想定外の事態に戸惑いつつも、彼女は魔法少女たちと邂逅します。
本来出会わなかったはずの少女たち。
彼女たちは、一体どんな『罪』を抱えているのでしょうか。
ここがエマメルエンドの延長線であるということはほぼ確定した。未だ信じられないが、ここまで覚えのある光景をお出しされては受け入れる他無いだろう。
覚えのない少女たちの中に、2人だけ見知った少女が居る。それが何より、残酷なくらいに確実な証拠だ。
そして先程聞いた、少女たちの話し声。あれは、エマが牢屋敷の管理人に仲間入りしてから初の収容、つまりエマが最初に収容された日から約1年後に連れてこられた子たちの声だったはず。
今は本編から、少なくとも1年経っている、それが導き出された結論だった。
……しかしそうだとしたらおかしい。私は、間違いなく本編メンバーと同い年だったはずなのだから。
芸能人の『蓮見レイア』の経歴を調べて、彼女と同じ年に生まれていることは確認済み。
サイトの中から偶然見つけた配信アーカイブで、『沢渡ココ』は私と同じ学年を自称していた。
つまり今の私は16歳ということになってしまう。
昨晩眠りに就いてから、この一瞬で1年経ってしまったということになる。
ゴクチョーを問い詰めれば何か情報が得られるのだろうか。
後で時間があったらとっ捕まえてみるか。あのフクロウ、質問には割と答えてくれたはずだし。
……なんてことを考えていたら、気付けばラウンジに到着していた。
ぞろぞろと13人の少女たちが入室し、最後に入ってきた看守が扉を閉めてその前を塞ぐように立つ。
ゲームでは背景と立ち絵でしか描写されなかったせいでイメージしづらかったが、ラウンジはかなり広々としており、少なからず家具がある上で私たちが全員入っても、まだ半分ほど空間ができていた。
「ねえ、ちょっといいかな?」
地下と打って変わって異様に豪奢な造りをしているラウンジに戸惑ってか、一様に黙り込み静まっていた空間に、高くかわいらしい声が響き渡った。
部屋を見回していた視線を戻すと、きりりと気合を入れた表情で手を挙げていたのは、エマだった。
「(今回は君がそのポジションをやるのか)」
1周目にはレイアが、2、3周目にはヒロが、最初に場を取り仕切っていた。推薦されてリーダーをやるようなことはあれど、自ら率先してそういう役を引き受けることは無かったエマがこうした真似をし始めたのは、きっと自分がこの集団の中心に立つことで皆をコントロールし易くする為なのだろう。
「いきなりこんなことになって、何が何だかボクも分からないけど……この先何かあるもしれないし、とりあえずみんなで自己紹介をしようと思うんだ」
エマは全員を見回し、そう口にした。
「(よくもまあ言えたものだ、君は2回目だろうに)」
そう思ったがもちろん口には出さない。変なボロを出して面倒を起こしたくはないから。
皆が何も言わないのを異論無しと受け取ったのか、エマがそのまま自らの自己紹介に入った。
「ボクから言った方がいいよね。ボクは桜羽エマ、よろしくね!」
名乗りとともに、人懐こい笑顔を浮かべるエマは、庇護欲を刺激される愛らしさがあった。私も何も知らないでいたらきっと、エマに警戒心なんて抱かなかっただろう。
そう思いながら、私は被ったフードを更に深くまで引き下げた。
「じゃあ次、誰か名乗ってくれる子は居るかな?」
エマがそう言ってもう一度一同を見回した。未だ沈黙を貫く集団の中で、ひとりの少女が元気よく手を挙げた。
「ならば、お次はわっちが名乗らせてもらおうか!」
進み出てきたのは、快活そうな笑顔を浮かべた小柄な少女だった。
「わっちの名は
「(のじゃロリ……)」
記憶に残りやすい老人口調で、自己紹介とあいさつを同時に熟して見せた『伊礼ユウナ』という少女は、ワンピースの上にライダースジャケットを羽織ったような独特な衣装に身を包んでいた。ぱっちり開いた飴色の瞳に、雑に一纏めにされた黒髪が揺れている。笑みを浮かべる口元には、ちらりと八重歯が覗いていた。
「ほれ、お次は誰じゃ? 折角エマが切り出してくれたんじゃぞ? そちらから名乗り出ないならばわっちが指名してやろうかの?」
今度はユウナが、エマの隣に立って皆を見回す番だった。澄んだ瞳がさっと全員を一瞥し、内ひとりを手で指した。
「ではそこのおぬし! おぬしから順繰りに自己紹介してもらおうではないか! それがいい!」
ひとりでに納得したのか、ユウナは有無を言わせない雰囲気でそう言い切った。それに対し、指された方の少女はあまりの唐突さに声を上げた。
「うえぇ!? わ、わたし…ですかぁ…?」
「そうじゃおぬしじゃ! 確かわっちと同室だったな? 目覚めからここまであまりに目まぐるしかったからの、名を聞く機会を悉く逃しておった所じゃ! 是非とも名を知りたい!」
「そそ、そんなぁ……わたしなんかには荷が重すぎますよぉ……」
指された少女は、コートにマフラーに小さなキャスケットという、この季節にはそろそろ暑そうな恰好に身を包んでいた。どうやらなかなか気が弱いらしく、グイグイと押しの強いユウナに完全にタジタジにされていた。
「そんなことはあるまい! そうは言ったがの、ぶっちゃけるとたまたまおぬしが端っこにいたから選んだだけじゃ、過度に気負うこともなかろう!」
「そ、それはそれで複雑…うぅ、不運ですねぇ…なんでわたし端っこに立っちゃったかなぁ……」
気弱そうな少女は、暫くもごもごと口の中で後悔するような言葉を転がしていたが、やがて観念したのか他の少女たちの方へ向き直った。
「で、では…わたしなんかがトップバッターで、ごめんなさい…お先に名乗らせていただきます……うぅ、えと、わたしの名前はぁ……」
……そこで、なぜか少女は口を閉じた。目線がどこともない場所を往復している。その挙動はまるで、次の発言に困っているような。そして次に飛び出したのは、なんとも衝撃の一言だった。
「……あのぅ、ごめんなさい。わたしの名前って、なんでしたっけ?」
場の空気が固まると同時、気弱そうな少女の右横から「は?」と刺々しい声が聞こえた。
「それ、私たちが今一番知りたい情報なんだけど。まさかあんた、自分の名前も覚えてないとか抜かすんじゃないでしょうね?」
そう言って鋭い目つきでギロリと隣を睨んだのは、全体的に棘の装飾が多い服を着た、ツインテールの少女だった。怒られた気弱な方は「ひぇえ…!」と小さく悲鳴を上げ、慌てて何かを懐から引っ張り出した。
「そ、その、そのまさかですぅ……! ご、ごめんなさい、今
出したのはどうやら、小さなメモ帳のようだった。パラパラとページをめくり――目的のページを見つけたのか、再びおずおずと口を開く。
「お、お騒がせしましたぁ……あ、改めまして、わたしは……み、宮乃リム……という、らしいです……」
漸く名乗った…というより名乗れた『宮乃リム』というらしい少女は、それきりメモ帳で顔を隠してしまった。隠した状態で、またも何かをもごもごと呟いている。
「あぁあぁ…ムダにお時間取っちゃってごめんなさい、役に立たない存在そのものがゴミな害虫でごめんなさいぃ……!」
…聞こえたのはひたすらな謝罪の言葉だった。己を『ゴミ』やら『害虫』呼ばわりとは……中々、いやだいぶ自己肯定感が低いようだ。
「はぁ、トロい。やっと終わったの? たったひとりの自己紹介よねこれ?」
リムの終わりの見えない謝罪の声は、わざとらしく張り上げられた声にかき消された。
先ほどリムに対して辛辣なツッコミを行った少女の声である。リムがびくりと身を強張らせて黙り込んだ。
「まぁまぁ、そう怒りなさんな! おぬしの名も聞かせてくれぬか?」
ユウナが宥めるような調子で刺々しい少女に言うと、彼女は大きな舌打ちの後に端的に己の名を述べた。
「チッ……
「うむ、スオウじゃな! よい名ではないか!」
「うっさい! 気安く呼んでんじゃないわよ!」
『交久瀬スオウ』と名乗った少女は鼻を鳴らし、一同を睨みつけた。
「言っとくけど、私はあんたらとなれ合う気はないから。気安く話しかけないで。というか半径2メートル以内に近づかないでよね」
見た目通りの拒絶ぶりである。スオウはそれ以上何か言うつもりはないらしく、不機嫌そうにそっぽを向いたきり口を閉ざした。
初っ端から癖の強い少女の自己紹介が続いてしまったからか、微妙な空気になるラウンジ内に、すっかりエマから主導権を搔っ攫ってしまったユウナの声が響き渡った。
「さてさて、どんどん行こうぞ! お次は……おぬしじゃな! 自己紹介を頼む!」
そうユウナが指した先を見た少女たちは、思わず息を呑んだ。
そこには、白いドレスとシャンデリアの光を受けて輝くレースの羽織を纏った、まるで『女神』のような少女が立っていたからだ。
「おや……わたくしの番なのですね」
穏やかな笑みを浮かべた彼女は、上品に一礼して名乗った。
「わたくしは
『天城ミーシャ』は穏やかに微笑むと、未だ震えて縮こまっているリムの元へとゆっくり歩み寄った。
すらりと背が高いミーシャを、小柄なリムがメモ帳越しに恐る恐る見上げる。
「え、えっとぉ……?」
「大丈夫ですか?」
目線を合わせるように少し屈んだミーシャは慈しむような声で言うと、翡翠のような透き通った目でリムの目をそっと覗き込んだ。
その瞬間、ミーシャとリムの目の奥にふわりとあたたかい光が宿ったように見えた。
「震えているあなたを放っておくことは、わたくしの信条に反しますので……少し、じっとしていてくださいね」
目を合わせたまま両手をそっとリムの顔に添えるように固定すると、目の光がより強さを増す。
その光景は、神秘的なようで、どこか少し恐怖感を煽るような感じがした。
リムの身体の震えがだんだんと収まっていく。何をされたかよく分からないのか、首を傾げていた。
「え、あれ……? な、なんだか…」
「不安が小さくなったでしょう?」
ミーシャはリムのそんな様子に満足げに頷いた。
「また不安になった時には、わたくしに言ってくださいね。わたくしの力は、あなたのような人のために存在していますから」
そして先程の位置にしずしずと戻っていった。
『力』……ということは、あれがミーシャの【魔法】ということだろう。
目を合わせた相手の不安感を取り除いた…なんだか、【魔女化】した時のメルルの魔法と似ている気がする。まだ詳細を見られていない以上、同系と決めつけていいものかは分からないが。
「うぬぬ……? な、何が起きたのかわっちには全く分からんかったがまあ良いじゃろ! 名の分からぬ者はまだたくさん居るからの! ではお次の……」
今さっき起こった事を理解し切れなかったのか目を点にしていたユウナが、どうにか切り替えるようにして声を上げ、次の少女に自己紹介を促そうとしたその時。
「わあ! 今の、今の力って【魔法】ですよね!? 私も使えるんですよ、そういう感じの力!」
溌剌とした高い声がそれを遮った。
声の方を見るまでもなく、視界の端に大きな『とんがり帽子』が映り込んだ。
まさに、童話などで見る『魔女』が被るような、先に星のようなアクセサリーの付いたファンシーな帽子を頭に乗せた少女は、私たちの視線に気付くと照れたように頬を掻いた。
「あっ……失礼しました、私としたことがひとりではしゃいじゃって……」
魔女っ子少女はその特徴的なとんがり帽子を取ると、カーテシーのように空いた手でスカートの片側を摘まんで一礼した。
「私は保科ユニっていいます! こう見えて、完全無欠、全知全能の魔法使いさんなんですよ!」
これまた、癖の強い名乗りが出てきた。随分と自信家な魔法少女だ。
「完全無欠……」
「全知全能の……」
「魔法使い……ですか?」
上からエマ、ユウナ、リムである。
見事に連結した3人の呟きは、この場の者たちの困惑を代弁していた。
「はい! 魔法使いさんです! ……正直完全無欠とか全知全能は盛ったかもしれませんが……」
『保科ユニ』は脱いでいたとんがり帽子を頭の上に直しながら答えた。
「でも本当に何でもできる、無限の可能性を秘めた魔法使いさんなんですよ? 後でお見せして差し上げます!」
「そ、そうなんだ……あはは…」
何故かユニに目をつけられて迫られていたエマが、乾いた笑い声を漏らした。
「…ま、自分に自信があるのは良いことじゃろな!」
そしてユウナはこの癖強少女を前にしてもブレない。
変わらぬ調子で、次の番の少女にまた名乗りを促す。
「では次の! 頼んだ!」
疲れてきたのか若干雑になっている気がしたが。
さて、次はどんなキャラの濃い少女が出てくるか………気疲れで少し痛んできた頭を抱えつつ、来るであろう自己紹介の声に耳を傾けようとした瞬間――
「HEYライダーガール! ナイスなフリをサンキューだゼ!」
私の鼓膜が瀕死まで追い込まれた。
いきなりの大ダメージに足元がぐらつき、咄嗟に横の壁に手をついて身体を支えた。
何事だ。今の声……これも、集められた魔法少女の声なのか? まさかそういう【魔法】の持ち主か?
混乱しながらもかろうじて顔を上げると、声の主らしき少女の姿が目に映りこんだ。
――カラフルな布を継ぎ接ぎしたような目の痛くなる衣装に、黒いヘッドホンを着けている。
そして、何より目を引いたのは、その目元だった。
目元、どころか顔の上半分を覆い隠すほどの大きなサングラスを掛けていた。レンズの部分を含めた全体が液晶のようになっていて、その中心に縦に長い楕円形が表示されている。……まるでそれが『瞳』かのように、映された楕円が不規則に瞬き……その次には形を変えていた。
顔文字で表現するなら『><』といったところか……漫画やアニメで描かれるような、コミカルな形だった。
「HEY! マイネーミーズ
独特なハイテンションのまま、自己紹介がなされる。それはまさに、『DJ』のようなノリノリの口調で。
古風な牢屋敷の内装の中には、あまりにもミスマッチな少女だった。
「お、おぉ……えぇと、ナナセと申したか? 元気なのは結構なんじゃが、ちと声を抑えてくれんか、このままではわっちらの耳が壊れてしまうぞ……」
先ほどまで一番の元気さを誇っていたユウナが、すっかり気圧されてシナシナになっていた。
「oh、ソイツは失敬ダ! いつものフロアと同じノリで喋っちまったゼ!」
ユウナに苦言を呈された『結城ナナセ』は少し声量を落とした。それでもまだかなり頭に響くが、ひとまず聞ける程度にはなったか。
「もっとまともなやつはいないわけ……?」
青筋を浮かべながらスオウがぼやいていた。正直同意したい。
本編勢でももう少し静かだった気が……いや、そうでもないか?
そう思っている間に、自己紹介は次へと進んでいた。
次の少女はナナセとは打って変わり、ニコニコと微笑みを浮かべ物静かに佇んでいた。草原のような暖かな緑色をした、さらりとしたストレートヘアが、動く度に広がっている。
「えっと……私は折川シノンだよ。よろしくね? ……なんというか、みんな個性的なのに私の自己紹介が普通すぎて……こんなんじゃつまらないよね、あはは…」
「そ、そんな! 自己紹介につまらないとかないよ! 大丈夫だよ!」
『折川シノン』という少女は周りの濃すぎる面子のせいか、己の大人しい気質を自虐し、エマに慌てて慰められていた。こんな癒しになりそうな子がなぜ自信を失くすことになっているのだろうか……
「そうじゃそうじゃ! おぬしも良い名をしておる! 安心せい!」
「YO! そーダゼ、ストヘアガール! 自信持ちナ!」
「うむ、おぬしは一旦静かにしてくれ! フロアが湧く前にわっちらの頭が割れてしまうぞ!」
……ユウナはこのままだと苦労人枠になりそうだな。
「……はあ、やれやれ。ここに集められたのはどうやら、絶望的に頭の中身が足りていない奴らばかりらしいな」
その時、ガヤガヤと喧しい空間に、どこか嘲笑的な口調の声が響いた。荘厳さと妖艶さを兼ね備えたようなしかし聞き覚えがある声に、全員の視線が声の主に集まる。
見た先に立っていたのは、漆黒のドレスを身に纏った少女だった。――しかし、その顔立ちはつい先ほど見たばかりな筈の。
「……あんた、さっき自己紹介してなかった? 『天城ミーシャ』って…」
「ほう? 貴様、私とあのイカれ女を見間違えるか」
「……っ…!?」
怪訝な顔で言いかけたスオウを、ミーシャに似た黒い少女は横目で睨みつけた。スオウが息を吞んで黙り込む。つい先頃、スオウがリムを睨んだ時とは比にならない重圧に、あのナナセやユウナすらも青褪めて固まっていた。
「節穴共が……まあいい、二度と間違えないように然と聞け」
尊大な口調で、彼女は名乗った。
「天城ジェリカ…それが私の名だ。そこの聖女気取りとは何の関係も無い。……もし興味本位で詮索しようものなら、探った者から順にこの世から消されると思え」
名字はミーシャと同じだった。顔立ちや髪型の似様からして姉妹だろうが……何かふたりの間で確執があるのだろうか。
こういうものは
「ジェリカ……」
ミーシャは悲しそうな表情でジェリカを見ていた。それに対してジェリカは何の反応も示さない。意図して無視を貫いているようだった。
……今回のエマヒロ枠みたいな立ち位置だろうか。殺人事件に発展しないように、このふたりの事は少し注意して観察しておくべきかもしれない。
「……ま、まぁの! 誰にでも言いたくないことはあるからの!」
萎縮していたユウナが再起動して声を上げた。この空気が凍った中で発言できるとは……ユウナ、メンタルお化けか…?
「よし、まだ自己紹介できてない者、頼んでよいか!」
……しかし、まだジェリカの発した重圧から復活できていないのか、ユウナの呼びかけに応じて名乗る者が居ない。
仕方のないことか…こんな空気感にさせてくれたジェリカには後で一言くらい文句が言いたいところだが。
「……じゃあ、次は私が」
私は一歩前に出た。ここまで静観に徹していたからか少し掠れた声をどうにか絞り出して、。
「……名前は
『白築セツナ』、これが今世の名前だ。親曰く「生まれたときから雪みたいに色白で儚げだったから」…というのが名前の由来らしい。後に白い理由は特異体質の『アルビノ』だからと判明したわけだが。
……親には、今後再会できるのだろうか。こんないい名前を付けてくれた両親には感謝している。それだけじゃない、体質のことも、転生者だったが為に昔から子どもらしいところが無く、同年代の友達もできなかったこともあった。一体私は、何度両親に心配や迷惑を掛けただろうか。
私はこの少女たちの【禁忌】を知らない。ということは、今すぐに全員を魔女化させることはできない。大魔女を召喚して魔女因子を無くしてもらうことができない。因子の危険を消せない以上、私たちはこの監獄島から出してもらえることは無いだろう。
そして、そのままここに居ればいつか、誰かしらが魔女化して、殺人事件が……。
「…あの……大丈夫、ですか?」
「……っ」
どんよりとした思考に沈みかけていた時、目の前の至近距離から柔らかな声がした。
弾かれるように顔を上げると、そこに立っていたのは白衣のシスター――氷上メルルだった。
「……君は?」
反射的にメルルと呼んでしまいそうになり、咄嗟に違う言葉を紡いだ。この子はまだ自己紹介していない。今うっかり呼んでしまったら不自然だったから。
するとメルルは、はっとしたように目を見開き、あわあわと右往左往しだした。
「あ、ご、ごめんなさいっ……! わた、私の名前は、ひっ、氷上メルル、ですっ……! その、あなたが名乗られた直後から、あまりに暗いお顔をされていたので、心配になってしまって、つい声を……」
…そういうことだったか。あまり顔は見えないようにしていたのだが、メルルは本当に人のことをよく見ている。
――牢屋敷の管理者にして、魔女裁判システムを提案した黒幕。今回からエマも加わっているが、それまではひとりで裏から手引きをしていた。
大魔女に島に取り残され、長い年月を孤独に生きてきたからか、メルルの倫理観はかなり怪しいところもある。しかしそれはそれとして、他者を本気で思い遣る心も本物なのが『氷上メルル』という少女だ。
「……ああ、そういう。…私は大丈夫、元からこういう顔だから」
「そ、そうなんですか……?」
嘘ではない。…表情にはかなり乏しいし、常に可愛げのない顔をしているのは事実だ。
「そう。だから気にしなくていい…心配してくれたことには、感謝する」
「い、いえいえ……! 私にはそれくらいしかできないので……」
……本当に、黒幕だという真実さえ除けばいい子だ、メルルは。
果たして、まのさばをプレイした人の中に、明かされる前からメルルが黒幕だと察することができた人はどれだけいたのだろうか。私は全く見破れなかった。そして発覚した時には愕然とし、失望し……その後、1周目と2周目に見せた献身的な姿勢を振り返って、その優しさも嘘ではないのだと悟って。かと思えば、メルルは最期、敬愛する大魔女と共に自らを終わらせるときた。
お陰で情緒は乱高下である。本当にどうしてくれるんだか。
できることならこの子も救ってあげたいが……今の時点ではこの先のチャートが何一つとして組めない。
これはもう、私が知っている『魔法少女ノ魔女裁判』ではない。
先回りも対策もできない。それでも、どうにか活路を開かないといけない。
……『黒部ナノカ』も、こんな気持ちで牢屋敷に来たのだろうか。
「良いかの? じゃあ残りの者も頼む!」
私とメルルの様子を見ていたユウナが声を掛けた。
確かまだ自己紹介していないのは……ふたりか。
もう一度部屋を見回してみると、まだ名前を聞いた覚えのない少女たちは同じ場所に固まって立っていた。
内片方の、長い灰色の髪が目立つ少女が口を開く。
「はーい! アタシの名前は
明るく人当たり良く、『功刀サイカ』と名乗った少女は笑った。口からギザギザの歯がちらと覗く。殆どが濃い少女ばかりだったので、サイカの学校で行うような簡素な自己紹介には不覚にも懐かしさを感じてしまった。
「ハイ、アタシは終わったよ! 最後はアナタ!」
そう言ってサイカが笑いかけた隣の少女は、黒いスーツを着崩していた。頬に付けられた古い切り傷の痕が、強面な印象を感じさせる。そして口には古めかしい
「……ったく、喧しい奴らばっかりで耳がイカれるかと思ったよ」
強面少女は煙管を口から離すと、気だるげに自己紹介した。
「浅見ソラノだ。面倒ごとがあればオレに言え、報酬さえ用意してくれりゃ大体のことはやってやる」
『浅見ソラノ』はそう言うと、すぐさま煙管を咥え直してしまった。気崩されたスーツといい、少女らしからぬくたびれた雰囲気が凄い。一体ここに来る前は何をしていたのだろうか。
……兎に角、終始癖の強い様子だった少女たちの自己紹介は漸くして終わった。
本来、正史であれば牢屋敷に囚われることは無かった少女たち。
これからこの子たちとの共同生活が始まる。
私が元々組んでいた計画は潰え、全く知らない少女たちが目の前に居る状況に、混乱も困惑もしている。けれど。
「……打開策を探す」
今はただ、それだけを目的にしよう。
囚人番号683番 白築セツナ
身長:155cm 体重:43kg
イメージCV:名塚佳織
以下作者の後書き(という名の駄弁りと言い訳)
はい、どうもお久しぶりです。水無月ズンでございます。サブの作品も読んでくださっている方はお久しぶりではないかもしれませんが。
はい、なんと少女たちの自己紹介シーンでえげつない時間がかかってしまいました。待っていてくださった方、本当にありがとうごさいます、そして申し訳ございませんでした。
全員の個性を描写しようとしていたら、気付けばこんな長さに……聞いて驚いてください、なんと今回の文字数、脅威の約9700字!!
普段の私が書く1話あたりの文字数が大体3000字前後なので3倍以上ですね。自分でもドン引きしております。
原作の自己紹介パートもここまでグダグダじゃありませんでしたよね。でも書いていて気付いたらこうなっていたんです。少女たちが勝手に暴走しまして……(見苦しい言い訳)
けど、それだけ皆個性が立っているってことですから。皆さんもよければ『推し』を作ってみてくださいね。立ち絵がない現状性格でしか判断できないのが心苦しいのですが……。
キャラデザインの進捗はと言いますと、大体の少女のラフデザインは、できてきております。しかし、『完成』はまだ誰もしていない現状です……合間合間に少しずつ描いているのですが、やはりデザインとは難しいですね。たはは(乾いた笑い)。
という事情もありまして、今回文中で描写した少女たちの容姿に関しては、まだ完成形が見えない中で書いたものになります。なので、もしかしたら後で修正されるかもしれませんのでご了承ください。
そしてこちら、私がサブで書いている小説になります。アンアンちゃんのお姉ちゃんなオリ主の話です。本作に比べて短く簡素な構成になっている(筈な)ので、おつまみ感覚でぜひ。
https://syosetu.org/novel/422168/
それから、現時点でどの少女がお好きになったかが純粋に知りたいので、良ければアンケートにお答えください。容姿出揃い後に別でまたアンケートを作りますので、ひとまず口調や作中描写内の容姿などでご判断ください……。
どの少女がお好きですか?(容姿未判明時点)
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宮乃リム
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伊礼ユウナ
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折川シノン
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保科ユニ
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天城ミーシャ
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天城ジェリカ
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浅見ソラノ
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結城ナナセ
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功刀サイカ
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交久瀬スオウ
-
白築セツナ