴリドガルドの小さな触手が、夕哉の背中にくっついていた。恐らくジャシンがモルスを殴り潰した時、不自然にならないように飛び散らせたものだろう。
(哀しみの感情を集めていたシンベロムの力を使い、夕哉の哀しみを増大させて弱体化させた上、『今のデータ』を取る腹づもりだな)
「……夕哉よ、須谷遥風のところに行くぞ」
「え?」
「貴様のアイデンティティ、余が思い出させてやる」
「夕哉と!」「飛水の!」「今日のカード紹介!」
「飛水、今日のカードは?」
「今日のカードは…《堕チシ八叉ノ蛇神(ナルガロッチ=ヴリドガルド)》だな」
「4コストのG-NEOクリーチャーでマッハファイター。パワー6000の中型クリーチャーだね」
「出たターンに攻撃するクリーチャーにランダムな手札破壊か1枚のシールドブレイクを追加させる。対処に時間をかければかけるほど、どんどん状況が悪くなっていく恐ろしいカードだな。夕哉、タイトルコール頼む」
「次回、『サムライの矜持、暴竜爵の意地』」
「大丈夫か、夕哉」
「ごめん飛水、少し休ませて」
「わーってるよ。無理すんなってこった」
(俺がモルスに負けたら、飛水達にまで迷惑をかける。だから……)