後半部分で視点が変わります。
(重大なミスをやらかしていたところがあったので、再投稿となりました。誠に…申し訳なく……!)
「――コイル!! じゃないっ、レアコイル! 大丈夫か、しっかりしてくれ!!」
結果として、バトルはリーフさんたちの圧勝だった。撃ち落とされたレアコイルは三匹とも音をたてて床に落下した後、そのまま動かなくなった。
ユズだけじゃなく僕とムラサキも駆け寄って、とりあえず背中のあたりを支えて起こしてあげる。本当にコイルが三匹くっついてるんだ、なんて考えて僕は頭を振った。ポケセンに連れてくのが一番だって判断して、ユズの話も聞かずに背に担ごうとした。
ムラサキはきずぐすりを見せてくれたけど、僕はそれどころじゃなかった……レアコイルが重すぎて、膝をプルプルさせるしかなかったんだ。コイル一匹だと大したことねえのに、なんて言ってユズも二人がかりで運ぼうとしてくれたけど、重くて全然持ち上がらない。
「ああ、待て待て。レアコイルはコイルの十倍の重さだ、人間じゃ持ち上げらんねえよ。ちっと貸してみな」
「ひい、ひい……ぐ、グリーンさん……」
「ううっ。レアコイルぅ……俺が不甲斐ないばっかりにぃ……」
おまえら酷い顔だな、なんてグリーンさんは笑っていたけど、隣を見たらユズがめちゃくちゃ泣いてて僕はビビりまくった。
リーフさんがムラサキからきずぐすりを預かってくれて、それだけじゃなくイーブイまで僕たちを気遣うように靴を前脚でさすってくれている。ここで僕はグリーンさんに視線を戻したんだけど、彼は今となっては貴重になった「げんきのかけら」を使ってくれて、レアコイルはすぐに力を取り戻した。
「よし、元気になったな。ほら、相棒のところに戻ってやれ」
「……! ……」
レッドさんに至っては「まんたんのくすり」を惜しみなく使ってくれて……僕はめちゃくちゃ感動してたんだけど、やっぱりユズは泣きまくってた。
……こいつ、ポケモン相手だとこうなるのか。僕もひとのこと言える立場じゃないけど。
グリーンさんたちが手を離したとき、レアコイルは一瞬ユズとリーフさんを見比べた。どうしたんだろ、そう思った瞬間、凄い早さでフロアから離れていく。そのままバトルフィールドの入り口に身を潜めて、ちらちらとこっちを盗み見し始めた。ワケが分からなさすぎて僕たちはぽかんとするしかない。
「えっ、と? ……なに、まさかほんとにユズのことが」
「……!! う、うぐぅううう」
「ちょ、ちょっとユズ、泣かないでよ僕が悪かったって! 言葉のあやだからさぁ!!」
「……!」
ガチ泣きし始めたユズの下、ムラサキはイーブイにさっきのふかし芋つきハンバーグを渡したあと素早く立ち上がった。
『ぼくに任せて!』なんて言いたげに拳を空に突き上げて、僕の返事も待たずに入り口前に走っていく。気楽な感じで、レアコイルとなにか話をし始めた。
「そうか。ムラサキのやつ、リーフのイーブイとユズのコイル、どっちとも知り合いだったんだな」
「え?」
「……」
「あれっ、レッドさん。それってさっきムラサキが持ってたやつですよね?」
レッドさんが見せてくれたのは、置きっぱなしになっていた香草ハンバーグだ。ムラサキは昨日食べてたけど、こっちは自分用ってことじゃなかったみたい。戻ってきたムラサキは、レッドさんから皿を受け取ってまたレアコイルのところに戻っていった。
『ニガい、オイシー』みたいな感じで、彼らはハンバーグを食べている。ムラサキは最初それをニコニコしながら見ていたけど、視線に気づいて振り向いた。
「……、……!」
「え? なに、僕に手伝ってほしいの?」
「……!!」
戻ってくるなり手を引っ張られた。何度も引かれて、これは呼ばれてるな、って思った僕は素直に従う。
ムラサキは、急にポケモン図鑑を開いて僕に何枚か写真を見せてくれた。荒れる前のセキチクシティや岬などが順番にスライドされていく。そうして今度は、ユズとレアコイルを激しく交互に指差しながら走り回った。僕は言われる(?)まま棒立ちになったり、屈んだり、手を振り返したりする。
ムラサキはレッドさんたちにも図鑑の写真を見せて、同じ動きを繰り返した。この頃、ようやくユズが顔を上げて僕たちの様子を眺め始めた。
「……あっ、わかった! あの子、レアコイル? たぶんだけど、ずっとセキチクシティの岬でユズくんの帰りを待ってたんじゃない?」
真っ先に声を上げたのはリーフさんだ。ムラサキは『そうそう、そうだよ!』なんて言いたげに大きく頷いてみせる。
「へぁ……え? ど、どういう……だって俺、ずっとコイルを探してたんすよ!?」
「断言はできないけど……世界が荒廃して、ユズくんがずーっと落ち込んでて……きっと『元気になるまでそっとしておこう』って思ったんじゃないかな?」
「そっとしてって……なにも、俺から離れて行かなくたって! 家はもちろん、出かけたところもお気に入りのビルの中も、全部探したってのに」
「……人間にも色々いるくらいだからな。あいつにだって思うことがあったんだろ、ポケモンなりにな」
「だからなにも言わないでユズから離れたってことですか? なんか分かるなぁ、ユズってたまに逆ギレするし」
「ふーん? 逆ギレがどれくらいかは、わたしにはわからないけど。あの子はへたに励ますより、見守っていたいタイプだったんじゃない?」
ムラサキが全力で拍手している。視線を投げてみれば、入り口のところのレアコイルも頷く代わりに体を縦に揺らしていた。なんだか、ちょっと楽しそうだ。
ここでユズの顔が真っ赤になった。ちょっと涙目になってるし、さすがの僕も「恥ずかしいやつー」なんて言えなくなる。
正解、と言うようにハイタッチしてくるムラサキにアクションを返してから、リーフさんは小さく笑った。
「でも、ちょっと見守る時間を長くしすぎちゃったよね。気がついたら、人間は全員宇宙に行ってしまってるんだもの」
「ああ……ある意味事故だぜ。悲劇とまではいかねーけどな、オレたちが連れ帰ってきちまったわけだし」
「……! ……」
「レッドの言う通りだよ、会えたんだからこれからを大事にしたらいいと思う。今回はわたしが勝ったけど、きみのポケモン愛はホンモノだよ。頑張ったね」
リーフさんから手が伸ばされて、ユズは目を見開いた。顔、手、それぞれをもう一度見比べて、恐る恐るって感じで手を伸ばす。二人が握手を交わす間、僕とムラサキは自主的にフロアの掃除を始めていた。僕が適当な布で塵を拭き取って、ムラサキがブロックを磨いてピカピカにする。
……どうやら落ち着くところに落ち着いたみたいだ。三人に謝ってるユズの元にレアコイルも無事戻って、大人しく撫でられている。
「よかったじゃん、ユズのやつ」
「……!」
「うん。ムラサキも頑張ってくれたからね、さすがだよ。ありがとね」
僕は、なんだか妙に嬉しくなって余計に床を綺麗に磨いてしまっていた。散らばったコードも回収したけど、その横でレッドさんのピカチュウが絡まりコードの一本一本に電気を流して使えそうなものを選別してくれている。
彼もムラサキの友達みたいで、整理が終わった後はふたりでニコニコしながら話し込んでいた。労いみたいにヒメリの実を渡されて、僕は苦く笑うしかない。
……なんか、こういうことばっかりだ。ムラサキは僕や僕の家族から学んだことを自然にこなして、それがポケモンたちにも広がっている。もちろん、協力し合わないと生きていけないって部分もあったとは思うんだけど……僕は、前にグリーンさんに言われたある言葉を脳内で繰り返していた。
「ポケモンたちは僕たちがいなくても生きていける。けど……僕たちのことを覚えている子や、忘れてるだけでキッカケさえあれば思い出せる子もいる……」
「?」
「ムラサキ。きみのことだからさ、セキチクシティやここだけじゃなく『僕と巡った街』も復興させようって頑張ってたんじゃない?」
ムラサキの顔がこれ以上ないくらいに輝いた。レッドさんたちが何か言うより早く、僕は相棒に引っ張られて外に飛び出していた。連れていかれたのは、地面を掘り返して石のブロックを壁や床代わりに敷き詰めた地下室じみた家屋だった。ポケモンがいるみたいで、奥から視線を感じる。
ムラサキは石を積んだ塀の横に走っていって、何かを懸命に指差した。首を傾げながら着いていって、僕は仰天する。
「これ……『じてんしゃ』じゃないか! まだ走れそうだし、……なんか、僕が乗ってたやつにソックリなんだけど」
「! ……!!」
「え? 乗ってみたらいいよ、って? はは……うわぁ、泥だらけだ。あとで落とさないとね」
変色しているけど、見れば見るほど僕が最後に乗っていたカスタム車によく似てる。まさか本物とかじゃ……一瞬そう思ったけど、ムラサキが相手なら有り得なくもない話だから僕はだんまりしておくことにした。
カゴをつけるためのパーツも残っているし、ペダルも泥と白錆だらけだけど状態は悪くない。手入れすれば動かせそうだ。ありがたく持ち出すことにした。
「おっ、レッド。……なんだよそれ、自転車か?」
バトルフィールドモドキに戻る途中、ユズと鉢合わせた。もちろんレアコイルも一緒だったんだけど、ボールから出したまま連れ歩きされている。
ひとのこと言えないじゃん、とはギリギリ言わずにいられた。今はレアコイルと一緒にいた方が、ユズのためになると思ったんだ。
「うん、ムラサキがね。レッドさんたち、なにか言ってた?」
「え? いや……レッドさんは相変わらずだよ。それよりグリーンさんから、新しい仕事を頼まれたんだ」
ユズから見せてもらった紙を覗き込んで、僕はふとある考えを閃いた。
見上げた先で、「お前なんか企んでねえだろうな」って顔で幼馴染みが見下ろしてくる。というか実際に言われた。僕は頷き返すだけの反応に留めてやった。
「おいレッド。お前、なんかやらかす気じゃねえだろうな? これ以上グリーンさんの信用なくすのは、さすがにアレだろ」
「ふーん。ならユズはだんまりしてればいいんじゃない? 僕とムラサキの問題だし」
「は? いや、だからお前も復興の手伝いを……」
僕は、ユズが差し出したままだった紙面を軽くノックした。試案と僕の顔を交互に見比べて、幼馴染みは眉根を寄せてみせる。
「僕は見つけたよ、『僕に出来ること』ってやつ。ちょっと試してみたいことができたんだ」
ユズはなにか言いたそうに口を動かしたけど、それ以上の文句も軽口も出てこなかった。
ムラサキとレアコイルは、ニコニコしながら手と磁石それぞれを動かして楽しそうにお喋りしている。僕の相棒って社交的だよなぁ、なんて僕はふと思った。
「もちろん手伝ってくれるよね、ユズ? ちょうど『試案』を試すのにピッタリだし」
ユズの顔が引きつった。僕は構わず、ちょっとツラ貸せ、くらいの軽いノリでポケモンセンターを差し示す。
ムラサキは、首を傾げながらも僕と自転車の後ろからついてきた。バトルフィールドと僕の背中を見比べながら、ユズも渋々といった感じで追ってくる。
……それからのことだけど、気がついた頃にはここに来て丸五日が経とうとしていた。「ぼく」たちは旧マサラタウンで復興計画をたてたり、再会したポケモンと過ごしたりしていたんだけど、あの日以降、レッドとユズの姿は見えなくなった。
グリーンは「あいつらにもやりたいことが出来たんだろ」って澄まして笑ってるし、リーフはリーフで料理や菜園の研究で忙しそうにしてる。
じゃあ「ぼく」は、って話になるけど、カビゴンは相変わらずめちゃくちゃ食べるし、フリーザーは拗ねてるしで、グリーンとの勝負もまだ出来そうにない。そもそも諸々のデータ解析やムラサキが置いていってくれた宇宙船やロケットの再生、「人間の記録」のチェックも順調とは言えなかった。
とにかく人手がほしい。けど言ったところでどうにもならないし、「ぼく」たちは互いに時間をみながら出来ることを少しずつ進めていくしかなかったんだ。
「……ねね、レッド。ちょっと休憩しない?」
ロケットの外装部分をピカチュウ、リザードンと点検していたとき、リーフから呼ばれた。なんでもムラサキが育てていた野菜を参考に新しい畑を増やして、街に住むモクローに手伝ってもらいながら試験栽培を進めていたらしい。
気がつけば、ポケモンに手伝ってもらうことが当たり前になってきている……「ぼく」は素直に頷いて、出されたきめ細かい食感のハンバーグを口に運んだ。
「……! ……!!」
「そっか。……よかったぁ。ムラサキの方が美味しかった、って言われたらどうしようって思ってたよ! あれ美味しかったもん」
「まーな、確かによく出来てたからな。にしても、あいつら今頃、どこで何やってるんだろうな……」
グリーンの何気ない呟きに、「ぼく」たちは全員で会話を途切れさせた。はっとしたグリーンは「悪い、なんでもねえ」って言ったけど、気になるものは気になるんだから仕方ない。「ぼく」は最後の一切れを口に放った。
洗い物を片付けて、じゃあそれぞれ作業の続きを……なんて流れになったとき。「ぼく」は、妙な違和感を感じて振り向いた。
「……、……?」
どこかから、遠くから、なにかしらの音が聞こえた気がしたんだ。
まるでそれは電磁音の一種のようで、不快とまではいかないけど、どうも気になる感じの音だった。聞こえていないのか、リーフたちは先に歩いて行ってる。
「? どうしたの、レッド」
「……」
「なんだ? ポケモンかなにかか?」
気のせいかもしれない。疲れが出てきたのかもしれない。「ぼく」は二人に、なんでもないよ、と答えようとした。
『――す』
「ぼく」は弾かれたように駆け出していた。ポケモンセンターの中に入り、メインパソコンと自分の端末を繋いでボリュームを上げる。
慌てたようにグリーンとリーフもついてきた。僕は二人にも静かにするよう、耳を澄ますよう促して、窓の外に目を向けた。
『――す、繰り返す。こちら、レッド』
「えっ、レッドくん!?」
「おいおい、どういうことだ? これじゃ、まるで……」
『繰り返す、こちらレッド! この放送は、街のお助けパートナー「メタモンのムラサキ」と、そのアシスタント兼マネージャー「レッド」がお送りします』
「ぼく」はもう一度、静かにするよう二人にジェスチャーを送った。グリーンは何か言いたげに黙り込んで、リーフは慌てた感じで自分で口をふさいでいる。
ジジジ、ザザ、とひどいノイズが混ざった。けど、それが途切れる頃には向こうの音声がはっきりと聞こえ始めていたんだ。
まるで館内放送……「ラジオ」そのものだ。いつかの宇宙ステーションでの出来事を思い出して、「ぼく」たちは無意識に顔を見合わせていた。
『……では、本日のニュースです。今日は「キラキラ浮島」の街にニャローテさんが暮らすことになりました! 新しい仲間が増えたよ、やったねムラサキ』
『……! ……!!』
「……ふ、ニュースってか、なんだそれ。あいつら、何やってんだ?」
全くの同意見だ。「ぼく」はグリーンに無言で頷き返した。
『ニャローテさんが来たキッカケは、ムラサキが用意した取り調べスポットがなんかイイ感じだったから、らしいです! よかったね、ムラサキ』
『……!』
『ということで、これ以外にも困ったこと、悩み事、暮らしのことでご相談したいことなどありましたら、気軽に遠慮なく僕たちにお問い合わせください。ポケギアの番号は……あれ、意味ないか、まだ通信設備万全じゃないしなぁ。ユズに張り切ってもらわないとだね、ムラサキ。働かざる者ーっていうしね』
『――おいコラ、レッド! あんま無茶ぶりすんなよっ、俺だって手がいっぱい……』
あからさまな妨害が入った。ガタガタと背景が騒がしくなり、耳を傾けていたリーフが肩を震わせてプルプルしている。
レッドとユズ。この二人、本当に仲がいいんだか悪いんだか……「ぼく」は隣でなにやら考え事をし始めたグリーンの横顔を見て、苦く笑った。
『あーたいへんだーおじかんです! それでは皆さん、ご連絡をお待ちしてます。目印は僕の……「赤色帽子」! 以上「レッドキャップ放送局」でしたー』
『あッ、お前コラ、試験放送つっただろ!! なに勝手に締めて……おいレッ』
ユズと思わしき人物は、華麗にスルーされたまま声を途切れさせる。そのあとはあの微妙なノイズや、軽いノリの放送も聞こえなくなっていた。
僕と同名の、変わったメタモンのトレーナー。連れ歩くムラサキも端からフシギな子だったけど、その相棒も変わり者だ。「ぼく」はパソコンを切断した。端末を片付けたとき、グリーンは窓の近くに寄って声のした方を見上げていた。リーフともども傍に寄り「ぼく」たちも空を見る。
「これ、オレが頼んだ『通信』関係の進化とも言えるかもしれないぜ。ユズのやつ、なかなかやるな」
「グリーン、そんなこと考えてたの?」
「電気は通ってたからな。復興を考えるなら余所の地域と連絡がつくようにしといた方がいいだろ、誰でも電話機能を使いこなせるってワケじゃないからな」
「……、『レッドキャップ』」
もう一度、「ぼく」はいつかの放送局ジャック事件を思い出していた。気になる単語を吐き出したら、グリーンもリーフも途端に肩を震わせている。
「……レッドキャップ、はないよな。他になかったのか? ムラサキにまつわる名前とか」
「うーん、そこはレッドくんの趣味だろうからねぇ。わたしたちが口出しできるところじゃないと思うよ?」
「……レッドキャップ」
「レッド、おまえ……なんだかんだ気に入ってるんじゃねーの? それ」
グリーンの指摘に僕は言い返さなかった。リーフはビックリしたような顔で僕たちを見比べている。
「ぼく」は自分専用のポケモン図鑑を手早く開いた。タウンマップを開いて、荒廃前に巡回をしたはずの街のアイコンをタップしたけど――反応はない。
やっぱり簡単には完全復興とはいかないみたいだ。けどグリーンの依頼や今回の放送を省みれば、見えてくるものもきっとある。
「……やりたいこと……出来ること」
「ああ、そうだな。あいつらが帰ってきたら、通信ケーブルの余剰分と食料、渡してやらないとな」
「すごいね! まさかムラサキがひとりでしてきたことを拡充しよう、応援しようとするなんて……レッドくんらしいな。ポケモン愛だね」
仕事ならたくさんある。やるべきことも課題も山積みだ。人手だって時間だって、全然足りない。
けど、今の「ぼく」には頼りになるライバルと、力になってくれる幼馴染みがどちらも揃ってる。一緒に旅をした、心強いポケモンたちもいてくれている。
なにより……「ぼく」たちが冒険をし続けたことで、「ぼく」たちの背中を追いかけてきてくれる人がいるってことが、よりはっきりした。
宇宙に置いてきた後輩たちだけじゃなく――リーフの言うポケモン愛に溢れた、ポケモンのことしか考えられない人々だ。彼らが諦めずにいてくれたから「ぼく」たちの道は繋がることが出来たんだ。「ぼく」はそう思っている。
「グリーン」
「なんだよ、レッド」
「……きみと、勝負がしたい」
「おう、そうか……って、いきなりどうしたんだ。そりゃ、広範囲わざや状態異常の蓄積値あたりの計測と照合はまだ出来てねーけどさ――」
「……勝負がしたい。ぼくたちのはじまりは、まっさらなここから始まった。だからこそ」
リーフが、一瞬泣きそうな顔をしたのが見えた。グリーンは言葉を切って、「ぼく」の顔を黙って見ている。
「――おまえ、そんなこと言っていいのか? 『オレのゼニガメに、おまえのヒトカゲは全然歯が立たなかったじゃねーか』」
「……!! 『あのときとは違う』。けど、ぼくたちの冒険は、またここからはじまるんだ」
「マサラはまっしろ、はじまりの色」。たとえ家屋が壊れても、過ごした街並みが崩れても。「ぼく」たちがここで生まれ育ったことに変わりはない。
初めて手に入れた相棒、初めての対戦相手のこと。ここに戻ったとき、変わり果てた街に愕然とした瞬間もあったけど……それでも、変わらないものもある。
向かい合ったまま「ぼく」とグリーンは笑った。あのレッドに焚きつけられただけのような気もするけど……それならそれで、構わない。
「じゃあ、じゃあっ……明日にでも勝負、する!? わたし、なんとかしてレッドくんたちに連絡とってみるよ!」
「って、なんでおまえが泣いているんだよリーフ……ま、オレからもあいつに預けたいものがあるしな。どういうつもりか、聞いてみるのも悪くねえよな」
「……リーフ。……ん」
「ううー。ありがとー、レッド……」
いつかと同じだ。「ぼく」はポケモン図鑑片手に、グリーンは斜に構えて、リーフはタオルを握ったまま、三人で並び立つ。それぞれの腰にボールを下げて。
最後に「ぼく」たちは顔を見合わせて、子供みたいに笑った。「明日はきっといいことがある」。そんな気がした。
サイト掲載:2026/08/14