デュエル・マスターズOverLordW(オーバーロードダブル) 作:シグレサメ
学校の授業が終わって、夕哉くん、飛水くんはいつも通り拠点に来ていました。火奈ちゃんは部活で、緑くんは……。後から知って、自分がやったことは正しかったのか悩み始めました。
『うん、大丈夫だよ公輝さん』
「……正直、心配しているよ。緑くんは強いとはいえ」
『でも、一度あの人達が狙われたってことは、もう1回があるかもしれないんでしょ?』
「スチーム・ナイトの動機が正しいなら、そうだね」
カメラを通して、ビスマルクさんと話したり内容は公輝さんには届いています。でも、緑くんはそれを知りません。何より、私がビスマルクさんと取引をしたことも。
邪悪なクリーチャーには見えなくて取引をしましたが、正直それが正しいのか自信がありません。でも、やらなきゃ行けない気がした。自分らしさというよりお父様らしい行動に思えて、自分の意思でやったのかもよくわからなくなってきた時でした。
「御白?」
「夕哉くん、待機ですか?」
「うん、テクノ・サムライもスチーム・ナイトも止めなきゃ」
夕哉くんはいつも通りに戻っています。ジャシンが元気づけてくれたそうです。最近のジャシンなら、あり得ると思います。そんな風になってるのに、私は……。
「御白、何があったの?」
「え?」
「なんか、お兄さん達のことで悩んでた時の顔してる」
「それは……。そうですけど……」
「俺にだけでも話せない?」
「いえ、夕哉くんにも……。いえ、話させてくれませんか?飛水くんも、話を聞いてくれませんか?」
「ん?なんだ、そっち2人の話で俺が必要なことってあるか?」
「2人だけだと、ダメな気がしたんです」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
緑が来ていたのは皇龍病院。年明け前にシイノと共に夕哉と御白を応急治療した病院だが、今は日常に戻り、沢山の医師と看護師が往来している。緑が診察室の前で待っていると、昨日助けた2人が、診察室から出てくるのだった。
「どうでした!?」
「大丈夫よ、お腹の赤ちゃんに支障はないって。でも念の為入院して、いつでも産めるようにしようって話になったわ」
「……そうなんですね」
「緑くんありがとう、君のお陰で助かったんだ」
拓海は、ずっと病室の外で妻である、七海のことを待っていた。公輝が取り合ったことで、もう入院して出産の準備をした方がいいと言ってくれて、2人もそれに賛成していた。
「じゃあ私、もう少し先生と話があるから」
「じゃあ俺は家から荷物を取ってくるよ。待っててね、緑くん。家は近いからそうかからないし」
「うん」
緑は一人残された。正直、知らないことがたくさんで、どうすればいいのかわからない。最初病院に来た時は守ろう、ゴルファンタジスタと力を使ってと思っていたが、病院の中は凄く静かで、それどころじゃないこともすぐわかった。
「……ゴルファンタジスタ」
「なんだ?」
「お父さんとお母さんになるって、どんななのかな」
「どう言う意味で言ってる?」
「2人とも、すごいやさしくて、突然守るなんて言い出したボクのことも受け入れてくれて」
「まぁ、優しい人達だよな」
一つ一つ、緑は絞り出すように話していた。ゴルファンタジスタも、それに合わせていた。
「ボクの、本当のお父さんとお母さんも、ボクのこと好きだったのかな」
「………」
「ねぇ、ゴルファンタジスタ。せっかく産んでくれたのに、なんでボクは。ゆうや達のお母さん達を見てると、子供が産んだらすぐに邪魔になるとも思えないんだ」
「……わかってるよ」
「……うん」
「俺様としては、そいつらの顔見たら一発ぶん殴ってやりたい。そして今見せてやりたい、お前の捨てた子供は、守木緑っていう素敵な名前がついて、俺様や、公輝や、沢山の仲間達と一緒に、超元気に過ごしているぞって」
「……うん」
「あの人達、すごい幸せそうだったもんな」
「うん、だからこそ、守りたいと思ったんだ」
「緑くん?」
緑が後ろを振り向くと、拓海がすぐ後ろまで来ていた。家は思ったより近かったようで、本当にすぐ帰ってきていたのだ。しかし、何より……。
「緑くん、何と話しているんだい?」
「それは……」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「普段の緑がそれを気にするとは思えないが、今はそう言う感じじゃないもんな」
飛水がそう言うと、夕哉もそれに同意する。
「うん、多分緑は、家族のことに向き合わなきゃと思ってる。多分、本人が思ってる以上に」
「えぇ、それに、なんか利用したりするのが、お兄様やお父様に近い気がして」
「嫌だったの?」
「そうじゃなくて!……なんか、私でなくなるような気がしたんです」
「それぐらい俺がその場にいたらやるけどなぁ」
「飛水くんはそうかもしれませんけど、私らしくないなって……」
飛水が「まぁそうなんだけどな、な?」と軽くショックを受けていると、夕哉がこう御白に聞く。
「俺さ、ジャシンに、思ったより周りの皆は俺を大事にしてくれてるって言ってもらったんだ」
「……はい」
(やけに凄いこと言われたんだな、しかもジャシンにか)
「御白は、ビスマルクを味方に引き込めると思ったんでしょ?その上で、行けると思って判断したんでしょ?決して変なことをしてると思わなかったんだけど」
「寧ろ光屋家当主の器になってきてんじゃないのか?」
「ですけど、そうかもしれませんけど……」
公輝がそこに、口を挟んだ。
「理想論だけじゃなくて、そこに打算やしっかりとした解決案を入れ始めているのは、子供でなくなってきた証拠だとオレは思うよ」
「公輝さん」
「でも、それだけを追求したら、いずれ大切なものも失うと思う。それは忘れない方がいいと思うな」
「………」
「幸いにも緑くん以外は知ってるし、オレと須谷さんが話に混ざることもできる。緑くんがナーバスなことに話を突っ込んでるのはあるけどね」
「火奈ちゃん、知ってるんですか!?」
「帰ってきた御白さんの顔を見てすぐオレに聞きにきたよ」
「……凄いですね」
「夕哉、先越されたな」
「別に先越された云々の話じゃないでしょ」
「そりゃそうだな」
そうは言うが少し膨れている夕哉を見て、御白はふふ、と笑った。
「ごめんなさい、もう少し考えて動きます。私はまだ大人になれないし、ドランさんがいても無敵じゃないですし。なんかちょっと焦ってたのかもしれませんね」
「まぁ確かに、最近イベントに顔出すようにしてたもんね」
「それで大人を見過ぎていたのかもしれないね」
「……はい。気をつけます。火奈ちゃんと会ったら、緑くんが落ち着いたら、すぐ謝ります」
「こんにちはー!赤坂火奈、来ましたー!」
「だそうだが」
「今この流れで言うのは無茶じゃないですか……!?」
「え、何、これダメだったの!?」
「『今日』、ダメだっただけだ」
空気を読んでいるのか読んでいないのか分からない火奈の登場に、御白の心はときほぐされたのだった。
「……この備えを使わないことが、一番だけどね」
「公輝さん?」
「大丈夫、君たちを信頼してることには、変わりないから」
公輝はそう言って、何かをポケットの中にしまい込むのだった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「じゃあ、そのデュエル・マスターズのクリーチャーっていうのが、昨日僕達を襲った化け物ということだよね」
「それって、前に現れた大きな魔法陣のあれよね。正直すぐ終わったし、パフォーマンスかなんかだと思ってたけど……」
「クリーチャーは、いろんな所にいて、たまに人間の世界に来るんです。中には、人間に害をなすようなクリーチャーも」
ボク達の間に気まずい空気が流れる。ボク達はななみさんが入院している部屋に来て、他のところには聞こえないような小さな声で話していた。
「ボクの相棒は、ゴルファンタジスタは、決してそういうことするようなクリーチャーじゃなくて……!」
「それは分かってるわ、落ち着いて、緑くん」
「だって……」
「正直、色々と納得が行ったよ。君が守れるって言い切った理由も、こんなに早く入院が決められた理由も。全部納得が行った」
「ちょっと拓海くん……!」
「いや、ボクが悪いんです。本来助けた人とはそんな関わらない、秘密を守らないといけないのに、こんなことして、公輝さんには七海さんが早めに入院できるようにしてもらって……」
「緑くん」
たくみさんの方を見ると、目から涙が流れていた。
「正直、君を疑っていたんだ。突然現れて、僕と七海を守るって言い出して。信用してなかったんだ。でも、君はそうじゃなくて、あの助けてくれたもう一人の女の子のように、危険なことにも手を出していて」
「拓海さん……」
「正直、羨ましくなったよ。そんな力があって七海と、近く生まれるあの子を守れたら、僕はとても嬉しいと思う」
「ボクは、2人の方が羨ましいです」
何故だろう、ポロポロと言葉が溢れる。本音が止まってくれない。だって目の前にあるのは、目の前に今から生まれるべきなのは。
「ボク、赤ちゃんの時に親に捨てられて、拾ってくれたゴルファンタジスタに育てられたけど、それで育ったクリーチャーを扱う力を利用されて、真沢さんにも利用されて。全然いいものじゃなかった。ゴルファンタジスタと一緒にいれるのは嬉しいけど。一時期、人間そのものが嫌いな時もあった」
「ごめん、緑く……」
「謝らないでください、だって、ボクが勝手に羨ましくなっただけだから。お父さんがいて、お母さんがいて、2人は子供のこともお互いのことも愛していて。ボクが2人を守れれば、少しはその普通に近づけるのかなって、勝手に期待しただけで……」
「……酷い」
ずっと話を聞いていたななみさんが、大声を出した。
「産んだ子供を最初に幸せにできるのは親だけなのに、なんでそんな酷いことができるの!?私、信じられない……」
「え、え……!?」
「ごめんね、七海は結構直情的なんだ。でもその気持ちには同感だ、君のことを酷く扱った人達を僕も許せないよ」
「そんなこと……」
「だってそうでしょう、私の推測でしか貴方の辛さなんてわからないけど、わからないけど……」
ななみさんはそうやって唇を噛んでいる。本当は、すごい元気な人なんだと思った。
「改めて謝らせてくれ、緑くん。こんな軽率に君の力が欲しいなんて言って。ゴルファンタジスタさんも、疑ってしまい申し訳ない」
「そうね、ニュースの内容だけ見て、疑ってかかってごめんなさい」
「いやいや気にしないでくれ、俺様は緑の親代わりなだけだからな」
ゴルファンタジスタと2人が意気投合するのを見て、ボクは慌てて止めにかかる。
「で、でも……!ボクは、今、幸せなんです、それでちょっと欲張っちゃって、お節介をしちゃっただけで……」
「緑、幸せって最大限度があるのか?お前が少なからずそれに思うことがあるから、こんなこと言ったんじゃないのか?」
「でも……!!ボクのわがままだから!!」
「……わがまま言って、何が悪いんだ?」
ゴルファンタジスタからそんなこと言われると思わなくて、ビックリした。だって、ゴルファンタジスタは何かあったらダメだって、これをやったらOKだって言ってくれる、お父さんであってお母さんで……。
「緑は十分に大人になってきてる。そりゃ何もわからん赤ちゃんや子供の時は色々言わなきゃいかねぇけれど、だんだんと俺様の意思も聞かずに決断できるようになってるじゃねぇか」
「……ゴルファンタジスタは、いいの?」
「人間は親離れっていうのもぼちぼちしなきゃいけないんだろ?それなら人間のルールに従うさ」
「ゴルファンタジスタ……」
『え、いいの、公輝さん?七海さんと拓海さんを守っても』
『緑くんが最善だと思ったんだろう?サポートはいつも通りするよ、任せておいてくれないか?』
ボクは改めて考えた。ゴルファンタジスタにこう言ってもらえて、公輝さんにあんなふうに言ってもらえて。いっぱいいっぱい考えた後、2人にお願いした。
「ボクのわがままを聞いてくれませんか」
2人は、頷いてくれた。
「ボク、やっぱり2人を守りたいです!クリーチャーのことを秘密にしてもらわないといけないです、他にもたくさん……!でもスチーム・ナイトは負の感情を生み出そうとしてるから、また襲ってくる可能性が高くて、みしろも昨日のクリーチャーはデータを取りにきたって言ってたから…!病院にいる他の人も含めて、ボクが守ります!だから……!!」
「……大丈夫よ、ありがとう」
「元からそのつもりだよ、ニュースでの存在が本当で、僕たちの身近に出てくるなんてびっくりしたけどね」
「えぇ、私達を守ってくれる?」
「……はい!!」
「でも、四六時中は僕たちが逆に困っちゃうから辞めてね。今の君には頼れる大人がいるんだろう?」
「はい、公輝さんにもう1回謝らなきゃ」
ボクはそう言ってもう一度準備を始める。昼間だけでも、ボクのわがままでも、ここにいる人たちを守りたい。
「そうだ、その公輝さんって人、きっと貴方の思ってるよりもっと緑くんのことを大好きだから、大事にしてあげてね」
「仕事だから、ではないと思うよ」
「はい、行ってきます!!」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
デュエマ部の活動は今日は特異なクリーチャーが現れることもなく普段通り御白や飛水と打ち合って練習を終える。そんな夕哉が家に帰る途中、シイノが手を振ってきた。近くのスーパーで買い物をしていたらしく、左手には大きなレジ袋を持っている。
彼女はもう綺麗になった長く白い髪を靡かせ、夕哉の祖母に買ってもらった空色のワンピースを着こなし、夕哉に手を振っている。過去自分の世界が消えたことで、引っ込み思案となっている彼女は、見かけ上なりを潜めているようだった。
「シイノ、これから帰り?」
「うん、いつも通り勉強を見てもらって、お婆さんのお手伝いで買い物に行ってた」
「そっか、今日のタブラ=ラーサはどう?」
「今日も反応がない。あの時のは、奇跡だった」
「奇跡を必然にできたらいいけどね」
「うん。夕哉は、何かあったの?」
「まぁね。ジャシンが強くなって少し不安だったけど、むしろ心強くなってきてくれてるというか」
「むしろ、心強い?」
「うん、前より心を開いてくれてるし、昨日は俺にアドバイスまでくれた」
「ジャシンも、変わったんだ」
「うん。ジャシン『も』?」
シイノは少し走って、笑顔で夕哉に微笑んだ。言葉の一つ一つは少なく、短くとも、彼女はかなり活動的になっている。
「夕哉も変わった。本当に」
「皆に言われてるって」
「前よりもっと。わたしが夕哉に初めて会った時よりもっと」
「じゃあそうなんだろうね」
「うん、そういうとこ。夕花も喜んでた」
2人がそういうふうに家に着くと、妹の夕花と祖母の暁美が迎えにきていた。
「お兄ちゃん、シイノちゃん、おかえり!」
「ご飯の準備、早くしちゃおっか。夕花はお風呂お願いできる?」
「任せて!」
家の中に入ろうとする夕哉に、シイノが後ろから肩に手をかける。
「何?シイノ」
「人間って、一人でいると、少しずつ削れてく。気づかないうちに。人といたら、少しずつ治ってく」
「うん」
「だから、わたしもすぐとは言わないけど、夕哉を助けに戻るように頑張るから」
「……気にしてたの?」
「まぁ、うん。でも何より、幸せだからこそ。今のことを忘れないで」
シイノに言われたその言葉は、何故か夕哉の心の奥底に響いた。シイノは幸せだった生活を真名月に奪われたからこその実感だろうか。ジャシンがついているとは言え、モルスに狙われるようなことを、過度にならない程度に警戒しているからだろうか。夕哉にはその答えはわからなかったが、頭の中に強く残ったことには変わりないのだった。
「緑と!」「飛水の!」「今日のカード紹介!」
「ひすい、今日のカードは?」
「今日は、《~西方より来る激流の竜騎公~(ハイドロ・ビスマルク)》だな」
「NEO進化として出すなら3コストで出せる6コストのNEOクリーチャー。出た時に3枚引いて1枚山札に戻すことができるんだね」
「恐ろしいのは攻撃された時にカウンターで山札から水のカードを実行する能力。出た時効果で出目を仕込めるため、安定してカウンターを行えるな。これが最速3ターン目に出るのもヤバいしな」
「というわけで次回、『もっと強く、もっと高く』」
「ドランの息子はわかるが、前者ってゴルファンタジスタだよな?相棒さん、これどうなってんだ?」
「ボクもよくわかんないや……」