迷子の放送が繰り返し流れた。
インフォメーション前では、目を泣き腫らした母親が肩を震わせている。
佐藤は受付に向かった。
「迷子の放送、ずっと同じ子ですね」
「はい……何度呼んでも見つからなくて」
佐藤は母親に歩み寄った。
「お子さんは何歳ですか」
「四歳です。赤い靴を履いていて……お気に入りのワンピースを着ています」
少し離れて聞いていた松田は眉をひそめる。
母親は佐藤に付き添われ、カウンターの奥へ向かった。
松田はその後ろ姿を見つめる。
(歩き方がおかしい……)
片足を引きずっている。
手の甲には薄いあざが残っていた。
松田の前に佐藤が来た。
「探すわよ」
「どこから」
「……出入口の監視カメラを確認する」
「出入口は任せた。こっちは子どもが集まる場所を当たる」
松田は佐藤に背中を向けて歩き出した。
(そっちも頼んだわ)
佐藤も受付に次の指示を出しに戻った。
佐藤は防犯カメラの映像を確認している。
その頃、松田は屋上に向かった。
『わくわくランド』という子供の遊び場になっていた。
迷子の放送が流れた。
放送を気に留める人は少ない。
松田は笑った。
(迷子を気にする方が珍しいな)
松田は遊び場を見回した。
やがて建物の角のベンチで、赤い靴を履いた女の子を見つけた。
隣にお菓子が詰まったビニール袋がある。
女の子と話していた女性は座ったまま後ずさりした。
(まずガキを守れよ)
女の子はサングラスの奥をじっと見つめた。
松田は近づいて、片膝をついた。
「ママはどうした」
「はぐれちゃった」
「ずっと遊んでたのか」
「おばさんが遊んでくれたの」
(何聞いても自分の母親じゃねえって言ってるぜ……)
女の子が立ち上がって手を広げた。
「お洋服もかわいいって褒めてくれたんだ♪」
「よかったな」
女性が説明した。
「迷子になったと言うので預かってました。お母さんが来るかもしれないと思って、ここに来て遊ばせていました」
松田は女性に視線を向けた。
「迷子の子供を預かるくらいなら、迷子の放送も聞いただろ。一度も聞こえなかったのか」
「聞こえました」
女の子がお菓子の袋を持ち上げた。
「このおばさん、お菓子もたくさん買ってくれたよ」
(話にならねぇ)
女性がお菓子の袋を受け取る。
手の甲の赤い擦り傷が目に入った。
「お菓子まで買って、随分と歩き回ったみてぇだな」
「ママが全然買ってくれないと言うので、買ってあげました」
「親が子供のわがままをなだめるのは普通だろ」
女性はむっとした。
「この子が満足したらちゃんと返すつもりでした」
松田は口元を緩めた。
「お嬢ちゃん、満足したか?」
「うん!」
「……今のは聞こえただろ」
女性は顔をしかめた。
「その足の傷、母親と揉めた時についたか?」
「違う!」
女性がベンチを蹴って飛び出す。
松田は一歩で進路を塞いだ。
「この人、ママを押したの……」
女の子の声に、松田の目が鋭くなる。
「この子は私の娘なの!」
女性が女の子へ手を伸ばす。
松田は女性の腕を掴み、手錠をかけた。
「未成年者略取誘拐罪で逮捕だ」
女の子が松田の腕にしがみついた。
「女の子も無事保護」
松田は佐藤に連絡した。
松田が女の子と手をつないでインフォメーション前に戻ってきた。
佐藤と母親が待っていた。
女の子が松田の手から離れて走り出す。
松田は空いた手をポケットに入れた。
母親が女の子を抱きしめる。2人の泣き声が響く。
通りかかった人たちが、不思議そうに見ては過ぎていった。
車に移動。
「松田君、子どもに好かれるタイプなのね」
佐藤は松田に視線を送る。
「聞き込み、またお願いするから」
松田は返事もせず、助手席に乗り込んだ。
(おわり)