「……デジモン?」
呟いて、首を傾げてみる。
目の前ですやすやと眠っているのは、間違いなくデジモン。
デジタルモンスター――通称デジモン。
名のとおり、電子空間に存在するモンスター。
この世界では、少なくともカードゲームとしてしか目にしたことがない。
というか、前世でもデジモンは熱心な友人や知り合いから耳にしたぐらいで、俺自身は、あまりデジモンに触れていない。
だが今は素直に、前世がわかることに感謝するしかない。
そういう情報を知っていなければ、このコウモリがデジモンなどわかるはずもなかった。
……それにしても、ずいぶん眠っている。
昨日から、もう丸一日は経っている。
よほどダメージが大きかったのか、翼にはところどころに穴ができていた。まあ、今は回復しているようだが。
しかし、ここまで酷いダメージとなると、なにか起きていたのは間違いないだろう。
このデジモンを拾ってしまったからには、俺も巻き込まれるのはもう前提だろう。
「はー……。やっちまったなぁ」
口でそう呟くが、内心では、胸を撫で下ろすような想いだった。
助けたうえで、でも目の前で死なれたとかなったら、それはそれで嫌になるから。
ここは素直に、助かってよかった、と口にすべきなのはわかる。
まあ、俺はそんな言葉を使えないが。
と、虚空に独り言を呟いていたら。
眠っていたコウモリデジモンがもぞもぞと動きだした。
ようやく、お目覚めのようだった。
「ごきげんようミスター……いや、ミセスか? まあいいや。いいお目覚めか?」
「う……うーん……」
声をかけ、コウモリが目を覚ます。
と、お目覚め早々、いきなり俺に対して距離を取ってくる。
「だ、誰!? というか何者!? そもそも生物なの!?」
さらっと生物云々とかいう失礼をかまされたが、逆に微笑んでみせる。
「あー……一応、人間やってる。そう言えば、満足か?」
「ニンゲン……?」
「うん、人間。オレ、ニンゲン。オマエ、ナニモン?」
「なによ、その胡散臭い喋りは!」
警戒心を強めてしまったようで、さらに飛び退かれた。
「……待ちなさいよ? あなた、ニンゲンなのよね?」
「オレ、ニンゲン。ニンゲン、マチガイナイ」
「だからその壊れかけのロボットみたいな喋り方やめなさいよ! 調子狂うじゃない!」
「ハハハハハッ」
「だからやめなさいってば!」
目覚めて早々、ツッコミまくる目の前のデジモンには涙を禁じ得ない。
まあ、元凶は俺なわけだが。
「……一応聞くわ。ここ、もしかして人間の住む世界よね?」
「はいかはいだったら、はいとしか言えんな」
「どっちもはいじゃないの……」
頭を抱える目の前のデジモンには哀れみを禁じ得ない。
まあ、元凶は俺だが。
「……さて、こっちからも質問いいか? お嬢さん」
「な、なによ」
あえて雰囲気を切り替えて、問いかけてみる。
目の前のデジモンがいちいち面白い反応をするからいけない。
「あんた、見た感じ、デジモンなようだが? ……合ってるか?」
「そ、そうよっ。あたしはピコデビモン。ウィルス種のデジモンよ」
「……ふうん」
名前まで聞き出せる幸運に、内心でガッツポーズを繰り出す。
だがウィルス種という単語は知らん。なにそれ、おいしいの状態だ。
「……まさかあなたもデジモン……?」
「んなわけあるか。人間だっつーの」
踏み入りすぎて、危うく誤解まで生じさせかけた。
というかまあ、普通に不審者だよな、これ。
相手の情報を一部分だけとはいえ、一方的に知っているわけだし。
「そう……」
「ってかお前、もしかして女か?」
「ちょっと!? それは流石に失礼がすぎるわよ!?」
「ぐへへへへ。お嬢さん、俺に助けられたのが運の尽きだったねぇ……。
……すまん、今のは冗談だ。流石になにか攻撃したりはしないでくれ。俺はいいが壁が死ぬ」
コウモリお嬢さん――ピコデビモンは訝しむように視線を注ぐ。
「はあ……。話してたら、なんだか疲れるわね、あなた……」
また溜め息を吐きながら、ピコデビモンは首を左右に振る。
「でも、あなたがあたしに敵意がないのはわかったわ。
あなた、名前は?」
「そう、だな。名前、か」
一瞬、顎に手を置きかけるが、すぐさま止める。
「
「ハイバラ、タクミ、ねぇ。
ま、覚えたわ」
「んじゃ、こっちからもひとついいか?」
「いいわよ。基本的には答えるわ」
「……なにがあったんだ? ボロッボロで落ちてきたが」
ピコデビモンも一瞬、考え込むような素振りをするが、すぐ口を開く。
「襲われた
「……らしい?」
「うん、そうよ。いきなり真っ暗になったと思ったら、もうそこからは記憶がないもの。けどなんとなく、デジモンの仕業っていうのはわかるわ」
「で、こっちに飛ばされてきた、ってわけか」
「ええ。……ま、奇跡的にあなたのおかげで助かった、ってわけ」
「お、信頼はしてくれるのか」
「一時的よ! 一時的!」
「なーんだ……」
「とにかく! 助けてくれたことには感謝するわ! けど、それとこれとでは話が別よ!」
そう告げて、ピコデビモンは飛び立つ。
「あたしは戻るの! あっちには一応家もあるわけだし!」
「……一応聞いておくが、どうやって?」
「ゲートを見つけるのよ! この世界とあっちを繋げている扉を!」
「簡単に見つかるか……?」
もう嫌な予感しかしないので、もうひとつ探りを入れてみる。
するとこのピコデビモン、目を逸らしやがった。図星かい。
はあ、と溜め息を吐いて、俺は口を開く。
「そのゲートってやつ、探すんだろ? 俺も乗ってしまった船だし、手伝うぞ」
「え、い、いいのっ!?」
「それまではこの家使え。元はといえば、一方的に助けたのは俺だから」
「……助かる。ありがとう」
「……んで、アテはあるのか?」
「決まってるでしょ! そんなの!」
「お?」
「ないに決まってるわ!」
「ないのかよ!?」
「ないわ!」
「二回も言わんでよろしい。
……ってことは、一からってか。もう交番にでも……」
聞くか、と言いかけたところで、インターホンが鳴る。
「……ちょっと待ってろ。行ってくる」
ピコデビモンにそう伝え、後頭部を掻きながら。
ドアノブに手をかけ、開けた先には。
「こんにちは。警察の者ですが、少し、お時間をいただいても?」
なんでこんな場所にポリスメン来てんだ。