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現れた赤いRX-7。
松田はサングラスの奥で目を見張った。
『陣平ちゃん、早くしろ!』
一瞬だけ脳裏をよぎった光景を振り払う。
当然、そこに彼はいない。
「松田君、早く乗りなさい!」
松田が助手席に乗り込んで、まもなく車は発進した。
松田はタバコをつける。
空を見ていた。
夕方、暴走するトラック、高速道路、友の顔……だんだんと懐かしい景色に変わる。
シートの下に手を伸ばすと赤色灯を見つけた。
降谷の襟首をつかんで車から飛び出した時の血が騒ぐ感じがする。
「聞いてた?」
視界の端で佐藤が顔をしかめていた。
事件を共有していた所だった。
「……悪い」
「今日の所はいいわ。次はしっかり頭に叩き込んで」
佐藤は運転に集中した。
思い出を懐かしむ時間も終わりを告げるように、松田のタバコも切れた。
(おわり)
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2人はラーメン屋のカウンターに並んで座っていた。
佐藤はメニューを横から差し出した。
「奢る。好きなの頼んでいいわよ」
松田は数秒眺めて、呟いた。
「大盛チャーシュー麺」
数分後ーー。
松田の前に置かれた丼を見て、佐藤は思わず目を瞬いた。
麺が見えないほどのチャーシュー。
その上にもやしとネギがこんもりと積み上がっている。
気付けば松田は、もう箸を動かしていた。
佐藤もラーメンをすすった。
「……美味しいわね」
この時、松田は焦っていた。
(サングラスが邪魔だ……)
観念してサングラスを外す。
くだらないことで笑いながらラーメンを食べていた五人の姿が目に浮かんだ。
『チャーシューくれ!』
『断る!』
『クソっ!』
その頃の悪ふざけの勢いはないけど、食欲は相変わらずだった。
隣から佐藤が息を呑む音がする。
松田は黙って目の前のラーメンを持ち上げては口に運んだ。
2人は店を出た。
「……よくあれだけ入るわね」
「警察学校じゃもっと食ってた」
「誰が?」
「全員」
(……あの世代、濃すぎないかしら……)
佐藤は食堂の光景を思い出して、やめた。
松田は何事もなかったようにタバコをくゆらせていた。
(おわり)
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松田はRX-7の窓を開けてタバコをふかす。
隣りには佐藤刑事がいる。
平和で退屈な日常が流れていた。
目の前で人々が横断歩道を渡る。
信号が変わって車が発進する。
(……くそ、タバコも切れやがる。)
松田は携帯灰皿にタバコを押し付けた。
その時、無線が流れる。
『杯戸駅北口交差点付近でひき逃げ事件が発生、犯人が逃走中』
松田はシートの下から赤色灯を取り出した。
佐藤刑事は急ブレーキからアクセルを踏み込んで車をUターンさせた。
窓から入ってくる強風で松田の髪が乱れる。
頬を刺す冷たい風が通り過ぎた時、久しぶりに松田の中の何かがぞくりとした。
ミニパトが呼びかけている。
「そこの黒い車ー、止まりなさーい!」
佐藤も対象を確認する。
「……あの車ね」
パトカーが続々と集まって道を塞ごうとしている。
一方、逃走車両は減速する気配がない。
松田はサングラスの奥からじっと前を見据えている。
(おいおい、このままじゃ皆吹っ飛んじまうぜ。)
その時、犯人が身を挺して車から飛び出した。
「左だ!」
佐藤は車を徐々に歩道に寄せる。
風圧でスーツを翻しながら、松田は勢いよくドアを開けて飛び出した。
まもなく佐藤は反対にハンドルを切って激突を避け、
犯人が乗り捨てた車の直前で横滑りさせて車を停止させた。
一方、松田は犯人を追った。
携帯が鳴る。
「今どこにいるの!?」
「杯戸西方面に向かってる」
「先回りさせる。もう少しだけ頑張って」
(……まあ、こっちも追いつきそうだけどな。)
松田は犯人を追って路地を抜けて住宅街へ飛び込んだ。
必死に逃げているつもりらしいが足運びが素人だ。
角を曲がるたびに減速している。
対して松田は最短距離で突っ切った。
徐々に犯人の背中が大きくなる。
「くっ……!」
追いつかれると思ったのか、犯人が振り返る。
近くにあったカラーコーンを掴み、そのまま投げつけてきた。
松田は頭を傾けるだけで避ける。
「危ねぇな」
犯人はさらに拳を振り上げた。
その動きを見た瞬間、松田は思わず苦笑する。
踏み込みと同時に体を半歩ずらす。
空を切った相手の拳の内側へ潜り込み、
拳を握ると、腹へ短く叩き込んだ。
「がっ……!」
犯人の体が折れる。
続けざまに肩を押さえ込み、そのまま地面へ倒した。
「ひき逃げに公務執行妨害追加だ」
手錠の音が乾いた路地に響く。
ほどなくして、パトカーのサイレンが近付いてきた。
帰りの車内――。
相変わらず佐藤の横で松田はタバコをふかしている。
「車好きなのか?」
「これは父からもらったの」
「カーブ曲がる時叫ぶなよ」
「仕方ないでしょ!」
佐藤はミラーから松田に目をやる。
「何?ずいぶんおしゃべりね」
松田は眠気がして、サングラスの奥で目を細めていた。
心地よい疲れを表すようにタバコの煙が窓の外へ流れていた。
(おわり)
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松田は捜査一課に戻った。
サングラスを持ち上げる。
目暮とすれ違った。
「松田君、何か悪いものでも食べたかね? 」
目暮に小突かれ、松田はそっぽを向いた。
タバコに火をつける。
「どこをほっつき歩いてたの!?」
佐藤に構わず松田は新聞に目を落とす。
「高木君、あなたも一言言ってよ!」
通りすがりの高木が目を丸くした。
松田を覗き込む。
「松田君、佐藤さんが困ってますよ?」
松田はタバコを灰皿に押しつけた。
佐藤は眉をしかめた。
「本当に教育係変わってもらおうかしら」
「佐藤さん、落ち着いて!?」
すかさず白鳥が現れる。
「勉強になると思うよ。僕も勧める」
「白鳥さんまで……」
さらに後ろで佐藤の推したちが嫉妬に燃えていた。
(あいつら羨ましいぞ……!)
松田は新しいタバコに火をつけた。
その口元が少しだけ笑っていた。
決戦の時は近い。
(おわり)
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「捜査に行くわよ」
松田がタバコに行こうとすると、佐藤が仁王立ちして立ち塞がった。
新聞に手を伸ばした、それも取り上げられる。
運転する佐藤の隣で松田はタバコをつけた。
「またタバコ?仕方ないわね」
窓を開けると冷気が入り込む。
煙が外に流れる。
もう長い事1人で吸ってる。
松田の脳裏に懐かしい顔が浮かぶ。
「松田君、聞き込みやってもらうわよ」
松田は大きな煙を吐き出した。
(おわり)
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松田は屋上のフェンスにもたれながら煙を吐いた。
スマホが震えた。
『戻ってきなさい』
佐藤からだった。
松田は短く返信する。
『タバコ』
送信。
数秒後、
『知ってる』
と返ってきた。
思わず小さく笑う。
捜査一課。
佐藤はスマホを握りしめる手に力をこめた。
高木は静かに佐藤の横を通り過ぎた。
(おわり)
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送信しかけたメールを閉じる。
まぶたが重い。
画面を見つめたまま指が止まる。
寝直しても何度も眠気が襲う。
伝えきれていない言葉がたくさんある。
窓の外の雨の音を聞いている。
「松田君?」
「メールばっかりしてると思ったら……」
ワイパーが動いた。
(早く止まないかしら、この雨……)
松田は寝ていた。
起こさないように、佐藤はいつもより静かにブレーキを踏んだ。
(おわり)
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【事故の相談】
千速から電話が入る。
「私は見つけだけで、捜査する立場でもないし……重吾とも連絡がつかない」
松田は一瞬黙る。
「……メールで送れ」
メールを打ちながら、千速は笑った。
(陣平の奴、聞く気はあるんだな。)
数秒後、スマホが震えた。
メールを送り合う。
『引き継ぐよ。ありがとう』
RX-7の中。
「聞き込みの間はスマホしまってくれる?」
松田は佐藤に小突かれる。
「家族からだ」
「え?大丈夫なの?」
「何もねぇよ」
「それなら話は切り上げて職務を全うしてほしいわ」
松田の咥えていたタバコがわずかに揺れた。
(おわり)
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商店街の肉屋。
松田の目の前で揚げたてのコロッケが鍋から取り出された。
佐藤は時計を見て、ため息をついた。
「食べる?」
松田は一口食べた。
「……!」
(うめぇ!)
足元に気配を感じた。
そこには一匹の猫。
猫はあっという間に肉の塊を加えて逃げた。
松田は猫の逃げた方を黙って見つめた。
店主は静かに笑った。
「またか」
松田が見ると、店主は愛おしそうな顔でコロッケを並べている。
「あいつ、コロッケには見向きもせん」
佐藤が呟く。
「猫に食い意地張ってないで、事件を追ってほしいわ」
その時、
「兄ちゃん、頑張れよ」
店主は松田にコロッケを渡した。
「今度は猫に負けるなよ」
松田は心の中で笑った。
(おわり)
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右側を高速で車が走り抜けた。
松田は警光灯を出し、佐藤は自分のスマホを松田に渡した。
「由美に連絡して!」
佐藤はアクセルを踏み込んだ。
松田は履歴から電話をかける。
「美和子?」
「説明してる暇ねぇ。速度超過の車を追ってる。場所とナンバーは……」
由美は何とか全部聞き取った。
松田は佐藤のスマホをスーツのポケットにしまった。
2人は目の前の車を見据えた。
(おわり)
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佐藤の後ろで音がした。
振り向くと、松田がRX-7のボンネットを開けていた。
「何してるのよ!?」
松田は何も答えず、手際よく車を点検していく。
振り返った。
「エンジンのオーバーホールは」
「……そろそろ頼む時期ね」
(このエンジン音、気に入らねぇな……)
松田はボンネットを閉めると、歩き出した。
佐藤は呆れた顔で後をついていった。
(おわり)
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コンビニの中。
松田は店内を歩きながら、周囲を見ていた。
佐藤の携帯が震える。
『外に出ろ』
店外に出る。
『何』
『胸ポケットが怪しい』
佐藤はすぐに応援を呼んだ。
その頃、松田は雑誌コーナーで立ち読みしていた。
長時間店内にいる男。
その一人がスマホを触っている。
松田は雑誌を棚に戻した。
レジの方から悲鳴が響く。
次の瞬間、松田は男の腕を後ろ手につかみ、床へ押さえ込んだ。
同時に警察隊が店内へ入る。
事件は終わった。
その後、佐藤が松田の前に立った。
小さく頷く。
松田は店の外でタバコをくゆらせていた。
(おわり)
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人だかりを見つけて、松田は車を降りた。
仰向けに倒れた老人。
側に男性と女性がしゃがんでいる。
老人の頭からは血が流れている。
松田は男女を見た。
「救急車は」
「連絡しました」
すぐに男性が答えた。妙に落ち着いている。
「どっちが先に見つけた」
女性が恐る恐る手を挙げた。
「何があった」
「向こうから老人が歩いてきて、気づいた時には地面に倒れてました」
指差す先はコインパーキングだった。
車は1台も止まってない。
「逃げた人はいたか」
「いません。何かに足を引っかけた様子もなくて……」
松田は手を挙げて女性の話を制止した。
「十分だ。協力感謝する」
松田は手袋をだして頭の傷を見る。
凶器でつけた傷は見当たらない。
松田は立ち上がる。
駐車に行った佐藤が戻って来た。
「どう?」
「事件ではなさそうだな」
女性が佐藤に聞いた。
「地面の血って……帰り道なんです……」
「警察でやっておくから安心して」
佐藤は男女も含めて、周りの人を誘導した。
やがて救急車が来た。松田が状況を伝える。
救急隊は老人を診て、すみやかに搬送した。
2人は車に戻った。
佐藤が缶コーヒーを買ってきた。
「事件じゃなくてよかったわね……」
松田は黙って缶を開けて一口飲んだ。
(おわり)
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「寝るなら仮眠室を使いなさい!」
朝の捜査一課に佐藤の怒鳴り声が響いた。
松田は椅子を並べて作った即席のベッドから、ゆっくり体を起こす。
佐藤はため息をついた。
その日の夜。
佐藤は松田を仮眠室へ連れていった。
「寝なさい」
松田は黙ってベッドに横になる。
「これで満足かよ……」
夜中。
松田は目を覚ました。
資料を確認しに行き、しばらくして仮眠室へ戻る。
黙って天井を見る。枕も布団も柔らかい。
少し迷ってから、研二にメールを送った。
朝。
佐藤がそっと仮眠室を覗く。
松田はスマホを握ったまま、気持ちよさそうに眠っていた。
(おわり)
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伊達は、松田と佐藤の日報を見ていた。
分厚い紙の束。
ページをめくると目まぐるしい日々がつづられている。
伊達は顔を伏せた。
(佐藤さん、あいつの面倒みてくれて、ありがとうございます……)
日報を棚に戻した。
(おわり)