物静かな天才少女が描く野球道   作:小羽空

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構想としては後半からは3人称でやるかも。前半は1人称で行かせてください。


試合

それから1週間後、対外試合の始めての相手は。

 

「柳川大附属川越高校、通称柳大川越!以前は弱小だったけど、去年の夏は1年生の朝倉さんを中心に1・2年生主体のメンバーで県ベスト16、秋大会はベスト8! 今年イチオシのチームだよ!」

 

「試合、よく受けてくれたわね…」

 

柳大川越の守備陣の動きは緊張感があり、守備から攻撃を作っていくチームみたい。

 

「左のサイドスローか」

 

「カッコイイ! あの人が朝倉さん?」

 

「違うよ。あの人は大野さんだよ」

 

プルペンではエースナンバーを付けた投手が投球練習。あまり見ない軌道でもある左のサイドスローだ。

 

「朝倉さんは怪我かなぁ……。春は大野さんが投げてるよ。通算で28回を投げて5失点! 春はベスト16で敗退してるけど、今のエースは大野さんと言っても過言じゃない! サインくれるかなぁ……」

 

芳乃さんが夢中になってる朝倉さんは不在の様子。左のサイドスローってあまり見ないから勉強にはなるかも。

 

「……キャッチボール、付き合う」

 

「ありがと」

 

私はベンチ前でキャッチボールをしている息吹さんと大村さんのキャッチボール。

 

「凪は10でよかったの?」

 

「ベンチスタートみたいですけど……」

 

今日は芳乃さんが事前に発注した練習試合用のユニフォームを着用、背番号が刺繍されている。

 

1番 ファースト   中村 希  背番号3

2番 セカンド    藤田 菫  背番号4

3番 キャッチャー  山崎 珠姫 背番号2

4番 センター(主将) 岡田 怜  背番号8

5番 ショート    川崎 稜  背番号6

6番 サード     藤原 理沙 背番号5

7番 ライト     大村 白菊 背番号9

8番 レフト     川口 息吹 背番号7

9番 ピッチャー   武田 詠深 背番号1

 

ベンチ入り メンバー

 

ピッチャー 白石 凪 背番号10

 

私はベンチスタート。昨日のうちに芳乃さんから意図を聞いているので、2人には実戦感覚を身に着けて意味合いでのスタメン。

 

「……スタートで行くのも途中で行くのもそんなに変わらない。私は自分にできることでチームに貢献するだけ」

 

本音を言うなら、ベンチスタートはやっぱりつまらない。意図はわかるし、自分なりに納得したんだけど、ベンチで試合を見てるよりはグラウンドにいたい。

 

「凪もキャッチボールをやるぞ。私が相手してやるから、いっておくが、本気で投げるなよ!?」

 

「……投げていいの?」

 

「ダメに決まってるだろ!!」

 

試合前に川崎さんを相手にキャッチボール。出力を抑えた形での川崎さんが取りやすいボールを投じる。

 

「今日はお願いします」

 

「こちらこそ。大野に機会を積ませたいので……所で」

 

監督同士が挨拶。親しくしてるから関係はいいのかな。

 

パァン!!

 

空気を切り裂くような捕球音が響き渡る。

 

「軽めに投げてる?」

 

「……軽めだけど」

 

「軽めに見えねぇーよ!」

 

試合前に怪我させちゃいけないしセーブしながら投げてるんだけど。

 

「始まる前からエンジン全開みたいだけど。止めなくていいの? 凪ちゃん」

 

「凪ちゃんはあれでいいよ。今日はリリーフで夏の大会でもリリーフで行ってもらう時もあるし、エンジンの扱い方に慣れてもらわないと」

 

むぅ‥‥。久しぶりの試合でアドレナリンが出てるから加減が難しい。もうちょいおとさないと。

 

パン!!

 

出力を最大限落としながら川崎さんが取れる様に軽めに投じる。

 

「お。これなら取れる!」

 

これなら取れるっぽい。上げちゃいそうな気持ちを鎮めながら投げよ。

 

「………あの子がエースじゃないんですか?」

 

「ええ。武田さんと白石さんは同じ1年生なんですよ。武田さんが先発でエース、白石さんにリリーフでお願いしてます」

 

「なるほど……。同じ学年で同じポジション。2人に期待するのは、ライバル関係‥‥ですか?」

 

「そうなってほしいですね。右利きと左利きなので」

 

向こうの監督がめっちゃ見てくるんだけど。面識はないと思うし、なんかしたかなぁ……?

 

☆☆

 

先行、新越谷高校。後攻、柳大川越。試合前にベンチ前で円陣を組み、試合前の整列の後、後攻、柳大川越の野手が守備位置に散っていく。

 

(左のサイドスローは左打者にとっては背中に飛んでくる)

 

柳大川越の大野さんの投球フォームはサイドスロー。ベンチから見ていると左打者にとっては窮屈に感じる投手だ。

 

(右打者が多いうちにとってはいい相手になるはず)

 

左打者にとってはインコースに食い込んできて、打ちづらいボールも右打者にとってはボールからストライクに外側から内側に曲げてくるインコースのボールは絶好球になる。

 

1回の表の新越谷の攻撃。

 

カキィィィン!!

 

大野さんが投じた一投目、インローの四隅を狙った絶妙なコースのストレートを中村さんは振りぬいた。

 

「なにー!?」

 

打球は快音と共に左右間の間を割る長打となり、外野の処理がもたついている間に中村さんは三塁に到達する。

 

「ナイバッチ!!」

 

今のボールは決して悪くなかった。それをあそこにもっていく中村さんのミート力の高さと無駄のないヘッドスピード。

 

(送る?)

 

(施しを受けるつもりはないよ。打って!)

 

無死・三塁の場面で芳乃さんは藤田さんへのサインはスクイズではなく強行。

 

(ここはアウト1つ上げちゃうよりは打った方がいい)

 

柳大川越の守備陣は初回で前に守備陣は敷かずに取れる位置でアウトを取ろうと中間位置。大野さんは初球を打たれて動揺しているだろうし、スクイズで落ち着かせるくらいなら打たせたほうがいい。

 

初球はサウスポー特有のクロスファイヤーのストレートが決まる。

 

S1ーB0。

 

(普段から凪のボールを見てるけど、クロスファイヤーのストレートは普段よりも威力を感じるわ。あれをよく打ったわね……希)

 

カキィン!

 

藤田さんは2球目のインローに来たストレートを打ち上げる。外野はやや後ろに下がっており、レフトが捕球後に中村さんはスタートを切る。

 

新越1ー0柳大川越。

 

レフトへの犠牲フライで新越谷が先制。

 

「希ちゃんナイスバッティング」

 

「菫ちゃんナイス最低限」

 

3球での先制点。投手にとっては調子を掴む前の失点は与えるダメージは大きいはず。

 

「タマちゃん!」

 

「大丈夫」

 

大野さんは山崎さんの臀部に死球を与える。武田さんが駆け寄るが、山崎さんは大丈夫だといって一塁に走っていく。

 

カキィィィン!!

 

無死・一塁で主将は流れを逃さまいと初球を右中間に弾き返し、無死二・三塁とチャンスが広がる。

 

川崎さんはライトのライン際に絶妙な位置でフライを打ち上げる。風に乗りながら打球はラインのギリギリの位置に落ち、スタートを切った走者は2人とも生還。

 

新越谷3ー0柳大川越。

 

大野さんの動揺している隙をついて盗塁を仕掛けた川崎さんを正捕手の浅井さんの強肩が防ぎ、藤原先輩をインコースのツーシームで見逃し三振に取る。

 

3点先制で幸先よく先取点を取ったことで流れを掴んだ。

 

「しまってこー!!」

 

「おー!!」

 

「……おー」

 

ホームベースで山崎さんは息を大きく吸い込み、ナインに向けて発し、全員が声にこたえるように返す。

 

「凪、声出てないぞー!」

 

「……結構頑張った。喉が痛い」

 

声出しのために喉飴を買っておこう。

 

1回の裏の柳大川越の攻撃。先頭の大島さんに対してストレートで追い込むと最後に投じるのはあの球を投じて見逃し三振を奪う。

 

(左から見るとあれは外から内に入ってくる)

 

右にとっては体の近くをすりぬけてくるあの球は左にとってはアウトコースから真ん中に落ちる。見極めが難しい球だ。

 

2番はストレートを捉えると三遊間を抜けようとする強烈な打球を藤原先輩が横っ飛びで捕球。サードゴロでツーアウト。

 

「ナイスサード!」

 

「気合入ってるじゃないっすか」

 

「三振しちゃったっしね」

 

先輩たちにとってが今日が初めての練習試合。チームの初陣でもあり、気合が入らない理由がない。

 

「オーライ!!」

 

3番は大きいフライを打ち上げる。レフトの息吹さんが声を上げると、フライをキャッチ。スリーアウトチェンジ。

 

「ナイスキャッチ。日頃の練習の成果が出たな」

 

守備が安定していると投手は自分のピッチングに集中できる。

 

「2人ともありがとー!! 大好き~~!!」

 

「大げさね……」

 

武田さんは戻ってきた2人を歓喜の抱擁で出迎える。

 

2回の表の新越谷の攻撃。先頭の大村さんは全球、豪快なフルスイングで空振り三振。

 

「ナイススイング!」

 

「ピッチャービビってたよ!」

 

「そ、そうでしょうか……」

 

大村さんはこれでいい。藤原先輩の後は長打よりも単打で繋ぐタイプの選手が続くし、その中で一発長打がある選手がいるだけで相手に与える恐怖は大きくなる。

 

息吹さんは選球眼の良さでフルカウントまで粘り、体の近くのツーシームを倒れこみながらスイングし空振り三振。

 

「……ツーシームだね」

 

「ツーシーム」

 

右打者の内側からインコースに食い込んでくるように変化するツーシーム。

 

武田さんは初球を打ち上げるとキャッチャーフライ。

 

「凪が普段から容赦なくインコースに投じてくるけど、あのツーシームはまた違うような」

 

2回の裏の柳大川越の攻撃。4番の浅井さんをあの球に意識を集中させながら、最後にインハイの釣り玉で空振り三振に取る。

 

「山崎さんのリードって強気だよね」

 

「こういうタイプ、好きでしょ?」

 

「……うん。好き」

 

結果論で慎重になって外ばかりの捕手よりもこちらの気持ちを引き出してくれる捕手。校舎の方が組んでいて楽しいし、山崎さんはそういうタイプの捕手。

 

2回の裏も無失点に抑え、3回以降はスコアが動かずに新越谷が3点リードしたままいい形で進む。

 

☆☆

 

4回の裏の柳大川越の攻撃。

 

「ここまでは想定内。2巡目のここからは読めないね」

 

「……2巡目だから対策してくるかも」

 

柳大川越はこの回から打順が一巡。全員が武田さんのボールを見ているから、何かしらの対策は取ってくるはず。

 

先頭の大島さんはストレートをレフトに運び、レフト前ヒットで出塁。大島さんが無警戒と思ってリードを取るが、武田さんはくるりと反転して一塁に牽制。

 

2番はボテボテのゴロ。川崎さんと武田さんの中間地点に飛んだ打球、武田さんが捕球後には一塁を駆け抜けており、無死一・二塁。

 

(さっきの牽制から武田さんの様子がおかしい)

 

大島さんへの牽制は中村さんが上手く取ったけど頭を超す暴投となっており、今の当たりも川崎さんに任せていれば、二塁は無理でも一塁はアウトに出来た。

 

カキン!!

 

3番への初球、甘く入ったあの球をライトに弾き返される。大村さんからのバックホームはホームを大きく逸れる大暴投となり、隙を見て大島さんは生還。

 

新越谷3ー1柳大川越。

 

「ボール、三つ(三塁)!!

 

本塁のカバーに入っていた武田さんが三塁に送球し、守備の乱れを狙って三塁を狙おうと二塁ランナーは二塁ベースに戻る。

 

「豆でも潰れた?」

 

「……違うと思う」

 

3番への初球の入り方から今の藤原先輩への送球。武田さんの独り相撲になりかけてる。

 

「……私、今すぐにでも行けるけどどうする?」

 

「同点になるまではヨミちゃんで行くから」

 

悪い空気を察したのか山崎さんが間を取ってマウンドに輪ができる。

 

「え? 何?」

 

「今の球、明らかにダメだったから。豆でも潰したのかなって」

 

「せっかくの試合なのにあまり楽しくなさそう。ストレートと守備はいい感じに力んでるけど、あの球は私に遠慮しているの?」

 

2人の会話はベンチからは聞き取れるけど、山崎さんに遠慮してるっぽい。

 

「次の浅井さんはあの球を2球見せてるから、さっきみたいなボールはホームランだよ。走者を気にせずに思いっきり投げて。逸らさないから。私は。皆で抑えよ」

 

武田さんは中学時代は捕手に恵まれなかったみたいだし、もしかしたらその時の苦い経験がフラッシュバックしたのかな。

 

「ヨミ、なんか怖いぞー」

 

「まぁ、動きはいいけど」

 

「皆、ごめんね」

 

山崎さんはホームに戻り、川崎さんと藤田さんが声をかけてから、マウンドの輪が解けると、固く張りつめていた武田さんの表情が和らぐ。

 

4番の浅井さんへは全球あの球で勝負。

 

「捕手はあの球を受け止めるので精一杯みたいだから重盗仕掛けてみよう」

 

1死一・二塁に変わってから、山崎さんが捕球で精一杯だと思った柳大川越ベンチは走者に盗塁のサインを送り、それぞれのランナーが同時にスタートを切る。

 

アウト!!

 

盗塁を想定していた山崎さんは冷静に三塁に送球し、二塁走者をアウトにする。

 

(凄い……。バッテリーが悪い空気を払拭した)

 

5番はストレートを捉えると強烈な打球が飛ぶ。中村さんはダイビングで捕球し、カバーに入った武田さんにトスし、スリーアウトチェンジ。

 

「皆、想定以上だよ!! 凄すぎる!」

 

芳乃さんは制服が汚れるのを気にすることはなく、戻ってきたバッテリーに抱擁。

 

「浅井に投げたあの球、やばかったな!」

 

「私にも投げて!」

 

流れが変わり始めた中で、浅井さんに打たれるのと抑えるのとでは試合の展開が大きく変わってきたはず。浅井さんを三振に取ったことで流れを呼び戻した。

 

「凪ちゃん、ごめんね。準備してたのに」

 

「……いつでも変わるから。後ろには私がいるし」

 

やっぱりベンチで見てるの退屈。私も早く試合に出たい。

 

5回の表の新越谷の攻撃はチャンスを作りながらも追加点を奪えなかった。

 

(3人で終わるのと意味合いは違うけど、こういう展開なら後攻を取りたかった)

 

試合の流れはまだうちにある。1点でも追加できれば中押しで試合の展開としては最高なんだけど、攻めづづけてる中で点を取れないのはエース(大野さん)の踏ん張りもありながらも、相手の守備陣の範囲内に打球が飛んでいるのもある。

 

5回の裏の柳大川越の攻撃。

 

あの球を捨ててきたことでストレート狙いに絞り、先頭打者はヒットで出塁。

 

7番はカウントを取りに来たボールをセンターに運び、無死一・二塁。

 

8番は失敗できないとガチガチになっており、送りバントを打ち上げるとフェンス前の打球を山崎さんが好捕。1死一・二塁。

 

(大野さん、集中できないように見えるんだけど)

 

チャンスで打席に入った大野さんは集中力を欠いているようにボールを見逃す。

 

(この子も凄いんだけど、後ろに控えてるあの子もやばいように見えるし。しかもどっちも1年生なんでしょ?)

 

こういう打者の考えは読めない。ビハインドの展開で体力温存……はないだろうし。

 

(考えが読めない分、怖いな……。次は前の打席でヒットを打ってる上位陣だからここで切りたい)

 

上出来な結果は大野さんで併殺を取って、上位に回せないこと。

 

カキィィィィィィィィン!!

 

山崎さんはストライクを取りに行き、大野さんはインコース付近のストレートをフルスイングで打ち返す。

 

(あ……)

 

打球は大村さんの頭を超し、フェンスの最長部に当たって地面に落ちる。

 

「私がエースよ! 朝倉!」

 

大野さんはベンチにいる人物を呼びながらベースを一周する。

 

新越谷3ー4柳大川越。

 

「ヨミちゃん、今のは事故だから」

 

「あはは……大丈夫だよ~」

 

武田さんは引きつった笑みを浮かべ、動揺していたのか、その後はヒット、ヒットで1死一・二塁のピンチを作る。

 

「凪ちゃん。行ける?」

 

「……グラウンド整備の合間に作った」

 

「難しい場面だけど……ここで止めてきて」

 

「……任せて」

 

グラウンドの整備の時間に肩を作っていたから問題なし。

 

「……お疲れ様」

 

「ごめん。ピンチの場面で」

 

「……絶対抑えるから。任せて」

 

監督が主審に交代を告げてから、私はマウンドに小走りで向かい、武田さんからボールを受け取る。

 

「凪ちゃん。交代後の初球、狙ってくるから」

 

「……ベンチで見てたから打者の印象は頭に入ってる」

 

「頼もしい」

 

「ギア上げていくから。逸らさないと思うけど任せた」

 

「任せて」

 

マウンドで投球練習後に山崎さんとグローブを口元を隠して話す。

 

「背番号10ってことは控えか」

 

「試合前のキャッチボールで投げてた子ね」

 

ピンチの場面だけど、自分でも驚くくらいに落ち着いてる。

 

「ヨミちゃん、お疲れ」

 

「……ごめん。逆転されちゃった」

 

「1点なら大丈夫ですよ。後は白石さんに任せましょう」

 

ベンチで見ている景色でマウンドで打者と向かい合う景色。

 

(エースから託されたバトン。悔しさの思いは受け取った)

 

武田さんはベンチに座らずに最前列で見守るように見ている。任せておいて。絶対抑えるから。




ワーニン、引退の記事で嘘やろって泣いた……。
暗黒オリの時代で投手ではねこさん、マモさんと同じくらいに好きな投手で今も大好きです。20年、お疲れ様でした

凪の夏大会の起用法

  • 背番号1での先発がメイン
  • 背番号11でリリーフがメイン
  • 勝負所での切り札的なジョーカー
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