紫、ときどき赤、緑   作:77493

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14話:レッドとムラサキ

 

 

「なあ……オレってまだ寝てると思うか。レッド、リーフ」

「……、マメ……」

「もうダメだよ。レッドったらご飯しか見えてない……大丈夫、わたしも夢見てるのかなって思ってるから。グリーン」

 

星が見える。街の姿が変わってから初めて迎える、セキチクシティの夜だ。

僕たちは丸太を磨いて作られた椅子に腰掛けて、目の前で忙しく手を動かすムラサキと、夜行性のポケモンたちがそれをご機嫌で見守る様子を眺めていた。

ムラサキの頭には、今はレッドさんのキャップじゃなくて……なんか、寸胴鍋が逆さまにセットされている。「専用」の帽子ってことみたい。僕の相棒は、フライ返しとおたまを駆使して「料理」をしていた。最初は嘘でしょ、って思ったんだけど、なんか、冗談じゃなかった。マジで料理してる。

 

「……!」

 

テーン、なんて効果音がしそうな勢いでハンバーグが五皿完成した。何度も言うけど全部ムラサキの手製だ、なんなら材料のマメもそうみたい。『自家栽培の採れたてなんだよー』みたいなニコニコ顔で、相棒は丸太のテーブルに料理をてきぱきと並べていった。隣には焼きたてのヒメリパンまである。

僕は……ムラサキのトレーナーとして、真っ先に食べる覚悟を決めた。と思ったら先にレッドさんにパンをかじられてた。

 

「ん! ……!!」

「ねね、レッド、美味しい?」

「おまえ、そこはそっちのレッドに先に……まあいいや」

 

僕の……トレーナーの立場とは……。まあいいや。

いただきますって食べてみるけど、殻っぽい粒々が入ってたり塩っけが薄かったりで、かなり素朴な味わいだった。ポケモンたちなら特に喜んでくれそうだ。

ムラサキは、テーブルのふちに指を乗せて僕が食べてる様子をじーっと見上げてる。凄い見られるから、ちょっとだけ恥ずかしかった。おいしいよーありがとー、って言ったら顔がキラキラ輝いてた。次を作りに行きそうな勢いだったからそれはとめておく。

 

「ムラサキは、おなか減ってないの? 食べなくてだいじょ……」

 

『平気だよ!』と言わんばかりにリュックから多量の香草が乗ったハンバーグが取り出された。なんとなく苦い香りがする。バリムシャと食べ進めて、ムラサキはやっぱりニコニコした。

僕は、彼がこれまでどれだけ頑張ってきたのかが少し見えた気がして、頭を撫でてあげていた。

 

「むー……にしても、コイルのやつはどこ行ったんだ……」

「ユズ。そのうち見つかるよ、僕も手伝うから」

「……、……!」

「レッド。おまえそれ二個目だろ、少しは遠慮しとけ」

「……ふふっ。なんだか旅をしていたときみたいだね! こんな感じじゃない? カントーやナナシマを巡ってたときって」

 

リーフさんの楽しそうな声に、みんながぱっと彼女の方を見る。

なんとなくだけど、話を聞くレッドさんとグリーンさんの目が思い出を懐かしむみたいに柔らかく笑っているのが分かった。

 

「夜、ランタンなんか点けて……ポケモンにブラッシングしたり、流れ星を探したり……たまに作る凝った料理も楽しかったなぁ」

「……ユーレイ」

「タチサレ……タチサレ……だろ? レッド、おまえすっげービビってたよな! ポケモンタワーでさぁ……待て、なんでオレの顔を見るんだ」

「もー、二人ともロマンがないんだから! ……ねね、レッドくんは? レッドくんも旅をしたことがあるんでしょ?」

 

聞いてみたいなぁ、なんて促されて僕は照れくさくて頭を掻くしかない。でも、ムラサキも目をキラキラさせてこっちを見上げてるから……。

 

「……大した話じゃないですけど。あれは、僕が友達に馴染めなかった頃……」

 

この後、手持ちのポケモンに他害させていたことがバレたユズはグリーンさんを中心に叱られていた。

意趣返しのつもりはなかったんだ。片付けをしたあと謝り倒して、僕たちはわだかまりを残さずに、ムラサキが用意した丸太製のベッドにそれぞれ寝転んだ。

これもムラサキの手製だ。材料はそこら辺にある物を拾って、リサイクルしたり切り裂いたりして上手いこと利用しているんだって。クラフト台を広げてぺしぺし叩きながら、ムラサキはそうやって説明してくれた。明らかに興奮してたから、僕は彼を捕まえて横に寝かしつけることにした。

 

「――レッド。起きてるか」

「……なに? ユズ」

 

星空でも鑑賞できちゃうかなぁとワクワクしていたら、ムラサキが気を利かせて上にテント屋根をつけちゃったから、今はユズの服の色しか視界に入らない。

つまんないなーと思ってたら、誰よりも早く寝に行ったはずの幼馴染みが話しかけてきた。ムラサキが寝入ったことを確認してから返事をする。

 

「お前、コイルを探すの手伝うって言ったよな。ちゃんと手伝う気あるんだろうな」

「あるよ。でなきゃ、ここまで連れてきてない」

「……そうか」

「そうだよ。当たり前でしょ」

 

歯切れが悪くてユズらしくない。隣に視線を向けると、ユズはテント屋根を見上げてぼーっとしていた。寝るつもりがないんだろうか?

 

「お前さ、十五の頃には働いてたよな。しかも電気工事関係。ビンボーだったわけでもねえのに、なんでそんな頑張ってたんだよ。電気も苦手だっただろ」

「どこかの誰かさんのポケモンにバチッとやられてたから、トラウマになっちゃったのかもなぁ」

「……!」

「冗談だよ。楽しかったから、かな……ムラサキといる時間は減っちゃったけど、ムラサキだって応援してくれてたし」

 

いきなり昔の話を持ち出された。グリーンさんたちの話がよっぽど効いたんだろうか?

それはそれでいちいち絡まれなくてラクだからいいけど、なんて、僕はそんな呑気なことを考えていた。

 

「お前、ガキの頃は病弱だなんだって家からロクに出てこねえし。学校に通えるようになってからも口を開ければムラサキムラサキって……コミュ障かよ」

「ムラサキ可愛いじゃん。悪い?」

「バッ……悪くねえよ! 俺だってコイルが世界で一番可愛いって思ってるわ」

「へぇ、なにそれノロケ?」

「……! とにかくだっ、なんでお前が電気の仕事に就いたのかって……気になってたんだよ。ちょっとだけな」

 

ユズは、同じ電気関係っていってもプログラムとか通信とか、そういう分野に特化してる仕事をしてるんだって……宇宙にいた頃、話してたっけ。

僕はテント屋根を見ながら、気合で星空鑑賞とかできないかな、なんて考えつつ幼馴染みの声を拾っていた。

 

「前にさ、僕が大怪我してしばらく学校休んだことがあっただろ。オニスズメの大群にやられたって話」

「……嘘だろ。あれってマジな話だったのか?」

「そりゃそうだよ、まだ傷も残ってるし。……あのときさ、僕、レッドさんと彼のピカチュウに助けてもらったんだ。グリーンさんの手も借りちゃってさ」

 

ユズが息を呑む気配があった。こいつもなんだかんだでポケモントレーナーなんだよなぁ、なんて、真剣な視線を横に見て思う。

 

「レッドさんのピカチュウ、凄かったよ。かみなりの出力がめっちゃ強くて、でも僕たちに直撃しないようにしてくれててさ」

「マジか。俺、レッドさんのバトル、試合の動画でしか観たことねえぞ」

「へへ、羨ましいだろー。……それからかな。真っ白な放電を見て、格好いいとか凄いとか以前に、救われた気になったんだ。電気が怖くなくなったんだよ」

「……人生変わった、とでも言いてえのか」

「そうだよ。ポケモンに人生変えられたって人の話、テレビで観るけど……僕もそう。あんな風に、誰かを照らせたらいいなぁって思ってさ」

 

思えば、ムラサキは暗い部屋より明るい部屋……もちろん、僕の家族が団らんしてるリビングとか、そういう楽しげな空間が好きだったみたいだ。僕の誕生日パーティのために電気を消してたときは、明かりが点くまでずっとソワソワしていたように思う。

ほんと、そういうところが正直者で可愛らしくて、たまらないんだよなぁ。

 

「資格を取るまでは大変だったけど、先輩たちは優しくしてくれたし。はは……僕、周りの人に助けられてばっかりだな」

「……、いいじゃねえか。それがお前とムラサキの強みだろ」

 

僕は、ビックリして思わず跳ね起きていた。暗闇の中だったけど、向こうを向いてるユズの顔が赤くなってることはなんとなく分かった。

 

「俺は、気がついたら周りに必ず誰かがいてよ。そいつらに変なとこ見せらんねえって、意地張ったりして……ガキだったよ。今も昔もな」

「ユズ……意外。自覚あったんだ?」

「お前、今のは黙って聞いとくとこだろ! こうして一人になって、俺に何が出来るんだって考えたら……やっぱり、コイルに会いてえなって思ったんだ」

 

やっぱりこいつを連れ出してよかった、僕は心底そう思った。

昔から「悪口は自己紹介」って言うし。どっちかというと、僕よりユズの方が独りにしちゃいけないタイプなんじゃないかって……予想は的中したみたいだ。

 

「探そう。きみのコイルだよ、絶対どこかでテキトーに過ごしてるって」

「お前、いちいち一言余計なんだよ」

「どこかの誰かさんのせいだろうね! ……明日はログの解析するって言ってたし。僕たちも、出来ることを探さなきゃ」

 

頑張ろユズ、そう声をかけてみたけど返事がない。寝ちゃったのかな、って首を伸ばしてみたらユズは向こうを向いて丸くなっていた。肩が小刻みに震えている。鼻をすする音もした。

僕は……なにか言おうとしたけど、何も言えなかった。彼の言う通り、先にムラサキに再会できた僕が気やすめを言ったところで、きっとどうにもならない。

僕は屋根を見上げて息を吐く。ムラサキがこんなに頑張っているんだから、僕だってなにかしないと釣り合わない。

 

「……出来ることを、探さないと」

 

傍にいる紫色をぎゅっと抱きしめて、僕は眠った。

このとき、まさかこの場に居合わせたメンバーが実は全員起きてて、僕たちの話をしっかり聞いていたなんて……僕は想像すらしていなかったんだ。

 

 

 

 

 

 

翌朝、日が昇る頃にはムラサキは旧セキチクシティ中を走り回っていた。よっす、やっほー、みたいにポケモンたちと挨拶を交わしてはニコニコ笑っている。

僕は、昨日のことがあったから無理してないかって心配になってこっそり様子を見にいったんだけど、杞憂だった。クラフトの材料を受け取って料理を贈り返したり、かくれんぼっぽい何かをして遊んだり。人間社会をなぞってるみたいで、ムラサキは十分楽しそうだった。

こうやってちょっとずつ街を整えてきたんだろうなぁ……そう思ったら涙が出てきたんだけど、居合わせたユズに爆笑された。ヌッコロ。

 

「……よお、少しいいか」

 

二人で取っ組み合いとまではいかない程度に揉めていたら、グリーンさんに呼び出された。彼らはムラサキが起きる前には行動を始めていて、ポケモンセンター内で環境チェックやログの解析その他もろもろを進めていたんだって。

さすがの行動力だなぁー、なんてじーんとしていたら、一枚の紙を渡された。昨日僕がポケモンたちからもらった道具類で、簡単に書き起こしたものらしい。

 

「グリーンさん、なんですかこれ?」

「おまえら暇だろ? ちっと頼まれてほしいんだけどさ」

「ひっ、暇!? そこまで暇してるわけじゃ……」

「おまえってムラサキのトレーナーなんだろ? なら、あいつがどれくらい仕事が出来るか……知りたいとは思わねえか」

 

僕は反射で顔を上げていた。いつもの意地の悪い顔じゃなく、真剣そのものな目が僕とユズを捉えている。

 

「レッドと相談して、ちょっとした『バトルフィールド』を造ってみようって話になってさ。そいつは試案だな。なにせジムはどこも壊れちまってるだろ? 災害前と今で、どれだけポケモンのわざに変化が出てるか、環境に影響があるかどうか。そいつを調べる目的もある。バトルがしたいってだけじゃないぜ」

 

言われてみれば確かに、ポケモンセンターや住居は建築されてるけど、ジムはどこを探しても見当たらない。そもそもムラサキはバトルに興味がない……というより、どのポケモンも「友達」だと思ってるみたいだから、ジムの必要性なんて考えたこともないのかも。

見下ろした紙面には、使用材料の大まかな指示や建物の耐久性、必要な設備のことまでびっしりと書かれていた。いや全然試案じゃないし、むしろ昨日と今日のうちに用意したって……マジっすか、なんて顔に出ちゃってたのか、グリーンさんは意地悪く笑った。

 

「とはいえ、すぐにとは言わねえさ。準備だって必要だろうしな。材料集めならレッドかリーフが手伝って……」

 

グリーンさんの言葉は最後まで続けられない。僕の下、書類の影から手が伸びてきてあっという間に取られてしまったからだ。

もちろん、そんなことが出来るのは僕の相棒くらいしかいない。ムラサキは『ふむふむ』と言うように紙面を眺めて、ぱーっと走り去っていった。

 

「……あれ、なんかやらかすな」

「うへ!? ちょ、ちょっと待ってムラサキ……!」

 

僕が追いかけようとした頃には、ムラサキが南の原っぱからカイリューモドキの「かっくう」を使って戻ってくるところだった。すたっと素早く着地すると、リュック――実際にはムラサキの口の中? らしいんだけど――から、次から次へとなんらかの材料を取り出しては並べていく。

グリーンさんと、後からやってきたリーフさんの顔色が変わった。レッドさんは……相変わらず何を考えているのか、僕にはよく分からない。

 

「ポケメタルの延べ棒! こんなに大量に……って、まだあるのか!? どれも純度ばつぐんだ、一体どこから」

「ねね、グリーン。鉄と銅もいっぱいあるよ? なんなら鉄鉱石そのものも。こっちはコンクリートだし、ふふ……無線送電機もあるね……?」

 

二人の顔が引きつっていく。ムラサキは、まだまだ材料を出すのをやめない。

 

「……?」

「レッドさん」

「……、……!!」

 

そんな中、レッドさんだけは「グッジョブ!」と言わんばかりにムラサキに向かって親指を立てていた。

なんか……心が通じ合っているのか、ムラサキもハイタッチなんてかましている。ちょっとぉ……これじゃどっちがトレーナーか、分からないでしょうに!

嫉妬混じりにふたりの間に割り込んだ僕は、今度はムラサキが材料以外の何かを取り出したのを見て固まった。

両手持ちに構えられた「冒険の必需品」だ。赤色のボディには見覚えのあるステッカーが貼られたままになっている。僕は思わず「あーっ!」と叫んでいた。

 

「それ! それ僕のポケモン図鑑!! ムラサキ、どこでそれ拾ったの!?」

「? ……!!」

 

いつかのヤマブキシティでやりとりしたときみたいに、ムラサキは『ダメ、これぼくの!』とばかりに僕の手から逃れた。ムキになって追いかけるけど、全然返してくれそうにない。楽しんでるようには見えないし、本気で自分の物扱いしちゃってるみたいだ。

結局、周りにいたポケモンたちやユズから白い目で見られている気がして、僕は自分のポケモン図鑑を取り返すことを諦めるハメになった。どうして……。

 

「わぁ、メタモンのステッカーだ。かわいいね! これ、レッドくんが自分で貼ったの?」

「うっ、バレて……! はい。トレーナーなりたてのときにですけど。なんだかんだで安物だったから、よく長持ちしたなって……」

 

材料を計算しているグリーンさんたちの横で、リーフさんはふふ、と楽しそうに笑った。花笑むってこういう笑顔を言うんだろうなぁ。

 

「わたし、向こうの原っぱでコレと同じガラを見たなぁ。葉っぱや枝を重ねた小さな家に旗がたってたんだけど、ソックリな絵が描いてあった気がするよ」

「え? 『メタモンと流れ星』……ですか」

「流れ星かは分からないけど、うん、お星様は描いてあったかな。ムラサキにとって大事なシンボルなんだね!」

 

僕は、隙を見て取り返そうと伸ばしていた手を下ろしていた。そんなことを言われたら取り上げることなんてとても出来ない。

『もういいの?』って言いたげに見上げてくるムラサキに、あの日と同じように苦く笑い返す。相棒は顔を輝かせて図鑑を開き、なんらかの操作をし始めた。

見守ろうとした矢先、ポケメタルっていう鉱石……ムラサキが延べ棒に加工しちゃってたけど、それを数えていたグリーンさんが立ち上がった。

 

「驚いたぜ、大したもんだ。材料だけなら、ここにあるやつだけでも十分足りるな」

「グリーンさん。う、うぅ……ポケモンたちとの交流もそうですけど、延べ棒とかコンクリとか、一体どうやって用意したっていうんだろう。あの子……」

「そこは問題視してねーけどさ。ただオレたちが思ってる以上に、ポケモンって生き物は強かなのかもしれねえな」

「したたか……ポケモンたちが、ですか?」

「人間がいなくても自分たちだけで生活できる、一緒にいる仲間を思いやることができる。それって、すげーことだと思わないか?」

 

「殺伐とした環境下であっても、互いの生息地に干渉せず、しかし尊重しあうことができる」。

人間よりよっぽどだぜ、ってグリーンさんは言ったけど、それはレッドさんたち三人もそうなんじゃないかなぁ、って僕は思った。

 

「……おい、レッド。おまえのムラサキ、どこ行った?」

「え?」

 

ユズに言われて振り返ると、いつの間にかムラサキの姿が消えていた。なんの前触れもなかったから、僕は一人で即混乱する。

 

「誘拐だ!? むむむムラサキがっ、有能すぎるから誘拐されたー!」

「えっ!? 大変! わたしが先に、って思ってたのに!! 守る名目で、だけどね!?」

「リーフ。おまえ、本音出てるぞ」

 

僕とリーフさんがわあわあやってる間、レッドさんはグリーンさんの背中をトントンと指で突いて空を差した。それだけでなにかを察したのか、グリーンさんは腰のベルトからモンスターボールを一個外して中からポケモンを呼び出した。

……再会したばかりの子を、もう手持ちに戻せたんだ。凄いなぁ、なんて感動していたら、呼び出されたプテラの顔がいつの間にか僕の目の前に迫っている。

 

「プテラ、先行っててくれ。……あまり揶揄ってやるなよ」

「――ギィーッ!!」

「へっ? あれ、ひ、ひぇえっ……!?」

 

一瞬の出来事だった。僕は、気がついたらグリーンさんのプテラに鷲掴みにされて空に飛び立たれていた。

あっという間に地上が小さくなって、体中に風を感じて、頭が真っ白になる。情けない悲鳴を上げていたら、プテラに甲高い声で鳴かれた。まるで、『いいから下を見てみんかい!』とでも叱られたみたいだった。恐る恐る、一度は閉じていた目を開け直すと、眼下には豊かな草原が広がっている。

荒れ果てて、枯れ朽ちて、終末そのものを描いていた世界。僕たち人間は、復活させる術がないから、と判断して宇宙へ逃れた。

でも、いまは――ムラサキの努力か、ポケモンの底力か、自然の生命力か……人知の及ばないところで、世界はまた生まれ変わりつつあった。美しかった。

 

「って、あれは……?」

 

しばらく飛び続けて、旧セキチクシティの西に辿り着く。コワイ外見に似合わず、プテラは慣れた様子でそっと僕を降ろしてくれた。

僕は、変わり果てたこの平原がかつて「マサラタウン」と呼ばれていた土地だと知った。再建されたポケモンセンターの看板に、そう表示されていたからだ。

なんか、ビックリしすぎて言葉が出てこない。道路は草か土が剥き出しだし、オーキド研究所もなくなっている。改めてショックを受けた。

 

「レッドさんたちの故郷、なんだよね……これ見たら、ガッカリするどころじゃないんじゃ――」

 

そうして僕は、プテラに後ろから着いてこられながら歩みを進めた。顔を上げた先に、やっぱりポケモンたちの姿が見える。彼らは、最初のヒトカゲたちみたいに僕の顔を見るなり逃げ出した。と思ったら、プテラが一声鳴いただけでピタッと揃って足を止める。

一斉に取り囲まれて、僕はまごついた。ニオイを嗅ぐ子、目を細める子、長い顎で突っつこうとする子や、カゴの実をそっと分けてくれた子までいた。

ありがと、ってプテラに言ったら、言葉が分かるのか満更でもなさそうに目を細めて鼻を鳴らしている。僕は、昨日のグリーンさんが言い放った「ポケモンはトレーナーの考えなんてお見通し」みたいな言葉を、なんとなく思い出していた。

 

「みんな、ありがと。えぇと、僕はメタモン……ムラサキって子を探しにきたんだけど、誰か知って……」

 

言い終えるより早く、誰かは駆け出し、誰かは平原の奥を懸命に指差した。僕は、彼らに導かれるまま急いで言われた方角へ走り出す。

 

「……、え? なに、これ」

 

そうして僕は、我が目を疑った。

視線の先、旧マサラタウンの土地のど真ん中に。ムラサキと僕が知らない桃色の肌をした人型のポケモン、その他数匹が、謎のドデカい建築物を造っていた。ネオンっぽく光る床、電気も流れてないのに光る壁、ライチュウの形の電光看板に、クラシカルな雰囲気の街灯……そんなオプションまである。

僕は、いやな予感がして無意識に後退っていた。グリーンさんが出した「試案」。なんだか、この建築物はそのデザインによく似ている感じがしたんだ。

 

「……家を建てられるってことは、それ以前にポケモンセンターが再建されてるってことは。『誰かがそれをやった』ってことだよね……?」

 

誰が予想しただろう。まさか、終末世界で本当にポケモンたちが底力を発揮していたなんて。

僕は、ムラサキたちが黙々とバトルフィールドを新設していく様子を見上げることしか出来ない。完成まで、そんなに時間がかからないような気がしていた。

 

 

 





サイト掲載:2026/08/09

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