UMAから変態をえて不審者へ。
社会の階段を地道に登っていく。
おっさんの日中は半裸でいることが多い。
上着は寝る時に布団代わりに被せる位にしか使わないので状態はそこまで悪くない。
問題が発生したのはお昼時。
豊かな胸をお持ちのゆりねの胸ボタンが突如弾けたのだ。
チラリと見えた水色のブラ。
谷間の奥深くへおっさんを誘おうとしていた。
さながら誘蛾灯の如く、滴る汗で輝いて見える。
摩耗か成長か。
議論は白熱したが、後者の意見が多数を占めるものの不謹慎だと言う意見が飛び出してからは逆転し、摩耗であるとして手打ちにされた。
裁縫道具があれば。
という願いはあっさりと解決。
お嬢様学校という名は伊達ではなく、女生徒の中には裁縫道具を持つ強者は当たり前のように存在していた。
男であるならばサバイバル道具。
女であるならば裁縫道具みたいな感じであった。
思い返せば出会った当時、すでに前兆はあったのだ。
気づかぬフリをしていただけ。
おっさんの邪な心がこの偶然のチャンスを与えていたのだとすれば、それはもはや確信犯に近い。
風で捲れたパンチラチャンスに出会わない代わりに、神はブラチラという蜘蛛の糸をおっさんに垂らしていたのだ。
運良く掴んだのはおっさんただ1人。
出会い感謝。
そしてありがとう。
「ブラも調整できますかね?」
「手芸班でもそればかりは難しそう」
「困りましたね」
摩耗を押し退けて浮上してきたのは成長の二文字。
ゆりねの胸は未だ発展途上。
おっさんの社会的立場よりも早く豊かに実り始めている。
そして新たに判明した手芸班という存在。
一見裏方業務に見えがちでも、この状況であれば神職と言っても過言ではない。
おっさんのほつれたトランクスを渡してみようか迷う所。
だがどうしてもその一歩は踏み出せない。
うら若き乙女におっさんのパンツは果たして犯罪となるか否か。
「おじ様のズボンにも穴が。手直しをしましょうか?」
渡りに船とはこの事。
さり気なくズボンとトランクスを渡す絶好の機会が訪れてしまった。
チャンスは一度。
何食わぬ顔で渡してしまえば罪悪感は軽い。
しかし、あのお手てにおっさんの汚れたパンツを触れさせる勇気が湧いてこない。
神よ。
この蜘蛛の糸は途中で切れないか?
「では頼……む」
ゆりねとさとみは食い入るようにおっさんの下半身に注目していた。
さながらタランチュラが獲物を狙うが如く、瞳孔は開いていた。
ズボンとトランクスを同時に脱ごうとすると視線は必ず追ってきた。
あまりの恥ずかしさに後ろを向いてしまう。
だが後ろは半ケツの状態。
蜘蛛の糸は切れていた。
「穴の補修よろしく」
「承りました」
「チッ……」
お嬢様学校の闇を垣間見た気がする。
おっさんは紙一重で危機を回避したともとれる。
若松先生だったならばどうだろうか。
あの見た目であるならばいつか食いちぎられそうだ。
おっさんで良かったと心からそう思った。
建築予定地は建設途中の家になった。
粘土が余っていたので瓦を作成。
2人にも手伝ってもらった。
泥遊びみたいな感じでキャッキャウフフの幸せ空間。
顔についた汚れ一つで笑えてしまう。
さとみが笑った所を初めて見た。
おっさんが忘年会で腹芸を披露した。
泥で目と口と鼻を表現。
後はお腹に描いた口の動き合わせて桑原先生の物真似を披露。
笑い死ぬ所までいったと逆にお叱りを受けた。
木立の隙間から気配を感じた。
桑原先生が付けている四角い眼鏡が光っていたのだ。
幸いにも声は向こうにまで届いていない。
もしも届いていたならばおっさんは死んでいただろう。
九死に一生を得たのだ。
ただ桑原先生は腹を抱えて苦しみ悶えていた。
持病の発作だろうか。
家の枠組みと屋根の瓦貼り。
壁は木の板を並べ、隙間には乾燥させた草と泥を混ぜたもので埋めた。
窓もある。
床の貼り付けが終われば住むのに適した家となる。
もう一踏ん張りといった所。
完成が見えてくると込み上げてくるものがある。
夢にまで見たマイホーム。
独身なれど一家の大黒柱。
「屋根のある所で眠れるとか最高かも」
「おじ様、お世話になります」
「あ、はい」
当然のように2人は同じ屋根の下を望んだ。
おっさんと一緒の空間でも良いと言ってくれたのだ。
こんなに素晴らしいことはない。
だが不幸は否応にして突然訪れる。
「まあまあの家ね。日替わりでよろしい?」
桑原先生がそこにいた。
さらに後ろには桑原組の面々が。
戦争になれば負けは必須。
泣く泣く使用権を認めた。
岩礁の上で体育座りをしているおっさん。
波は直ぐそこまで迫って来ていた。
夢のマイホームは崩れ去り、民宿経営の道を歩み始めた。
経営権は奪われ客側になる始末。
男だって泣きたい時には泣いてしまうのだ。
弱いから悪いのだ。
強い男にならなくてはならない。
一皮剥けるときが来たのだろう。
風俗で散らした皮だが、心の皮はまだ被ったままなのだ。
「おじ様、泣かないで」
まだ涙は見せていない、背中を見せているだけだ。
男は黙って背中で語るのだ。
「また一からやり直しましょう」
「ゆりね……。でも、あんなに頑張ってくれた二人には申し訳なくて」
「次は初めから3人でやり遂げませんか? おじ様がこれまで築いてきたノウハウ。私達も流れは見ていました。次はもっと早くお家が建てれる。それに3人だとあの家は狭いと思います。次の家はあれよりも大きな家を建てちゃいましょう」
涙が溢れて止まらなかった。
しずれが優しく背中を摩ってくれた。
胸が熱くなり始めた。
「……二階建てのマイホームとかどうかな?」
「素敵ですね。花壇もあれば最高です」
夢は膨らみ始めた。
きっかけをくれたこの娘には感謝しかない。
やはり天使長では生温い。
神、いや女神様と呼んでよいのかもしれない。
「さあ焚き火で暖まりましょう。今夜は生アワビの踊り食いですよ」
今のおっさんにとってそのワードはクリティカルであった。