タイトルはアニポケ主題歌のひとつより。
ぼく、元気!(視点が宇宙サイドから変わっています)
お日様が顔を見せたら、一日のはじまり。今日もみんなに『おはよう』って言いに行かなくちゃ!
はっぱの家を出てすぐ、広々としたはらっぱに出る。元からすみかだったような、そうじゃなかったような……ちょっとフシギな場所だった。
ぼくはずっと長い夢をみていて……目が覚めたとき、あちこちがパサパサに乾いていたからうんと驚いたのを覚えている。
一番最初に出会ったモジャンボはかせについて歩いて、世界から人間がいなくなってることを知った。
このときから、ぼくのまっさらなはじまりは始まった。
初めて会う子、知ってる子。荒れ果てた街をちょっとずつ直していくうち、いろんな友達に出会った。モジャンボはかせは『過ごしやすい環境を作れば、すみかを探しているポケモンたちが帰ってくる。そのうち人間も帰ってくるはずじゃ!』って言っていた。
友達とお話しするのは、とっても楽しい。昔誰かに、「挨拶は大事よ、ムラサキちゃん」って言われた気がする。
挨拶するのだって楽しい。みんなが元気にしているかすぐに分かるし、ご用事がある子とならそのままごソウダンにも持っていける。
ごソウダンは、とっても大事だ。街を直していくのに、ぼくひとりじゃうまくいかないときもある。そういうときは、ぼくじゃない誰かにごソウダンしてモノゴトを進めるといいんだって。うまくごソウダンできれば、おシゴトもスムーズに進んじゃうって。
昔誰かに、「誰かに頼るのは間違いじゃないさ。あの子だけじゃなく、困ったことがあればパパやママにも相談してほしいな」って言われた気がする。
だから、挨拶とごソウダンはとっても大事だ。
『よお、ムラサキ! 朝から精が出るなあ!』
ぱっと視界が暗くなって、ぼくは上を見た。バッサバッサと力強い羽ばたきの音がして、目の前に夕焼け色のポケモンが降りてくる。
『リザードン、おはようー! ぼく、元気!』
『おう、元気だな! よしよし、ほら、おまえいつも頑張ってるから、コレやるよ!』
『「うつくしい花のタネ」だ、ありがとう!』
このあたりで出会った友達のひとり、リザードンだ。ほのおの力を貸してくれて、おっきな体をしていて、見るからにとっても強そう。
(でもぼくがゼニガメに教えてもらった『みずでっぽう』を使えば、きっとゴカクの勝負ができると思う!)
リザードンにはいつの日か、『おっきな翼で空を飛んで、あたりに「だれも」いないか巡回してるんだよ』って教えてもらった。どうしてかは分からないけど、そうしてなきゃいけない気がするんだって。「だれも」ってなんだろうね、ってぼくたちは首を傾げてばかりだった。
ぼくはリザードンと別れて、ポケモンセンターがある北に向かった。途中、リザードン以外のたくさんの友達とすれ違う。
みんな、最初はこの街にはいなかったり、迷子になっていた子ばっかりだ。モジャンボはかせが言ってたとおり、すみかがなくなって困っていたから、ぼくがあれこれ好き勝手しているのにはとっても助けられたんだって。
ぼくは、こう見えて材料とレシピさえあればなんだってモノヅクリできる自信がある。そういうのをたくさんいっぱい目にしてきたからだ。ぼくみたいなやつのことを、きっと「すぐれたとれーなー」っていうんだろうね。
――えっへん!
『あらー、ムラサキちゃん! これからお出かけかしら?』
崖の上に住んでる友達に挨拶しに行って、巡回し終わったかなってタイミングで花畑でくつろいでいたポケモンが話しかけてきた。
背中におっきい花を背負ったはっぱ色の友達、フシギバナだ。いつも甘くていいにおいがするんだけど、本人はすっぱいものが好きだって話してたから、ぼくはたまにカテイサイエンのトマトを差し入れしたりしている。
『フシギバナ、おはようー! うん、これから「まっさらな街」に行ってくるんだ!』
『そう! 今日も忙しいのねえ。たまにはゆっくり休んでちょうだいね。さあさ、今日の採れたてはっぱをあげちゃうわ、栄養つけて頑張ってね』
『うん、ありがとうー! またトマトハンバーグ、持ってくるね!』
『ブフォ、嬉しいわあ。アタシあれ大好きなのよ! 昔、誰かと一緒に食べた気もするんだけど……もちろん、ムラサキちゃんのハンバーグも美味しいわよ』
ぼくは両手を、フシギバナは首を何度も振って朝の挨拶を済ませた。
今日もやりたいことはたくさんある。友達のなかには、ぼくが出来ないこと、やれないことを手伝ってくれる子もたくさんいるんだ。みんな加工し終わった材料を抱えたまま、ぼくが挨拶しに来るのを待ってるかもしれない。
急がなきゃ、って移動にだって使える便利な道具、「だいじなもの」を開いたとき、また頭の上が暗くなった。
『これ、ムラサキ! 今日もお出かけかのう!?』
リザードンとは別のポケモンが空を飛んでいた。どんより空にぼくのはだいろをちょった足した感じの色のかせきポケモン、プテラだ。もちろん彼だってぼくの大事な友達だけど、こうやってあちこちを飛んでは、巡回している姿をよく見かける。
『おはようー、プテラ! 今日の空は、どんな模様ー?』
『うむ、問題なかったぞ! そうじゃ! イワークがの、「またイシツブテと木の実のすり潰し対決がしたい」と言うとったわ。伝言を頼まれてくれるかの』
『わかった、伝えておくね! あのふたり仲いいねー!』
『うむうむ、気持ちは分かるがの! ワケは知らんが、ワシもピジョットとは気が合うんじゃよ。ではな、ムラサキ!』
『うん、またねー!』
ピジョットは、茶色いおっきな翼に、頭のてっぺんに赤い花みたいなキレイな羽根を飾っているポケモンだ。彼女もぼくの友達だけど、言われてみればよくプテラとお話しているかもしれない。
プテラと別れて、今度こそぼくは「だいじなもの」を開き直した。直している最中の街、「まっさらな街」のマップを開こうとして手を止める。
『そういえば、今日の「とりひき」はまだしてない……』
『……おっ、ムラサキではないか。どうだ、ワシと「とりひき」してみんか?』
ぼくが立っているのは、モジャンボはかせとみんながいつもお話している街の中心、ポケモンセンター前なんだけど。ここはみんなの憩いの場なんだって。前に、……そう教えてもらった。
たとえばだけど、室内にはぐっすり眠れるフシギなテーブルとか(なんでか六個分の穴が開いている)、物々交換が出来るカウンターがあったりする。
ぼくは、背後に立ったおっきな影に振り向いた。厳つい顔の上に、ニッコリした笑みが浮かんでいる。
『カメックス! おはようー! ぼく、元気!!』
『そうかそうか、それは良かったのう! それでムラサキよ、今日はワシと「とりひき」して行くか? 急いどるなら、とめないが』
青色のおっきな水のポケモン、カメックスだ。背中のポンプがキラキラしていてカッコイイ。
よくフシギバナやリザードンとお話ししているのを見かけるけど、なんでか気が合うんだ、ってプテラと同じことを言ってた気がする。
『うーん、ごめんね。イシツブテに伝言しに行かなくちゃいけないんだ』
『おお、そうか! 時間があるときで良いからの、気にせんでくれ。……しかし、なにか感じんか。ムラサキよ』
『……? なにかって、なに? 前に言ってたソワソワのムズムズ?』
『うむ、それだ。ムラサキは感じないか……ワシは、今日もソワソワしよるのう』
カメックスは落ち着かない様子でパサパサ荒野の街を見渡した。最近、ぼくにはちょっと分からない感覚がしているらしい。うまく説明できないそうなんだけど、背中のポンプがザワザワするんだって。
リザードンは、『歴戦のカンってやつかもな!』って言ってた気がする。
『それ、キラキラ浮島のサーナイトやフーディンたちも言ってたかも。またフシギな羽根を落とすポケモンかな?』
『ホウオウとルギアか。うーむ、それとはまた違った感じなんじゃが……まあ、気にしすぎじゃろう。ムラサキよ、出かけるなら気をつけて行くのだぞ』
『うん、ありがとうー! またあとでね!』
カメックスはそう言うと、北東の街路に見回りに向かっていった。のしのしと歩く力強い背中を見て、ぼくもがんばろ! なんて思う。
ぼくは、今度こそ改めて「だいじなもの」を開き直した。真っ赤な色に、ピカピカ光る……モジャンボはかせ曰く、エキショウを備えた「ポケモン図鑑」だ。
これはぼくにとって本当に大切なもので……画面にマップが表示されたのを確認して、ぼくは「まっさらな街」のアイコンをポチッとする。一番おっきなガラス玉がピカピカ光って、ぼくはそれに誘導されるまま足を滑らせた。
これは『道なき道を行く』機能だから、ぼくにしか使えないんだって。だからこの図鑑を最初に使っていた……ぼくのだいじなもの、つまりだいじな人間は、当然この機能は使えない。
あの人は二本の足やくるくる回るタイヤつきのカッコイイ乗り物をいつも持ち歩いてたから、図鑑の案内機能を使わなくっても平気なのかも。
『すごいなー。でも、ぼくだって生やそうと思えば!』
まっさらな街に着くなり、ぼくはいつもの姿に「へんしん」した。
赤色帽子に黒い髪、真っ赤な上着と紫のクツ! 背中には、ときどき蓋が開いてて中身が落っこちちゃう青空リュックもくっつけて……。
……出来上がり! これがぼくのだいじなもの、『トレーナーさん』!
この姿だと二本分の足もそろっているから、見た目はあの人ソックリそのまま。なんでも出来ちゃうし、どこにだって行けちゃう。ぼくの自慢のへんしんだ!
『うん、よーし。がんばろ!』
この姿はぼくにとって「だいじなもの」そのもの! 気分がよくなったぼくは、テンションに任せて『やったー!』ってくるんと回って腕を振り上げた。
まっさらな街はすぐそこだ。街の入り口近くに設置した仮住まいに潜り込んで、ぼくは改めて扉を押し開けた。
『あっ、ムラサキ! おはよう、今日はなにして遊ぶ?』
外に出た途端、わあっとみんなに囲まれる。
茶色い毛並みのイーブイに、赤色あつあつ肌のブビィ、青い羽根がキレイなウッウ。おっきな体が自慢のカビゴンに、その友達ゴンベ。森のにおいがするモクローにもじゃもじゃはっぱのモンジャラ。けんちくが得意なワンリキーにカヌチャン。みんなとはここで出会ったけど、いつも元気だ。
にぎやかでとっても楽しいなー! って、ぼくはここに来るたび思ってる。みんなと挨拶をして、ぼくははらっぱをずんずん進んだ。
『イシツブテー! いるー?』
『あっ、ムラサキ! どうしたの、何か用事?』
今日の用事のお相手は、ちょっと奥まったところにすみかを移した友達のイシツブテだ。石ころみたいな姿をしていて可愛らしい。最初ぼくは彼がいることに気がつかなくて、草むらのなかで休んでたところを蹴っちゃったりした(いつでも二本足が生えてるのも考えものだ!)。
ときどき木の実をすり潰して絵の具にしたり、食べやすくドロドロにしたりするのを手伝ってくれている。
『えっとね、プテラから伝言だよ。「イワークがまた木の実すり潰しで対決しよう」って言ってたって!』
『ええ、また? えへへ、相変わらずだなあ。この間イワークが圧勝してたのに!』
イワークは、パサパサ荒野の隅で暮らしているおっきくてながい岩へびポケモンだ。ぼくはたまに、背中に乗って遊んでもらったりしている。どっちも石と岩でできてるから気が合うのかもしれない。いつか一緒に暮らせるようにしてあげよう、なんてぼくはちょっと思った。
イシツブテと別れて、ぼくはまっさらな街の丘に向かった。ちょっと小高く地面を積んだ、てんねんのちっちゃな山だ。
『ピカチュウー! いるー?』
丘の上に建てた風車の下に、くるくる回る羽根をぼんやりと見上げるちいさな黄色毛並みのポケモンが立っている。ぱっと振り向いたその子は、赤色の頬袋からパチッとでんきを弾けさせて晴れ晴れと笑った。
『いるよー、ムラサキ! 今日はねー……なんだか、いい予感がしてるんだ!』
ピカチュウは気がついたらここにいたポケモンだ。みんなのために用意した食事場が、なんだか彼には合ってたみたい。
ぼくはこうして、たまにここで彼と長話をする。どうしてか彼とはお喋りしやすいし、なにより……なんだか、初めて会った気がしないから。
そういえばピカチュウもよくカメックスやフシギな力をもってる子たちとおんなじことを言ってるなあ。「予感」に「勘」。ぼくには馴染みのないものだから、そういうことを話している子たちは、ぼくにはとってもキラキラして見えちゃうな。
『予感? どんな予感がするの?』
『うーん……うまく言えないけど。なんだろーね、毛がパチパチしてるんだ。体がムズムズしちゃってる!』
ピカチュウはニコニコと笑った。
彼の笑顔を見ていると、なんだかすごく元気がもらえちゃうんだ。ぼくは、『やっぱり今日はもっとがんばろ!』と思って、急いで彼と別れた。
『いい予感かー。なんだろうなー、いいことあるといいなあ』
ぼくはリュックに詰め込んだ小物を両手いっぱいに抱えて、まっさらな街のポケモンセンターに向かった。これはここ最近ポケモンセンターにやってきた、新しい友達から依頼されて預かった彼にとっての「だいじなもの」。
扉を潜ると、相手の子がちっちゃな手を一生懸命振ってくれる。ぼくは集めに集めた預かり物を、一枚一枚丁寧に数えながら手渡した。
『ジラーチ。このたんざくって、どれくらいあったら足りるー?』
キラキラ光るキレイな「たんざく」。友達ジラーチいわく、このたんざくには願いを叶えるフシギな力が宿っているんだって。星みたいに全体が光ったとき、たんざくに託された願い事が叶えられた証になるんだって話だった。
『あっ、ムラサキ! あればあるだけ、かな……いつも手伝ってくれてありがとう。おかげで順調に短冊が集まってるよ』
『ううんー。ぼくも、みんなの頼まれごとをごソウダンするのは楽しいから。ねえジラーチ、そのたんざくって、ぼくも飾っちゃだめかなー?』
ジラーチは、ここからうんと遠いところからやってきたんだって。ぼくは彼が抱えるたんざくの束のキラキラを、羨ましい気持ちになって見ちゃってた。
『ムラサキもやってみたいの? いいよー! じゃあ、あまってる一枚があるからコレをあげるよ。おうちに飾ってみたらいいと思う!』
『いいのー? ありがとう! 大事にするね!』
『たくさん短冊作りを手伝ってもらったから、これくらい大丈夫だよ。またおいでね!』
ジラーチはお星さまみたいにキラキラしてるポケモンだ。ちょっとフシギな感じがする子だと思う。そんな彼から預かったたんざくは、ぼくがお手伝いで作ったものよりもっとキラキラしているように見えた。
ぼくはすんなり分けてもらえたのが嬉しくなって、小走りで仮住まいに戻って大急ぎで飾りつけた。おうちのなかが、なんだか前より明るくなった気がした。
『お願い事かー。何にしようかな……』
よく分からないけど、みんなとそういう話をしていたからか今日はぼくも妙にウキウキしていた。
きゅっと五本指をあわせて目を閉じる。もし願うなら、叶うなら……星に気持ちをあずけることが出来るなら。ぼくにとっては、これしかない。
『……また、トレーナーさんに会えますように』
ぼくは元気だ。とっても元気。友達もたくさんいるし、みんなにお手伝いだってしてもらえてる。食べ物にも困ってない。
でもあの人はそうじゃないかもしれない。元気にしてるか、美味しくご飯を食べてるか、危ない目に遭ってないか。そんなの、今のぼくには分からないから。
『お星さま、どーか、おねがいします』
ぼくは、もう一度ぎゅっと指をあわせた。できるなら叶ってほしいなあ、なんてたんざくにお任せする。
その日は、西の空に一段と強く光るフシギな星が浮かんだフシギな日だった。夕焼けの赤色に、ぼくはあの人の背中を思い出しながら街路を進む。
今日の終わりにも、みんなに挨拶をしに行かなくちゃ! ぼくはすっかり慣れた手つきで、ポケモン図鑑のページを開いた。
サイト掲載:2026/08/02