蘭がコナンの顔を覗き込んだ。
「コナン君、今日はちゃんと休むのよ?」
「うん……」
蘭が出ていく。
コナンはすぐ着替えて、隠しておいたリュックを背負う。
「博士!今からそっちに行く!」
◆ ◆ ◆
放課後――。蘭と園子が話している。
「蘭、部活は?」
「コナン君が風邪だから、何か買って帰ろうと思って」
「そう。またね!」
蘭は園子に手を振り、買い物へ向かった。
◆ ◆ ◆
目を覚ました時、外は夕方だった。
博士の慌てた声がする。
新一は咄嗟に手を見た。まだ大人のままだった。
「どうした博士!?」
「蘭君が、まだ帰ってないんじゃ!」
弾かれたように蘭へ電話をかける。
出ない。
「おじさんは、何か言ってたか?」
「帰りに買い物に行くと」
新一は上着をつかんだ。
「博士、灰原……ありがとう!」
新一がスーパーに着くと、既にパトカーが止まっていた。
野次馬の向こうでは、倒れた自転車が散乱している。
(……蘭)
新一は高木刑事のもとへ駆け寄った。
「工藤君!?」
高木刑事はすぐに表情を引き締める。
「店から通報を受けて来たんだ。被害女性は病院へ運ばれた。でも目撃情報がなくてね……」
新一は黙って現場を見つめた。
高木刑事は何か言いかけて、やめた。
やがて新一が口を開く。
「……蘭がいなくなったんです」
高木刑事は息を詰めた。
「少し待ってて!」
数分後、高木刑事が足早に戻ってきた。
「警察も協力する。車を使った可能性も含めて探すよ」
新一は灰原に電話した。
「悪い、まだかかりそうなんだ」
『博士はいつでもいいって言ってるわ』
「助かる」
『気を付けね』
通話を終えると、新一は別の道を探した。
もう一度蘭に電話をかける。繋がらない。
ホームセンターの前で、新一は妙な2人組に目を留めた。
スコップと大きなビニール袋を抱えた男たちが車へ向かっている。
すでに新一の足は男たちの車を確認しに向かっていた。
高木刑事にも連絡する。
『こっちも了解したよ』
次に見た光景に新一は息を詰めた。
男たちの車に、蘭の姿を見つけた。
新一はもどかしさを押し殺し、タイミングを待った。
やがて高木刑事が到着し、新一の前に立つ。
「前に出たらダメだよ」
新一は小さくうなずいた。
その時、無線が聞こえた。
『店内および駐車場内の全員を、安全な場所へ誘導済み』
犯人たちは車を走らせようとした。
そこへ警察が一斉に突入する。
激しく抵抗する男へ、高木刑事が飛び込んだ。
もみ合いの末、男は警察官たちに取り押さえられた。
その頃、新一はドアを開けた。
「蘭!今助ける!」
口元のテープを剥がし、拘束を解いていく。
新一は蘭の身体をそっと起こした。
気が緩んだ蘭の目から涙がこぼれる。
「遅いよ……」
「もう大丈夫だ」
蘭が小さく首を横に振る。
「怖かったんだよ……新一!」
その瞬間新一は蘭を抱き寄せた。
「遅くなって悪かった……」
蘭は新一の胸へ額を預ける。
新一は強く抱きしめ返した。
パトカーが並ぶ現場に、一台のバイクが滑り込んだ。
「世良?」
「近くを通ったら騒がしかったからね」
世良は蘭と新一を見比べ、小さく笑った。
(まあ、よかったじゃん……)
「またね!」
バイクは走り去った。
犯人たちはひったくりを繰り返していたことが判明した。
現場検証も終わり、一行は帰路につくことになった。
新一たちの前に佐藤刑事の車が滑り込む。
蘭が乗り込もうとした時、手から小さなお守りが落ちた。
蘭がかがんで拾い上げる。
新一もそれに気づいた。
一瞬だけ視線が重なる。
どちも何も言わなかった。
「じゃあな、蘭」
新一は路地から姿を現した。
力が抜け、片膝をついて耐える。
その時、急ブレーキを響かせてビートルが滑り込んだ。
新一はドアを開けるなり車へ飛び込む。
車はすぐに走り出した。
博士はハンドルを握りながら、何度も新一を振り返る。
全身を激痛が駆け巡り、新一は顔を歪めた。
心臓は縮み、身体は座席を滑り落ちていく。
(せっかく戻ったのに……ここまでかよ……蘭……)
新一の意識は、深い闇へ沈んだ。
◆ ◆ ◆
朝。通学路で蘭が顔を赤くしていた。
「ねえ蘭、最近いいことでもあった?」
「そ、そんなことないよ! 園子ったら」
事務所では、小五郎が視線を感じて新聞から顔を出した。
白く光るメガネの奥からコナンが見つめていた。
(おわり)