週末を開けてからの練習。
「合宿! やったー!」
「三泊四日。場所は学校だよ」
練習前に試合の振り返りのミーティングをしていた芳乃さんからGWウィーク期間の合宿を告げられる。
「合宿の〆には藤和高校及び、大鷲高校と練習試合を組みました」
「藤和って昨年の東京代表やろ!?」
「Bチームらしいけどね。大鷲も千葉16強だから結構強いよ!」
監督って実は結構凄い人なのでは……?
日は進んで合宿初日。内野陣にノックを打つのは芳乃さんではなく、監督だった。
「さぁ。行きますよ!」
「こい!」
監督はボールを宙にあげながらも空振り。
「……すみません」
「おいおい……大丈夫か? 先生、無理するな」
カキン!
川崎さんが言葉を言い切る前に先生が放った鋭い打球が抜けていった。
「何だ! 今の!?」
「柳大は振れているチームではありませんでしたからね。高校野球の打球の速さを叩きこんであげます」
内野陣は監督のマジノックの餌食。初日から結構ハードメニューだ。
「まだ始まったばかりなのに……」
「皆、ちょっと聞いて~野手の面談をするから希ちゃんから順番に来てね。凪ちゃんとヨミちゃんはいいからね」
呼ばれた中村さんはベンチ裏に消えると、ぎゃっと悲鳴が聞こえる。
「次、菫ちゃん」
「何をされたの?」
「マッサージをされた……?」
野手だけってことはこの前に言っていた投手の適性者を探すのかな。
「おまたせー」
「何だったんだ? 気持ちよかったけど」
「上半身の可動域、体の柔らかさ、下半身の強さ。投手の適性を見ていたよ。ついては理沙先輩と息吹ちゃん。2人には投手のメニューもしてもらいます」
「ちょっと聞いてないわよ!? 一緒に暮らしてるのに!」
「投手用のグローブを持ってる癖に」
持ってるんだ。
「とりあえず、投げてみよ」
「わかったわよ……」
息吹さんは朝倉さんのフォームを複製。球速まではコピーできずにスローボール。
「球速もコピーしろよ」
「無理言うんじゃないわよ……」
球速はないけどボールにノビはある。
「次、理沙先輩」
「ええ」
藤原先輩が投じたボールはどっしりとした球威。
「重そう!」
「確かに重そう!」
「重そうです!」
球威の話ね。藤原先輩の額に青筋立ってるから後でフォローしとこ。
「思ったよりもどっしりしてる。私たちよりも1年体作り出来てる。コントロールがついたら、試合でも投げてもらうよ。投げ込みは1日70球くらいで」
息吹さんは複製でアンダースローのコピー。こういう選手がチームに1人いるだけでかなり助かるよね。
「むー……」
「凪ちゃんは外野の練習にいってね。終わったら一塁手でノックを受けてもらうから」
「私も投げたい」
「終わったらね」
主将の鬼のようなノックがセンターで受けてからは、ベンチで水分を捕球後に一塁手でノックを受ける。
(あっちはきつそう)
二遊間は下半身強化のメニューで股割り。三塁手と一塁手を兼任する武田さんも加わってる。下半身がきつい中で股割りはしんどいので、あそこには入りたくない。
「凪~。興味があるなら加わるか?」
「先生、凪ちゃんが仲間に入れてって目で見てるよ!」
見てないから!!
1日の練習を終えてからは寮での食事。食事を終えてからは自主練の時間では私はタオルを持ってシャドースロー。
「凪ちゃんも自主トレ?」
誰もいない場所を探していると素振りをしている藤原先輩を見つけた。
「……今日、あんまり投げてないので」
「野手がメインだったよね」
「はい」
初日は野手の練習が多めで投手は少なめ。大会期間中には野手としても出場するだろうし、意図はわかるんだけど、投手用のメニューも多くこなしたい。
「2人とも。ここにいたのか」
「怜、よくわかったわね。ここなら誰も来ないと思ったんだけど」
「ここってあれだろ。出るって噂の」
「あんなの信じてるの? 可愛いとこあるじゃない」
出るってもしかして幽霊的なあれ? 私、見たことがないから遭遇してみたい。
「凪ちゃんの目がキラキラしてる」
「……見たいです」
「信じてないからな! 出ないかもだし!」
でないんだ。ちょっとがっがり。
「てか、初日から飛ばしすぎじゃない?」
「柳大戦で足を引っ張ったからね」
「しかし、今の状況。昨年を思えば考えられないな」
「自主練をしていたら先輩に怒られた物ね」
自主練で先輩に怒られるって環境がかなりやばかったんだろうな……。
「諦めないで良かった……ありがとう。残ってくれて」
「どういたしまして……でも、私はちょっと違うかな。もちろん、新チームで野球ができてうれしいけど、私が残ったのはもっと個人的な理由」
「それは……」
あれ……? 私、聞いちゃいけない話聞こうとしてる……?
「凪ちゃん、何処に行くの?」
「……私、お邪魔かなって」
「邪魔じゃないぞ」
2人の空気感でいちゃいけないって感じがするんですけど! それをいえたらいいんだけど、上手く言葉にできない。
「私の目標は貴女だからよ」
「それって……」
「せいぜい、追い抜かれないように頑張りなさいよってこと」
2人にしかわからない関係性。月明かりが2人の周囲を美しく照らす。
「投手はやれそう?」
「選ばれたからにはやるしかないでしょ。1試合でも多く勝つためにはエースを温存しないといけないときもある。凪ちゃんもね。2人はいい投手になる。大事にしないといっけないから。それに4番投手って1回はやってみたいからね。その時は私が怜を超えるのよ」
「ふふ。そうはさせるか」
残った先輩たちがこの人たちで良かった。いろんな人たちがいたと思うけど、先輩たちと野球ができる時間を過ごしたい。