UMAから変態へとジョブチェンジをしたおっさんは、22日目にして家の材料を集めきった。
基礎工事の段階に入ると、天候と相談しつつ建設予定地に穴を掘り始めた。
やはり夢のマイホーム、トイレの環境を整えておきたいのと、雨水や虫の侵入を防ぐ為に抜かりはないようにしておきたいのだ。
腕が攣り始める頃に休憩に入る。
汗だくの状態で海に向かって走り、全てを脱ぎ捨てて飛び込む。
UMAから変態へとジョブチェンジした理由がここに詰まっていた。
大天使長とギャルツインテールにはまだ生を直接見せていない。
なので評価は横ばいな筈。
問題があるとすれば、水平線の彼方からやってくる船を血眼になって探している残留組みの一派。
所謂桑原組。
おっさんの肢体を余す事なく目に入ってしまうので、苦情が殺到しているのだ。
伝達者は橋渡し係のゆりね。
ゆりねはおっさんの事を変態だとは決して口にはしない。
しかし、言葉のニュアンスから読み取れば、どう転んでも変態へと結びついてしまうのだ。
イメージ戦略を考える。
会社とてイメージが崩れれば業績が下がるは道理。
ならばマイナスをプラスへと転換させれば良いのだ。
奇行種走りを止めてランナーへ。
海から上がる時は指先に力を込めて美しく。
腰振りモデルのランナウェイから戦場帰りのソルジャーへ。
イメージは固まった。
実行は明朝、慣らし運転から始まる。
寝汗を洗い流すにはちょうど良い塩梅だ。
会社員としての意地を見せつける時がやってくる。
それまではまだ敢えて変態として振る舞っておこう。
自然なままで、何食わぬ顔をしていれば良い。
おっさんは海を優雅に泳ぐ。
クロール、バタフライ、平泳ぎ、背泳ぎ。
背泳ぎの段階で砂浜から黄色い野次が飛ぶ。
ネス湖のネッシーでも見たかのような反応だ。
おっさんの背泳ぎは水飛沫を上げながら桑原組の前を進んでいった。
ジャングル組に動きあり。
その一報はさとみの口から齎された。
ちょうどトランクスを履こうとしたおっさんの生ケツを間近で見てしまったさとみ。
目は泳ぎ、動悸息切れの症状は深刻だった。
「ジャングルに入った子達の何人かが戻ってきた。どうやら仲間割れッポい」
「ゆりねは?」
「今詳しく話を聞いてる。ちょっとマズいって言ってた」
おっさんとて話を聞きに行きたい所ではあるが、向こうではきっと歓迎はされない。
イメージアップの戦略前というのが致命的であった。
おっさんになす術はない。
体育座りをして吉報を待つ。
波は穏やかで太陽の日差しはキツい。
虫除け用にヨモギの葉を集めた。
煎じて身体に塗る。
独特な緑の香り。ウチの亡くなったお婆ちゃんと同じ匂い。
「お待たせしました。どうやら先生と生徒との間で淫行が行われていたみたいです。主犯は隣のクラスの橘綾華。被害者は若松先生です」
ん? と頭を捻った。
つまり逆レ……とな?
「若松先生を襲撃後、橘綾華一派は若松先生を拉致。ジャングルの奥深くへと姿を消したみたいで。洞窟拠点には生徒会長他、まだ多くの生徒達は残っているらしいのですが、若松先生を奪われた一部の生徒が泣きながらこちらへと合流をしたみたいです」
凄いことになっていた。
若松先生ドンマイ!
としか言いようがない。
「橘綾華という生徒はどんな人物なんだ?」
「橘グループの社長の娘さんです。パーティの席で何度か挨拶もしてあます。隣のクラスではかなり強い発言権を持ち、若松先生のことを密かに思っていると耳にしていたいました」
「いやゆりね、あいつはもう堂々と宣言はしていたから。もはや学校内では有名だったよ」
「あらそうでしたか。なに分その手の話はこちらの耳には伝わりにくく……」
「伝えるまでもなかったって、皆んな思っていたっポイし」
つまり勢力図が変わり、これまでジャングル組一強だと思われていたところに派閥が生まれた事を意味している。
新たに生まれたのが橘綾華率いる橘組。数十人の取り巻き達を従え、若松先生という栄光ある
跡地には生徒会長率いる会長組み。
グループは割れたものの、依然100人余りの最大勢力を誇っている。
そして残留組みは更年期に片足を突っ込みかけてはいるが未だテカテカの桑原先生率いる桑原組。
そして最後に率いるものすらいない最弱なおっさん。
さながら戦国時代前の足利政権を彷彿とされる戦況図。
賽は投げられたのかのしれない。
おっさんの立ち位置を今一度考えて行動していかなければ、戦国の世に巻き込まれる可能性も出てきてしまった。
「若松先生の安否は?」
「ぐったりと力なく、相当搾られたと聞いています」
「所詮この世は弱肉強食。いつの世も変わらんなぁ」
「おっさんは助けてくれないの?」
「若松先生は助けを求めているのかい?」
「そんな話は聞いていません。ですので現状では動く必要性はないかと」
ゆりねは戦利品に全く興味を示していない。
さとみはどちらかと言えば意思確認の意味合いが強かった。
「穴掘るべ」
「手伝おうか?」
さとみは家に興味があるのか積極的だ。
お礼の品を考えながら手伝ってもらうのもありかもしれない。
正直1人では限界を感じていた。
「土を運ぶくらいならまあ何とか」
「にしし、たっぷりと運んであげる」
「私も差し入れを用意しておきます」
おっさんは協力者という大いなる味方を手にした。
泣きそうになった。
泣く時は陰でこっそりと泣くタイプなのだ。
基礎工事は捗り、予定よりも早く完了した。
一部粘土層にぶち当たってしまったが、間取りを変えれば良いだけの事。土地は余りまくっているので誰も文句は言わない。
粘土は釜戸作りの材料だ。
予定地の近くに運んでもらった。
掘り出した土の多くは畑づくりの基盤に使えた。
これも家の近くに運んで広げてもらっている。
木の柱に使う木材の防腐剤をどうしようか考えた。
柿が実っていれば柿渋からタンニンをと思ったが、都合よく柿が実っているはずもなく、表面に塗膜を張ればいいやとの思いつきでココナッツオイルを使用。
虫が嫌うヨモギの葉も細かくして柱に塗り付けた。
独特な香りがする柱を掘った穴に埋めて支柱にし、そこから家の土台を作り始めた。
木の接合方法は何種類もあるが、大工ではないので簡単なもので済ませるしかない。宮大工のような複雑な加工ではなく、オノでも出来るホゾ加工で仕上げていく。
地震大国日本の叡智とまではいかないものの、日曜大工のお父さんばりの気合いを込めてホゾ加工をしていった。
口から魂が出そうな程の疲れ。
夜にはゆりねの釣った魚や、果物の場所を教えていまさとみのお陰で食を繋げている。
いつの間にか焚き火を囲む人数が増えていた。
さとみは新参らしくおっさんの正面に、ゆりねは「あーん」の定位置たる直ぐ右側。
さとみは半眼になりつつもおっさんとゆりねのやりとりを眺めていた。
「なんかズルくない?」
「左側は空いてますよ?」
「場所替わろうか?」
「「それはなんか違う」」
2人がそう言うのならそれは間違いない。
おっさんは未だ最弱の武将。
お上には逆らえない。
夕食が終われば2人は桑原組へと戻り、安らぎの時間は終わってしまう。
見たこともないような星空の輝きを眺めながらおっさんは眠りにつく。
夢の中では騎馬戦をしているおっさんがいた。
土台役で。