前半と後半で視点が変わります。
タイトルは「なんだかんだと聞かれたら!!」のあの伝説的ナンバーより(R団出てきてないけどごめんなさいです)
「――おーい! レッド、グリーンー!!」
「よお、大遅刻が来たみたいだな」
「……」
最後の宇宙船が、出航準備を終えようとしていた。
出発地点はセキチクシティより南、本来であれば美しい夕焼けが臨める海岸沿いだ。今となっては人の姿はおろかポケモンの影ひとつさえ見つからない。
すでに全ての乗客は宇宙服に着替えを済ませ、出発のときを今か今かと緊張の面持ちで待っていた。総数……何名だっただろうか。名簿自体は作成済みだが、はっきりとした数字や家族構成は覚えていない。徹夜続きだったチームも、今は休息をとっている。
リスト片手に最後の巡回担当が戻ってくるのを待ち侘びていた「オレ」たちは、当人の悪びれた様子のない謝罪を呆れ混じりに受け入れた。
「ごめんごめん、なんかね、最後の最後まで抵抗してた人がいてね! 面倒くさくなっちゃったから、ツルのむちで捕まえてきちゃった……遅れてごめんね」
「何回も謝らなくていいって。で? その捕縛した相手ってのは……」
幼馴染みの目線を倣うように追う。視線の先で、地面に転がされた黒尽くめの男がツル植物でぐるぐる巻きにされたまま悶絶していた。
「……!」
「この人の服、どこかで見た気がするんだよね。どう思う? レッド、グリーン」
「ああ、めちゃくちゃあるな。おい、レッド。手を出すなよ」
「むむむむ、もがーっ!」
見知った衣装だった。こと傍らの幼馴染みに至っては、こいつらが所属する組織を事実上の解体に追い込んだこともある。活動内容が内容だったから、加減ができないのも無理はない。「オレ」も思うことがあるほどだ。
レッドは黙っていたが、明らかにお怒りのご様子だった。こいつキレるとロクなことしねえんだよな、と「オレ」は口に出せない。代わりに溜め息ばかりが漏れてくる。
そも、こういう連中は頭が潰れればその下が「ボスの遺志を継ぐ云々」とか言って活動を再開させちまうもんだ。「オレ」は渋々、口の拘束を解いてやった。
「それで、今回はどんな悪だくみをしてたんだ? ロケット団の構成員さんよ」
「ロケット団じゃない。ボス曰く……R(アール)団だ!」
「言い方変えただけで同じだろ。解散したんじゃなかったのかよ?」
「R団! あくまでR団だっ!! へへ、オレはボスから崇高な任務を任されてて――」
レッドの手が無言で伸びた。「オレ」ももう一人の幼馴染みリーフも、止める間もない。
「――またポケモンに酷いことをするつもりなら、ぼくが許さない」
「うぅっ!?」
「ちょ、ちょっと、レッド!?」
「おい、落ち着けって。どのみちすぐ出発だ、こいつだってもう何もできやしねーよ……離してやれ、レッド」
「……」
もう一度「離せよ」と促したところで、ようやくレッドは男の襟首を手放した。
……普段はマイペースで何考えてんのか分からねえってのに、ポケモンのこととなると周りが見えなくなるんだからな。そういうところ、全然変わってねえ。
「オレ」の言いたいことを理解しているのか、リーフも苦笑いを浮かべている。咽せる男を立たせて、「オレ」たちは宇宙船に向かった。
「そういや、リーフ。おまえ、ちゃんとファイヤーは預けてきたんだよな?」
「うん、大丈夫だよ。お別れは元マサラ……ううん、マサラタウンにしたけどね! フシギバナはイヤがってたから、ここに預けることになっちゃったな」
「そうか……心配すんな! オレのプテラもここ預かりになったからな。堅いいしの男からやっと返ってきたんだ、待ちくたびれたぜ」
「パトロールにも個性って出るよねぇ。わたしもファイヤーも頑張ったけど、みんなポケモンと離れたくないってイヤがるのは……一緒だったもん」
巡回用に連れていたポケモンたちも、最終的にはポケモンセンターの「ポケモン保護プロジェクト」に托すことが決められていた。
「オレ」もレッドもそうだ、避難する前提があるから大切に育ててきた手持ちとは別れてる。けど、どうしたって落ち込んじまうって気持ちも分かるんだ。
「オレ」たちは元ジムリーダー、元チャンピオンである以前に……ただのポケモントレーナーでしかないんだからな。
グレン島のときと同じだ。自然を前にしちまえば、自分がいかに無力かイヤでも分かっちまう。またナーバスになってるな、と「オレ」は小さく笑った。
「……」
「レッド。どうした?」
タラップをあがったとき、人数が一人分足りないことに気がついた。振り向いた先で「オレ」の好敵手がマサラタウンがあった方角を見ながら固まっている。自称R団の男を別の職員に任せて、「オレ」とリーフはレッドのところまで走り戻った。
まさか残るなんて言わないよな――数時間前に変わり者のメタモンのトレーナーがようやく船に乗ったことを聞かされていた「オレ」は、親友の答えを待つ。
レッドは「オレ」たちのように落ち込んだ素振りも見せずに、マサラの方角に向かって一度だけ大きく頷いた。
「……いこう」
「え……それだけでいいの? レッド」
「うん」
「……あー、クソッ!! 分かった分かった! こいつがいいって言うならそれでいいんだよ。行こうぜ、二人とも」
要するに、こいつの言いたかったことはこうだ。
「オレ」たちは一時避難するだけであって、帰ってこないなんて言ってない。必ず、また「あいつら」に会いに戻ってくる。だから、この場に相応しいのは「さよなら」でも「ありがとう」でもない。
『おかえり』と出迎えてもらうために、「オレ」たちは宇宙に行くんだ……。
(そうだよな、カメックス、ピジョット、みんな……『行ってくる』ぜ! レッドに言われて気がつくなんてっ、情けねー!)
「オレ」は急に血が滾る感覚を覚えて拳を握った。
いつか、ポケモンリーグの頂でレッドと対決したあの日のことを思い出す。
「レッド。戻ったら勝負しようぜ、制限なしでだ」
「……! ……うん」
「あっ、ずるーい! わたしも! わたしもバトルするんだから!! 抜け駆けはナシだよ!」
いつかの旅路で眺めた、赤い夕焼けが西に広がっている。しばらくは星空尽くしになるんだよな、と「オレ」は今から辟易とした。
マサラ出身の、いつも一緒につるんでいた三人揃い踏みで船に乗り込む。最終確認を終えれば「オレ」たちはしばらく、ここには帰ってこられない。
リーフと並んで最後の景色を目に焼きつけた。一方でレッドは外には見向きもせず、ただ黙って手元のポケモン図鑑を眺めている。初めてじーさんからもらった初期型の図鑑だ。ふと懐かしくなって、「オレ」はレッドの向かいに腰掛けていた。
「なんだよ、感傷に浸ってるのか?」
「……」
おもむろに、図鑑の画面を突きつけられた。今となってはちっぽけに感じる液晶に、レッドにとって初めての手持ちとなったポケモンのデータが表示されている。
「オレ」にとってのゼニガメだ――無意識に息が詰まった。
その瞬間、ガタンと大きく船が揺れ動いた。大気圏を出たんだ、と「オレ」はリーフの小さな悲鳴を聞きながら窓の外を見る。視線を戻せば、幼馴染みはふう、と満足したように息を吐いて、また膝上に戻した図鑑に視線を落とし始めていた。
「……レッド。おまえ」
「……」
返事はない。相変わらず、何考えてんだかさっぱり分からねー。
ふと視線を感じて横を見ると、「仲いいんだね」と言わんばかりにリーフがニコニコと笑っている。
「なんだよ、リーフ」
「ううん。レッドもグリーンも、仲いいなぁと思って」
よくねえよ、呻きながら顔を隠そうと躍起になる「オレ」に、そんな照れないの、とリーフは声を弾ませた。
レッドのやつは相変わらず図鑑を眺めている。とはいえ……少しだけあいつの口角があがってるように見え、「オレ」はやれやれ、と渋々ながら苦く笑った。
それからというもの、「ぼく」たちはそれぞれ忙しく動き回っていた。
何かあったときすぐ連絡がつくようにと、「ぼく」たちマサラの三人組やその後輩、街のジムリーダーは、大型の宇宙船を基盤にした共同生活を送っている。全員同じ船に乗っているわけじゃないけど、エリア区分があったり設置場所が隣接していたりと、扱いは平屋に近いものを感じた。
……グリーンは、オーキド博士の孫だから、十代の頃からトキワジムのリーダーを勤めていたから、という理由で毎日どこかしらに引っ張り回されている。リーフもリーフで、ポケモンと離れたことで弱りきった子供たちに絵本を読み聞かせしたり、食事の支度を手伝ったりと忙しくしてるみたいだ。
「ぼく」は「ぼく」で、配線工事や外壁の補強工事、その他もろもろの手伝いに日々駆り出されている。生まれてこのかた、ずっとポケモンと一緒に旅をしてきたから、自分ではあまり役に立てているとは思えないけど……。
「おまえが先頭に立って動いてるってだけで、安心するやつらもいるんだよ」、そうグリーンが言っていたから、毎日なんとかやれているような状態だった。
「……」
昼過ぎ、資材が足りていないから今日はここで解散、と放り出された「ぼく」は、三日ぶりに割り当てられた部屋に戻ってきた。扉を開けると珍しく電気がついている。狭い部屋の奥まった空間で、グリーンがパソコンと睨み合っていた。
「よお、どうした。入らねーの?」
「……」
振り返らないままにそう言われて、できるだけ音を立てないように扉を閉める。座れよ、とばかりにグリーンは手をひらつかせた。
真剣にモニターを覗いては、何事かをタイピングしながら唸っている。「出来るから」という理由だけで、なんでも彼に押しつけすぎだと「ぼく」は思った。
「……」
「ん? そうだな、二徹直前くらいか? おまえはどうなんだよ、上手くやれてるのか」
「……」
「まあ変な話も聞こえてこねえし、っと……それよりレッド、面白いもの持ってきたぜ。おまえにも見せてやるよ」
グリーンが顎で差した先には、地球でよく使っていたシンプルな洗面台があった。洗面台……洗面台だ? いや、ちょっとサイズは小さめかもしれない。
「ぼく」の反応が予想通りだったのか、後ろから失笑が聞こえた。振り向いた頃には意地の悪い笑みを浮かべた顔が隣に並んでいる。
「使ってみろよ、レッド」
「ええ……」
「いいからやってみろって。ほら」
なんでそんなに自信ありげなのか。いや、グリーンだからか。なら仕方ない。
水は作れなさそうだから節水しろ、って言われてるはずなのに――蛇口をひねって「ぼく」はぎょっとした。
普通だ。普通に大量の水が流れてくる。浄水どころか水源の確保さえできなかった、って愚痴をこの星に来た初期の頃、隣の幼馴染みは言っていなかったか。
ばっと仰ぎ見た先で、グリーンは余裕しゃくしゃくに片目を閉じる。歩き出した背中を見ながら話に耳を傾けた。
「どうだ、すげーだろ! こいつは『ポケメタル』って鉱石を加工して作った代物さ。粘土も混ぜてあるんだが、材質が陶器ともプラスチックとも違うだろ」
「……、……普通に飲める」
「おい、しれっと飲むなよ、危なかったらどうすんだ! とにかく……ポケメタルは移住プロジェクトの初期に地球から戻った調査団が持ってきた石なんだ。じーさんたちと相談しながら解析を進めていたんだが、加工するのに手間取ってよ。最近になってようやく試作品が完成したってわけ! それがこいつさ」
「ぼく」は無言で水を飲んだ。ついでに顔も洗っておく。
よく分からないけど、この洗面台が「ぼく」が知ってる普通の洗面台とは違うってことだけは理解できた。
……グリーンは、オーキド博士の研究を継がないでポケモントレーナーとして歩む道を選んだ。なんでそうしたんだろう、と得意げに話す背中を見て思う。聞く限り研究職にも興味があったみたいなのに。
顔を拭いていたら「おまえ人の話聞く気あんの?」とさすがに怒られた。
「それで、……なんだっけ。ポケメタル?」
「おまえ、こういうときだけよく喋るな! まあいいや。ポケメタルは普通の石じゃねーんだよ。加工も発掘するのも手間だが、フシギな力があるみたいだ」
「……フシギな力、か」
「そっ。たとえばこの洗面台だ、周りから水分を抽出して自力で水源に変えちまう。一回でも蛇口をひねれば、ほぼ永久に使えるんだぜ!」
「ごめんグリーン。よく分からない」
「おまえ……! このすごさが分からないなんてよぉ……!!」
脱力した風に、グリーンはパソコン前に座り直した。座ったというより崩れ落ちたと言った方が正しい。
めちゃくちゃ深い溜め息を吐かれた。さすがにちょっとやり過ぎたかな? ……とりあえず、手近なカップに水を汲んで手渡しておく。グリーンは素直に受け取り、口をつけた。
「リーフにな、子供たちだけで安全に使える手洗い場がほしい、って言われてさ。それで『ポケライフ』の開発担当にコツを聞いたんだ」
机の隅に押しやられた雑誌を放られる。開きっぱなしのページには、「環境保護プロジェクトの……」と見出しが印刷されていた。地球から脱出したときに持ち出したんだろうか? 紙面は泥と水分で茶色く変色してしまっている。
「ポケライフ……この洗面台とポケメタルにどう関係が、」
「なんだよなんだよ、興味あるんじゃないか! へへっ……ま、オレも詳しくは知らねーんだけどさ。地球がああなる前に一時持ち上がった企画なんだとさ。仮想コインをご褒美にして、自分たちで率先して環境にいいことをさせようっていう取り組みだったらしいぜ。で、その洗面台も景品になっていたんだと」
「景品……」
「ポケセンの3Dプリンターに入力端末のパソコンからコインの交換データを送って、ポケメタルを……分かった。いっぺんに言い過ぎたな」
うんと答える代わりに首を縦に振る。とはいえ、だいたいのことは分かったつもりだ。
仮想コインを景品と交換して、環境保護、ゆくゆくはポケモンたちの生活環境を整えるために……なんだか子供向けのプログラムのように聞こえる。
グリーンは急に機嫌がよくなったみたいで、鼻歌混じりにパソコンに向かい直した。さっきまでの疲れた顔が嘘みたいだ。
「ぼく」たちはそれ以上を話さず、いつも通りにそれぞれの生活スペースに身を収める。「ぼく」はページをベリベリと剥がしながら、内容に目を走らせた。
「グリーン」
「ん? どうした」
「……すこし寝たら?」
「珍しいこともあるもんだぜ。明日は雨が降るかもな、レッド」
どういう意味、そう文句をつけようとしたとき、幼馴染みが背もたれに頭を預けてぐったりしているのが見えた。
過労もここまでくると笑えない。ベッドから腰を浮かせた「ぼく」に、親友は「三十分で起こしてくれ」と唸りながら身を起こした。
「……」
「無茶はしてねーよ。ほら、オレさま天才だから! 頼られる男ってやつ? おまえもちっとは敬ってくれていいんだぜ」
「笑えないよ。グリーン」
「オレが好きでやってることだから、いいんだよ」
それにしても珍しく口数多いな、茶化してくる声にも元気がない。珍しいのはどっちだよ、と「ぼく」は近場の白衣を放り返してやる。
「……ジムリーダーでも研究職でも、天才だと忙しいみたいだ」
「まあな、オレさま天才だから。このまま『博士』になっちまうのも、案外悪くねーかもな!」
「……」
「……なんだよ」
「……ポケモントレーナー、辞めるの? グリーン」
まどろみかけていた体のグリーンは、「ぼく」のほとんど反射に近い単語に肩を跳ねさせてから振り向いた。信じらんねー、と言うような目がこっちを見ている。
「レッド、おまえ……なんだよ、明日は雪でも降らせようってのか?」
「な……!?」
「おまえな。オレがトレーナー辞めちまったら、どこかの誰かさんがいじけてまたシロガネ山に引き籠もっちまうかもしれねーだろ。アホか」
「ちょっ……いつまで引っ張るんだよ、その話!」
昔のやらかしを持ち出されて、「ぼく」は顔に熱が上がるのを感じた。幼馴染みは意地悪く笑っている。
「そうだろ? あのときは大変だったからな! オレとリーフ、二人がかりで下山したおまえを……」
「わぁあああ! グリーン!!」
「よし、寝る。おまえまで寝落ちするなよ、レッド」
言い終えると同時に、グリーンは頭から白衣を被って寝息を立て始めた。な、なんだこいつ……。
「ぼく」は手で顔をあおぎながら、気を取り直して雑誌をめくる。
「ポケライフ」。長いことポケモンセンターにはお世話になっているけど、そんな取り組みに聞き覚えはなかった。聞いていれば覚えていそうな内容なのに。
小規模な計画だったのかな、そうして雑誌を片付けようとしたとき、サイドテーブルに放っていたポケギアが鳴る。
「……はい、レッド」
『んぎゃああああああ!! わああああん!!』
『わあっ、ちょっと待っ、きゃあ!』
「……!?」
相手はもう一人の幼馴染みだった。それにしたって大音量にもほどがある。大急ぎで受信音量を下げてみたけど、幸いにもグリーンが目を覚ました様子はなかった。
「リーフ! ……どうし」
たの、と言葉を続けられない。電話の向こうは子供たちのものと思わしき阿鼻叫喚に溢れていた。
ただごとじゃない、そう思って通話を切断しようとした瞬間、「わあー待って待ってレッド、切らないで!」と悲痛なリーフの叫びが聞こえた。
『レッド、聞こえにくいでしょ! ごめんね! あのね、レッドたち「館内放送」切ってるよね? 今すぐ点けてみてくれないかな!?』
館内放送。反芻するように言い返して、すぐに壁際に設置されたダイヤルに手を伸ばす。
放送内容は、万が一の避難勧告や……それ以外では毎朝決まった時間にその日の予定を簡易ニュース形式にまとめて流す、娯楽のひとつとして扱われていた。要はラジオみたいな感じだ。「ぼく」とグリーンは興味が湧かなかったから、最近では放送そのものを切っていた。
『――す』
……なにか聞こえる。いつもの放送担当の声じゃない。
耳を澄まそうとした瞬間、キーンと音が外れる音がした。調整も下手くそだ、それと同時に、背景で複数の人間が揉めている気配もある。
「……!?」
『――す、繰り返す! こちら、「レッド」!』
「!? ええ……」
「ぼく」は我が耳を疑った。いま、なんて言った? 「レッド」って聞こえた気がしたんだけど……。
顔を上げた先で、音声が一時派手に咳き込む。何度も同じ内容を繰り返しているのか、声が掠れはじめていた。
『繰り返す、こちらレッド! この放送局は我々が占拠した! 返して欲しくば、宇宙移住プロジェクトのお偉いさんを連れてこい! 今! すぐに!!』
……同じ言語のはずなのに内容が理解できない。これならまだリザードンの言葉を翻訳しろと言われた方が楽に感じる。
後ろで誰かが噴き出す音がした。視線の先で、白衣を被った誰かさんが盛大に肩を震わせている。
「……、『こちらレッド』」
「ひゃはは、やっ、やめてくれ頼む! ふ……レッド、放送局は西の階段を使えば近道だぜ。オレも行ってやるよ」
いらないよ、遠慮するなよ、「ぼく」たちはそんなやりとりをしながら部屋を飛び出した。
騒動は広がりつつあるようだ。部屋から顔を出している人も多い。グリーンに言われるまま西フロアに向かうと、通りは閑散としていた。工事中なのか、ところどころに鉄製のチェーンが張られている。構わず一気に階段を駆け上がる。
グリーンが「速ぇんだって」と文句を言うのが聞こえた。
「――だあああ! 俺もう知らねーからな、レッド!!」
「!? ……」
狭いながら、拓けた通路に出る。ど真ん中で宇宙船の警ら担当者複数と、見慣れない黄色いつなぎを着た若者が揉めていた。
これは無視でいいか、と「ぼく」は彼らの隙間を縫って部屋に飛び込む――卓上マイクの前に、息を切らせながら「放送」を続ける見知った背中があった。
「……り、えす……」
「……」
ラチがあかない。「ぼく」は足早に歩み寄ると、もう一人のレッドからマイクを引ったくった。
「『いまの、なし』」
大きく息を吸って、一言だけ吐き捨ててから音声を切る。
隣の若者は、何が起きたか分からない、とばかりに目を見開いて固まっていた。その横に今度はグリーンが滑り込み、もう一度マイクに電源が入れられる。
「あー……『いいか、よく聞け! 今オレは放送局の頂点にいる。この意味が分かるか、みんな! ……教えてやる! たまのマイクテストだ、バイビー』!」
「ぼく」たちはそう言ってマイクを切りつつ、耳まで真っ赤にしながらその場に屈んだ元トキワジムのジムリーダーの勇姿を見守った。
フォローおつかれ、そう言う代わりに頷き返すと、「うるせえよ」と今にも消え入りそうな返事があった。
サイト掲載:2026/08/01