「千速、ドライブ行こうぜ」
「え?」
「スポーツカー借りてきた」
「彼女を乗せろよ」
「まあ着替えてこいって」
数十分後。
玄関の前で腕を組んでいた研二が口笛を吹く。
「似合うじゃん」
「うるさい」
千速は助手席へ乗り込んだ。
座席は低く、足を伸ばして座る。
「乗り降りしにくい車だな」
「そこがいいんだよ」
エンジンが目を覚ます。
低く乾いた音が胸に響いた。
研二はスマホを操作し、お気に入りのプレイリストを探す。
一曲目が流れ始めると、アクセルをゆっくり踏み込んだ。
街並みが後ろへ流れていく。
「どこ行くんだ?」
「内緒」
次第に信号が減り、建物が低くなる。
潮の匂いが風に混じった。
思わず千速は呟く。
「海か」
研二は答えず、少しだけ笑った。
海沿いの道へ入ると、スポーツカーは軽やかに速度を上げる。
結んだ千速の髪が風で跳ね上がる。
視線の向こうには、どこまでも青い海が広がっていた。
車を止めた2人は、海岸沿いの道を歩き始めた。
きらめく水面。サーファーの影。遠くに見えるヨット。白い柵と砂浜が緩やかな弧を描いて遥か先まで伸びている。
頬を撫でる潮風が心地いい。
千速の後ろを、研二は黙ってついていく。
「研二、海がそんなに珍しいか?」
研二は肩をすくめた。
砂浜に降り、波打ち際まで近づいていく。
千速は再び海へと視線を戻し、波の音に耳を傾けた。
足元の波が静かに寄せては返す。
その瞬間、強い海風が吹き抜けた。
海面が大きな波を作り、白い泡を散らした。
千速は少し驚いて、髪を押さえて笑った。
「千速!」
「なんだ?」
研二がスマホを構えて笑っている。
「モデルなって」
「断る」
研二は勝手にシャッターを切った。
「……消せ」
「……傑作」
休憩中。
缶コーヒーを片手に、スマホの画面を眺める。
写真をスクロールする。
海を見つめる千速。
その時、陣平が画面を覗き込んできた。
「どういうことだ!?」
研二は笑って、画面を伏せた。
(おわり)
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第一希望「整備士」。
静かに進路調査票がテーブルに置かれた。
千速は研二を見据えた。
「高校だけは卒業しろ」
「ちゃんと書いてあるぜ」
「曖昧なんだよ。どこの高校に行くんだ?」
研二は肩をすくめた。
「理由くらいあるんだろうな」
「陣平と休み合わせやすそうだから」
千速が目を細くする。
「……本当に何も考えてないのか?」
「そうだって言ったら?」
研二はニヤリと笑った。
「高校行って、大学出て、いい会社に入って、それから自由にしろ」
研二は黙っていた。
「将来食いっぱぐれたらどうするんだ」
「縁起でもねぇな」
千速は小さく息を吐いた。
「……これでも見ておけ」
警察学校のパンフレットを差し出した。
研二は苦笑した。
千速は鋭い視線で見ている。
「わかったって」
研二は調査票とパンフレットを持って、リビングを去った。
夜、陣平が萩原家に駆け込んできた。
自分の進路調査票を千速の前に突き付ける。
第一志望『研二と同じ』。
「研二のやつ、なんて書いた!?」
千速は部屋を親指で差した。
「飲み物くらい持っていってやる」
(おわり)
ツーリングVer
「千速、ドライブ行こうぜ」
「え?」
「スポーツカー借りてきた」
「彼女を乗せろよ」
「誰も乗せるなんて言ってないぞ」
千速は眉をしかめた。
「まあ着替えてこいって」
数十分後。
ライダースーツに身を包んだ千速が出てきた。
「どこに行くんだ」
「その前にガソリンスタンド」
研二は笑って車を止めた。
大型バイクのエンジン音が近づいてきた。
研二は窓を開けて笑う。
「やっぱ似合うな」
「で?」
「海まで並んで走ろうぜ」
千速は呆れたようにため息をついた。
信号が青に変わる。
低く響くスポーツカーのエンジン音。
その隣で、大型バイクが軽やかに加速する。
しばらく二台は同じ速度で走った。
研二は横目で千速を見る。
風を受けながら真っすぐ前を見る横顔。
思わず笑みがこぼれた。
海沿いの道へ入る。
青い海が視界いっぱいに広がる。
千速は小さく肩をすくめ、近くの駐車場へバイクを止めた。
スーツの腕を腰で結んだ。