この世界は、至って普通な現代日本だった。
大阪のアパート。そこに住む俺は、窓から外を覗いて、一日空を眺めているしか暇を潰せないような、そんな人間だ。
隙間風だろうか。急に背中を沿うような寒気が襲ってくる。
二階建てのボロアパートだし、なによりそこを選択したのは誰でもない俺だ。仕方ないと割り切る。
しかし、寒いものは寒い。堪らず毛布に包まる。
今が一月というのもあり、外の木々は色がくすみ、すっかり生気を失ったようになっている。
まあ俺はこの部屋から出ていくつもりはないし、出るとしたら外づけされている空調設備が故障してしまったときぐらいだろう。
というか、今日はベランダにも出たくない。
寒い。身も心もかじかむような寒さには、流石に当たりたくない。
「まあいいけどさ……。でも、寒いな」
前世と同じような寒さに無理やり納得しつつ、ひとり溜め息を吐く。
だってここは現代日本。至って普通の現代社会なのだから。
日本である以上、四季は避けられない。
が、それはそれとして錆つきが目立つヒーターを点けさせてもらう。
カチッとボタンを操作し、灯す。
「はあ~、いいねぇやっぱ。ヒーター様々だよホント」
両手を差し出し、ヒーターから熱を貰う。
冬にはやはり、これがベストだ。
が、少し時間を経ると、ヒーターが怪しくなってきた。
ガチッという音と共に、温もりが失われていく。
「……マジかよ」
呆気ないヒーターの幕切れに、ひとり呟く。
流石に死活問題だ。ヒーターがないと、このままでは凍え死んでしまう。
「結局、ま、出るしかないわな」
着替えて出かけるために、クローゼットから外出用のコートを取り出す。
と、なにかがコートのポケットから音を立てて落ちてきた。
「……そこにあったのかよ」
出てきたのは、いかにも玩具としか思えないデバイスタイプの装置。
最近見失っていたが、どうやら覚えていなかっただけのようだ。
無言で、顔をしかめる。
脳裏には、自分が知らない父親の顔。
あの顔は、間違いなく俺の父親だ。
くすんだ灰色の髪も似ていたし、顔の作りも鼻筋が似ていたり。
けれど俺は、父親のことを知らない。
というより、知ろうとも思っていない。
デバイスを握る手は、いつの間にか強くなっていた。
あの父親は、俺が一歳の時に死んだ。
それ以来、俺にとって親というのは、母さんだけだ。
あの人の収入があって、家族は安定していたのに、職務中の事故で亡くなるとか、なにをやっているのか。
俺は、はっきりいって、あの人が大嫌いだ。
母さんだけに、俺を背負わせた、あの人が。
俺という存在を、もう一度産んでくれた母さん。
俺の親は、その人だけだ。
コートへの着替えも済み、さて出よう――というわけにはいかなかった。
ガンッ、という音が耳に入ってくる。しかもウチのベランダから。
流石に泥棒だったら困る。一旦確認するかとベランダに向かうと――
「あ……うう……」
倒れていたのは、ボロ雑巾のように打ち捨てられたような丸っこいコウモリ。
全身は傷だらけ。それがこんな寒さの中にいたら。
俺は咄嗟に、窓を開け、ベランダへ。
それをコートで包み込みながら、中へ引き入れる。
「……ん?」
ふとこのコウモリの顔を目にする。
どこかで目にした覚えがあるような、ないような。
いや、ある。間違いなくある。
というか、前世で何回か目にしたことがある。
こいつ、まさか――
「……デジモン?」
俺は今まで、ずっと勘違いしていたらしい。
この世界は、普通などではなかった。
間違いなく波乱が起きるであろう、世界だった。