全長10キロの用水路を作る。
水門で水量を調整して湖の水を枯らさないように工夫する。
おっさんは道具作りが終わり次第補給班へ合流予定。
集まった人数は50人弱。
多くはないが賄える人数限界がこの数だった。
貝やウニ、アワビなどの海産物を届けるのだ。
集まってくれた娘達には恩恵がある。
作業中の賄い食。
さらに今後米や麦を主食にできる。
復活した麗華に顔を売っておけば、今後も何かの恩恵があるやもしれぬという期待。
陰で暗躍しているおっさんの存在に気付かぬままに。
おっさんは元々キャンプが大好きだった。
休みの日にはキャンプか釣り。
大自然に触れ合いながらストレスを解消してきた。
サバイバルともなれば水を得た魚のように、生々とした生活を送れる性質を持っている。
一方で、人間関係は苦手としていた。
会社での立場も悪い。
平日は風俗を利用し、休日は1人遊び。
友達になる人はいない。
酒は飲めた。
景色を眺めながらワンカップの一人酒。
つまみがあれば最高の気分を味わえた。
手作りのシュノーケル。
材料はもちろん木。
潜水して岩場の陰に隠れた獲物を狙う。
今回狙っているのは大きなエビ。
おっさんの大きな手に対抗するように、ハサミを広げて威嚇している。
一度目は失敗。
二度目はもう少しの所で逃げられる。
三度目でようやく捕獲に成功。
「採ったどー!」
ゆりねとさとみが悲鳴を上げた。
おっさんは大量のワカメを全身に装備していた。
獲物を油断させる為のカモフラージュだ。
海から怪物が、と思わせてしまったらしい。
工事の進捗状況は元生徒会書紀のハルコが伝えてくれる。
おっさんは指示役なので、状況に合わせてアドバイスを送る。
「エビ美味しそうですね」
「焼いただけだけど、食べる?」
激しく首を縦に振り、小さい口で豪快に齧り付いた。
エビ好きらしい。
幸せそうな表情をしていた。
「性処理とかはどうしてますか?」
「ど、ど、ど、童貞ちゃうわ!」
思わぬ角度からの奇襲攻撃にたじたじになるおっさん。
エビが喉に詰まって咽せた。
「被害者が出ぬ内に対策をお願いします」
「ひ、一人でできるもん!」
どうやら娘達の間では危機感を募らせているらしい。
確かにテントを高く張った姿をあれだけ見せていれば、そう思われても仕方がないので、最近は顔を合わせぬようにおっさんは動いていた。
「ゆりねとさとみはもう食べましたか?」
「食べ……、エビの話しだよね?」
「会長も……」
先日ゆりねのお尻に食べられた、なんて話はしたくない。
どうにか誤魔化せないかとおっさんは焦る。
「美味しそうに食べてたさ」
「やはりそうですか。味の感想を聞いておきます」
大丈夫だよな?
おっさんは内心ヒヤヒヤしていた。
娯楽が欲しい。
さとみの切なる願い。
パパ活でもするか? と答えたら怪しい笑みを浮かべた。
冗談だと伝えたが聞く耳をもたず、さとみ主導で探索に出掛けた。
「あれ欲しいな」
高い木には実がぶら下がっていた。
おっさんは言われるがまま木をよじ登り枝を揺らす。
「あれ食べたいな」
岩肌に黒い何かを発見。
これは岩茸という苔の一種だが、高級な品とされている。
それを勘だけで発見したさとみ。
素質があるのかもしれない。
「パパ活遊びに付き合ってくれてありがと。お礼にパパって呼んであげるね」
まだ結婚もしていない独身男性に対してそれはどうかと思ったが、呼ばれてみると悪い気はしない。
遊びの一環としてならばアリだ。
「パパ疲れた。抱っこして」
ご褒美としては悪くない。
コアラのように抱きついてきて可愛げもある。
おっさんはこういうのにも弱い。
目尻も下がる。
嵐の前の静けさだった。
多くの鳥達が一斉に羽ばたいて島を離れていく。
巨大な雲の塊が遠方からゆっくりと近づいてきたのだ。
危険を察知したのは釣りをしていたしずねだった。
「台風かもな。こりゃ大変なことになるぞ」
すぐさま工事は中断。
元生徒会メンバーは危険を知らせる為に手分けして島中に散って行った。
おっさんも家を守るための補強を開始。
雨が降り続けば食糧も不安になる。
しずねとさとみは食材を集める係だ。
緊急事態ということもあり、若い女先生の洞窟拠点は避難所として散っていた生徒達が集まっていた。
おっさんはその洞窟に支援物資を渡した。
恩を売っておけばおっさんのイメージも多少はマシになるかという狙い、しかしこれを提案してきたのは麗華。
現場監督として水路の工事をしていた麗華は日に焼けていた。
着ていた制服を脱げば、白い素肌と日焼けした肌の境界線が妙にエロく感じてしまう。
「あまり見ないで下さい」
魅入られていたおっさんは咳払い。
ココナッツオイルを渡してその場を誤魔化す。
今おっさんの家には生徒会のメンバー達が避難している。
多少手狭になるが、野晒しにしておくわけにはいかない。
麗華やハルコがいる手前、おっさんを罵る言葉は少ない。
全くないのが今のおっさんの評価という。
「降り始めて来ましたね」
ゆりねが呟くとおっさんもどんよりとした雲を見上げた。
少し前から風が強くなり始め、小粒の雨が降っていた。
昼間だというのに太陽は雲に隠れて辺りは薄暗くなる。
気温も下がり始めたので、半裸のおっさんは服を着た。
「蓄えはある。魚は燻製にしたものもあるし果物は豊富。乾燥させたキノコや海藻、いざとなれば飼っている鳥も絞める」
繁殖用には手を出したくはないが、それはあくまでも最終手段。
雑魚寝という形になるが、ひとつ屋根の下に男がいるという不満が元生徒会メンバーから飛び出す。
「私が隣で寝ます。この娘達には手をださないで下さい」
「私が身代わりに」という手法を使った麗華は、嫌々おっさんの腕にしがみ付いた。
甘いココナッツの香りが鼻腔を擽る。
確実にイメージは下がった。
プラスにしてからのマイナス、差し引きゼロ。
男を手玉にして遊ぶつもりか。
おっさんの内心を他所に、もう片方の腕にさとみがしがみ付く。
「両腕を塞いじゃえばより安全っしょ」
元生徒会メンバーからも安堵の吐息が漏れた。
「では私がトドメを刺しますね」
ゆりねは大胆にもおっさんの胸中に身を寄せてしがみ付く。
動きを完璧に封じられた。
やりすぎだと言う声も上がる。
書紀のハルコだ。
確かにおっさんもおかしいなと思いつつ好きにやらせていた所もある。
下手に口を出そうものなら3倍になって返ってくるので、口を閉ざしていたに過ぎない。
「交代制にしたら如何かしら?」
麗華の提案にハルコは頷き、誰がどのポジションでおっさんを制御下に置くのか真剣に検討された。
嵐が強まる中、暗い室内で熱く長い話し合いの末にようやく順番が決まった。
防水加工のサーカステントは雨漏りの心配はないが、風で持っていかれると大惨事になる。
横殴りの雨風は家の外壁を容赦なく叩いた。
不安な一夜を過ごすことになりそうだ。