物静かな天才少女が描く野球道   作:小羽空

17 / 19
夏の始まり

 

開会式を数日後に控えた朝のこと。

 

「ねぇ。あの子じゃない?」

 

「注目選手の1人って雑誌に載ってたよね」

 

学校までの通学路。生徒たちが私の方を見ながら話をしている。

 

(……?)

 

同学年だけじゃなくて先輩たちまで見てる。野球部……だからではなさそう。

 

視線を感じながら教室に入る。

 

「……おはよ」

 

「おはよー!」

 

芳乃さんの席の周りには武田さんと息吹さん、山崎さんがおり、4人は雑誌を読んでいたみたい。

 

「週刊ペナントの増刊号! うち(新越谷)も乗ってるよ!」

 

高校野球の注目度は年々高まっており、各地域ごとの注目選手や学校の特徴が記してあった。

 

新越谷1年生主体の若いチームで再スタート。

特徴 1年生9人、2年生が2人の平均年齢は若いチーム。1年生、エースの武田はコントロールのいいストレート、スライダー系の球で打者を打ち取る。スタミナもあり、ゲームメイクに優れている好投手。投手陣は練習試合で大量失点の展開が多く、左腕の白石は全試合にリリーフ登板。スタミナに 不安要素がある。大会までに改善できるかで変わってくる。打線は1番の俊足巧打の中村が引っ張り、4番には主将の岡田が返す。脇を固める選手たちの能力も優れており、エンドラン、バスターと小技を駆使しながら、打線の軸となる2人を中心にしながら、先行で逃げ切りを目指すチーム。   

注目選手野手、中村 希 左投げ左打ち、内野兼外野手。1年。投手、白石 凪、左投げ左打ち。1年、投手兼外野手。 

 

注目選手ってこれのかな?

 

「凪ちゃんのことも書かれてる」

 

「変なことを書かれるよりはマシよ」

 

「確かに」

 

武田さんは山崎さんが持ってきたであろう紙袋の中にある紙の束を手に取って見始める。

 

「吉川さんのデータ、こんなに細かく……」

 

ハイライトが消えてる。こっわ……。

 

「そ、そういうのじゃないから」

 

「そういうのってどういうこと?」

 

「だから、芳乃ちゃんに渡そうと思ったの! 勝つために!」

 

「そっかー、じゃあ、タマちゃんの元チームメイトがいるで梁幽館もみよっかー」

 

めっちゃ棒読み……。

 

「流石、名門! 4チームもある。いいな~」

 

「この2人はプロ注目だよ!」

 

梁幽館のページはプロ注目の陽さんと中田さんを擁しており、全国に出たこともある名門で複数ページに渡っての特集。

 

「プロ注かぁ……早くやりたいね」

 

「うちにも凪ちゃんがいるからね。まずは初戦、勝たないと」

 

「うん!」

 

強豪との試合は楽しみ。まずは目の前の影森を倒さないとね。

 

日は進んで開会式当日。球場には多くの高校球児が開会式の時間を待つ。

 

(迷った……)

 

始まる前にトイレを済ませてから戻ろうとしたら違う場所に出たことで迷った。

 

「凪?」

 

探していると近くから声を掛けられた。

 

「久しぶり。あんた、何してるのよ? こんなところで」

 

「……久しぶりです。小林さん」

 

振り向いた先にいたのは私の中学時代の先輩で梁幽館の正捕手でもある小林依織さん。

 

「トイレに行ってたら迷って」

 

「あんたの方向音痴、治ってないわね……」

 

「小林さんも?」

 

「私は違うわよ」

 

小林さんは私と違ってチームメイトを探しているとのこと。

 

「あんた、新越谷にいるんでしょ。記事で見たわ」

 

「親の転勤で」

 

「こっちに来るなら来るで連絡よこしなさいよ」

 

こっちに来てから色々あったから、中学時代の仲間とはあまり連絡が取れていない。

 

「ま。野球を続けてるのはよかったけど」

 

「辞めてると思ってました?」

 

「昨年のあんたを見てるとね。野球を辞めるつもりでやってたみたいだし」

 

昨年の今頃は来年は野球をやっていないだろうと思ってた。

 

「背番号は二桁。あんたよりも上の投手がいるってこと?」

 

「うちのエースは凄いです。私よりも」

 

「へぇ……」

 

武田さんは私と比較すると能力も性格も見習う所が沢山ある。

 

「あ、いた」

 

「……あの人ですか?」

 

「ええ」

 

小林さんが探していたのは梁幽館の吉川さんだったみたい。

 

(吉川さんと武田さんの間でなんか圧を感じるんだけど)

 

2人の中心にいるのは山崎さん。なんとなくだけどやり取りが予想できる。

 

「依織の元の相棒ってこの子?」

 

「ええ」

 

「初めまして。話は沢山聞いてるよ!」

 

吉川さんはフレンドリーな人で握手を交わす。

 

(武田さんと似てる)

 

2人が同じチームなら山崎さんを取り合ってそう。

 

「凪ちゃんは小林さんと組んでたの?」

 

「……中学の頃によく組んでた」

 

組んでた頃は褒められるよりもお説教の方が多かった。

 

『投げたいストレスが溜まってるなら受けてあげるから』

 

『外野の練習も意味があるから。今のあんたには向いてる』

 

褒められた記憶よりも怒られた記憶の方が浮かんでくる。最後もいろいろ言われたし……。

 

「聞いていいかわからなかったけど、凪と珠姫って何でうちにしたの?」

 

「別に普通だよ。家の距離とか学力とか」

 

「……私も家の距離」

 

藤田さんは振れちゃいけないと思いながらも遠慮気味に聞いてきた。

 

「強いチームにいた人って強い所に行きたがるもんじゃないの?」

 

「人、それぞれじゃないかな。まぁ、私の場合は進路を決める頃に高校生活を野球に捧げるほどの熱はなかったのかも。だけど、今は好きだよ。このチームも野球も」

 

価値観は人、それぞれだけど。私もこのチームは大好き。一歩踏み出した世界で出会えた皆に感謝してる。

 

開会式のアナウンスが流れると選手入場。初めての夏、大好きな仲間たちと1つでも上に上がりたい。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。