恋より   作:わか

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8話

ゴールデンウィークがやってきた。

四月、色々あったがなんとか乗り切った。

疲れた体を癒すには絶好の休養日だ。

 

洋榎たちは、最後の日しか休みがなく。それまで合宿だと言っていた。

 

そして、その最終日に僕たちは遊ぶことになった。

 

◆

 

「なぁ、ゴールデンの最終日暇か?」

 

昼休み。

いつものメンバーで食事をしている時、洋榎が僕に聞く。

 

「ゴールデン?」

 

「ゴールデンウィークのことじゃない?」

 

あぁ、ゴールデンと言われ、何のことかと思ったら、ゴールデンウィークの事か。

冷静に考えると、明日からゴールデンウィークだ。

連休と聞くと、それだけで心が軽くなる。

 

「あぁ、別に予定はないけど」

 

「じゃあ、遊びに行こう!!」

 

僕の答えに嬉々として、有無を言わせず、予定が埋まった。

そして、未だ答えない僕に、下から上目遣いで見てくる洋榎に、一瞬心がぶれるのがわかる。

 

「いいよ、遊ぼう」

 

思わず、洋榎に可愛いと言いたくなるのを抑え、それだけを絞り出す。

 

「恭子、由子、絹、うち。そして、君。この五人で行こう」

 

「わかった。でどこに行くんだ?」

 

「そんなん、男が決めるもんやんか」

 

洋榎の当たり前だろ、という顔で僕を見てくる。

そんな馬鹿な話はなく、僕が提案したならともかく、誘われて、僕が決めるというのはなんだかおかしい気がする。

 

「僕が決めるのか?」

 

「なぁ、恭子」

 

僕の表情に何を思ったのか、恭子に同意を求める。

 

「え、私にふらんといて」

 

「な、由子?」

 

「のよー」

 

「…………。というわけで、頼んだ」

 

色々言いたいことがあるが、とりあえず、これはすべて僕に丸投げされたと認識していいんだろうか?

こんな重大案件、任せられても困る。

これで、僕が選んだところが不評なら、一生癒えない傷、もといトラウマとして、僕は女性をデートに誘えなくなるだろう。

 

「なぁ、やっぱり洋榎が決めてくれないか?」

 

「よし、食べ終えた。お先~」

 

「…………。なぁ、恭子?」

 

「ごちそうさまでした」

 

「…………。真瀬さん?」

 

「またねー」

 

…………。

どうなっても知らないぞ

 

◆

 

「はぁ……。どこがいいんだ」

 

女の子の好きそうな場所ってどこだろうか?

食べる場所が多いところとか?

うーん、なんか食べるというイメージでもないし。

祭りとかあればいいんだけど、こんな時期にはないよな。

 

「動物園……とか、いいんじゃないか?」

 

いや、動物園と来たら水族館も捨てがたい。

 

「はぁ……。さっきからため息ばっかだ。どっちがいいんだ?」

 

「そういえば、みんなのケータイ番号とか知らないな……」

 

出会って、もうすぐ一月になろうとするのに、まだ知らないなんて、我ながら馬鹿だ。

普通、真っ先に聞くものではないか?

でも、あの時は友達とか作る気はなかったし、仕方ないのかもしれない。

 

「待ち合わせ場所は、一〇時に駅。それだけだったな」

 

洋榎の事だ。着いてからのお楽しみ、なんて思っているんだろう。

 

雑誌を眺めて目に入ったのは『デートならココ!!今ココが熱い!!』。

 

「デート……。じゃないよな」

 

変な意識させないでくれ、あくまで友達同士の遊びに行くという範疇だ

決してデートなんかではない。

 

でも、悲しいかな。

一瞬でも意識すると、彼女たちの顔が一人一人思い浮かぶ。

 

「洋榎、変わってなかったな」

 

久しぶりに再会した少女は、立派な女性へと成長していた、か。

桜が舞い散るなか、太陽の光を浴びて輝く川に反射され、輝いていた少女が洋榎。

しかも、その少女は昔、遊んでいた幼なじみで……。

 

あまり、こんな言葉は使いたくないというより、なんだかむず痒くなるが、これは……。

 

「運命」

 

思わず口に出し、顔が熱くなる。

何、自爆してるんだ、僕は。

 

でも、これを運命と言わず、なんて言えばいいのかわからない。

他の言い方としたら、神様のいたずら、とか?

 

「はぁ……。やめだ」

 

僕は思考を停止し、少し早い眠りにつく。

 

「水族館でいいや。涼しそうだし」

 

春と梅雨の狭間を揺れる、この微妙な季節に、水族館の涼しさはちょうどいいだろう。

僕は、ゆっくりと闇に落ちていく。

 

◆

 

「全中中距離で三位よ!!高校ではもっとすごい選手になるわ」

 

「しかも、あの子推薦蹴って、自分の学力で行きたい高校に行くなんて、本当すごい子になって……。すごく嬉しい。誇らしいわ」

 

◆

 

僕は、ゆっくりと瞼を上げる。

夢だ。

あぁ、夢だ。

頭は冴えている。

 

体を起こす、そして、自分が震えている事に気づく。

 

夢だ。

夢だ、と思うのに、それは今でも鮮明に思い出せて。

 

「寒い」

 

◆

 

九時三十分。

僕は家を出る。

 

洋榎の話では、昨日のうちに合宿から帰ってきてるはずだ。

だから、待ち合わせ場所に行って、誰も来ない。なんていう事態にはならないはずだ。

 

「行ってきます」

 

自転車に乗り、川沿いを行く。

 

木々は緑づき、夏の気配を感じるようになる。

ついさっきまで春だった気がするのに、もう夏の気配を感じるとは、時が流れるのは早いということか。

 

駅前に着き、自転車を自転車置場に止める。

 

「まだ、誰も来てないのか」

 

駅の待合室に入り、椅子に座る。

時計を見ると、五分しか経ってない。

 

「あのー」

 

今更になって、水族館から動物園に変更したくなってきた。

動物園は今の時期が一番適しているのではないだろうか?

 

「先輩?」

 

いや、一度決めたことだし、変えるのは良くないな。

 

「一場先輩?」

 

え?さっきから誰か呼んでるなーと思ったら、まさかの僕の名前が出る。

何かの間違いじゃないか?

でも、たしかに一場と言った。

僕は声のした方を振り向く。

 

そこには麦わら帽子を深くかぶった少女が立っていた。

そして、少女はゆっくり顔をあげる。

僕は思わず「あ」という声が漏れる。

この特徴的なおでこ。僕の事を知っている女の子。

この二つでピンとくる。

 

「えーと、上重さん?」

 

「はい、覚えててくれましたか」

 

上重さんは緊張してた面持ちから一転、笑顔になる。

 

「上重さんも誰かを待ってるの?」

 

「はい、先輩たちを」

 

先輩?部活動の先輩か?

 

「おーい、駆!漫!」

 

洋榎の声が聞こえる。僕は立ち上がり、待合室から出る。

こちらに向かって歩いてくる、洋榎、絹恵ちゃん、真瀬さん、恭子。

ただ、僕の聞き間違えでなければ、漫という言葉も聞こえた。

そして、僕の記憶が正しければ、上重さんの下の名前が漫だったような?

 

「よし、全員揃ってるな」

 

「洋榎?上重さんも来るのか?」

 

「うん」

 

いや、何言ったやん、っていう顔してるんだよ。

言われてないぞ。

いや、別に上重さんが嫌とかじゃなくて、って誰に弁明してるんだ。

 

僕が心の中で慌てていると、上重さんが不安そうに言ってくる。

 

「すみません!!おじゃまでしたか?」

 

「いやいや、そんなことないよ!!むしろ嬉しいよ。ただ、聞いてなかったから驚いていただけなんだ」

 

「そうですか」

 

良かったと、胸を撫で下ろす上重さん。

 

「で、どこいくん?」

 

発案者が行き先を知らないというのは斬新だな。なんて思いながら、僕は行き先を告げる。

 

「水族館だよ」

 

「八十点!!」

 

「え!?」

 

まさかの採点されるという行為に驚きながら、八十点って結構いいんじゃないか?と思ってしまうのは洋榎に毒されているせいなのか。

 

「じゃあ、決まったことやし、行こうか」

 

恭子がみんなを先導し、ホームに入っていく。

 

「そういえば、恭子は電車通学なのに、なんでここにいるんだ?」

 

「昨日、夕方に学校に着いて、そのまま洋榎の家に泊まったの。後、やっぱりこういうのってみんなで行ったほうが楽しいじゃない」

 

照れくさそうに笑う恭子。

真瀬さんも笑顔で頷いている。

 

「ま、そういうことや」

 

一人偉そうにしているが、こうまで楽しみにされたら、僕も気合を入れなくちゃな。

 

◆

 

水族館に着いたのが、十一時。

 

「ここ、水族館内に食事するところがあるから、このまま入ろう」

 

僕はみんなの分の入場料を貰い、まとめて会計を済ます。

その際、学割があると言われ、あそこにいるのみんな高校生ですと言うのが恥ずかしかった。

それに「はい」と了承してくれる受付さんに感謝した。

それぞれにチケットを渡し、入場する。

 

入ってすぐに暗所だった。

そして、それぞれ水槽に入れられた、小さい海生物たち。

珍しい形をした魚たちに興味津々の彼女たちに、ここで正解だった、と自分に言う。

 

「なぁなぁ、駆も見てみぃ。おかしいよ、こいつら」

 

「一場先輩、あっちにエイが泳いでいますよ」

 

洋榎と上重さんに同時に言われる。

二人はお互いの顔を見ると、おかしそうに笑う。

 

「愛宕先輩のを先に見ましょう」

 

◆

 

十二時になったので、内部に設置されている昼食エリアに行く。

そこは水槽に囲まれているレストランだった。

 

「すごいところだな」

 

「ほんまやな」

 

僕たちは店員さんに案内され、水槽を間近にできる席に着く。

 

「いい席に座れましたね」

 

絹恵ちゃんがメニューを見ながら呟く。

 

「うち、ラーメン」

 

「あ、じゃあ私も」

 

洋榎と恭子が注文を決める

 

「カレー」

 

「あ、真瀬先輩と同じものにします」

 

「私はおねえちゃんと同じラーメンで」

 

真瀬さんと上重さん、絹恵ちゃんが注文を決める。

僕はというと、ラーメンでいいかな、と思うのだが、このメニューを見ていると、どれも魚介、シーフードが頭についていて、少し色々考えてしまう。

水族館の魚たち大丈夫かなって。

 

店員さんに注文を頼み、待つだけとなった。

 

「なぁ、駆。なんで水族館にしたんや?」

 

洋榎が今日の行き先について尋ねてくる。

僕もなんでここを選んだのかと言えば、特に理由もなく。

動物園を思い浮かべたら、水族館も一緒に浮かんだ。

必死に考え、出した結論。

 

「特に理由はない」

 

うん、ないんだ。仕方がない。

 

「ちなみに他の候補先はどこやったん?」

 

今度は恭子が聞いてくる。

これもない。

いや、動物園があるか。

 

「動物園」

 

「あ、いいですね」

 

上重さんが呟く。

それにみんなが反応し、上重さんの方を見る。

見られた上重さんは縮こまる。

ごめん。

 

上重さんを助けるためか、同学年の絹恵ちゃんが話す。

 

「動物園にしなかった理由はなんですか?」

 

「そうやな、なんでや?そこに水族館を選んだ真意が隠されるんやないか?」

 

動物園にしなかった理由。

日々夏に向けて、暑くなってくる。

だから、先取りして涼しいところに行きたかった。

あ、たしかに洋榎の言う通り、これが僕が水族館を選んだ理由か。

 

「涼しいところに行きたかった」

 

悲しいかな。僕の口下手では、この気持を短い言葉に収められなかった。

でも、言いたいことは伝わっているだろう。

 

みんなの表所が「そんな理由~?」という表情をしている。

そもそもデート経験がない僕に何を期待していたんだ。

声を大にして言いたい。でも、これを言ったら恥ずかしいのは僕の方で。

それから僕は黙って食事を口にするだけだった。

 

◆

 

くつろぎ過ぎたのか、もう一時を回っている。

まぁ、僕がくつろいでいたわけではなく、彼女たちがゆっくりしてただけだ。

僕はじっとジュースを飲みながら、一人静かにしていた。

 

午後一番でやる、イルカショーを見に行く。

もう座る席はなく。立っている人たちが見受けられる。

僕たちは階段を登り、一番上で鑑賞することにする。

 

様々な芸をしてくれるイルカに、みんなは大いに盛り上がる。

洋榎の「そこや!」「やっちまえ!」など意味の分からない応援もあったが無事終わった。

 

再び内部に入る。

最後の大目玉、螺旋階段。

円柱の水槽に螺旋上の少し下った坂をひたすら下っていく。

 

僕たちはゆっくり下っていく。

 

みんなが先行するなか洋榎が僕の隣に来る。

 

「ありがとうな」

 

「え?」

 

「こんな素敵な場所に連れてきてくれて、ありがとう」

 

最初は丸投げされて、多少はむっとしたが、彼女がこんな素直に感謝を述べる。

そして、洋榎に「ありがとう」を言われると、なんだか、よくやった僕、なんて思ってしまう甘々な自分がいる。

つまるところ。

 

「どういたしまして」

 

嬉しいということだ。

 

◆

 

帰り道。

先に降りた恭子と真瀬さんを除いた僕たちは帰路に着く。

僕たちとは向きが違う上重さんと別れる。

 

残ったのは僕と、洋榎と絹恵ちゃん。

いつかの帰りもこの三人だったな。

 

自転車を押しながら、夕日を背に歩く。

そして、別れる。

 

と後ろから走ってくる音が聞こえる。

振り向くと洋榎だった。

 

「どうした?」

 

「なぁ」

 

「なんだ?」

 

「こんど、動物園にも行こな!!それだけ!!じゃあ!!」

 

本当にそれだけ言うと、待っている絹恵ちゃんの元へと走って行く。

自然と顔がにやけるのがわかる。

向こうにいる彼女に向けて、でも聞こえない声で。

 

「必ず」

 

一人約束をするのだ。

 

 





林間学校は諸事情により飛ばします。すみません。
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