「どうして鱗滝さんの小屋に鬼が・・・」
私は日輪刀を握り直し震える。一方その鬼は私を見て目を丸くしていた。
「むー?」
なぜか首を傾げている。随分と大人しい鬼ね。私のお父さんとお母さんを喰った鬼とは大違い。でも鬼であることに変わりはない。
丁度いい。私の完成させた藤の花の抽出物がどれくらい鬼に有効なのか試す絶好の機会。外はまだ夕暮れ。最悪頸が斬れなければ小屋の外に出て全力で逃げ去れば良い。
そもそも鱗滝さんは今どこにいるの? この後探してちゃんと報告しないと。
「やめろっ!!」
突如背後より聞き覚えのない男の子の声が聞こえた。振り返ると赤み掛った髪色と瞳の色が特徴的な市松模様の羽織の少年が立っていた。
「ここは鱗滝さんの住居だぞ!! 今すぐその刀を下ろせ!!」
「・・・君は新しく引き取られた子? 鱗滝さんの弟子? まあいいわ。だったらそのまま下がってて。今すぐ小屋に入り込んだ鬼を退治するから・・・」
「そこに居るのは妹の禰豆子だ!!」
そう言ってあろうことかその少年は私の脇を抜けて鬼に背を見せた状態で私の行く手を遮った。
「ば、馬鹿っ!! 鬼に背を見せるなんてっ!! そんなことしたら・・・!!」
私は一気に青ざめる。まさかこの少年が鬼に対してそんな命知らずなことをしでかすなんて。この位置関係だと鬼の頸が斬れない。突き技で後ろの鬼だけを貫く? 無茶だけどやるしかない。じゃなきゃこの子もあの日のお父さんやお母さんみたいに・・・!!
「むー、むー」
「禰豆子。大丈夫だ。兄ちゃんが絶対守ってやるからな? 鱗滝さんが戻って来るまでの辛抱だ」
「は? 貴方何を言って・・・えっ!?」
するとその子は鬼に向き直り頭を優しく撫でる。鬼は気持ちよさそうに瞼を閉じている。私はその様子に度肝を抜かれる。
「な・・・なんで・・・一体何が起きて・・・」
「しのぶっ!? 帰って来てたのか!? 待て! 一旦その日輪刀を鞘にしまいなさい! すぐに儂から事情を話す!」
気が付けば鱗滝さんが小屋の扉の外に立っていた。私は振り返る。鱗滝さんに対し疑念を抱く。
「これは一体どういうことですか? なぜ鬼を匿っているんですか? 教えて下さい」
私は日輪刀を震えながら握りしめ、鱗滝さんにそう問い詰める。
「落ち着けしのぶ。全て話す」
「ええ。話してもらいますとも。どういう経緯で元柱だった御人が鬼を匿うことになったのかを」
それから私は鱗滝さんより詳細な説明を受けた。
どうやら先日、鱗滝さんの弟子でもある水柱の冨岡さんが雪取山でとある兄妹を保護したらしい。
しかしその時には既に妹の方は既に鬼になっていたのだと。当然冨岡さんは即座に首を斬ろうとしたが、兄の方がそれを阻止し嘆願したのだ。妹は殺さないでくれと。
しかし冨岡さんはそれを了承しなかった為、結果兄の方は冨岡さんに手斧で攻撃を仕掛けたとのことだ。当然すぐに叩き伏せられたが危うく冨岡さんも一撃喰らいかねなかったそうで、その時戦いの才はあると判断したらしい。
加えて妹の方は飢餓感に苛まれているにも関わらず、人としての理性を保ち続け、兄を庇い守るための所作をし、冨岡さんに襲い掛かったとのこと。
そして冨岡さんは何かを確信したようだ。『この兄妹は、他とは違うのかもしれない』と。そうして鱗滝さんを頼るよう指示し、現状育手の師として鱗滝さんが面倒を見るようになったのだとか。
「・・・正気ですか?」
「ああ・・・俄かには信じられんと思うが・・・」
「当然ですよ。鬼が家族を庇う? 腹を空かせて置きながら? しかもよりにもよって冨岡さんの判断を真に受けるなんて・・・」
私は頭痛がして思わず眉間を抑える。事の発端である冨岡義勇。私の兄弟子に当たる人だが、あの人は正直変わり者だ。日頃ずっと喋らなくて何を考えているのかすらわからない。
一度口を開いたかと思えば、「俺は嫌われていない」「俺は水柱じゃない」「早くお前が柱になって水柱を継がなければならない」と訳の分からない妄言を吐く始末。
鮭大根を食べてる時だけは気持ち悪いくらい嬉しそうに笑っていたが、基本何を考えているのかわからない無表情だ。
若干昔のカナヲに似ている? まあそう思わなくもないが、カナヲはちゃんと頷いたり感情表現をするからまだマシだ。冨岡さんはいつも本当に何を言いたいのかさっぱりわからない。
そんな人の言い出したことを何故鱗滝さんは信じたのか。正直私は気になった。
「よく冨岡さんの言う事を信じられましたね。少々弟子に甘すぎるんじゃないでしょうか?」
「勿論最初は疑っていた。だから自分の目で見て確かめた。炭治郎と禰豆子は他の者とは違う。何か特別な事情があると儂は考える」
「はあ~・・・」
私は漸くここに来て日輪刀を収める。気が付けば外は夜になっていた。
「まあ鱗滝さんは鼻が利きますからね。目の前の鬼が血の匂いを纏ってないかも良くお判りになるのでしょう。加えて鬼の心理状態も手に取るように分かりますよね? そんな鱗滝さんが認めたのなら弟子である私は従う他ありません」
「本当にいいのか? しのぶ」
「ええ。ただ念のため確認しておきますけど、お館様はこの事実をご存じなんですか? 流石に鬼殺隊当主が駄目と言ったら私も賛同できません。下手したら私たち全員切腹したのち打ち首獄門の刑ですよ。そんなことになったら姉さんにどう言い訳すれば良いか私には分かり兼ねますので」
「そこは平気だ。先日お館様には手紙は書いておいた。どうやら容認するとのことだ」
「・・・え? お館様が容認してるんですか?」
「左様」
「なぜ?」
「さあ。儂にもわからん。もしかしたら産屋敷家当主の先見の明で良き未来が視えたのかもしれんな」
「え。お館様って未来予知できるんですか?」
「ああ。まあ具体的なことまでは流石に予見できぬだろうがな」
「カナヲと言い・・・お館様と言い・・・本当に私たちと同じ人間なんでしょうか・・・」
「むう・・・それはわからん・・・わからんがお館様の予見は常に正しい。それは長年柱として仕えて来た儂の所感にかけて断言しよう」
「わかりました。まあ鱗滝さんも嗅覚で人の考えてること分かりますし、世の中そういう人も居るということなのでしょうね」
話に決着がついたところで、私は今しがた揉めていた兄妹へと向き直る。
「ごめんなさい。突如押し掛けて妹を斬ろうとして。姉弟子として不甲斐なかったわ」
「あ、いえ。えっと・・・どうして信じてくれるようになったんですか?」
「何を今更。弟弟子のことを信じない姉弟子が居てどうするの? それに私にとって、遺された姉や妹を命よりも大切にしたいっていう気持ち、身に染みて分かるもの」
「そう・・・なんですね」
彼は私の対応の変化に戸惑っていたがやがて一人納得していた。すると鱗滝さんが締めくくる形で私たちに語りかける。
「炭治郎。先日軽く話したな? 儂には何人かの弟子が居る。一人はお前の良く知る冨岡義勇。鬼殺隊最高位の剣士、水柱の称号を持つ男だ。そして真菰。彼女は現在一般隊士として日夜鬼殺に励んでいる。そしてここに居るのが・・・」
「胡蝶しのぶよ。鱗滝門下の末席だったけど、貴方が弟子入りしたならもう違うわね。私もまだ隊士じゃない修行中の身だからお互い励みましょう、炭治郎君」
そうして私は軽く自己紹介する。気のせいか炭治郎君の目が私に釘付けになった気がするが、彼はすぐに気を取り直して丁寧なお辞儀をした。
「よろしくお願いします! 俺は竈門炭治郎です! 俺もいつか鬼殺隊に入って禰豆子を人間に戻す為に必死に戦います! お世話になります! しのぶさん!」
礼儀正しくて性根の真っすぐな子ね。鱗滝さんも彼を必死に庇った理由が良くわかる。私も彼の前では立派な先輩であらねばとそう思った。
続く
最後しのぶに釘付けになってた炭治郎の挙動はフラグです。まあ長男って基本年上女性に見惚れがちですし(え)。仮に炭しの成立したとしても他の女性に対して同じ挙動見せると思うのでその度にしのぶがキレそう。これぞラブコメの心髄(違う)。
読みたい路線はどっち?
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一部の層(継国兄弟ファン)にぶっ刺さる話
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万人受けしそう(マイルド)な話