嵐は過ぎ去り無人島に再び平和が戻ってきた。
事故防止の為に工事は地面が乾くまで延期。
生徒会メンバーは他の生徒達の安否確認の為に散って行った。
ねねは昨夜のことを覚えていなかった。
しかしおっさんの胸中で目覚めたねねは発狂し、おっさんの頬に容赦なく平手打ちをかました。
今頃はねねを襲った変質者として島中に知れ渡っているだろう。
ゆりねとさとみも不機嫌だった。
どうしてねねとなのか、小一時間も問い詰められた。
酒に酔った勢いでとも言い辛く、正座で平謝りをしてようやく許しを得た。
酒は飲んでも飲ませるな。
教訓がまた一つ増えた。
今日も今日とて木こりをしているおっさん。
昨日の嵐で家の耐久性が証明され、増築をする計画を立てている。
さとみの願いであった広い個室に加えて、二階スペースを造る事を目標にしている。
救命ボールをパーツに分けていたのが功を奏し、手を加えるのは造作もなく短期間で済ませる予定だ。
木の加工をしていると、洞窟拠点へ向かった筈のハルコがおっさんの前に姿を現した。
走って来たのか息は荒い。
「若松先生が戻ってきました」
橘綾華によって誘拐されたが、昨日の暴風雨に晒されながらも洞窟拠点へ駆け込んで来たらしい。
現在は若い女の先生が付きっきりで看病をしているという。
「面会謝絶だったけど、他の生徒からチラッと聞いた話、若松先生は大分痩せこけていて相当危険な状態らしいです」
おっさんは思案する。
橘綾華主催の酒池肉林パーティーで、どれだけ搾り取られたのだろうかと。
若松先生はそこが嫌で抜け出した。
いなくなった若松先生を巡り、橘綾華という生徒が暴れなければ良いが。
ハルコから若い女の先生の名が柊千絵里だというのを今知った。
柊先生はなんと若松先生と同じ歳。
同僚という立場以上に、彼の身を案じていたそうだ。
この件で洞窟拠点を根城にしている生徒達の蛮行が減るのであれば、若松先生の身柄は柊先生に預けておくのが正解な気もする。
おっさんは深入りはしない方針でいくつもりだ。
だがそれを黙ったまま見過ごすという選択肢を取らない勢力も存在する。
今や最大人数を擁する桑原組だ。
麗華の報告によると若松先生の身柄を巡り、桑原先生が洞窟拠点へ特攻して暴れた。
洞窟のような不衛生な場所での看病など言語道断、今すぐ自拠点へ搬送し手厚い看病を受けるべきだと叫び散らかすと、押せや踏めやの大乱闘に発展し、怪我人までだしたその争いは桑原の乱と呼ばれているらしい。
洞窟拠点の内部は迷路のようになっていて、見つけ出せなかった桑原先生の撤退という結果で幕は閉じたが、第二第三の矢が放たれるのは誰しもが思っている。
危機感を持った柊先生は洞窟拠点周りに罠を仕掛ける予定との事だ。
それにしても若松先生の人気たるや、同じ男として尊敬の念を抱いてしまう。
「お見舞いの品でも渡して機嫌くらいは取っておくかな」
人気に
工事が再開され、麗華率いる生徒会メンバーが現場へ到着した。
今回は特別におっさんも同行している。
造っている水路の進路上にある岩をどかして欲しいと、麗華から要請があったのだ。
おっさんは慣れた手つきで岩の下を掘り、テコの原理で岩を動かしていく。
ついでに水路の外壁を木の板で補強していき、崩れない工夫をしていった。
まだ2キロ弱だが、確実に前へと進んでいた。
50人という人手の力はやはり侮れないと思うおっさん。
「会長を見てニヤニヤと。また狙っているのですか?」
副会長のねねが釘を刺しに来た。
今やおっさんはねねを襲った大罪人として、他の女生徒達から毛虫の如く嫌われている。
少し良いところを見せても火に油だ。
麗華もイメージの回復には苦労をしていると聞く。
「青春の汗は美しいな。なんて……」
「汗で透けた服を見てなんと穢らわしい。会長には今後指一本とて触れさせません」
ねねは両腕を広げておっさんの前に立ちはだかる。
麗華本人はおっさんとの間にシコリはないものの、スレンダーな身体に黒の長髪、キリッとした目鼻立ちをしているねねはまるで姫を守る騎士のようであった。
生徒会は一度解散をしたとはいえ、会長の復活で勢いを取り戻しつつある。
この工事を機会に洞窟拠点から散って行った生徒達を吸収して勢力の拡大を企んでいる。
流石は元最大勢力、転んでもタダでは起き上がらないといったところか。
おっさんは汗で透けたねねの赤いブラを堪能しつつ、そんな事を考えていた。
木こりをしていると、たまに木材を譲って欲しいという女生徒が現れる。
黒髪を後ろで括っただけの彼女は洞窟拠点から在野となった女生徒の一人で、おっさんの嫌な噂を聞いても尚近づいてくる奇特な生徒であった。
木材の使い道を問うと、机や椅子の日用品を自作したいらしく、一度その腕を見せてもらうと、アンティーク調の気品ある品を製作してしまったのだ。
職人気質を持つ娘を大層気に入ったおっさんは、加工した板や使えそうな端材を気前良く渡した。
そして娘はお礼にと言ってスカートを捲り、おっさんの顔色を窺いながらパンツを見せびらかした後、資材を抱えて嬉しそうに颯爽と去って行くのだ。
おっさんとしては家具を融通してもらいたかったのは言うまでもない。
度々現れるその娘はどうやら一人で暮らしているらしい。
毎度パンツを見せてくれるのは有り難いが、いつか家具を譲って欲しいと思っている。
風変わりな娘は他にもいる。
おかっぱ頭の双子の姉妹は、おっさんの仕事風景を眺めてクスクスと笑いに来たり、ボロボロの制服でいかにも世紀末といった感じのヤンキー娘が、舌打ちだけして去って行くなんて事もあった。
話すきっかけがあればよいが近寄ろうともせず、遠巻きに眺めているだけなので、おっさんとしても半裸の状態から服を着るといった行動を余儀なくされている。
物を奪われないだけマシと思うしかないのだ。
これらの娘達は生徒会の主導する工事には参加していない。
働くのが余程嫌いなのか、本当の自由を得て現状に満足してしまっているのかは定かではない。
無論、米や麦は工事に参加してくれた者達に優先的に配る予定なので、いくらパンツを見せてもらえてもおっさんは断ると決めているのだ。
「にしし、見ちゃった」
資材を取りに来た娘が去り、代わりにやってきたのは悪い笑みを浮かべているさとみ。
気分によって髪型を変えていると豪語するこの娘、今日は茶色の髪をツインテールにしているので、パパ活を希望しているのだと一目で分かる。
そしてあろうことか先程の淫行現場を目撃してしまったのだ。
「まさか裏取引をしていたとはね。ゆりねに話したらどうなるのかな?」
「頼む。この事は黙っておいてくれ」
「んっ」
さとみはおっさんに手の平を差し出す。
おっさんは液体が入ったペットボトルをさとみに渡した。
「毎度ありー。どんな味がするのか一度試してみたかったんだよね」
容量が500mlのペットボトルには酒が満タンに入っていた。
それを容赦なく開封して一口だけ飲むと、目をカッと見開き目尻を下げた。
「すごく爽やかじゃん。独り占めは狡いって」
「アルコールの度数が高いから気をつけてな」
「固いこと言うなし。すっごく気持ち良くなってきたわぁ」
切り株に腰を下ろして足を組みもう一口。
おっさをが大事にしている酒を半分も飲んでしまった。
元々酒に強い体質なのか、さとみは一見酔っている風には見えない。
休憩がてらさとみの隣に腰を下ろしたおっさんは、ゆりねが作った弁当を広げた。
手作りの弁当箱には、鳥の肉をミンチにしてからソーセージの形にして焼いた何かと、最近見つけたキャッサバの芋を磨り潰してハンバーグの形にした何かが入っていた。
どちらも味付けは塩胡椒だが美味い。
「あっ、そのソーセージもどき欲しい」
一瞬にて奪われ、口で咥えるさとみ。
噛むのが勿体無いとでも思っているのか、もごもごと口を動かしているが、おっさんにはどう見ても卑猥な一コマに見えてしまう。
「さとみの分もあっただろ?」
「育ち盛りだから食べちゃった」
ならば仕方なし。
さとみにはまだまだ可能性が詰まっている。
Bで終わるようなタマではないのだ。
「耳寄りな情報を持ってきたよ」
「新しい野菜でも見つかったのか?」
「トウモロコシを発見したっぴ」
「なぬ⁉︎ マジか?」
「野鳥の食べかけだったけど数粒は回収できたよ」
トウモロコシは鳥の餌と優秀で、人間にとっては料理の幅が広がる食材だ。
殆ど放置していても問題はないので、畑に撒けるなら撒いてしまいたい。
木こりを中断して畑に向かう。
嵐によって水浸しになっていた畑は水を抜いて使えるようにはしてあるが、こちらは米用の畑だ。
トウモロコシを育てるのであれば、根腐れしないように棚を作り水捌けの良い環境を整える必要がある。
「うしっ、気合いを入れて耕すぞ」
待っていろ鳥達よ。
美味いトウモロコシを作ってやるからな。