おっさんと女子校生徒達との無人島生活   作:かなえもん

7 / 9
第七話 おっさんと雌鶏

 

 滝壺の上は小川になっており、さらにその先には湖があった。

 鳥達の楽園といえば例えやすい。

 様々な種類の鳥が羽を休めて優雅に泳いでいる。

 

 哺乳類が全くいないので、鳥を狙う生き物さえいない。

 そこから連想される答え、つまるところここは火山地帯で、噴火によってリセットされてしまうのがこの無人島の定め。

 

 とそこまで分かった所で湖の畔で腰を休ませた。

 湖は透き通っているが、鳥の糞尿で汚染されているので、入る気にはならない。

 そもそもここは鳥達の縄張り。

 人間が踏み込んで良い領域ではない。

 雨を溜め込む為の貯水庫であり、源流の到達点。

 ここの水を飲むくらいなら、岩場の湧水を飲む方が濾過されている分まだ安全だ。

 

 遠征は失敗に終わった。

 帰宅の準備を始める。

 

「えー、もう少し遊んでいかない?」

「おじ様、あそこにいるのは鴨でしょうか?」

「鴨鍋か! うおー!」

 

 渡鳥を数匹捕えた。

 戦利品として持ち帰る。

 実に有意義な遠征であった。

 

 

 砂浜に帰ってから鳥小屋を製作した。

 家を建てるよりも簡単で、一日で完成した。

 まだ食用にはしない。

 卵を産んでくれれば幸せになりそうな予感がした。

 願いは通じて翌朝には卵が小屋の中で見つかった。

 

 果たしてこれは有精卵なのか否か。

 無精卵であれば食べる一択だが、もしもに備えて巣穴を作って放置してみた。外気温が高いので卵が冷える心配はない。

 夜になると親鳥が卵を温めていた。

 

 

 救命ボートを回収した。

 そもそもテント型なので、ジャングルに居を構えるならばこれを改造すれば事足りる話ではあった。

 誰もやらなかっただけ。

 お嬢様学校だからね。

 仕方ないね。

 

 斧でいらない部分をくり抜いていく。屋根だけはどうしても残しておきたい。重量を減らすため、持ちやすい部品に加工することで運搬できた。

 海に浮かび続けるしか取り柄はないとはいえ、そこそこ頑丈な素材なので、成人男性の力でないとここまでのことは出来ないと思いたい。

 もちろん木材も使う為、木こりも再開している。

 建築予定地は湧水が出る岩場からさほど離れていない地点。

 生徒会組みと出会う可能性は高まるが、鳥の餌や水を考えるとこの場所が最適だった。

 基礎工事も順調で、掘った土からミミズが出れば鳥に与えた。

 

 

 最近腰の周りに異変を感じている。

 都会のストレスで肥え太っていたのがまるで嘘のように、脂肪が掴めないのだ。

 あれだけあったエネルギー貯金は使い果たしてしまったという事だ。

 いよいよ覚悟を決める時が来たのかもしれない。

 

 鳥達に挨拶を交わして卵を一つ頂いた。

 産んだばかりの新鮮な卵だ。

 サルモネラ菌が怖いのでよく洗ってから卵を割った。

 黄色い卵黄がぷっくりと立ち、栄養価は高いとおっさんに訴えかけている。

 こんな情けない姿を見られたくはない。

 おっさんは鳥小屋の裏に回ってから生卵を一息で飲もうとした。

 

「おじ様……。どうして……」

 

 すぐに見つかり御用となる。

 窃盗の容疑で捕縛され、生卵は焼き卵として生まれ変わる。

 

「生は危険です。おじ様だって分かっていたはずです」

「どうしても我慢出来なかったんだ。許してくれ」

「お口を開けて下さい。はい、あーん」

 

 美味い!

 久方ぶりの卵焼き。

 しかもJCの手作りだ。

 涙が出そうになった。

 

「卵を使えるのならお料理の幅は広がります。調味料をどうにかすればさらに凝ったお料理もできますよ」

 

 ゆりねはいつだって正しい。

 おっさんが足を踏み外しそうになると、そっと寄り添ってくれる。

 出来た娘さんだ。

 是非とも親の顔を拝んでおきたい。

 ゆりねと共に。

 

「胡椒の実は乾燥して干してある。塩胡椒にしてはどうかな?」

「素晴らしいです!」

 

 ゆりねの機嫌は回復し、おっさんも無事に解放された。

 卵事件の翌日早朝。

 鳥小屋へ近づく不審人物を発見。

 

 身なりは白百合女子の制服。

 だいぶ草臥れており、汚れも目立つ。

 後ろから近づき、口を塞いだ。

 

「良い度胸だと褒めてやりたいが、盗みを働けば代償を支払うことになる。名を名乗れ」

 

 肩まである黒髪を耳にかけて流している釘宮ハルコ。

 生徒会メンバーの1人で書紀を務めていたらしい。

 ここへ来た目的は偵察。

 つまり、この鳥小屋は狙われている。

 

「タダでモノを手に入れようとはしないことだ。物々交換、あるいはそれに代わる何かを提示しろ。取引が成功すれば卵は君のものだ」

 

 ハルコは震えながらスカートの中に手を差し入れた。

 まさかと思い、手首を掴んで行動を止めた。

 一応の為、確認だけはしておく。

 こいつは白だ。

 身の潔白は証明された。

 

「よろしい、卵を一つ君に送ろう。しかし次は必ず対価を支払いなさい。分かったね?」

 

 ハルコは頷く。

 口数は少なく小動物みたいである。

 

「それと制服は小まめに洗った方がいい。汚れや匂いが目立つ。いや、これはおっさんの性格? いや性質と言うべきか。堪らなくなるのだ。わかるな?」

 

 首を傾げるハルコ。

 

「雄鶏は雌鶏の匂いに敏感だ。そして狙いを定めると一気に舞い上がり力強い爪で掴み、逃さぬようにしてから交尾を始める。つまり堪らんのだ」

「私、臭いですか?」

「プンプン匂う。洗剤はないのか?」

「水洗いのみで済ませています。くすんっ」

 

 嘘泣きだと分かっている。

 伊達に風俗に通っていないのだ。

 少女漫画でもよくある展開だ。

 心の中で舌を出している。

 

「その制服を脱ぎなさい。こちらで預ろう」

 

 桑原組には裁縫班の他に洗濯班もいる。

 この状況でなら神職と言ってもいい。

 あの娘達に渡しておけば、修繕されて戻ってくる。

 対価は必要だが。

 

「そんな……、わかり、ました」

 

 ハルコはゆっくりと見せつけるように制服を脱ぐ。

 おっさんはあらぬ方向に目線を移し、白であるハルコをこれ以上は刺激しないように務めた。

 制服とキャミソール。ブラはなし。

 預かった品はゆりねの手によって選択班へ届けられる。

 

 洗濯が終わるのを待つ間、ハルコには予備のカッターシャツを貸し、ハルコから生徒会の様子を聞いていた。

 

「会長は死に物狂いで皆を纏め上げようとしていました。でも若松先生が攫われてからは統制が取れなくなり、皆が自由を求め始めました。精神は疲弊し、夜には魘され、日に日に痩せていきました」

「だからあんなにもちっ……、ゲフンゲフン。だからこそ慰安を兼ねて皆であの滝壺へ?」

「その通りです。ただその後体調が崩れて、せめて栄養のあるものをと思い、ここに来ました」

「なるほど、事情は飲み込めた」

 

 鳥の糞尿まみれの滝壺で行水か。

 おっさんの判断に狂いはなかった。

 だからといって卵を盗まれてしまってはこちらも困るのが実情。

 良い塩梅で取引を出来ればと思う。

 

 ただ生徒会は数にモノを言わせて探索の範囲を広げていた。

 膨大な情報を集めていたに違いない。

 その中で使えるものが、その情報を取引材料としても良いとハルコに伝えた。

 少し悩んだ後、ハルコは目を輝かせて頷き、おっさんのカッターシャツを着たままジャングルの奥深くへと消えていった。

 

 

 生徒会会長の白鳥麗華を伴い、書紀のハルコは再びおっさんの前に現れた。

 ハルコが語っていた通り、麗華の美しい顔色は青褪め、肩を小刻みに震わせていた。鋭い目は戦いを諦めている様子はなく、気丈にも姿勢を正した。

 

「これは犯罪ですわ」

「だろうな。だが勇気ある行動でもあったので取引を持ちかけた。winwinの関係こそが望ましい。そう思わないか?」

「搾取をする側の人間は傲慢で意地汚らしい。ハルコは小さいからさぞや扱いやすいと感じたのではなくて?」

「大きさは関係ない。大事なのは中身だ。本音を聞いたからこそハルコはここにいる。違うのか?」

「ありのまま話してくれましたわ。背後から襲われて下着を下ろし、耳元で囁かれて辱めを受け、制服を取り上げて裸に剥き、ハルコの純潔を奪い洗脳した。立派な犯罪です」

「嘘と本音が混じっている。メディアに踊らされている人間の特徴そのものだ。何が真実なのかが見えていない。ハルコ、ちゃんと伝えたのか?」

「カッターシャツを借りた所まで話している最中に、突然会長が立ち上がってしまい……」

「つまり捏造をしたのは麗華、君自身であるとハルコの証言から実証された。君は疲れているんだ、少し休みたまえ」

「くっ……、男なんて、男なんて!」

 

 今にも倒れそうな麗華だが、最後の力を振り絞りおっさん目掛けて突撃。首を絞めようとしたが、おっさんは事前にココナッツオイルで肌はテカテカのヌルヌル。半裸の上半身には掴みどころはなく、止むなく下半身のズボンへ手が伸びた。

 

「おいっ、待て。今はマズい」

「早く証拠を出しなさい!」

 

 ナニしかない筈が、何を求めているのか理解できず、麗華は必死におっさんへと食らいつく。

 おっさんも負けじと抵抗し、麗華の手首やら胸を押して引き剥がそうとする。

 

「ハルコを狂わせた証拠を取り押さえます。これさえあれば勝てますわ!」

「ハルコ! 手伝ってくれ!」

 

 正しいのはどちらか。

 ハルコは麗華を羽交締めにしておっさんを助けた。

 

「放しなさいハルコ! あなたの為よ!」

「会長お願いです。休んで下さい。皆もそれを望んでいます……」

 

 ハルコは泣き出し、その涙を見た麗華も落ち着きを取り戻した。

 真顔になり、おっさんの膨らんでテントになっているズボンを直視し、崩れるように倒れて気を失った。

 

 

 生徒会会長、白鳥麗華は美人であった。

 長く美しい髪は金色に光り輝き、ハーフの血ゆえか顔の造形も西洋人に近い。

 だが今では見る影もない。

 髪はボサボサで目の下にはクッキリと隈が出来ており、肌もカサカサ。唇は乾き、呼吸も不安定。

 栄養が足りていないのか、肋骨が浮き出てこようとしている。

 

「しばらくは安静にしておき、胃の消化に良いモノを与えて様子をみよう。体調が回復するまで麗華の身柄はこちらで預かる。それで良いか?」

「会長をお願いします……」

 

 洗濯済みの制服に着替え終えたハルコは静かに頷いた。

 ハルコが着ていたカッターシャツは麗華に着せてある。

 麗華の制服は選択班の手に渡っている。

 

 背負いすぎた者の宿命。

 遭難から浅い日に、それこそ身を削る思い出ジャングルへと入って行ったに違いない。

 100を超える人数を食わせていくにはどうすれば良いか、それこそ死に物狂いで考えたに違いない。

 海で漁をする案もあった筈が、危険と判断した桑原組によって禁止にされ、ジャングルの恵みに頼るしか方法を見つけられなかった。

 果物はあるが、哺乳類はいない。

 動物性のタンパク質を補うにはそれこそ蛇や蛙を捕まえるしかないが、お嬢様達がそれを口にできるのか。

 過酷な生活だったに違いない。

 多くが自由を求めているのにも納得はいく。

 そんな最悪な状況下でも、麗華は今まで倒れずに、気丈に振る舞っていたのだ。

 

 

 鴨肉を細かくしてスープにした。

 味付けはいつもの塩のみ。

 少しずつだが口に入れて咀嚼させた。

 出来なければおっさんが代わりに咀嚼して口移しで与えた。

 病人には優しい。

 

 伏せっていた麗華はおっさんの唇を感じていた筈だ。

 舌で内容物を無理やり押し込んで口の中を弄るのだ。

 遠くを見るような目でおっさんを見る。

 血が回ってきたのか頬に赤みが差していた。

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。