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私には二人の姉が居る。生まれた時からいつも傍で面倒を見てくれるカナエ姉さん。そして私の手を引いて色んなところに連れてってくれたしのぶ姉さん。
私は二人の姉が大好きで、この世界に生まれ落ちることができただけで幸福だと思ってた。
カナエ姉さんはとても穏やかな優しい人で、今よりずっと幼い頃、私の痣のことを心配して毎日毎日祈っていた。
私が物心つく歳になっても尚、誰とも口を利かなかったために、余計な心配をかけてしまい申し訳なく思う。
しのぶ姉さんはとても活発で、カナエ姉さんに負けない位優しくて頼りがいのある人だった。
いつも私を気にかけてくれた。私が一人困っても平気なようにと、街の路面店で笛を買って私の為にと紐で括り、私の首に下げてくれた。
困ったことがあれば吹けと、そしたら必ずしのぶ姉さんは助けに行くとそう言って、私の目を見て約束してくれた。
そして日頃からはぐれないようにと、糸の切れた凧のような私の手を握り、街中に繰り出す際は手を引き私の指針となってくれた。
そんな二人に私はきっと甘えていた。本当は口が利けるのに必要はないと閉ざしたまま、透き通った視界や小さい体躯に似合わない腕力を特段振るうこともせず、私はずっと幼少期を過ごしていた。
しかしそんな穏やかな日常もあっけなく終わりを迎えた。
今でこそわかるが、私たちの家に鬼が出た。お父さんが真っ先に犠牲になり、続いてお母さんも殺された。
カナエ姉さんは震える両手で私としのぶ姉さんを抱きしめ、安心させようと手を握っていた。
けど私は確信していた。このままでは姉さん達もお父さんやお母さんと同様に喰い殺されてしまう、と。
だから私は必要に迫られ、生まれてから一度も見せたことがなかった膂力を発揮して鬼を石臼で叩き潰した。
生き物の頭蓋を潰す感触は地獄のようだった。でも私は、愛する姉たちだけはせめて守り通したいと、何度も石臼を使って鬼の身体を叩き潰した。
しかし鬼は身体が再生するので私は苦心していた。どうしたものかと悩んだ矢先、悲鳴嶼さんが鬼に止めを刺した。
「君の名はなんという?」
名前を問われ、私は応える。必要に迫られ私は初めて口を利いた。その時しのぶ姉さんから視線を感じた。私はもう元の関係には戻れないのだろうと薄々悟った。
私は姉さん達の前で、常軌を逸した人外振りをまざまざと見せつけた。もう愛されるだけの末の妹としては生きられない。得体の知れない化け物と思われても仕方がないだろう。
なので私は悲鳴嶼さんの話を聞き次第、姉たちの傍には戻らず悲鳴嶼さんについていくことを決めた。今の自分を姉さん達に受け入れて貰える自信がなかったから。
本当はいつまでも大切な家族と心穏やかに生きていきたかった。ただそれだけで良かった。でもそんな小さな願いは今日で潰えた。鬼が、この美しい世界に存在してる為に。
だから私は姉たちを置いて鬼狩りになることを決めた。きっと私は、他の人よりも特別強く造られて生まれて来たのだろう。鬼を滅するために。
ならその使命を果たさなければ。これ以上、私たちと同じ悲しい思いをする人達を増やしちゃいけない。そう思ったから。
そうして悲鳴嶼さんの屋敷についていき、それから数日鬼殺に関する知識を学んだ。鬼を殺す方法。その為に必要な呼吸法と日輪刀。そしてその為に存在する鬼殺隊について。
しかし、悲鳴嶼さんはそう時を置かずして、私が他の人と違う生き物の造りをしていることに気づいたようだ。
悲鳴嶼さんは私に剣術を教え、鬼殺隊で伝わる五つの呼吸を他の隊士を通じて見せてくれた。私はそれをすぐにものにした。
悲鳴嶼さんは私の身体の強さに加え、目が普通ではないことにも気づいたようだ。それ以降手合わせすることが増えた。戦い方を覚えた後私は、いつの間にか悲鳴嶼さんに勝ち越すようになっていた。
そんなある日、私の下に姉さん達が訪ねて来た。私の様子を伺いに。そして一緒に鬼を狩るために。
悲鳴嶼さんは反対した。私も快く思わなかった。正直、あの夜の私を見ても尚、未だに私を大切に思ってくれる事実に言いようのない嬉しさを覚えた。
それでも、できれば二人には安全な場所で生きていて欲しかった。けど二人の決意は固いようで、悲鳴嶼さんが出した難題も二人は力を合わせて乗り越えてしまった。
本当は諦めて欲しかったけど仕方がない。こうなった以上、私が姉さん達を守る。私の使命は鬼を滅すること。でもそれ以上に、二人の姉の命は私にとって重かった。
私は一足先に最終選別を合格し、鬼殺隊士となった。すると悲鳴嶼さんの紹介で、鬼殺隊当主の産屋敷輝哉という方のお目通りをすることになった。
「君が・・・行冥の言っていたカナヲだね」
悲鳴嶼さんはお館様と呼んでいたので私もそれに倣う。お館様は私を始まりの呼吸の剣士の再来と思っているようだ。
その証拠が、泣きボクロの位置にある生まれながらの痣と、常軌を逸した身体能力であるとも仰っていた。
ただ、鬼殺の仕事をする上で、お館様よりある取り決めを提案される。それは、『何があっても絶対に鬼側へ自身の実力は悟らせてはいけない』という取り決めだ。
私は首を傾げる。力を振るわずに鬼を狩れるのかと。そこでお館様は事情を話して下さる。
なんでも、戦国の世に現れた始まりの呼吸の剣士は、鬼の首領である鬼舞辻無惨をあと一歩のところまで追い詰めたらしい。けど結局は逃げられ、その剣士の寿命切れまで行方を眩まされたのだとか。
もし私が大っぴらに本当の実力を明かして鬼と戦うと、その人の二の舞を演じかねないことを危惧されていた。
結果私は、実力を隠し、当面は悲鳴嶼さんの任務に同行する一般隊士として戦う運びとなった。
私はそれを了承した。結局のところ、鬼舞辻無惨を滅ぼさなければ鬼は滅びない。なら機会が来るまで待つべきだと理解したからだ。
それから二年ほど、私は悲鳴嶼さんをはじめとした柱達の任務に度々同行し、自身の責務を果たす為に邁進した。そして・・・
「カナヲ! 私柱になれたわ! 今日からお屋敷も貰えるの! また一緒に住みましょう?」
黙々と任務に同行する日々を過ごしているうちに、カナエ姉さんが遂に花柱になった。それ以降お館様の采配で、私はカナエ姉さんの継子の振りをして過ごすことになった。
「しのぶも一緒に住もうって誘ったんだけどね。でも断られちゃった。最終選別に合格するまでは修行に専念したいって言われちゃって。姉さん寂しいなぁ・・・」
「大丈夫。しのぶ姉さんならすぐに合格して気が付いたら柱に成ってると思う」
「ふふっ。そうね。しのぶは頑張り屋さんだもの。すぐにまた三人で過ごせるようになるわね。姉さん楽しみだわ~」
カナエ姉さんは少し寂しそうに笑った。不安な気持ちが伝わってくる。でも私は確信していた。しのぶ姉さんなら問題ないと。だってしのぶ姉さんは私の自慢の姉さんだもの。だから平気に決まってる。そう思っていた。
それから半年後、遂に私は己の役割の一端を果たすべき時が来た。
「やあやあ、初めまして。俺の名前は童磨。いい夜だねえ。」
十二鬼月については悲鳴嶼さんから聞いていた。なんでも無惨配下最強の鬼達だと。特に上弦と呼ばれる鬼達は別格で、奴らは100年以上も柱ですら討伐できていない鬼なのだとか。
確かに目の前の鬼は一線を画す鬼気を纏っていた。加えてヘラヘラ笑っているのとは裏腹に抜け目がなさそうに見える。もし正面から頸を刎ねに行ったら無惨に私の存在がバレるし、かといって隙を突いて背後から刎ねようにも多分奴には私の存在に気づかれる。
カナエ姉さんを囮にして油断させた隙に倒すしかない。正直苦渋の決断だった。けど私はカナエ姉さんの力を信じることにした。けど・・・
「ごめんなさい・・・ごめんなさい・・・!!」
私の見通しは甘かった。甘過ぎた。私が万全を期して存在を気取られることなく童磨の頸を斬った時には既に、カナエ姉さんは取り返しのつかない重傷を負っていた。何とか一命を取り留めたようだけど、私は自身の不足を悔やむことしかできなかった。
カナエ姉さんは気にしないでと言うけれど、私は身を引き裂かれるような思いだった。
私はしくじった。結局しくじってしまったのだ。私がしくじったせいでカナエ姉さんはこれからの長い人生で不自由な生き方と苦痛を強いられる。心苦しい。
けどいつまでも打ちひしがれている訳にもいかず、私はそのままカナエ姉さんを屋敷まで運んだ。そしてすぐに隠の人達に頼み込み医者を呼んでもらった。この時、もし一緒に居たのがしのぶ姉さんだったらと思わずにはいられない。
しのぶ姉さんなら、きっと私みたいにもたつくことも無く、すぐに的確な応急処置ができたはずだ。そうしたらカナエ姉さんの後遺症だって最低限に抑えられたかもしれない。
そもそも私ではなく、初めからしのぶ姉さんに頑強な肉体が与えられていたら、もっとうまく立ち回れたはずなんだ。そしたらカナエ姉さんが重傷を負うこともなかった。そう思った。
「カナヲ・・・カナヲッ!!! 貴方がっ!! 貴方が傍に居ておきながらっ!! どうしてこんなことにっ!!!」
「ごめんなさい。カナエ姉さんを守り切れなかった」
だからしのぶ姉さんが翌日屋敷に駆けこんできた時、私は何も弁明できなかった。その通りだとしか思えなかったからだ。自身の不甲斐なさに胸が痛む。心苦しい。
しのぶ姉さんの怒りは尤もだ。しのぶ姉さんからしたら、命より大切に思っている最愛の姉を、他人に踏みつけにされたも同然なのだから。
最終的には悲鳴嶼さんが私の代わりに弁明し、しのぶ姉さんは私を責められなくなってしまった。悪いのは私なのに、しのぶ姉さんに辛い思いをさせたまま、やり場のない怒りを無理に飲み込ませてしまった。心苦しい。
それから私は産屋敷邸に案内された。私たちとは対照的に、お館様は大層喜んでいるご様子だった。
「カナヲ。君は本当に凄い子だ。百年。百年以上停滞していた状況が君のおかげで変わり始めたんだ。この流れはやがて大きくうねり、いずれあの男の命まで届き得るだろう。これから先も、どうか君のその天より授けられし偉大な力を鬼殺の為に役立ててくれないか? 今回の君の頑張りだって、今後数百、数千人の人の命を救ったも同然なんだ。上弦を倒すとは即ちそう言う事なんだよ。本当に感謝してもしきれない。君はそれだけ素晴らしいことを成し遂げたんだ。どうか自身を誇ってくれないか?」
私は頭を下げたまま、お館様の労いを聞いていた。確かに私の成したことは意味のあることだったのだろう。けどそれでも私は、自分の大切な人だけは結局守り通すことができなかった。
「姉のカナエのことは本当に残念だった。けど君がいたから彼女は生きて帰ってこれた。これは紛れもない事実だ。もし上弦の鬼を討伐したことを一切誇ることが出来ないのなら、せめて君の大切な家族の命を救った事実だけでも誇りに思ってはくれないだろうか。私は君の心が、ほんの少しでも救われて欲しいと願わずにはいられないんだ」
「・・・ありがとう・・・ございます・・・」
必死に心を砕き労いの言葉を掛けてくれるお館様に対し、私はそう返すだけで精一杯だった。私はそのまま屋敷をあとにし、花柱邸へと帰宅した。
「カナヲ・・・話があるの」
カナエ姉さんの居るであろう病室に戻ると、しのぶ姉さんがその場にまだ残っていた。私は申し訳なく思うばかりで顔を上げることができないでいた。するとしのぶ姉さんが私の手を両手で包み込む。
「ごめんなさいカナヲ・・・あんな酷いことを言って・・・私最低だった・・・!」
「っ!」
私の前で頭を垂れてそう声を絞り出すしのぶ姉さん。私はすぐにかぶりを振った。
「そんなことない。しのぶ姉さんなら、カナエ姉さんを一切傷つけることなく鬼を倒せてた。私じゃなくてしのぶ姉さんなら・・・!」
「馬鹿なこと言わないで。私がいくら逆立ちしたところで上弦の鬼になんて敵う訳ないでしょう?」
「でも・・・しのぶ姉さんに私と同じ身体能力があればもしかしたら・・・!」
「そんな仮の話したところで仕方ないじゃない。私は貴方にはなれないし、貴方は私になれないの。無いものねだりしたってしょうがないじゃない?」
「・・・・・・」
そんな私たちを病床からカナエ姉さんが見ているのに気付いた。
「カナヲ。しのぶはね。これからは私を守る為じゃなくて、貴方を支える為に強くなるって言ってるのよ?」
「・・・え・・・」
カナエ姉さんがそう優しく語りかけてくる。私は顔を上げる。カナエ姉さんは続ける。
「本当はね、私がカナヲやしのぶを支えられる柱になるつもりだったの。でもできなくなっちゃった。その代わり、私の思いはしのぶに託したの。貴方を一人で戦わせたりなんてしないって」
「・・・そうなの? しのぶ姉さん・・・」
「ええ。そうよ」
しのぶ姉さんは私から手を離し、胸に手を当てて苦しそうに微笑む。
「私、実はずっと、カナヲに嫉妬していたの。カナヲは強くて私は弱いから。だからカナヲばかり姉さんの傍に居られて姉さんの役に立ててるんだって疎ましく思ってた。カナヲばかり姉さんの力になれて姉さんを守ることができて狡いなって思ってた。ほんと、最低の姉よね」
「・・・そんなこと・・・」
「でも今は違うの。カナヲだって辛いことや苦しいことが沢山ある。それなのに私がカナヲに嫉妬ばかりしてカナヲの力になってあげられないなんてこんな情けないことないわ。それにカナヲだって、紛れもなく私の大切な妹なんだから・・・」
「・・・しのぶ姉さん・・・」
「だから決めたの。私は今後、姉さんの代わりにカナヲの力になるって。カナヲが辛い時はその痛みを和らげてあげたい。カナヲが苦しい時はその負担を一緒に背負ってあげたい。カナヲが折れそうになったら私が傍で必死になって支えるって。それが・・・カナヲに誇れるお姉ちゃんの在り方だから」
「・・・っ・・・」
私は声も出さないまま大粒の涙をぽろぽろと溢した。そうしてそのまましのぶ姉さんにしがみついた。
「うっ・・・うっ・・・しのぶ姉さん・・・しのぶ姉さんっ!」
「ごめんねカナヲ・・・今まで一人にして・・・でもこれからはずっとお姉ちゃんがついていられるよう私も強くなるからね? 一人で頑張らなくていいからね?」
私はそのまましのぶ姉さんの胸の中で泣いた。しのぶ姉さんは優しく抱き返してくれる。温かい。
そうだ。ずっと前からだ。小さい時から。しのぶ姉さんは私の手を引いて行く先を照らし続けてくれた。しのぶ姉さんが手を引いてくれるから、私はいつも不安を抱えながらも安心して歩くことができたんだ。
そうだった。生まれた時からずっと、しのぶ姉さんは私にとって唯一無二の太陽であり、闇夜の先を指し示すお月様みたいな人だったんだ。
あの夜から私は姉さんに嫌われたと思っていた。内心化け物だと思われているんだとそう思っていた。透き通った視界で視る度に、しのぶ姉さんの沸き立つ血潮と軋むような筋肉のこわばりがそれを物語っているのだとずっとずっと思っていた。
でもこれからはまた幼いあの頃のように、しのぶ姉さんとも穏やかな気持ちで一緒に居られる。
漸く私の望んでいたものが一つ取り戻せたのだと、この時の私はそう思った。
続く
縁壱「兄上は死んだ部下のことを思って鬼殺隊に入隊してくれる! やはり兄上は私の尊敬する素晴らしい人格者だ!」
巌勝「私は縁壱の持つ技と力を我が物としたかった。部下などどうでもいい。家族ももういらん。縁壱。私はお前のようになりたいのだ」
こいつらバッドコミュニケーションが過ぎんか? お互いに美化したり神聖視したりしてるせいですれ違い酷すぎィイ!!! なんでもっと本音を明かさないんだ! ちゃんと言語化して喋れ! 二人とも、アンジャッシュのすれ違いコントしてんじゃねぇんだぞ!?←伝わる?
本作の胡蝶姉妹はこうはならなかったので一安心してます。ただまあ、不意に書いてみたいと思ってしまう時はありますが(え)。しのぶ×カナヲが不仲だと読者受けは悪そうなので普通にボツになると思います。
読みたい路線はどっち?
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一部の層(継国兄弟ファン)にぶっ刺さる話
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万人受けしそう(マイルド)な話