次回で本作のしのぶは一皮剥けます。そんな彼女の成長をどうか見守ってあげて下さい。
追記:評価して下さった皆様、誠にありがとうございます。おかげさまで本作品もとうとう評価バーに色が付きました。滅茶苦茶嬉しいです。今後も毎日投稿続けて参りますので、引き続き楽しんで頂けるよう頑張ります。
「姉さんっ!!!!」
私はすぐに鱗滝さんの小屋を出立し、姉さんが花柱として住まう屋敷へと足を運んでいた。
隠の方に肉親であることを伝えると、すぐさま姉さんの居る部屋まで案内してくれた。
私は風のように屋敷の中を走る。そうして辿り着いた。姉さんの横たわる寝台に。
「姉さん・・・」
そこには真っ白な着物に身を包み、目を瞑って横たわる身動きしないままの姉さんが居た。私の両の眼より大粒の涙がポロポロと零れだす。
「嘘・・・そんな・・・こんなのって・・・手紙には助かったって書いてたのに・・・!!」
「しのぶ姉さん」
私は肩をびくつかせ、即座に振り返る。そこには音もなく気配もなく静かに佇む妹のカナヲが一人立っていた。
私は固まる。どれほどの時間そうしていたのかわからなかったが、やがて私の心音が早鐘のように鳴り始める。
「カナヲ・・・カナヲッ!!! 貴方がっ!! 貴方が傍に居ておきながらっ!! どうしてこんなことにっ!!!」
「ごめんなさい。カナエ姉さんを守り切れなかった」
「姉さんは助かるのっ!? 平気なのっ!? 今すぐ答えなさいよ!! カナヲッ!!!」
「うん。カナエ姉さんは助かる。そこは安心して。しのぶ姉さん」
私は息を乱す。その怒号は屋敷全体に響き渡っていたのか、やがて隠の人達が恐る恐る様子を伺いに来るようになった。
今の私は怒気を発しながら、カナヲの胸倉を青筋が浮かび上がる程の力で掴んでいる状態だった。その様子を見た隠達は、思わず後ずさっていた。
「カナエ姉さんは上弦ノ弐を倒すために囮になったの。私が確実に奴の頸を刎ねるために」
「はっ!? 上弦っ!? 何よそれ!! 聞いたことないわ!! そもそも貴方ならどんな鬼だって問答無用で倒せたはずでしょ!? なんで姉さんを囮になんてしたのよっ!!!!」
「それは私から説明しよう」
すると廊下よりどっしりと重厚感のある落ち着いた声が聞こえて来た。聞き間違えるはずもない。悲鳴嶼さんの声だった。
「ひ、悲鳴嶼さんっ!? どうしてここに!?」
「カナエが十二鬼月の上位二番目の鬼、上弦ノ弐と戦闘になり生還したと報告を受けたからだ。私はその時の様子を聞き取りに赴くようお館様より仰せつかっている。だから今すぐその手を離せ」
私は依然としてカナヲの胸倉を掴んでいることに気づいた。慌てて手を離し、苦々しく詫びる。
「ごめんなさい・・・カナヲ・・・私・・・姉さんが重傷を負ったと聞いて・・・それで・・・」
「大丈夫。しのぶ姉さんがカナエ姉さんのことを大好きだって知ってるから。だから私は気にしてない。寧ろ謝らなければならないのは私の方。私の力不足でカナエ姉さんを守れなくて本当にごめんなさい」
本来詫びるべきは八つ当たりして食って掛かった私の方なのに、カナヲは自身の不足で姉さんが傷ついたことを詫びた。
悲鳴嶼さんの屋敷より別々の時間を過ごして早三年。カナヲは以前にもまして強く非の打ちどころのない人格者になっていた。
一方で私はどうだ? 姉さんを守ると散々豪語しておきながら、その癖最終選別すらも今だに合格できず、姉さんの傍についてあげる力もないまま、代わりに姉さんの傍で姉さんの為に剣を振るい鬼を滅したカナヲを責めた。
これではどちらが姉なのかわかったものではない。私はずっと、あの日あの夜から微塵も成長していない。
いや違う。成長はしているが、私の歩みなどカナヲという神童の前では亀の如き歩みに他ならなかったのだ。私は自身の無力さと器の矮小さを恥じた。
「しのぶ。十二鬼月を知らなかったのか?」
「・・・名前だけは・・・育手の師より一度だけ・・・聞いたことがあります」
「そうか。上弦下弦については?」
「・・・まだ・・・聞いておりませんでした」
「わかった。では手短に教えよう。十二鬼月とは無惨直属の精鋭十二体の特別な鬼のことだ。その実力は他の鬼達と一線を画す。また下位六体は下弦の鬼と呼ばれ、特別と言いながらも我々柱の手に掛かれば討伐するのは比較的容易だ。故に十二鬼月の下弦を討伐した者は、柱昇格条件の鬼50体討伐を待たずに柱となれる。だが本当に恐ろしいのは上弦の鬼達だ。奴らはここ百年以上、一匹たりとも顔ぶれが変わらないと聞く。何故なら奴ら上弦は柱の力など優に超え、今までに数えきれない程の柱の隊士を殺し無惨の膝元で君臨し続けているからだ。そして上弦ノ弐とはその最強格の鬼の中でも上位二番目の実力を持つ鬼。ここまで言えば、今回カナヲが成し遂げた功績が如何に凄まじいかわかるだろう?」
私は絶句する。まさか今回カナヲが討伐した鬼がそれほどまでに恐ろしい鬼だったなんて。悲鳴嶼さんみたいに恐ろしく強い柱がここ百年経っても誰一人として敵わない鬼。それをカナヲは姉さんを守り切った上で返り討ちにした。とてもじゃないが、私が後何年、何十年鍛錬を積んだとしても、到達できる領域ではない。その事実を早々に分からせられた。
「お館様もお喜びだ。これは兆しだと。百年以上停滞していた状況が変わり始めたと。この流れはやがて大きくうねり、いずれあの男の命まで届き得るとも」
「・・・・・・」
「そこで今回上弦の鬼と戦い生還したカナヲより奴らの情報を得る。カナヲ、お館様が屋敷でお待ちだ。着いてきなさい」
「はい。悲鳴嶼さん」
するとカナヲは静かに頷き、悲鳴嶼さんの後を追う。しかし私は一つ腑に落ちないことがあり、悲鳴嶼さんの背に向けて問いかける。
「・・・なぜですか・・・」
「む?」
悲鳴嶼さんは振り返る。私はどうしても納得できないことがあった。それを悲鳴嶼さんに問い詰める。
「どうしてカナヲはそんなに強いのに・・・柱になっていないんですか!? カナヲを柱にして積極的に戦わせれば、その十二鬼月なんてあっさり全滅できますよね!? 今回だってなんで姉さんを矢面に立たせたんですか!? 最初からカナヲが戦っていれば姉さんがこんな重傷を負うことも・・・!!」
「それはお館様の采配によるものだ。カナヲは柱に成らず、一般隊士の振りをして他の柱の任務に同行する。そしてもし十二鬼月の上弦に遭遇すれば、相手に一切実力を気取られることなく鬼を滅する。それが、私とカナヲ、お館様との間で交わした取り決めなのだ。カナヲが鬼殺隊最強の矛であることを鬼舞辻無惨に欠片も悟らせてはならない」
「どうして!? どうしてそんな回りくどいことをするんですか!? 最初からカナヲ一人で鬼を一匹残らず滅していけば誰一人傷つかず済むのに!!」
「しのぶ。お前はそれほどに短慮だったか? もしそんなことをすれば無惨はカナヲを警戒し、二度と彼女の前に現れないだろう。そしてカナヲの寿命が尽きてから再び鬼を増やす。そうされるに決まってる。もし最強の剣士一人で鬼との長きに渡る因縁に終止符が打てるのなら、戦国の世に現れし始まりの呼吸の剣士唯一人でとうの昔に決着などついている」
「・・・・・・」
「わかったらお前は金輪際カナヲの実力を周囲に公にするな。カナヲの実力は一般隊士にも秘匿とする。鬼側に情報が漏れるのを万が一にも防ぐためだ。ここに居る隠の者も全員同様だ。お館様に誓って絶対に口外するな。わかった者は肝に命じろ!!」
「「「「ぎょ、御意っ!!」」」
そうして悲鳴嶼さんはカナヲを連れて屋敷をあとにした。隠達もその場を去っていく。私は姉さんの横たわる病室で一人残され、姉さんの寝台の傍でへたり込む。
「私・・・何も理解できていなかった・・・大した力もないのに勝手なことばかり言って・・・本当に・・・私はなんで・・・」
私はその場ですすり泣く。
私は無責任の役立たずだ。カナヲは必死に鬼殺隊のために戦ってるのに、一方で私はずっと同じ場所で足踏みしてるばかり。ちっとも前に進めてない。
こんなところで立ち止まってるような私に・・・私に・・・カナヲのような姉さんを守れる力が身に付くんだろうか・・・
「・・・しのぶ・・・」
その瞬間、後ろから私の名前を呼ぶ声がした。涙で目元を腫らし振り返った先には、最愛の姉が微笑を浮かべて私を見つめていた。
続く
次回、胡蝶姉妹の原作エピソードをオマージュした描写を入れる予定です。つくづくカナエ姉さんの存在はしのぶさんにとって偉大だったんだなと実感させられます。やはりどんなに頑張っても兄上は胡蝶姉妹のようにはなれない(え)。
読みたい路線はどっち?
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一部の層(継国兄弟ファン)にぶっ刺さる話
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万人受けしそう(マイルド)な話