上弦ノ弐、童磨をカナヲが討伐して早二年。私は十四になった。
この二年間は狭霧山で籠るばかりでなく、藤の花の家紋の家を回って藤の花を収集したり、姉さんの住む屋敷に常駐して藤の花の抽出や濃縮を試みたり、屋敷で隊士の治療を手伝う医師の真似事を繰り返したりなどして過ごしていた。
常中は一度も絶やしたことはない。ずっと続けていれば、日に日に身体能力は向上し、鬼の頸を斬る為の膂力を得る可能性が上がる。だがそれだけでは足りないと思っていた私は、医学、薬学、藤の花の抽出物の研鑽も同時並行で続け、ある程度の成果を出すに至った。
まず、医学の知識。これは薬師としての下地があったからこそある程度身に着けることができたとも言える。加えて、連日連夜、姉さんの屋敷に運び込まれる隊士達は増えることはあっても減ることはない。
当然、隠の人達に毎度毎度医者を呼んでもらっていては明らかに治療が間に合わないことも多く、亡くなる隊士もザラだった。
そこで私は名乗りを上げた。姉さんの屋敷に可能な限り常駐し、怪我をした隊士達の救護担当に回ると。
数人から『隊士にすら慣れてない一般人が一体何を言い出すのか』と苦言を呈されたが、そこは姉さんがうまく立ち回ってくれた。姉さんは優しい反面怒らせると怖い。男性隊士達はその落差に恐れおののいていた。
とは言え、近代で主流となった外科手術などは流石に無理なので、縫合や止血剤の処方、骨折した患部の固定と言った基本的な治療しかできなかったが。
ただ、それでも運び込まれた隊士に対して治療をこなす手際を見て、姉さんはいつも舌を巻いていた。
「すごいわ、しのぶ。こんな大勢の怪我人の治療をこんなにテキパキこなせるなんて。これなら私は看護担当に専念しても平気かしら~?」
「馬鹿なこと言わないで姉さん。姉さんにも簡単な処置とかしてもらうから。流石に私一人で間に合う訳ないし」
「あらあら。流石に冗談よ~? しのぶ一人っきりに任せてたら身体壊しそうで姉さん心配だもの」
「じゃあ口ばかり動かしてないで手を動かして。今夜中に怪我人5人は姉さんに対応してもらうから」
「ひ~ん! 忙しすぎ~! これじゃあ寝る暇なんてないじゃな~い! 私左半身不自由で杖が無いと歩けないのに~!」
正直最初の数ヶ月位は鱗滝さんの小屋に帰ることもできなかった。本当は姉さんをこき使いたくない。でも私や花柱邸に住み込みで働く隠達だけじゃまるで間に合わない。一人も死なせないようにするならどうしたってもっと人手が居る。
「しのぶ姉さん。この人視てみたけど骨折してなかった」
「ありがとうカナヲ。じゃあこの打ち身に利く薬処方しておいて。あと何人いる?」
「えっと・・・あと十人くらい・・・」
「わかったわ。じゃあ透ける視界で一人ずつ診察して。症状が診断できたら片っ端から私に投げて。後は何とかするから」
「うん。任せて。しのぶ姉さん」
正直カナヲが居てくれてここまで有難いと思ったことはない。私が診察するよりもカナヲの特別な視界で視た方が圧倒的に早いからだ。
この姉さんの屋敷が鬼殺隊の診療所として何とか回っているのはひとえにカナヲの視界のおかげと言っても過言ではない。
「ごめんなさい、しのぶ。姉さん休憩してもいいかしら?」
「うん。姉さんはもう休んでて。自由の利かない身体で無理させてごめんね? 後はもうゆっくり寝てていいから」
「そんな水臭いこと言わなくていいのよ~。姉さん少し休んだらまたすぐに戻るもの~」
「じゃあ入院患者の病室で看護をお願い。隠の人達に指示出してくれるだけで凄く助かるから。姉さんは座ったままで良いからそっちの指揮をお願い」
「わかったわ~。任せてね~? しのぶもカナヲもちゃんと休憩するのよ~?」
「大丈夫。私たち三日三晩寝なくても倒れない位鍛えてるから」
「あ! またしのぶの悪い癖出てる! もうっ! 徹夜は駄目って言ったじゃない! ちゃんと眠らないと大きくなれないわよ?」
「ちょっ・・・地味に気にしてる所抉ってこないでもらえる姉さん! 私上背で結構悩んでるのに!」
「カナエ姉さん。もう少しで落ち着くからそしたらしのぶ姉さんにも仮眠取ってもらえると思う。その間私が治療の番してるから」
「カナヲも寝なさいよ? 最悪隠の誰か一人に待機してもらえれば空き時間のうちに全員休めるはずだし」
「大丈夫。私その気になれば十日間は飲まず食わずで寝ずに動けるから」
「「そんな人間いる訳ないでしょ!!」」
私と姉さんの声がピッタリ重なる。カナヲはすぐとんでもないことを言い出すから度々困る。
「もう・・・馬鹿言わないでカナヲもちゃんと休んで! お姉ちゃん命令!」
「・・・はい」
そんな夜間勤務を重ねる日々に私たちは徐々に疲弊していく。
なのでお館様には何度も陳情を提出した。もっと医学知識のある隠をふんだんに派遣してほしいと。
私が姉さんの屋敷で勤務し始めて三ヶ月程もすると、お館様の計らいで救護及び看護担当の大勢の隠達が派遣されることと相成った。
『しのぶ。カナエ。カナヲ。君達三人には感謝してもし切れない。君たちが鬼殺隊の診療施設として奮闘してくれたおかげで、任務で怪我を負った隊士の殉職率が従来の十分の一以下まで激減した。私のでき得る限り最大限の助力をさせておくれ。これからもよろしく頼むよ』
お館様からそのような文が届いた後、凄まじい医療物資と人員、加えて私の個人的な研究用の設備機材まで大量に屋敷へ送られて来た。医療用の顕微鏡とかも送られて来たんだけどこれ一体いくらするんだろうか。しかもこれオランダ製って記載されてるんだけど。お館様どういう伝手で入手したの? 改めてその財力に恐れ入る。
その結果、私は日中、藤の花の抽出と濃縮の研究に費やす時間が取れるようになり、また月に一度だけ、狭霧山へと向かい鱗滝さんの下で鍛錬を積むことも可能になった。
やがて姉さんの屋敷の庭には私の研究素材として藤の花が大量に植えられ、加え多くの草花が生い茂るようになった、いつしか多くの蝶が飛び交う光景が日常となり、花柱邸は蝶屋敷という愛称で呼ばれるようになった。
「ふう。とりあえず形にはなったかしら。理論上これで鬼の再生を阻害できる位の濃度にはなったと思うんだけど。後は実戦で試すしかないわよね」
私の藤の花の抽出物の研究もだいぶ軌道に乗り、塗布すれば刃が濃い紫色に染まるくらいの薬液が作れるようになった。とりあえずこれで鬼を串刺しにし、悶えてる間に生生流転で頸を刎ねるという当初の目標まであと一歩だと思われる。
久々に岩を斬りに狭霧山に向かおうとそう考え、私は暇を貰って蝶屋敷をあとにする。
常中もだいぶものにしたので、今では柱の人達と同等の速度で走ることが出来る。逆になぜこれ程鍛えて鬼の頸が刎ねられないのか。本当に解せない。私の腕はそれ程までに貧弱なのだろうか。これが生まれつきと言うならば、ある意味お館様と同じ呪いの類でなかろうか。
そんな下らないことを考えているうちに狭霧山の麓へと辿り着いた。常人なら数日かかる距離だったが、今の私は一刻あれば辿り着く。思いの他東京も狭いなと今となっては思う。
「鱗滝さん。お久しぶりです。お邪魔しま・・・」
私はいつものように小屋に足を踏み入れてた途端、即座に日輪刀の柄を掴み抜刀した。
どういうこと!? なんで!? どうして鱗滝さんの小屋に奴らが棲みついているの!? この気配、どう考えても人間じゃ・・・!!
「むー?」
私は久々に鱗滝さんの下に帰って来たが、なぜかその住まいには見慣れぬ少女の鬼が居た。日輪刀を握りしめる私の手が震える。
続く
遂に出ました。禰豆子の登場です。本作のしのぶはカナヲと同じ歳の双子なので、しのぶが十四になる頃には炭治郎は十三です。原作とは違う二人の関係性も是非お楽しみ頂けたらなと思っています。いっそ炭しの採用するか。よし、やろう(決意)。
読みたい路線はどっち?
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一部の層(継国兄弟ファン)にぶっ刺さる話
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万人受けしそう(マイルド)な話