オマケページ第二弾。こちらは「その後」のショートストーリーになっています。
視点は原点にしてオープニングのあの方。
この話を加えて、【ポケットモンスター:紫、ときどき赤、緑】完結となります。おつきあい頂き、有難うございました〜!!٩( 'ω' )و
番外編 レッドの手紙
そのサプライズプレゼントが届けられたのは、「彼ら」が行方をくらませて一年と数か月経った頃じゃった。いつか、同じような型番のロケットに詰められていたという様々な物資……それより遥かに良質かつ豊富な資源が収められていて、技術班は大喜びだった。
更には地球の現在の環境状態や、パソコンから緊急措置として解放された一部のポケモンの詳細、健康状態のレポートまでもが同封されていたという。
たった一年。それだけでこれほどのものが用意できるなら、今の地球は限りなく安全な環境にあるのではないか。自然と誰かがそう言いだした。
……わしは、正直「彼ら」のことはそっとしておいてやったらいいのではないかと思っておった。
本当に安全な環境が得られたのだとして、ここで全員が帰還すると言いだしたら。あるいは、一部の研究員が出立すると公言すれば必ず混乱が生じてしまう。
誰もが、ポケモンたちに会いたくて仕方がなかったのじゃ。もちろん、わしとて例外ではない。
だから、「彼ら」のうち最も身近な人物から当時の打診を受けたときは驚いた。
『よお、じーさん! オレ、ちっと地球に行ってくるぜ』
それまでは山のような雑務や書類整理、人員配置やポケメタルその他様々な資源の研究、解析と……文字通り、死んだ目をしながらこなしていたわしの孫が。その打診をしに来たときだけは、いつかマサラを発ったあのときのような、好奇心と探究心に輝く目をしておった。
わしとて、若い頃はバリバリのトレーナーじゃった。あの子の気持ちは今も当時もよく分かる。
「ああ、本当は、ずっと冒険を続けたかったのじゃな」。そう思えば、引き留めようという気も起こらなかった。
『参考資料にじーさんのレポート、いくつか借りてくぜ。返せるか分かんねーけど、勘弁してくれ。あいつら気がはえーんだ』
『グリーン……本当に行くのか。無事に着く保証はあるのか?』
『ねーよ。ねーけど、放っておくわけにもいかねーんだ。天才のオレさま抜きで出発されて、事故でも起こされたんじゃオーキドの名が廃るからな』
それに、とグリーンは笑った。
『レッドがな。リザードンに会いたい、なんて言うからさ。オレも……ちっとカメックスに会いに行ってこようと思ってさ!』
あの子が笑ったのは、本当に久しぶりのことじゃった。わしはこれまで、あの子の何を見てきたというんじゃろう?
いつかのポケモンリーグでの決勝戦。試合を見ることは叶わなかったが、わしはレッドに負けたグリーンを気遣うこともしなかった。ひとえに、あの子にトレーナーとして成長してほしかった。レッドのように、ひたむきにポケモンに向かい合えるトレーナーになってくれればと……。
だからこそ、わしの思う言葉を投げかけていたのじゃが。果たして、あの子にそれが響いていたんじゃろうか?
それからのグリーンの成長ぶりといったら……望んだままにトレーナーとしてジムリーダーとして活動できていたというのなら、こんなに嬉しいことはない。
だからこそ、地球があんなことになるとは今でも信じ難かった。わしとて、ポケモンや研究所を離れることは身を引き裂かれるような思いだった。
しかし……希望を捨てるわけにもいかなかった。だからこそわしはあの子を、「彼ら」を黙って送り出すことに決めたのじゃ――
「……オーキド博士。博士宛ての手紙もありました。お読みになられますか?」
「おお、そうか。どれ、早速読ませてもらおうかの」
地球を離れて……どれほど経ったか。わしは手近に置いている眼鏡をかけて、ロケットに同封されていたというわし宛ての手紙を開けた。
「……おお? ふっ、くく……」
「博士? 手紙には、なんと書いてあったのですか?」
「いや……大したことはなかった。さて、物資の確認は進んでおったかな? わしも同行させてもらおうかのう!」
――グリーンの手紙には、「ま、そこそこ元気にしてっから」という非常に簡潔な走り書きがしてあった。手紙というよりもメモ書きに近いやもしれん。
二枚目は地球帰還の計画を持ち出したという、わしの知るレッドと同名の少年の手紙じゃった。
グリーンやレッド、リーフたちがいかに頑張っているか。自分と幼馴染みが彼らにどれだけ助けられ、生き延びることができているか。
少年……今は青年の頃だっただろうか? 彼は、とにかくグリーンを筆頭にみなの力を仰げなければ、今の自分はここにはいなかった、と主張しておった。それだけでなく、自分の相棒である奇跡のメタモン……いつかの集合写真で、人間のすがたに変身していたポケモンが自分の拠り所でもあるのだと。
自分ひとりが彼らに帰還の強要を謀ったものの、結果としてカントーの復興が少しずつ成果を見せてきていると。完璧な理想的な光景でこそないものの……
『グリーンさんのおかげです。それに、背中を押してくれたレッドさんとリーフさんも。僕は……彼らに命を救われたときから、ずっと恩返しがしたかった。叶えられる機会を得られて、本当に感謝しているんです。博士。僕たちを送り出してくださって、ありがとうございました。僕たちは元気にやっています』
三枚目。最後の一枚は手紙ではなかった。
いつかのときと同じで、それは一枚の写真じゃった。ポケモン図鑑から出力したのか、画質はそれなりでしかない。
しかし……件のメタモン、ムラサキを中心に、グリーンやレッド、リーフとわしの知る顔触れや、立案者のレッドとその幼馴染みが全員笑って映っておった。
心の底からの笑みだ。それを見たとき、わしは、何故だか自分でさえ救われたような気になったんじゃ。
「……グリーンよ。おまえもすっかり、大人になったな」
「博士? なにか……」
「ああ、なんでもないんじゃ。独り言じゃよ! 歳を取ると、独り言が増えていかんのう!」
三枚を再び封筒に入れ、胸元のポケットにしまい込むと、わしも現簡易研究所をあとにした。
「彼ら」が頑張っているのなら、わしとて負けるわけにはいかん。いつか、再会が叶うことがあるかもしれんのじゃ。
そのときは、じっくりとたくさんのレポートを書かせてやるとしようかのう! ……久しぶりに胸を躍らせながら、わしは例のロケットの元へと足を向けた。
サイト掲載:2026/08/18