新越谷高校野球部に入部した私たち。
「3人と
「ヨミのは中学の時のやつ?」
「そだよ〜」
教室で
「息吹ちゃんも買わないとね」
「そうね……」
息吹さんは選手として参加。野球道具は高いから学生にとっては高い買い物になる。
「グラウンドに誰かいるよ!こんにちはー! 先輩ですか?」
「ちわっす!」
「こんにちは。私たちは1年よ」
グラウンドでは先に来ていた2人の少女がストレッチ。
「2人とも1年生なんだね。何処の中学?」
「私たちは南相模よ」
「私と芳乃は光陽台桜だから隣の校区ね」
「おっ、近いな!」
芳乃さんは2人に食い気味に興味を示す。
「ポジションは!? それと名前!」
「藤田菫よ
「川﨑稜
同じ中学からセットで二遊間が来てくれるのは心強い。
「二遊間かあ」
「それは頼もしいわね」
「うんうん、下半身すごくいいよ!」
芳乃さんの分析力凄くない? あれで全部わかるんだから。
「おーい! 誰かノック打って!」
「こら! 稜ったら勝手に入ったら怒られるわよ!」
自己紹介の後にストレッチを始めると、先に終えていた川崎さんは待てなかった様子でショートのポジションへ。
「せっかくグラウンド綺麗にしてくれてるのに」
「一連の不祥事には暴力沙汰も含まれてるらしいし、おしりバットくらいは覚悟しないと」
「ひっ!?」
新越谷は不祥事明け。校内の野球部に対しての風当たりは相当厳しい。
「停部まで食らってるんだし流石に改善されてるはずだけど……」
「ほっ……」
「その代わり腕立てやスクワット100回とかはあるかもね」
「ひー!!」
前年までの野球部の様子は部外者にはわからないけど、丁寧にトンボが掛けられているグラウンドと倉庫に眠っていた道具は埃が被っていなかったから、残っている人たちは噂とは無関係であることを願いたい。
「……仕方ないわね」
「菫ちゃんも行くんだ」
「こういうのってどうせ連帯責任でしょ」
川崎さんの相棒の藤田さんは急かすように待っていることにため息交じりでセカンドのポジションへ。
「じゃあ私が打ってあげるよ!」
「もー、芳乃まで」
「芳乃ちゃん、ノックが打てるんだ」
「私たちは遊びでやってたしね」
「へぇ」
遊びでノックを打てるって技術が高いってことにならない?
カキン!
芳乃さんは2人に向かってノックを放つ。ショートの川崎さんは派手さが売りなプレイスタイルで送球に難があるタイプ。
セカンドの藤田さんは川崎さんとは対照的に守備に自信があり、堅実な守備からの送球が丁寧。
「菫のプレーは上品過ぎるんだよ!つまんねぇ」
「アウトが取れればいいのよ。あんたはいい加減チームプレーを理解した方がいいわ」
川崎さんの擦りむいた膝を藤田さんは丁寧に処置しており、喧嘩するほど仲良しってことだよね。
「先輩が来たみたいだよ」
ネット越しに練習の様子を見ている先輩たちに武田さんが気付いた。
「こんにちは」
「……こんにちは」
「こんにちは。2年生の藤原理沙です」
「岡田怜……です」
野球部に籍を残している上級生は2人だけで、多分この人たちだよね。
「お待ちしてました!先輩! 早速一緒に」
武田さんが歓迎するように差し出した手を岡田先輩は振りほどく。
「私たちは別だから」
「えっ」
「あなたたちのお遊びに付き合うつもりはないから」
岡田先輩の言葉に川崎さんの怒りは頂点に達し、向かっていこうとするのを山崎さんが宥める。
「ここの野球部は以前は結構強かったの」
「1度、全国にも行きましたね!」
「この数年は結果が出なくて……普段の練習やしごきで上下関係も厳しくなっていって……私たちが入った頃は最悪だった。それがある時に度を越してしまって。学校からは対外試合禁止で野球部は活動自粛。残っていたメンバーは退部したり、他の学校に転校したりして、残ってるのは2人だけになっちゃった」
藤原先輩の説明に重たい空気が流れる中で最初に口を開いたのは藤田さんだった。
「先輩たちはなんで残ったんですか?」
「新入生が入ってくるまで廃部にならないように、部だけは残しておいたんだ。最後に役立って良かったよ」
「最後にって……じゃあ先輩方は……」
「私たちはクラブチームの練習に参加させてもらってたんだ。大学や社会人でやり直すためにも、これからもそうするつもり。今後は新入生で新しい野球部を作ればいいよ」
先輩たちが部を残した理由は理解できる。1つだけ理解できないことがある。
「先輩! 私たちの球を打ってみませんか? 野球部存続のお礼の意味も込めて……もちろん、真剣勝負ですよ! いいよね? タマちゃん、凪ちゃん」
「う、うん!」
先輩たちを引き留める様に武田さんはボールを手にしながらいった。
(この人たちも本当はここで野球をしたいはずなんだ)
後輩のために部を残したのは嘘は言っていないと思うし、この環境で学校に残るのはデメリットでしかないのだから。
☆☆
先輩たちが更衣室で着替えてから内野手の数が足りないので、外野の三つのポジションに守備を敷く。
「外野に強い当たりが出たら私の勝ち。それ以外はそっちの勝ちでいいよ」
「サービスいいですね」
左右間には二遊間、右中間には私と息吹さんが入る。
初球はアウトコースへのストレート。いいコースに決まったことで岡田先輩は手を出せずに見送る。
B0-S1
2球目はインローへあの球。左打者にとっては真ん中にすとんと落ち、右打者にとっては体の近くから急激に変化をつけることで打ちにくく、岡田先輩は空振り。
B0ーS2
3球目はインコースがインローへ決まる。あの球を見せられてのストレートは直前に見た残像が意識に残っていることから、わかっていても反応できない。
B1ーS2
「先輩! この勝負、負けた方がなんでも言うこと聞くってどうですか?」
「は?」
武田さんはピッチャー有利のカウントで賭けを持ち出した。
「いいよ…でもそう簡単にはいかないよ」
「やった!」
両者の実力は拮抗している。
「何があんなに楽しいんだか…」
「中学の時いなかったんです。あの球を捕ってくれる
「……そう」
勝負は次で決まる。
カキィンン!!
4球目、岡田先輩は決め球のあの球を右中間に運ぶ。捉えた打球は風に乗りながら勢いを増していく。
「私が取るから!!」
息吹さんが追いかけ始めたのを目で確認すると、私は私が取ると大声と手を上げて合図。地面スレスレの位置の打球をスライディングキャッチで捕球。
「ふー……」
ダイビングも考えたけど慣れないプレーで怪我したくないし、こっちの方が正解だったかな。
「凪、ナイスプレー!」
「声出るじゃん!」
「……おっきな声出したから、喉が痛い」
普段は大声を出さないんだけど、慣れてないポジションで交錯はよくあることだし、自分の方が距離が近いことから声を出してよかった。
「そっちの勝ちだよ。いい球だった、悪かったよ。さっきはお遊びなんて言って」
「そんな…」
ベンチの近くで3人は集まっており、岡田先輩の謝罪に先ほどまでキレていた二遊間は怒りを鎮める。
「怜先輩、私たちの勝ちらしいので、お願いがあるんですが」
「………いってみ?」
「一緒に野球をやりましょう!出来たら
そういえば、掛けしてたっけ。
「いいよ。けっこう厳しくいくからね」
「はい」
「そうこなくっちゃな」
「理沙もそれでいい?」
「もちろん」
武田さんからのお願いに岡田先輩は今まで見せていた表情を崩すように笑みを浮かべながらいい、2人の先輩の加入が決まった。
「ところでタマちゃん、あの球が打たれちゃったね……。実は私の球は大したことないのでは」
「そんなことないよ! 誰か打ちたい人!」
あれは岡田先輩が凄すぎただけだと思うけど。
藤田さん 三振
川崎さん 三振
藤原先輩 内野ゴロ
山崎さんは希望者を募ると息吹さんを除いた3人が手を上げた。
☆☆
一巡したから私も皆と対戦することに。守備陣はライトに藤原先輩を加えた形で私が抜けたセンターには息吹さんが入る。
「……先輩だからって手加減できないので」
「本気でいいよ」
最初に打つのは岡田先輩。芳乃さんの話によると県内でも優れたトリプルスリーの実力者。
(こういう打者と対戦する機会は滅多にない)
この先、人数が集まり始めたら紅白戦やシート形式で対戦する機会はあるだろうけど、ガチで勝負できるのを機会を楽しみたい。
(昨日の投球練習からストレートは県内でも上位クラス)
(ヨミちゃんのあの球を右中間に運んだ。怜さんの実力はかなり高い)
山崎さんのサインは真ん中低め。ロジンに触れてからサインに頷く。
パァァァン!!
真ん中低めのストレートに岡田先輩は豪快に空振り。
S1ーB0。
2球目はインハイの高めのつり球のストレート、岡田先輩は釣り玉にも手を出し振り遅れるようにファウル。
S2ーB0。
「想像以上だな。あのストレート」
「後ろから見てても圧が凄いですよ。球速よりも球のノビがエグイ」
3球目はアウトコースへのツーシームがゾーンをわずかに外れる。
S2ーB1。
(凪ちゃんは県内でも屈指の左腕になれるだけの素質を持ってる)
(狙うとしたらストレート。さっきは振り遅れたけど……今度は仕留める!)
4球目、インコースへのストレート。サウスポー特有のクロスファイヤーの軌道に岡田先輩は当てるだけの打撃となり、鈍い音が響く。
カキィン
ボールの力に負けたボテボテのゴロが私の足元に転がる。
「ナイスボール」
「……空振りが取れると思いました」
空振りが取れると思ったけどストレートに合わせて振ってきてたから、岡田先輩だから当てることができた打球。
「私も打ちたい!」
「待て! 私が先だぞ!」
「あのなの打てないわよ……」
藤田さんは三振
川崎さんは三振
藤原先輩は内野ゴロ
「あれが凪ちゃんのストレート……狙ってたのに打てなかった!」
参加した武田さんは三振でした。ストレートは初球だけで後は変化球だったのは内緒。
「怜さんが凄いんだよ」
「それにね、怜ったら気になってずっと見てたの。本当は会えるのを楽しみにしていたのよ」
「余計なこと言わないで!」
「それで研究されてたんだ」
身内からの暴露に岡田主将は顔を赤く染めながら。
「
普段から走ってるから走るのは得意。