紫、ときどき赤、緑   作:77493

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13話:『おかえり』

 

 

……しばらく会わないうちに、相棒のポケモンが泳ぎの達人化したうえに空を飛べるようになっていた件。あばばばば……!

 

「って、そんなこと言ってる場合じゃないよ! 僕だよムラサキ!! ムラサキーっ!!」

 

つい数分前。

ポケモンセンターのログ回収に自動化どうたらこうたらが適用されて(ユズがやったことだから僕は理屈が分かってない)、ようやく外に出たのが夕方近く。

岬に続く岸壁沿い、西の空が真っ赤に染まっているのを見て感動していたのも束の間。いつの間にか起きていたグリーンさんが開口一番に、

 

『――ん? おまえのメタモン? いや……さっきレッドが会ったらしいぜ』

 

なんて言うもんだから、僕はなりふり構わずここまで全力で走ってきたんだった。回想終了。終了、じゃないんだよなぁと頭を抱えたのは、ついさっき目にした衝撃的な光景のせいだ。僕は例のポケモンが滝登りしていった崖に目を向ける。

ラプラス……うん、ラプラスっぽい形をしたポケモンが、あの滝を一気に登っていったんだ。ラプラスにしてはずいぶん小柄で、かなり丸みを帯びてたけど。

口元がなんとなく笑ってて、目は黒丸二つ分だった。見えたのは一瞬だったけど、あれは間違いなくへんしんしたメタモン……ムラサキだと思う。

 

「……ッ、うー! はーっ!! ――行かなきゃ!!」

 

悩んでる場合じゃない。やっとここまで来れたんだ。ムラサキに会うために、僕はレッドさんたちを焚きつけたんじゃなかったか!

僕は気合いを入れ直して、もう一度全力で走り出した。と、思ったら、想定以上に力が入っていたらしくて、ちょっとした段差に引っかかってすっ転ぶ。

よく見れば、僕が転んだのは段差にかかった木製階段の手前だった。わざわざ段差になる通り道に前もって階段が設置してあるらしい。ご丁寧に、砂地にも滑り止めの木製タイルが点々と貼ってある。僕はたまたまタイルがない砂地に足を取られて、段差につまづいてしまったみたいだった。

 

「うぅ……なにも、こんなときに転ばなくたって」

 

気がつけば雨まで降り出している。泣きっ面にスピアーだ。口にもろに砂が入って、僕はぺっぺっと吐き出しながら起き上がった。

たぶん膝すりむいたな……そう思った瞬間、目の前になにか赤いのとピンク色の物体が佇んでいるのに気がついた。

 

「……ピチッ!」

「……」

 

僕は、その二つがあんまりにも堂々とのんびりしていたから、痛みも忘れてぽかーんとした。

どっちもポケモンだ。赤い方はやたらと活きのいいコイキング、ピンクのぬぼーっとした方はヤドンだった。どうしてか僕の前に立って……立って? いる。

 

「え、えっと……なに、どうしたの?」

 

僕は、言葉が通じるかも分からないのにそう声をかけていた。なんとなく、本当になんとなくなんだけど、この二匹は無碍にしちゃいけない気がしたんだ。

二匹は、片方がより高くピチッと跳ねて、もう片方は僕に背を向けて歩き出した。途中何度か振り返られて『ついてこい』と促されたことに気づく。慌ててあとを追ってみると――さっきまでヒトカゲたち三匹しかいなかった原っぱに、たくさんのポケモンたちがいるのが見えた。

 

「わっ、凄いな……ドッコラーにポッポ、ハネッコにストライク……あれはピジョンかな? ビークインに、ミツハニーもいる」

 

あちこちに生えた草むらや花畑は、彼らの格好の休息場みたいに見えた。このへんをすみかにしてるのかな、なんて僕は思わず顔をにやにやさせる。

……というか、ちょっと視線を遠くに向ければ、木製だったり石造りだったりする人間が住めそうな家屋も何軒か建っていたんだ。僕が宇宙へ移住する決意をした頃には、そういった一般的な家屋のほとんどが倒壊したって聞いてたけど。まさか、誰かが再建したってことなんだろうか?

 

「……ビイーッ!!」

「うわっ!? へっ、あ、あれ……?」

 

きょろきょろしていると、いきなり目の前に鳥ポケモンのピジョンが降りてくる。ホバリング精度はピジョット直前ということもあり、さすがの腕前だ。

ピジョンは、なぜか僕をじーっと凝視して、なにやらオレンジ色の物体を投げつけてきた。そのまま僕の返事も待たずに、どこかに飛び去っていってしまう。思わず受け取っちゃったけど、物は「たべごろニンジン」だった。ピリッとくる辛みが特徴の食材だけど、土もキレイに洗われている。

「なんでニンジン?」と思った瞬間、他のポケモンも集まってきた。ピジョンに倣うように色んな物を押しつけられる。中にはニオイを嗅いでくる子もいた。

なにかの糸くず、ツタ状のヒモ、丸めた紙くずに木の枝、エトセトラ。僕は両手に抱えきれなくなったそれらを見下ろして、でも、彼らに逐一お礼を言った。聞いたポケモンたちはどこか満足げに去っていく。まさかプレゼントなのかな……なんて思いながら、僕は待っているヤドンたちの元に急いだ。

 

「あっ、レッドさん、グリーンさんリーフさん!」

「って、俺は無視かよへたれレッド」

 

コイキングとヤドンは、器用に階段を上ってアーチタイルの上に居座った。リーフさんが早速「かわいいー!」って感動している。

僕は彼らの考えてることがサッパリ分からなくて、とりあえずレッドさんたちのところに戻った。いちいちイチャモンをつけてくるユズは無視する。

 

「よお、どうだった。いたのか、ムラサキのやつ」

「それが……どこに行っちゃったんだろう。もしかして、僕には会いたくなかったとか……」

「いやおまえ、それはないだろ! そうでもなけりゃ、……」

 

グリーンさんが息を呑む気配があった。つられて視線を上に向けた僕は、なんでか、空中にいきなり謎の「布地」が広がっていくのを見て硬直する。

真っ黄色の、ちょうどユズが着てる作業着みたいな色の布だった。一枚一枚は三角形に切り整えられていて、繋いでいくとちょっとした屋根代わりになる。まるで即席のテント小屋だ。はっとしてあたりを見渡すと、いつの間にか支柱代わりの木製の囲いも四辺に立てられていた。

 

「おい、あれ!」

「あれって! ……、……コイル……いや、コイル? えっとぉ!?」

 

幼馴染みが指差した先。雨空のなかに、水色の丸っこいポケモンが浮いていた。

そいつは、口(じしゃくポケモンの彼にそんなものあるんだっけか?)を大きく開けて、中からポコポコと件の布を出しては並べていく。向きか数かを間違えたときは両腕の磁石からなんらかの電撃を出して焼き切っていた。あくまで回収の一環らしくて、焼いた後はまた布を繋ぎ直していく。

そいつは、見た目だけはじしゃくポケモンのコイルだった。でも決定的に違う部分がひとつある。

 

「えっと……ねえ、ちょっと待って。きみって、実は『ムラサキ』だったりしない……?」

 

僕は、なんとなく、本当に深い理由はないんだけど、まるで「隠し事をしたつもりなのにバレバレだった」ときとおんなじ気分になって赤面した。

ツッコミを投げたとき、あとは天井を覆えば完成、というところまで作業を進めていたコイルらしきものも動きを止める。見下ろしてきたそいつの顔は、二つの黒丸と、間の抜けた口で表情が形成されていた。

ヘンな沈黙があって、隣でグリーンさんが噴き出した音が聞こえた。

 

「ちょっと、グリーン! 感動の再会なんだから……!」

「おっ、おまえだって笑ってるじゃねえか、リーフ! ひゃははっ、これで笑わないやつなんているのかよ?」

「……、……」

「レ、レッドは笑ってないみたい、だけど?」

「いや笑ってる。めっちゃ笑ってるぜこいつ。オレには分かる」

 

三人はなんとか必死に笑いを堪えている体を保ってくれていた。足元のコイキングたちや居合わせたリザードンたちもどこか嬉しそうにしている。

ポコンと音がして、僕はもう一度空を仰ぎ見た。どうやらムラサキと思わしきコイルにへんしんしたそいつは、まずは作業を続けることを優先したみたいだ。ちっちゃな体からデカ口が出現したり、U型磁石がぐるぐる回ったりする様子は可愛らしかった。

つられて噴き出しそうになった瞬間、

 

「――なんでコイルじゃねーんだよ!! クソッ!」

 

バシッと背中に衝撃が走った。振り向いた先で、ユズは拳を振り下ろした格好のまま顔を歪めている。

 

「あっ、ちょっと! 気持ちは分かるけど、レッドくんに八つ当たりすることないでしょー」

「でもリーフさん!! 俺はずっとコイルを探してて……こいつよりずっとポケモンと一緒にいたんすよ! それを……」

「……そういうとこだろ。ポケモンはトレーナーの考えてることなんざお見通しなんだぜ。見つけられないってことは、そういうことだろ」

「グリーンさんまで! なんでっ、なんでレッドのやつばっかり……!!」

 

なんか、急に空気が冷えてしまった。

僕はユズになんて声をかけたらいいか分からなくて、とりあえずさっきポケモンたちに分けてもらったものの中から、使えそうな布を出して渡そうとした。

……そのときだ。目の前に、なにか紫色の物体が降ってきた。

そいつはぱっと素早く二本足の子供の姿に「へんしん」すると、両拳を厳ついグローブに変化させて、いきなりユズに殴りかかった。あっという間の出来事で、誰もその暴挙を止められない。

一番早く我に返ったのはレッドさんが抱えていたピカチュウで、大きく鳴かれて僕ははっとする。

 

「ちょ、ちょっと! ――ムラサキ!! 僕は大丈夫だから、怪我してないから! 落ち着いて!!」

 

大慌てで羽交い締めしてみたら、ようやくそこで殴るのをやめてくれる。

岩でもあれば砕いてしまいそうな勢いだった。僕に捕まったその子供は、じたばたと両手両足をばたつかせて無理やり腕を振りほどいた。

 

「あっ、ムラサキ!?」

 

そのままぱーっと南の方に走り去っていく。僕はみんなの声を待たずに、急いでその子のあとを追った。

 

 

 

 

 

 

「……やっと追いついた。探したよ」

「……」

 

旧セキチクシティの南、海岸沿い。この街道は、僕とムラサキがよく夕焼けや天体観測をしに足を運んだ場所だった。

思い出深い岬の先端、形がすっかり変わってしまった桟橋のところにその子は座っていた。足をぶらつかせて、海をぼんやりと眺めている。

よくああやって並んで座ってたもんなぁ、なんて思いながら僕は彼の隣に腰を下ろした。……ら、少しだけ体を動かされて頭一つ分の距離が開けられる。なんで避けるの、そう言う代わりに僕は頭一つ分にじり寄った。もう一度、その子はじりっと距離を開ける……なんだこれ?

 

「あー、そう。そういうつもりなんだ?」

 

僕は大人げなくイラッとした。更にもう一回にじり寄って……相手がもう逃げ場がないことに気づいた瞬間、腕を回して引き寄せる。

 

「ほらっ、もう逃げられない! 覚悟しろー、ムラサキ!!」

「……! ……!!」

 

その子は、さっきと同じように全力で抵抗した。途端にぐにゃぐにゃとへんしんが解かれて、よく知られるメタモンの形に変化する。

そのままするんと器用に抜け出されて、僕はあっと悲鳴を上げた。また追いかけっこが始まった。

 

「ちょっと! ムラサキ! なんでっ……なんで逃げるの!?」

「……!!」

 

海岸沿いを走り回る。やっと捕まえたと思ったら、さっきみたいにメタモン化して抜け出すんだ。何を考えているのか、サッパリだった。

……でも分かったこともある。最初見かけたときみたいに、彼は水面を泳いだり滝を登ったりしに行かない。つまり、本気で逃げるつもりはないってことだ。この歳で追いかけっこかー、ってひいひい言いながら僕は走った。案の定、さっき転んだところで盛大に転んでしまった。

 

「ぶあっ!! う、うぅ……」

「!? ……」

 

そいつがじりじりと寄ってくる気配があった。僕は、これが最後のチャンスだ……なんてヘンな覚悟を決めて手を伸ばす。

ぷにぷにした感触があった。逃げようとしたその子は、僕に背中のリュック――これもへんしんのオマケなので彼の体の一部になる――を掴まれて固まった。思い切って引っ張り寄せる。今度はろくに抵抗されずに、その子を腕の中に収めることに成功した。

 

「……よっし! 『やったー! やせいのメタモンをつかまえたぞー』!」

「……」

「へへっ、なんてね! ほら、見事なもんだろ? 僕だって、捕まえようと思えばポケモンの一匹や二匹……」

 

そのとき、おとなしくしていたムラサキは今まで以上に暴れ出した。またしても腕から脱出されて、僕は呆然とする。

 

「……、ムラサキ? そんなに、僕のことが嫌い? 憎くなっちゃった、それとももう忘れちゃった?」

「!? ……」

 

ムラサキは、僕が無意識に吐きだした言葉に敏感に反応した。子供姿がどろっと歪んで解けかけて、今度は全身から謎の水分が溢れ出す。

向かい合いながら僕たちは何も言えずにいた。雨の勢いが強まって、僕は視界が余計にぐずぐずになっていくのを知覚する。

 

「きみが『いやだ』って言うなら、これ以上なにもしないし言わない。僕は……僕はさ、きみに会いたくて、夢にまで見たから、こうしてここにいるけどさ」

 

途中から、声がでろでろに溶けていった気がした。

だって仕方ないじゃないか。僕はムラサキのことが忘れられなくて、恋しくて可愛くって、なんとかして……それこそ無茶をしてでも会いに来たかったのに。

ムラサキが僕を恨んでいて、それこそ……二人でオニスズメに突っつかれたことや旅をしたことすら、忘れてしまったっていうのなら。

 

「だったら……きみがやりたいようにやったら、いいよ」

 

どうしようもない。僕は頭を振って、うなだれた。

こんなことを言いたかったわけじゃないんだ。おはよ、元気? って、それくらい軽い挨拶と一緒に笑い合いたかっただけなのに。

僕は、大人げなくぼたぼたと泣きまくった。それ以外にやること、出来ることがたくさんあるはずなのに……なんかもう、ダメになっちゃってたんだろうな。

 

「……、……!」

 

ムラサキは、慌てふためきながら僕を慰めるみたいに僕の目の前をうろうろした。その様子があんまりにも可愛らしくって、逆に涙が止められなくなる。

自分でもドン引きするレベルの号泣っぷりなんだけど、……気がついた頃にはムラサキの姿は消えていた。ああこんなものか、なんて、宇宙に発ったときと同じような気分になった。涙を拭って、これからどうしよう、なんて考えていたとき――

 

「……!!」

「うぐぅッ!?」

 

――どーん、と何かに「たいあたり」をかまされる。吹っ飛ばされなかったものの、僕はその場に倒れ込んだ。

おしりを擦りながら顔を上げると、そこにはムラサキの姿があった。どうしてか、彼の両目はぐるぐるの渦巻き模様になっている。

 

「えっ? あ、ムラサキ……」

「……!! ……!」

「え? ちょっ、あの、ちょっとぉ……!?」

 

有無を言わさず、さっき原っぱで出会ったポケモンたちにやられたように大量の物を押しつけられた。

救急箱に、トキワシティのシンボルが入った「きずぐすり」の箱詰め、ヒメリの実。どうしてか、湯気を立てる出来たてのハンバーグ――らしきものもある。僕がなにか言うより早く、ムラサキは僕の顔面にそれらをめり込ませようとした。情報処理が追いつかず、僕は目を白黒させるしかない。

なんとか落ち着かせようと思って肩の部分をぽんぽんしたら、やっと動きが止まった。直後、黒い丸から大量の謎の液体が溢れ出てきて僕はぎょっとする。

 

「……そっか。また会える、なんて言ってかなり待たせちゃったもんなぁ。いやな気持ちにさせちゃったね」

 

座ったまま腕を伸ばす。ムラサキは、ただされるがまま僕に雪崩れかかった。

そりゃそうだ。ムラサキにもメタモンらしい黒丸二つ分の目と気の抜けた口がついてるけど、だからってその顔そのままの気持ちで過ごしてるワケじゃない。

僕は、全身の力を込めて紫色の物体を抱きしめた。ムラサキは、今度は抵抗しないで僕の背に手を回してくれる。

 

「――落ち着いた? ハンバーグ、すっかり冷めちゃったね」

 

……ひとしきり泣きまくったあと、僕たちはまた桟橋のところに戻っていた。

今は雨も止んでいて、僕たちはムラサキがものすごい勢いで用意してくれた物を膝の上に広げて、二人でだらだらそれを眺めている。

ムラサキは必死に、特に救急箱を寄越してみせたけど、ユズだって本気で殴ってきたわけじゃないし、ましてやロケットだって無事に地球に辿り着けたんだ。大丈夫だよ怪我してないよ、って話したらようやく納得してくれたみたいで、垂れ下がっていた口角がやっといつもの形に戻ってくれた。

 

「じゃあ、今度は僕からの質問。ムラサキ、きみ、元気にしてた? 怪我してない?」

 

ムラサキは弾かれたように顔を上げる。一瞬、その黒丸にどこか……濁りっていうか、悲しそうな感情が見えた気がして僕は眉根を寄せていた。

そもそも妙だ。いつもならすぐ頷き返すか、くるっと回って片腕を空に突き上げる動作でもしそうなものなのに。今日のムラサキは、なんとなく元気がない。

久しぶりに会えたから、なんて単純な理由でもない気がした。僕は有無を言わさずムラサキの頬に掴みかかる。

 

「ムラサキ。僕はきみに会いたかったんだ。心配したんだ、元気かな、無事かな大丈夫かなって。でもそれは、きみを信じてなかったワケじゃない」

「……?」

「ちょっと難しいかな? うーん……僕はね、きみが元気でいてくれるならそれでいいんだ。無理して頑張ったり、気を張ったり背伸びしたりしなくていい。ただきみがやりたいことをガマンしないで好きに過ごして……そのちょっとした隙間に僕がいられたら楽しいんじゃないかって。そう思っただけなんだよ」

 

思い出す。

ロケットが爆散ないし事故を起こしそうになったときに現れた、星に似たフシギなポケモンのこと。へたすれば漂流待ったなしだったときに、海流を起こしてロケットを岸に流してくれた、深海色の大型ポケモンのこと。

潤った土地に果樹、建てられた家屋に、家庭菜園さながらの野菜畑……トマトなんか母さんが植えたのか、ってくらい葉っぱの向きがバラバラになっていた。

ポケモンセンター前や原っぱに行ったときに出会った、たくさんのポケモン。最初こそ僕たちを警戒していたけど、途中から全員が好意的になったっけ。

どうしてか。理由なんて物凄く簡単で、誰かが「そうしてみせていた」からだ。

手入れをして、交流を深めて、なにかしてもらったらお礼を言ってプレゼントを贈り返す。そういった「いつもながらの習慣」が、この街には根づいてる。

誰がそれをやったのか……そんなもの、分からない方がどうかしてる。答えは今、僕の目の前にあるんだ。

 

「ムラサキ。頑張ったね、凄く頑張った。街、ちゃんと見たよ。キレイになったし葉っぱも花もいっぱいだ。建物だってムラサキが建ててくれたんでしょ?」

「……!! ……」

「なんだよ、そんなの見れば分かるよ。トマトだって母さんの植え方まんまだし。きっと、すっごくすっぱいんだろうなぁ。僕苦手なのに」

 

ムラサキは、またぐずぐずになって溶け始めた。

ほんとこの子は、なにかあるとすぐ泣き崩れちゃうんだからなぁ。誰に似たのか教えて欲しいくらいだ。

 

「……僕の名前、レッドっていうんだ」

 

僕は腕に力を込める。溶けに溶けた相棒が、どこかに流れていかないように。

 

「きみは? きみはなんていうんだろう? ……紫色だし、『ムラサキ』なんてどうかな?」

 

なんてね、そう続けようとした瞬間、僕はムラサキに飛びつかれていた。勢いあまって桟橋から転がり落ちて、もろに海面にダイブする。

僕は海に沈みながら、桟橋の上でまごついてるムラサキの姿を見て「あ、『なみのり』は使えても泳ぐのはやっぱりダメなんだー」なんてことを考えていた。

それがちょっとだけ面白くって、浮上するまで時間がかかった。浜に上がったとき、ムラサキは動転しすぎたのか液状化しちゃってた。いやな話なんだけど、僕はそれがおかしくって腹を抱えて笑ってしまった。いつの間にか、外はすっかり暗くなっていた。

 

「帰ろ、ムラサキ。いや、帰るにしたって家はないんだけどさ」

「……! ……!!」

 

どうしてか、そこでムラサキは得意げに胸を張る。僕はとりあえず彼を抱えあげて、もう一度ポケモンセンターの前に向かい直した。

 

 





サイト掲載:2026/08/07

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