おっさんと女子校生徒達との無人島生活   作:かなえもん

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第十話 帰還願望

 水漏れか。

 豪雨の深夜にふと目を覚ましたおっさんは、水の気配を感じて胸の上で寝ている誰かさんを起こさぬよう、慎重に動かして横にして寝かせた。

 お腹と股間周りがやけに濡れていた。

 汗であって欲しいと切に願う。

 

 昼間は準備に追われて無理をしたのか、皆が寝静まっていた。

 暗闇の中、手探りで這いずっていると柔らかい何かを触った気もするが、誰なのか確かめようもなく、恐る恐る移動する。

 雨漏りは今のところ問題はなさそうだった。

 鳥小屋が気になり、懐中電灯を片手に激しい雨に打たれながら様子を伺に外へ出る。

 元々湖に浮かんでいたりと、水に対して耐性はある。

 いらぬ心配だったかと肩を撫で下ろした。

 開墾中の畑は水溜りになっていた。

 

 家の周りは伐採してあるので、木が倒れて家が壊れるような事態にはならないが、その分風をもろに受けてしまうので、そこだけが不安だった。

 

 見回りを終了させて家に戻ると、濡れた衣服は脱いでその辺に引っ掛けて干した。

 裸のままタオルで体を拭き、着替えを探した。

 夜中にごそごそとやっていると、誰かがむくりと起き上がり目を覚ます。

 

 おっさんは素早く行動した。

 悲鳴を上げそうになった誰かさんの口を手で無理やり塞ぐ。

 

「皆を起こしたくない。分かるだろ?」

 

 この怯えようはおっさんに近しい娘ではない。

 生徒会メンバーの誰かだ。

 おっさんのことを毛嫌いしているので、裏切る可能性がある。

 背筋に冷や汗が伝った。

 呼吸を落ち着かせようとして、しばらくの間無言の時間が続く。

 

「よし、いい子だ。そのまま寝てくれ」

「お手洗いに行きたい」

 

 致し方なく思ったおっさんは娘を解放する。

 裸であることはまだ知られていないのでまだセーフだ。

 息を潜めながらおっさんは着替えを見つけ出し、ようやく一息。

 寝ていた場所はどこだったか。

 手探りで元いた場所へ戻ろうとすると、またもや柔らかいものを掴んでしまう。

 地雷原の中にいる兵士の気分を味わいつつ、目的の場所に到着し、空いている隙間に身を横たえて瞼を閉じた。

 

 

 朝になっても風雨は治らず、激しい雨音を耳にしつつ内職を始めたおっさん。

 作っているのは麦の代わりに、似た感じの草を乾かして作る麦わら帽子。

 暑さを凌ぐアイテムはなんぼあっても喜ばれる。

 

 手持ち無沙汰の生徒会メンバーに人数分の釣竿も作成。

 ゆりねが講師となり、釣りの心得を熱弁していた。

 釣り師は何人いても良い。

 休みたい時の気分転換にもなるだろう。

 

「お昼はどうします?」

 

 ゆりねに問われたおっさん。

 朝は魚のスープだけだった。

 鶏肉の燻製がまだ余っているし、果物は腐らぬうちに食べてしまいたい。

 魚の干物や海水に浸けている貝はまだ生きている。

 

「蒸し暑いし、さっぱりしたものが食べたいかな」

「レモンに似た果実がありましたし、それで何か作りますね」

 

 おっさんも参加した。

 果実を搾り、果汁を作るのだ。

 斧を振り続けたおかげで握力は倍増。

 力こぶをワザと見せつけるように生徒会メンバーへアピール。

 釣れたのはさとみだった。

 

「うわぁ、ゴリラみたいじゃん」

「ウホッ」

 

 不意打ちで脇腹をくすぐられ、思わず声が出てしまう。

 

「私も何か手伝いますわ」

 

 麗華には香り付け用のバジルに似た葉っぱを刻んでもらう。

 塩を加えて混ぜ合わせ、甘くないバナナを浸して食べる。

 

「悪くないな。ってか美味い」

「酸味と塩味、丁度良いですね」

 

 フサになっていたバナナがあっという間に無くなる。

 主食としてバナナは頑張っている。

 これからもお世話になるだろう。

 

 賑やかな食卓を囲っていた生徒会メンバーの内の1人が顔を上げ、話があると低い声で言い放った。

 皆の注目が集まり言いづらそうに口を開いたのは、生徒会の副会長だった矢島ねねだった。

 

「昨夜寝込みを襲われました。明らかに私を狙った犯人はこのおっさん。危険人物として生徒会権限の使用を認めて下さい」

 

 ついにやったかと気色の声を上げるメンバー達。

 不満気な表情でおっさんを睨むさとみと麗華、そして何故かハルコもだった。

 ゆりねは静かに目を閉じて溜息を一つ。

 

「ご、誤解だ」

「この男はあろう事か、お手洗いに行きたいだけの私の口を塞ぎ、身体のあちこちを弄り倒して行動を妨害。しかも硬い何かが私のお尻に当たっていました。何かとは口には出せません。言えば私が私でなくなりそうだからです」

 

 澱みなく昨夜の状況を説明するねね。

 一部の捏造はあれど、大筋では間違ってはいない。

 おっさんは言い訳を考えるも旗色は悪く、言葉を間違えれば揚げ足を取られる勢いであった。

 

「暗闇の中でしたが、あの感じ服を着ていません。下着すら履いていない様子でした。私の話を信じてくれますか?」

 

 涙ぐむような眼差し。

 冤罪であっても許されぬ場の空気。

 おっさんの最も苦手とするシチュエーション。

 

「服は濡れていたから脱いで乾かそうとしたんだ。口を塞いだのは皆を起こさないように気を使ったからで。だから、その……、悪気がやったワケじゃない」

「おじ様は悪くありません」

「うん、濡れていたら仕方ないよー」

「そうですわね。悪いのは私達ですわ」

「えっ?」

 

 近しい者達からの援護射撃が飛び出した。

 ハルコはおっさんと生徒会メンバーを交互に見てから、静々とおっさん側に立った。

 

「その男を庇うのですか会長⁉︎」

「いえ、その件に関しては私も同罪だと思ったまでです」

「目を逸らさないで下さい!」

 

 会長と副会長の仁義なき戦いが始まってしまった。

 後ろめたさを持つ会長の麗華は真実を決して語らず、副会長のねねは捏造の負い目を感じる以上に、さらなる追及は逆にボロがでると思いおっさんの糾弾を控える。

 しかし、ねねは牙を剥き先を麗華へ変更。

 白百合では生徒達の鏡であると讃えられていた会長の陰にひっそりと隠れつつも、魑魅魍魎が跋扈する白百合で副会長にまで登り詰めたねねは実に優秀な娘であった。

 

「まさか弱みを握られているのですか会長?」

「握りたいとは思っていますが、まだ触れることすら出来ていません」

「狡猾というワケですね」

 

 いつしか生徒会メンバーのみで円陣を組み始めると難しい言葉の話し合いに発展。書紀のハルコはメモを取りながら今後の対策を記していく。

 そのメモ帳をチラ見したが、『私にまで順番は回ってこず、次は一番を目指す』と記されていた。

 

 おっさんは帽子作りを再開。

 ゆりねとさとみの分を完成させた。

 

 

 

 夕方になって雨脚が弱まってきた。

 今夜も皆で一緒に眠る。

 生徒会メンバーは隙間なく身を寄せ合うと手を握り合い、隙を見せぬ布陣を敷いた。

 今になっては希少価値の高い携行ランプを夜間に限り灯す作戦に出た。

 

「会長の身柄はこちらで預かります」

「私は別に……」

「この男の蛮行を白日の下に晒すには、会長の協力が必要なのです」

 

 さも罠を仕掛けていますよという誘いの予告。

 おっさんはこの罠に引っ掛かるワケにはいかない。

 必殺の陣形を組んだメンバーの中にはハルコも混ざっており、非常に複雑な表情をしていた。

 

「では今夜は3人で仲良く眠れますね」

「雨で全く外に出てないから寝付きは悪いかも。

 

 ゆりねとさとみはいつも通りだが、おっさんも今夜は眠れそうにないと思った。

 

 

 夜になると雨は止み、雲の隙間から月が顔を覗かせた。

 家の中は明るい話で盛り上がっていた。

 所謂恋バナというやつだ。

 やはり白百合では若松先生の人気が一番だが、中には芸能人やらスポーツ選手といった有名どころの名も上がる。

 おっさんは咄嗟に風俗嬢の名前を口にしようとして、どうにか留まった。

 好みの嬢の名前がねねだったと思い出したのだ。

 

 ゆりねの好みは年上、さとみはお父さんみたいな男が好みらしい。

 麗華は初恋の人以外はあり得ないと場を盛り上げ、ハルコは話の分かる人と無難に答えて難を逃れていた。

 

 話し疲れて次第に脱落していき、深夜になってようやく皆が寝息を立て始めたが、おっさんはまだ眠れない。

 普段であれば肉体労働で消費するエネルギーはまだ余っている。

 おっさんは釜戸近くに隠していた壺を掘り起こす。

 壺の中身は果汁を集めて作った自作の酒。

 発酵具合は良好で、味見がてら一口嗜む。

 

「爽やかながら結構アルコール度数が高い。飲み過ぎると悪酔いするな」

 

 木のカップに一杯分だけ注ぐと、おっさんは外に出て夜空を見上げた。

 満月の下、切り株に腰掛けてちびちびと飲んでいるとゆりねが隣に座った。

 

「甘い匂いがしますね。私にも一口頂けますか?」

「未成年にはまだ早いな」

「意地悪です。拗ねちゃいますよ」

「分かった。特別に一口だけな」

 

 法のない無人島でおっさんを裁く者はいない。

 ゆりねの機嫌を損ねる方がおっさんにとっては痛手なのだ。

 

「甘酒みたいで飲みやすいですね。でも少しの量で身体がポカポカしてきました」

「頼むから酔ったとか言わないように」

「もう遅いです。暑いので脱いじゃいますね」

 

 止める暇すらなく上着を脱ぎ出した。

 薄暗くてもはっきりと水色のブラが目に飛び込んだおっさんは、慌てて月を見上げた。

 

「他の子に悪さしちゃダメですよ」

「まるで自分にだったら良いみたいな口ぶりだな」

「ええ、おじ様なら構いません。もしも我慢が出来なくなったらいつでもお声を掛けて下さい」

 

 そう言うとゆりねも月を見上げた。

 熱った身体を夜風が優しく撫でる。

 おっさんの喉が鳴った。

 

「でもこの地で赤ちゃんって育てられますか?」

「可能ではあるけれどかなり厳しい。やはり日本のような環境で育てるのが一番だね」

「なら早く日本に帰りたいです。おじ様と一緒に」

 

 軽はずみなエッチはダメ。

 おっさんは改めて心に刻みつけた。

 

 会話を楽しんでいたゆりねは、風邪を引かぬうちにとおっさんに言われて渋々といった感じで家の中へ戻る。

 おっさんも夜風に当たり過ぎたので、ゆりねの後を追うように家に入った。

 電池切れだろうか、ランプの灯りが消えていた。

 月が出ていたとはいえ室内は暗い。

 手探りで寝床まで行こうとして、また柔らかい何かを触ってしまう。

 しかも危険地帯とされている生徒会メンバーのいる危険なゾーン。

 罠の可能性がある。

 慎重に事を運ばなくてはならない。

 触ったみた感じ麗華だとは思う。看護をしていた時に身体のあちこち触っていたので、それがここにきて生きる形となった。

 

「ん? これは……」

 

 しかし生徒会メンバーは全員がちっぱいの持ち主。

 違っていたらおっさんの死は免れない。

 手探りで恐る恐る胸を触る。

 おっさんの記憶にもある形をしている。

 パンツで識別できれば確実だが、夜目に慣れていないので確認はできない。

 ちなみに麗華は紫。

 高貴なデザインで彩られおり、麗華に相応しいと思った。

 看病をして時の事を思い出していると触っていた相手に手首を掴まれた。

 

「現行犯で……ふがっ⁉︎」

 

 騒ぎ出す前にねねの塞ぐおっさん。

 声の相手は十中八九ねねだ。

 変わり身の術を使って麗華に化けていたらしい。

 

「喉が乾いているだろう? まあこれでも飲んで落ち着こう」

 

 残っていたカップの酒をねねの口に注ぐ。

 

「ごくっごくっ。ぷはっ。何を飲ませて……、んきゅう」

 

 ねねはたった一口で手足の力が抜けて目を回した。

 

「にゃにをしゅるのれすか」

 

 弛緩している身体をおっさんに預け、呂律の回らない口で説教を始めるねね。

 空になったカップをおっさんから引ったくり、なんで中身がないのとついには泣き出した。

 

「話聞こか」

「ひっく、辛いのれす。にほんに帰りたいのれす」

 

 ねねはホームシックになっていた。

 おっさんも出来れば日本に戻りたい。

 遭難してから50日以上。

 助けが来るのは絶望的。

 島からの脱出も考えたが、200人を乗せる船なんて造れない。

 

「生きよう。今はそれが最善だ」

「うう……」

 

 すっかり泣き上戸と化したねねを抱きながら寝かしつけて、おっさんも眠る。

 夢の中で風俗嬢の顔がねねになっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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