恋より   作:わか

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4話

僕が教室に入るとすでに洋榎は席についていた。

まだ始まって数日だが、彼女が僕より先に席についていたのは初めてだ。

 

「おはよう」

 

「おはよう、恭子……さん」

 

「下の名前呼べるようになっただけで進歩やね」

 

「そうですね」

 

「お二人さん、仲良さそうやな」

 

洋榎が席に着いたまま、体を後向きにし声をかけてくる。

 

「普通よ、普通」

 

恭子さんがすぐさま否定する。が昨日のこともあってか、若干対応が冷たい。

 

「愛宕さん──」

 

「それ!!」

 

「へ?」

 

それとは?僕は彼女の癇に障る事を言っただろうか?

 

「その……な。たしかにうちもちょっと連れない態度をしたなぁ…。って思う。だから、今日から仕切り直しにしてくれやん?」

 

恭子さんを見ると、恭子さんも突然の事に困惑している。

アイコンタクトで自分も何がなんだかわからないと言ってるような気がする。

 

「仕切り直しって言うと?」

 

僕の問に、視線を逸らしながら、小声で呟く。

 

「えーとな、昔のように下の名前で呼び合おう、そうしよう」

 

「うん、いいけど」

 

「ほんまか!?うち、許してくれるか?」

 

何をそんなに驚いているかわからないが、僕にとってはむしろ嬉しい事だ。

洋榎とはもっと仲良くしたい。

 

「許すも何も、怒ってないけど?そりゃあ、なんか怒らせたかな?って気にはしてたけど」

 

洋榎は一度深呼吸をする。

 

「よっしゃ、じゃあ、今日から仲良くやろな。じゃあ、おやすみ!!」

 

すっきりした表情を見せた洋榎は、そのまま机に顔を埋め、寝る。

嵐のような激しさで通り過ぎていった洋榎に、僕と恭子さんは、ただただ、洋榎の満足そうな後ろ姿を見つめるだけだった。

 

恭子さんがポツリと呟く。

 

「洋榎?今から一年生の復習のテストやで?」

 

ガバっと聞こえてきそうな速度で顔を上げ、教科書を読み始める。

洋榎……。

今からじゃ間に合わないぞ。

 

 

お昼休みになった。

今日から午後の授業もあるため、お昼ごはんを食べなくてはいけない。

友達のいない僕は、一人ばあちゃんが作った弁当を机に広げる。

 

「一人は寂しいやろ?一緒に食べる?」

 

恭子さんが、そう言ってくれる。

 

「あーありがとう。でも……」

 

恭子さんの後方を見ると、真瀬さんが笑顔でこちらを見ている。

あれは、来てもいいっていうことか?

 

とそこに洋榎がやってくる。

 

「なにやっとんの?」

 

「一場くんをお昼ごはんに誘おうと思って」

 

「なんや、そんなことか。さぁ、来い!!カムヒア!!」

 

洋榎が訳の分からない事を言いながら、手招きをする。

今までの洋榎なら絶対拒否をしていた。

本当に昔みたいに仲良くできるのだろうか?

僕は半信半疑だけど、この誘いを断る理由もなく。

 

「じゃあ、お言葉に甘えて……」

 

 

僕は彼女たちに連れられて、中庭の日陰になっているところへやってきた。

 

「新年度一発目の中身はなんやろうな」

 

洋榎の顔はワクワクといった感じに、弁当を開ける。

 

「お?」

 

「どうしたの?」

 

恭子さんが尋ねる。

しかし、洋榎には聞こえていないみたいだ。

 

「お、おおおおおおお!!!やった!!唐揚げや!!」

 

万歳三唱をしている尻目に、僕は真瀬さんに話しかけてみる。

彼女とは度々一緒になるがあまり知らない。

だから、この際だ。少し質問をしてみよう。

 

「ねぇ、真瀬さんも麻雀部なんだよね?」

 

「そうだよー」

 

「真瀬さんたちって強いの?」

 

「んー」

 

「うちは強いで!!まぁ、天才やからな!!」

 

聞いてもないのに、洋榎が横から話しだした。

この話題はダメだ。

 

「真瀬さんは恭子さん達とは長い付き合い?」

 

「秘密だよー」

 

何か噛み合ってるようで噛み合っていない会話に、次の一手が思い浮かばない。

 

「由子はのんびりやさんだからね」

 

そうフォローする恭子さんに、僕はなんて言い返せばいいかわからなかった。

 

そして、午後のテストも終わった

明日から土日の休日だ。

開放感が凄まじい。

僕は鞄に筆箱を入れ、席を立つ。

 

「じゃあ、恭子さん」

 

「なぁ、そろそろ恭子って呼んで欲しい。なんか、やっぱりさん付けは恥ずかしいというか……。ほら!洋榎の事も呼び捨てやし」

 

その提案に僕は少し悩んでしまう。

洋榎に関しては昔からの知り合いだから、という理由で通るが、恭子さんとは知り合ったばっかりだ。

そんな同学年の女の子に、馴れ馴れしく呼んでいいのか?

 

「なんか色々考えてるけど、全然呼び捨てで構わないよ?」

 

その一言に、もやもやが晴れる。

仲良くなるには、まず一歩から。

 

「うん、じゃあ、また来週。恭子」

 

「うん、じゃあ、またね」

 

僕は恭子に別れを告げると洋榎の席に行く。

 

「洋榎」

 

「んー」

 

「その……。また来週」

 

「…………」

 

洋榎は黙ったまま、動かない。

 

「えーと」

 

「ってそれだけかい!!なんや、もとこうあるやろ!!」

 

「ないよ、なにも」

 

「はぁ……。がっかりやわ。君にはがっかりした」

 

洋榎は心底がっかりしたと何度も呟き。大きくため息をつく。

彼女の求めている事がわからない。

僕は何をすればいいのか。

 

「えーと、部活ガンバって」

 

「うーん」

 

なんだか難しそうな顔をする。

再会してからというもの、洋榎の行動に悩まされる。

 

「じゃあ、今度こそ帰るからな」

 

「まぁ、待てい」

 

洋榎に後ろから肩を掴まれる。

 

「なんだ?僕はもう帰りたいんだが」

 

「こう、なんかないか?盛り上がるような、こうファイヤーな感じ」

 

「何言ってるの洋榎。帰らせてあげなよ」

 

「部活前にテンションあげたいやんか。だから、駆に熱い言葉をいただこうかと思う」

 

「じゃあ、頑張れ洋榎」

 

「カァー、全然気持ちが入ってヘン!!」

 

どうしろというのだ洋榎。

この会話の着地点を教えてくれ。

 

「部室いこー」

 

「おう、行こう!」

 

「え?」

 

洋榎はさっきまでの流れを一切無視して、真瀬さんの後をついていく。

それを呆然と見つめる、僕と恭子。

 

「恭子、さっきのは何だったんだろうな」

 

「知らない」

 

 

──洋榎side

 

「長く話せてよかったねー」

 

由子が横からそんなことを言ってくる。

 

「ちゃうちゃう、うちはそんな事……」

 

「ふふっ」

 

「なんや!!ちゃうゆうとるやろ!!」

 

うちは誤魔化すように由子の頭をかき乱す。

でも、自然と顔の筋肉が緩むのがわかる。

 

長く話せた。

今日一ちゃうか?

 

そんな思いが溢れ出る。

 

変な子とかうざいとか思われてへんやろうか?

 

でも、あいつと長く話すにはどうすればいいかわからへんかった。

 

だから……。

 

もうすぐ、部活も忙しくなる。

 

駆と長く話せる機会なんて、林間学校くらいやろう。

いや、明日誘ってみるか?

 

よし、気合入れていくで!!

 

「頑張って、洋榎ちゃん」

 

「由子に心読まれた!?」

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