夏の予選前の練習試合も残り1つ。
「行くよー」
練習が終了後の自主練のグラウンド。武田さんは芳乃さんに新しい変化球を見せる。
「変化してる?」
「ツーシームっぽいよね」
武田さんが投じたのはツーシームとカットボール。どちらも変化としては小さいけど動いている。
「いまいち手ごたえがない。凪ちゃん。お手本見せて~」
「わかった」
武田さんからボールを受け取ってからお手本としてツーシームを投じる。
「おお……!!」
私のツーシームは右打者のインコースに横方向に食い込みように変化する。
「凪は当てるつもりで投げてきてるから怖いわね……」
「当てるつもりはないけど」
私の場合はインコースが主体になるからそう見えるのかな。
「凪は新しい変化球はいいの?」
「外に逃げるアウトコースのボールが必要かなって思ってるけど、今すぐはいらないかって思ってる」
投球の大半を占めるストレートに加えて、緩急をつけるチェンジアップ。これにアウトコースに逃げるボールがあれば今よりもピッチングの幅は広がる。
「凪ちゃんは今のスタイルで足場を固めてきたから。新しい変化球は今すぐにやらなくていいと思うよ」
私の合宿のメニューは野手の練習と投球のレベルアップ。合宿の効果は疲れが抜け始めてから球のスピードとキレが増してきた。
「ヨミって器用よね。投げ始めて日が浅いのに物にしてるし」
「あのカーブが投げられるだけで充分凄いよ」
武田さんは器用なタイプだと思う。普通の中学生があのクラスのカーブを物にするって努力と器用さがないとできないと思うし。
「凪ちゃんのチェンジアップも覚えたいなー」
「……こうだけど」
「ふむふむ……」
武田さんにチェンジアップの握りを見せると、武田さんは専門家のように鋭い目で観察する。
(じっくり見られると恥ずかしいんだけど)
この前の会話が脳裏に浮かびながらも、表情を崩さないようにポーカーフェイス。
武田さんは私のチェンジアップの握りを真似するように投じたボールは大暴投となり、フェンスの一番上に当たる。
「……力入れすぎ」
「だって、届かないんだもん」
「入れなくても届くよ」
チェンジアップはストレートと同じ腕の振り方で投じながらも、球速を落とすことができる変化球。
「体重移動も出来てないね」
「ダメだしばっかり……」
チェンジアップは体への負荷も大きくないし、武田さんには向いていると思うけど、今はカットボールとツーシームの方がいいよね。
「最後で試すの?」
「うん。次で最後だから。情報は集めてあるし、最後は勝っていい空気で締めたいね」
次が本番前の最後の練習試合。連敗中の悪い空気は勝っていい空気で本番を迎えたい。