出遅れすぎた牢屋敷生活が、幕を開けます。
1-1 囚人生活開始
「はぁ……はぁ……」
私は自身の監房の中、両手を膝に当て、肩で息をしながら立っていた。
背後で鉄格子のオートロックが閉まる金属音が聞こえ、間に合った、と内心安堵する。
ラウンジから走って地下に戻り、自由時間終了ギリギリで監房に滑り込んだことで、初日からの懲罰房行きはどうにか免れたようだ。
整わない息のまま、私は二段ベッドの下段に倒れこんだ。昔から体力は貧弱だったので今更だが、この程度で息を切らす自分の身体を忌まわしく思うばかりだ。
そうしてベッドにうつ伏せに沈んだ状態で、モノクルを外し、もぞもぞとケープコートだけ脱いで掛け布団代わりに被り直しながら、私は思案する。
今日から始まる牢屋敷での囚人生活。2人を除いて誰もが知らない少女ばかりの中、私にできる事は……。
「……どうにか、サバトの儀式まで漕ぎつける…?」
口に出し…その後、思わずため息を吐いてしまった。
――『サバトの儀式』、それは、13人の魔女が一斉に祈りを捧げることで、魔女の長たる【大魔女】を召喚するという儀式の名である。しかし、私たち【魔女因子】由来の魔女が儀式を行うためには、私たち全員が魔女化していなければならない。魔法少女たちの魔女化には強いストレスが必要であり、一番手っ取り早くストレスを与える手段として有効なのは、少女たちの【禁忌】――又の名を『トラウマ』――を暴き、刺激することだ。
…最終的に自分たちが助かる道はそれしか無いだろう。誰1人として知らない彼女らの【禁忌】を、この手で暴かなければならない、気は進まないが、他に思い当たらない以上はやるしかないか。
そうと決まればと、私はスマホを取り出す。
これから皆のトラウマを探っていかなければならない。そのためにはやはり、交流を深める必要があるだろう。
……そんなことをしても、どうせ親交が深まるよりも先に誰かが死ぬ。
――唐突に脳裏に過ぎった自身の声にハッとし、スマホを取り落とした。聞こえたそれは間違いなく自分の声だった。まるで目を逸らし続けていたことを容赦なく目の前に突き付けてくるような、どこか諦観しているような、温度のない声。
…振り払うように頭を振って、スマホを持ち直し操作に集中する。魔女図鑑を開き、規則に目を通していく。内容はゲーム画面越しに見たものと変わりなかったので、そのまま囚人名簿へと目を移した。
分かっている。ゲーム内で幾度となく見てきたのだ。どれだけ仲が良かろうと、自制心が強かろうと、魔女の殺人衝動には抗えない。
時には嫉妬で、時には憎悪で、時には友情で。
誰かが殺され、誰かが処刑される。この牢屋敷に来た時点で、それはもう確定したこと。
悠長にしていれば確実に殺人は起こる……猶予を伸ばすにはやはり、少女たちのストレスを軽減することが最優先だろうか。
それから、各少女たちとの接し方にも気を付けなければならない。どこに【禁忌】という地雷が埋まっているのか分からないのだ。人によってはNGワードのようなものを持つ子だっているだろう。1人でも魔女化が始まってしまえばサバトは行えない。全員の魔女化より先に、誰かが【なれはて】化するのが先だ。ヒロと違って、私に【死に戻り】なんて力は備わっていない。よって与えられたチャンスは一度きり。
……これは、かなり神経をすり減らすことになりそうだ。ただでさえ私は、メンタルが強い方とは言えないのに。
こうなってしまった以上、そんなことを言ってはいられないが。
そういえば、まだ私の牢屋敷入りが1年遅れている理由が聞けていなかったのを思い出した。次にゴクチョーを捕まえられるタイミングがあれば問い質すとしよう。
それ以降の拘束時間は、囚人名簿を眺めて全員の顔と名前を完全に一致させることに使った。
ホゥホゥ、というフクロウの鳴き声のような通知音に、フッと意識が浮上した。
……どうやら眠ってしまっていたらしい。私はゆっくりと身を起こす。同室者が居ないので、房内は静寂に包まれていた。
モノクルを着け、ケープコートを着直して、監房の外に出る。すると私の房のすぐ横で、同時に部屋を出てくる人影が見えた。
「…あっ、えっとキミは確か、白築セツナちゃんだったよね!」
「こ、こんにちは…セツナさん……!」
エマとメルルだった。この2人は私の隣、奥から2番目の房に収容されているらしい。共犯者とだけあって同室にしてもらっているのだろう。
それによって1人余った私が、独房行きになったということなのだろうか。落ち着けるので個人的にありがたいが。
「……こんにちは。君たちが隣だったのか。エマさんに、メルルさん」
警戒が表に出ないように、努めて平坦な話し方をする。今の牢屋敷で、この2人が『黒幕』だと知っているのは私だけだろう。悟られれば口封じに消されかねない。
この2人に目を付けられないように立ち回りつつ、皆のストレスを軽減することが急務となりそうだ。
「そういえば、さっき自由時間が終わるギリギリに房に駆け込んでたのってセツナちゃんだよね? 足音がボクたちの房より奥まで向かってたから分かりやすかったよ」
「だ、大丈夫でしたか? 途中で転んで怪我したり、していませんか……?」
「……特には。ラウンジの中が気になってじっくり見ていたら、時間ギリギリで走ることになっただけ」
「そうだったんだ…でも、急いだら危ないよ!」
「そ、そうですよ…次からは、もっと時間に余裕を作った方がいいと思います……!」
ふたりして心配げに私の顔を覗き込んでくるエマとメルル。私は視線から隠れるようにフードを引き下げた。
「……心配どうも。これからは気を付けることにする。……じゃあ、また」
いつまでもそうしているわけにはいかないので、私は2人と顔を合わせないようにしながら横を通り過ぎようとする。
「――あ、まっ…待ってください……!」
その時、地下に響くような大きな声で呼び止められ、私は反射的に足を止めた。振り向くと、エマの横から少し前に出たメルルが、涙目ながらも強い眼差しで私を見ていた。
「あ…あのっ、これからお食事を取りに行くんですよね?」
「……そう、だけど」
「で、でしたらその……よかったら、私たちと相席しませんか?」
不安げに胸の前で手を組みながら、メルルはどうにか言い切った様子で息を吐いた。後ろではエマが、微笑ましそうに見ている。
「ボクも良いと思うよ! 一緒に食べたほうが、きっと楽しいから!」
援護射撃まで飛んできた。……本当ならこの2人とは距離を置きたかったのだが、致し方ない。
「……まあ、君たちが良いなら、わかった」
理由もなく拒否しても不自然だろうと、私は承諾した。するとメルルが、パッと表情を輝かせた。
「よ、よかったです…では、行きましょう……セツナさん!」
「よかったねメルルちゃん! セツナちゃんも、ありがとう!」
2人が私の隣に並ぶ。黒幕に挟まれるという状況になってしまった。……困った、色々と知っていることが裏目に出ている。全くもって落ち着けない。
……仕方なく、私は恐怖心を一度【遮断】しておくことにした。
~以下作者からのお知らせ~
https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=344259&uid=521736
少し前より、活動報告にて質問返答コーナーを開設しております。
こちらに頂いた質問は、ある程度溜まり次第本作の後書きで返答していこうと思うので、ドシドシ質問くださいm(__)m。
そして人気投票ですが……圧倒的セツナの人気がありますね(汗)
その次がのじゃロリことユウナ……自己紹介で一番喋ってましたからね、こればかりはね。
一章からまた新しくアンケートを設置しておきますので、ストーリーを読み進めて好きな少女が変わった、という方も、変わらん! という方も投票お願いします。もっと少女たちのことを知ってから考えたい、という方は一度投票を待ってみるのもアリ。
……ちなみに公式様が発売前のQ&Aで『好きな人からいなくなるよう努力します』といった発言をされてましたが、この人気投票にそういった意図はございませんので安心して投票してください。
あとよろしければ活動報告に推し少女を語る場なるものを開設しておくので、少女たちについて語りにきてください。生みの親としては語ってくれればくれるほど歓喜できます。何卒(期待の眼差し)
どの少女がお好きですか②(容姿未判明時点)
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宮乃リム(忘れん坊)
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伊礼ユウナ(のじゃロリ)
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折川シノン(ストレートヘア)
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保科ユニ(魔法使い)
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天城ミーシャ(天城の女神の方)
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天城ジェリカ(天城の黒い方)
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浅見ソラノ(煙管咥えてる人)
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結城ナナセ(DJ)
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功刀サイカ(明るそうな子)
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交久瀬スオウ(トゲトゲっ娘)
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白築セツナ(オリ主)