季節が変わる4月、新しい土地で始まる新生活。
『新入生の皆さんはこちらでクラスの確認をお願いします!』
校門に立つ教員は新入生をクラス分けの掲示板へと誘導。自分のクラスを確認すると2組の教室に
教室に入ると、私は最後の方で多くの生徒の姿があり、グループを作って談笑している。
私の席は窓際から数えて一列目の一番後ろ。
(先生が来るまで寝てよ)
顔見知りがいない環境で初日から声を掛けられることはないだろうしと思いながら、椅子に座ると春風が心地よく、机に顔を埋めると寝息を立て始める。
「寝てるのかな?」
「そろそろ先生が来るから起きした方がいいわね」
「おーい。起きて―」
寝始めてから数分が経過した頃に私の周囲で話し声が聞こえる。声の数は3人で私を起こそうと体を揺すっている。
「……何?」
「もうすぐ先生が来るから起きたほうがいいよ」
顔を上げると、私を起こそうとしていたのは近くの席で野球談議に花を咲かせていた、川口息吹さん、川口芳乃さん、武田詠深さんの3人だった。
「もしかして、野球経験者?」
「そうだけど」
「手に触れた時にわかったよ。これは経験者の豆だもん!」
3人と自己紹介を交わしてから、芳乃さんは興奮気味に私の手に触れる。
「凪ちゃんは何処のポジション?」
「投手」
夢中になっている芳乃さんとは対照的に息吹さんは関心は薄い。
「2人って姉妹なの?」
「ええ。私が姉で芳乃が妹」
「似てないでしょ?」
武田さんははっきり言うタイプ。私とは真逆の性格みたい。
「凪ちゃんはストレートが凄そうだね。変化球はチェンジアップかなぁ」
「当たってる?」
正解……。というか、触れただけでそこまでわかるの?
「凪は何で新越谷にしたのよ?」
「……親の転勤」
「家が近かったの?」
「うん」
親の転勤で今年から埼玉で暮らし始め、新越谷に決めた理由は家が近いから。
「野球はするの?」
「……来たばかりだからまだ決めてない」
こっちに暮らし始めてからまだ数日で環境になれた方がいいと思うしね。
チャイムが鳴ると担任が来てから3人は自分の机に戻っていった。
☆☆
入学式後は今後の予定を担任から説明を聞き解散となった。
「これからレイクタウン行かない? 行ってみたかったんだよね」
「それじゃ昼ごはんそこで食べましょ」
「いいねー。お話もしたいし」
ここら辺の地理はまだ疎いから行き先は3人にお任せしたほうが良さそう。
「めっちゃ大きいらしいね」
「そう! 入口から端っこまで1キロもあるのよ」
「マジ? 大きすぎ!」
「ガチで回るとヘトヘトになっちゃうよね」
廊下を歩いていると特徴的な髪留めをしている黒髪の女の子とすれ違う。
「ヨミちゃん…?」
女の子が漏らした呟きに反応するように私たちは足を止めて振り返る。
「やっぱりヨミちゃんだ。珠姫だよ。覚えてない?」
「タマちゃん…! 覚えてるよ。久しぶり〜!!」
「いっ!?」
武田さんの突然のスキンシップに女の子は戸惑う。
「急に転校しちゃうんだもん。懐かしいなぁ。昔、よく遊んだよねぇ。うん、なるほど。確かにタマちゃんの匂いだ」
「知り合いみたいね」
2人のやり取りを見ていた芳乃さんは女の子を見ると壊れた機械のようにフリーズ。
「山崎 珠姫さん……どうしてここに……中二の時に名門美南ガールズの正捕手!強気なリードと守備が魅力だった人だよ。去年は強打の捕手の台頭で控えだったけど、私は珠姫さんを使うべきだと思ってた!」
芳乃さんは復活すると呪文を唱える様に高速詠唱。
「ファンです!サイン下さい!!」
芳乃さんは鞄から色紙とペンを取り出してサインを求める。
「へぇタマちゃんも野球してたんだね」
「ヨミちゃんもやってたの?」
「うん。1回戦負けだけどね〜」
山崎さんは普段から書いていたのか慣れていた様子で色紙にペンを走らせると芳乃さんに渡す。
「タマちゃん、アレしよっか」
「アレ?」
「野球少女の再会の儀式といったらキャッチボールしかないでしょ!」
そんな儀式あったんだ。知らなかった