RX-7が順調に街中を走り抜ける。
やがて1台の車の前で止まる。
佐藤が車を降りた。
「行きましょう」
松田は後ろを悠々とついていく。
テナント募集中のビル。
以前は印刷会社だったようだ。
その前に、1台の業務車両が停まっている。
「松田君、何か気になる所ある?」
佐藤は松田の方を振り向く。
松田はポケットに手を入れてビルの奥を睨んでいた。
「シンナーだか薬品の類が漏れてる。危険物置き場だな」
佐藤は一瞬目を見張った。
「応援を呼ぶわ」
佐藤は電話をかける。
対して松田はポケットから手を抜くと、ビルの外壁にある排気口へ歩み寄る。
手をかざした。
風が、全く抜けていなかった。
佐藤が駆け寄って、松田の視線の先に気づく。
「換気扇が止まってるの?」
「ただの故障じゃねぇ。印刷会社が使ってたビルなら、溶剤を逃がすために24時間換気するか、完全に撤去する時は残液を空にするはずだ」
松田はサングラスの奥で目を細める。
「揮発性の液体を放置して、ガスの通り道をあえて塞いでたら……」
「ただの不法投棄じゃない ……」
「特製の『爆弾部屋』だ。火花1つで全部吹っ飛ぶぜ」
佐藤は車に視線を向けた。
少し考えて、盗難車の照会も依頼する。
松田が歩き出し、通話したまま後を追う。
ビルの裏口に着くと、薬品の臭いが漂ってきて、顔をしかめた。
「応援を待ちましょう」
その前に松田はドアを開けて中へ滑り込んだ。
「外にいろよ」
佐藤は瞬間動きを止めた。
松田の姿が消えかけた時、ドアを掴んだ。
「……置いていけるわけないでしょ!」
薄暗いビルへと足を踏み入れた。
松田は振り返ると、これまでにない険しい目で佐藤を見た。
スマホで入力し、画面を突き付ける。
『床に見えないガソリンがあると思え』
佐藤は息を詰めて頷いた。
やがて、「危険物貯蔵庫」の前で2人は足を止めた。
扉の隙間から濃厚な薬品臭が漏れ出していた。
空気は生ぬるく、独特の甘い香りが鼻を刺す。
ライトを向けた先に、蓋のないドラム缶。
その真上から剥き出しの銅線が垂れている。
遠くで配電盤の低い唸りが響いている。
松田の脳裏に最悪のカウントダウンが響く。
隣りでふらついた影を、とっさに掴んだ。
「逃げろ!」
佐藤は弾かれたように走り出した。
松田も考えるより先に駆け出した。
通りに戻ると、辺りは喧噪に包まれていた。
パトカーや消防車が、道路を隙間なく埋め尽くしている。
松田が現場の指揮官に状況を伝える。
まもなく指示を受けた隊員たちが、防爆機材を手に一斉にビルへと突入した。
やがて危険物の処理は無事に完了し、事件は静かに幕を閉じた。
その頃、佐藤はパトカーで休んでいた。
いつの間にか窓の外で松田がタバコを吸っている。
苦笑しながらスマホを取り出す。
『高木君に連絡しておく』
松田がポケットからスマホを取り出し、高木のいる反対車線へ向かった。
『大丈夫。私が1人で突っ走っただけだから』
送信画面を眺めていた佐藤は静かに肩の力を抜いた。
(おわり)