誠にすいません。
「学園都市」東京都の西側をまるごと塗り潰して作られた、総人口230万人、その八割を学生が占める科学の最先端都市。ここでは世界より二、三十年進んでいるとされる超ハイテク技術によって、この都市には常人を超えた力「超能力」を扱う者たちがいて超能力やその関連のカリキュラムが日常的に組まれている。
「能力」にもレベルありレベルの数字が上がるほど強力になっていき学園都市に七人しかいないレベル5になるとたった一人で一個師団(約数万人)の近代軍隊を相手にできるほどの強さになるらしい。
そんな学園都市にあるとあるハンバーガショップ。今は放課後で学生客で人がいっぱいで店内は騒がしい。そんな普通のハンバーガーショップの窓際の席に、一人の端正な顔立ちの少年がいた。
彼の名は、鳴海 周期《なるみ しゅうき》。某高校の1年7組に籍を置く学生である。黙って本でも読んでいれば女生徒が思わず振り返る位のイケメンであり通っている高校では成績(体育以外)は1番という天は二物を与えずの反対のような男である。そんな人が欲しがるものを持て生まれたそんな彼だが今は険しい顔をしている。
「うーん。やっぱり伸びてない」
周期は、手元のスマートフォンに表示された『システムスキャン 結果通知』の画面を見つめ、深いため息をついた。画面に並ぶのは、文字道り完璧な数字の羅列だ。総合学科成などの自身の成績は非の打ちどころのない最高評価。しかし、その画面の最下部、最も重要な項目だけは、彼の成績を嘲笑うような残酷な現実が刻まれていた。
『鳴海 周期 能力名: 消音能力《サウンドレス》レベル1(低能力者)』
「......はぁ。やっぱり、俺の今までの人生で約に立っていたこの頭脳もこの都市では異能を扱うことに関しては約に立たないのか」
学園都市の外の常識に脳が囚われているがゆえの、必然の結果であった。どれだけ学校のテストで満点を取れようが、この都市における「価値」の指標である超能力の項目において、彼は価値がほとんどないものといっても過言ではない存在だった。この事実は今までの彼の人生で初じめての挫折だった。
「......なーんてな。落ち込むのはコンマ1秒で十分だわ。」
周期はスマートフォンの画面を指先で弾き、まとわりつく憂鬱を露散させるように、不適でタチの悪い笑みを浮かべた。
「この能力はこの能力でいろんなことに使えるからいんだけどね。前のいたずらは最高によかったな。上条が休み時間で眠った時あいつだけチャイムの音が聞こえないようにして授業がいつのまにか始まっていることに気づかず小萌せんせーに説教を受けた時の顔は。( ´∀` )」
そんな一人思い出に耽って笑っているとこちらの席に近づく人物が現れる。
「ちょっと鳴海くん。スマホを睨みながら世界を滅ぼしそうな悪い顔してニヤついてるの、やめてもらっていい?」
トレイに乗せたハンバーガーとポテトを、周期の対面の席へ乱暴に置く人物がいた。
セーラー服を着て頭に五弁の白梅の髪飾りを付けた少女――佐天涙子である。
「おっと、佐天さんじゃないか。待ってたよ。いや何、クラスの『ダチ』に仕掛けた音響的ハッキングの成果を脳内で再演算していただけさ。あれは我が人生の計算式の中でも会心のボケだった」
「本当に顔と頭が良いのに性格があれだよね、あんたは……。その天才的な頭脳、もっと別のことに使えないわけ?」
佐天が深くため息をつきながら、虚無の目でポテトをつまんで口に運ぶ。二人は能力が上がらない「低能力《レベル1》・無能力《レベル0》コンビ」として、この騒がしい店内で放課後の時間を共有する、気心の知れた最高のサボり仲間だった。
「何を言うんだ佐天さん。俺はこの能力をさらに有意義に使うための、最新の『音消しブレンド理論』を今まさに完成させたところなんだぞ」
「……何それ。怪しい都市伝説の解析じゃなさそうだけど」
「よくぞ聞いてくれた! これは、この後のドリンクバーにおける『ジュースがグラスに落ちる瞬間のシュワシュワという音響ノイズを、俺の消音能力で100%カットし、耳に優しい完璧な静寂の中で炭酸の喉越しを楽しむための注ぎ方』を計算したデータだ。見てみろよこの完璧な遮音グラフ!」
周期が自信満々にスマホの画面を突き出す。並んでいるのは、ただドリンクバーを静かに飲むためだけに費やされた、流体力学とデシベル相殺理論のガチすぎる数式の羅列だ。
「……うん、ポテト投げていい? あと、あんたと食べてると、音が消えるせいでポテトが全然美味しそうに見えないからそれもやめて」
「おっと、音声の引き算によるコントラストの強調が、まさか食欲の減退を招くとは……。これは計算外のバグだな。ノートにメモしておこう」
ゲラゲラと笑う周期。佐天も呆れ果てつつも、彼のこの突き抜けた明るさに、どこか救われている部分があった。「ていうかさ、この音消しブレンド理論をクラスの上条と青髪に見せたら『お前天才(本物のバカ)かよォ!』って大絶賛されてさ。今度みんなでドリンクバーをハッキング(※ブレンド)しに行く予定なんだ」
「やめなよ、店員さんに怒られるから!」
佐天が呆れ顔でポテトを口に放り込んだ、その瞬間だった。
――ガシャァァァン!!! 周囲の学生たちのガヤガヤとした騒がしさを押し潰すように、凄まじいガラスの破砕音が店内に響き渡った。
「ひっ……!?」「な、何!?」
悲鳴が一斉に湧き上がる。 ハンバーガーショップの入り口のガラス扉が乱暴に叩き割られ、鉄パイプや金属バットを手にした数人の男たちが土足で踏み込んできていた。 濁った目、だらしなく着崩した服。学園都市の治安の裏側に巣食う、無能力者の不良グループ――『スキルアウト』だった。
「おいおい大人しくしろよ学生ども! 臨時の集金だ、財布とスマホをトレイに出しな!」
鉄パイプをテーブルに叩きつけ、怒鳴り散らす不良たち。店内の学生客たちがパニックに陥る中、周期の隣の席にいた佐天が、恐怖に肩をガタガタと震わせながら周期の袖を掴んだ。
「な、鳴海くん……これ、どうしよう……」
「……うーん。計算外だな。これで新作バーガーのポテトセットが冷める確率が100%に固定された。実に不愉快だわ」
周期の瞳から、さっきまでのクソボケな緩さが綺麗に消え去る。テストで学年トップを維持し続ける天才の頭脳が、冷徹な『戦闘モード』へとシフトし、コンマ数秒で店内の状況、敵の配置、そして勝率の計算式を組み立てていく。
「おい、そこ。何ブツブツ言ってんだよイケメン兄ちゃん!」
周期の態度が気に入らなかったのか、一人の大柄な不良が、鉄パイプを肩に担ぎながら周期の席へと足早に近づいてきた。
「鳴海くん……!」「大丈夫。佐天さんはそこでポテトでも食べてて。……おい、そこの算数もできなさそうな頭の悪そうな君」
周期は細身の身体のまま、スッと椅子から立ち上がり、不良の目を真っ向から見据えて不敵に笑った。
「あァ!? 誰が算数できねえって――」
「君だよ。その鉄パイプの振り方、重心のブレが酷すぎて物理の計算がなってない。そんな不格好な攻撃、俺のスタミナ(万年赤点)でもコンマ1秒で軌道が読めるわ。……ほら、振ってくるなら右斜め45度だろ?」
「このガキがァァァ!!」 挑発に激昂した不良が、言葉通りに鉄パイプを右斜めから全力で振り下ろす。
周期は頭脳で導き出した「物理演算」の通り、最小限の動きでわずか数センチだけ首を傾げ、鉄パイプの軌道を完全に避けた。空振りの勢いで、不良の体勢が大きく前に崩れる。
「隙だらけだ」周期はその一瞬を逃さず、不良の耳元へスッと右手をかざした。
発動するのは、彼の持っている唯一の『武器』。「『消音能力《サウンドレス》』――出力最大(半径50センチ)」
――ツン、と大気が奇妙に歪む感覚。不良の耳の周囲だけが、真空に叩き落とされたかのような『完全な無音』に包まれた。
「……ッ!?!?!?」不良の目が恐怖に丸くなる。周囲の悲鳴も、自分の怒号も、自分が踏み込んだ足音すらも、すべての音が「世界から消えた」。
人間は、耳の奥の三半規管で周囲の音の反響を感じ取り、無意識に身体の平衡感覚を保っている。それが一瞬でゼロにされた脳は、強烈なエラー(バグ)を起こす。
「おっと、音声の引き算による、三半規管の強制シャットダウンだ。……じゃあな、おやすみ」
激しい目眩に襲われ、まともに立っていられなくなった不良の顎に向けて、周期は格闘センスだけで導き出した軽い掌打をパチンと流し込んだ。 ドサリ、と大柄な不良の身体が、白目を剥いて床に崩れ落ちる。「え……?」 鉄パイプを持ったまま一歩も動けずに倒れた仲間を見て、残りのスキルアウトたちが一瞬で静まり返る。そして、周期の背後でそれを見ていた佐天涙子もまた、息を呑んで目を見開いていた。能力は、ただのレベル1。戦うための力なんて、本来は持っていないはずの地味な「消音能力」。なのに、目の前の少年は、その無力なはずの力を「圧倒的な頭脳」と組み合わせて、まるで魔法のようにスマートに敵をハメ殺してみせたのだ。
(……な、何、今の……。鳴海くん、ちょっと、格好良すぎ、ない……?)
「よし、残りはあと3人か。ポテトが完全に冷めきる前に、コンマ数秒で片付けようぜ」
右手の指をパチンと鳴らし、いつものタチの悪いクソボケな笑みを浮かべる周期。 こうして、学園都市の日常の裏側で、彼の物語が静かに幕を開けるのだった。