胡蝶家の縁壱とお労しい姉上   作:科学大好き人間

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しのぶ視点です。本作の彼女の労苦を思うと感慨深いものがありますね。五感組も漸く出せるので今後も執筆が楽しみです。


19話 最終選別 壱

「ではいってらっしゃいませ」

 

 

遂に私たちは最終選別に赴くことになった。鱗滝さんの下で修業を開始して約八年。私は既に十六だから人生の半分もの時間を費やしたことになる。本当に長かった。でもこれからが本番だ。私は必ずこの一週間で鬼殺隊士になって見せる。

 

 

 

「ちょいコラァア!! 待てやそこのお前ェエエエ!!!」

 

「ん?」

 

 

藤重山の鬼が閉じ込められた空間に入り込み、暫く歩くと後ろから突如として声を掛けられた。

 

 

「どうした? そんな奇声を上げて。大丈夫か? 頭は平気か?」

 

「うるせぇ!! 余計なお世話だよ!! なんなんだよさっきから!! お前そんな可愛い子と一緒に並んで仲良く山に入りやがてぇえ!! 最終選別はなあ!! 女の子と逢引する名所じゃねぇんだぞ糞がぁああ!!!」

 

 

なんだこの塵屑みたいな男は。初見だと金髪がかなり目を引くが、それ以上にこの見るに堪えない醜態を晒す様が非常に悪印象な男だった。私は汚物を見るような目で口を挟む。

 

 

「なんなんですか貴方。初対面でこんな醜態を晒して恥ずかしくないんですか? 貴方は見栄や体裁をその辺の犬にでも食わせた人なんですか? 貴方とは初対面ですけど既に私は貴方のことが嫌いです」

 

「えぇええ!!?? そ、そこまで言う!? こっちのおでこ広い方から言われる分にはまだ気にしなかったけど、君みたいな可愛い女の子からそこまでキツイこと言われるとか想像以上に辛いよ!! ごめんねぇえええ!!!」

 

「謝るぐらいなら初めから絡んでこないで下さい。行きましょ。炭治郎。」

 

「ああ、とりあえず初の実戦だからな。気を引き締めないと」

 

 

そうして私は黄色い汚物を置き去りにしてそそくさと奥の方へ進む。すると胸を押さえて吐血しそうになっていたそいつは我に返って私たちの後を全速力で追ってくる。

 

 

「待って!! 待ってはくれないか!! 君達に頼みたいことがあるんだ!!」

 

「頼みたいこと?」

 

「無視しましょ。炭治郎」

 

「お願い!! 一人にしないでぇええ!! ここすっごく怖いからぁあああああ!!!」

 

 

するとその汚い高音を発する汚物は炭治郎と私の袖にしがみついてくる。私は思わず青筋を浮かべ、そいつの胸倉を掴み全力で引き上げる。

 

 

「いい加減にしろ。ここから先は言葉を選べ」

 

「力つっよ!!! なんで!!?? こんな華奢な女の子なのに!!!!」

 

「実に不快だ。袖に縋り付いてくる感触。耳障りな高音。不必要な汗の匂い。全てが神経に障るっ!! なぜ貴様は何も考えず、何も感じずにこんな真似が出来るんだ! 答えろっ!!」

 

「ひぃいいい!!! ごめんさいぃいいい!!! 俺が悪かったよ~!!!」

 

「しのぶ。そこまで怒ることないじゃないか。それと何だか別の人格混じってないか? 大丈夫か?」

 

 

はっ! いけないいけない。自分より膂力があるはずの男児が余りに醜態を晒していて思わず腹を立ててしまった。平常心。平常心。感情の制御ができない者は未熟者。ふぅ~~~!

 

私は自身の苛立ちを鎮め、目の前の男の胸倉から手を離した。男は尻もちをつき、随分と静かになる。

 

 

「ごめんなさい。俺が悪かったです」

 

「それで話ってなんだ? ええっと・・・」

 

 

炭治郎。なんて優しいの。こんな黄色い屑にまで耳を傾けるなんて。凄まじい傾聴力。私にはとても真似できない。とりあえず私は作り笑いだけでも浮かべて誤魔化すことにした。

 

 

「ひぃいいい!!! 顔と聞こえてくる音が全然合ってないぃいい!!! 怖いぃいい!!!」

 

「俺の名前は竈門炭治郎。君は?」

 

「俺は我妻善逸だよ~!! 助けてくれよ炭治郎~!!」

 

「助けろとは私からかしら?」

 

「ち、違うよ~!! 鬼から俺を守ってくれよ炭治郎~!! ついでにその女の子からも守ってくれよ~!!!」

 

「助けてくれって何だ? なんで善逸は剣士になろうって思ったんだ? なんでそんなに恥を晒すんだ?」

 

「言い方酷いだろ!! 女に騙されて借金したんだよ! 借金を肩代わりしてくれたジジイが育手だったの! 毎日毎日地獄の鍛錬だよ!! 死んだ方がマシだって位の!! 挙句最終選別なんていう鬼だらけの場所に放り込まれるし!! あーー! 怖い怖い怖い!! イィイヤアーーー!!」

 

「そう。じゃあ私が絶対に目が覚めなくなる薬処方してあげるからそれを飲みなさい。翌朝までには痛みもなく鬼に食べられてるだろうからそんな地獄みたい生活から解放されるわよ。良かったわね」

 

「鬼より鬼みたいなこと言ってる!!! 君どうしてそんな怖いこと言うの!!?? 俺なんかした!!??」

 

「もういい。お前はもう黙れ。私達ともう喋るな」

 

「イィイヤアアアーー!!! いやぁああ!!! 助けてェーーー!!」

 

「どうしたんだ善逸。大丈夫か? 頭は平気か?」

 

「ヒィー! ヒィー! うぅ・・・炭治郎・・・どうか俺を守ってよぉお・・・」

 

 

炭治郎は腕組みし考える。暫く善逸を見下ろし鼻をヒクつかせていた。

 

 

「いや。善逸は強いだろ。その気になれば常中だってできるんじゃないか?」

 

「強くねぇよ!!! 弱いよ!! 弱味噌だよ!! だから助けてって言ってんの!! お前のその大きな頭は飾りかよ!!! 分かれよっ!!!」

 

「いや、善逸からは結構強い匂いがするんだけどな。気のせいかな」

 

「俺そんなに体臭きついの!? さっきそっちの子にも汗の匂いが不快って言われたし!! そんなに匂う訳っ!!??」

 

「いや、そうじゃなくてだな。俺の鼻は・・・」

 

「炭治郎。騒ぎ過ぎたわ。もう囲まれてる」

 

 

善逸が余りにも大声を出したせいで、周囲には無数の鬼で溢れかえっていた。その様子に私は警戒心を吊り上げる。一方善逸は・・・

 

 

「鬼多すぎぃいい!!! 何体いんの!! この山!!!」

 

「久しぶりの御馳走だぜぇ」

 

「俺はあっちの粋のいいガキ食おうかなぁ」

 

「骨ごとバリボリ食ってやる」

 

 

その鬼達の呟きを聞き、突如善逸は失神し気を失った。なんということだ。足手まといが一人増えてしまった。

 

 

「炭治郎。善逸を少しだけお願い。私が一瞬で鬼達を無効化するから。そしたら動けない奴から順番に頸を刎ねて」

 

「わかった」

 

 

私はその場を軽く蹴って上下に身体を揺らす。鬼達も我慢できないとばかりに飛び掛かって来る。

 

 

 

 

 

 

 

 

ー水の呼吸 玖ノ型 水流飛沫・乱ー

 

 

 

 

 

 

 

私は周囲を可能な限り不規則に軽やかに翻弄することを意識して駆け回る。そしてすれ違い様に日輪刀で突き刺していく。瞬く間に鬼達は地を転がる。

 

 

「ぐぁあああっ!! なんだこれ身体が動かないっ!!」

 

「オエッ!! キモチワルイ・・・」

 

「傷口が・・・塞がらない!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ー水の呼吸 参ノ型 流流舞いー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私が善逸の傍に即座に戻ると、入れ替わりになるような形で炭治郎がその場を離れる。

 

周囲を舞うように炭治郎は移動し、順々に地を臥す鬼の頸を刎ねていく。あっという間に数体の鬼の身体が塵へと還っていった。

 

 

「良し。これで・・・っ!! しのぶ危ないっ!!」

 

 

炭治郎がこちらを振り返り大慌てで大声を発する。なんと善逸を介抱する私の背後から一匹の鬼が駆け寄って来ていた。

 

 

「隙ありっ!!」

 

「しまっ・・・!!」

 

 

私は反応が遅れ、日輪刀を盾にするも吹き飛ばされてしまう。追撃が来るとわかるが体勢が悪い。善逸を庇ったからだろう。正直下手を打ったと言わざるを得ない。私は唇を噛み身構えるが・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

ー雷の呼吸 壱ノ型 霹靂一閃ー

 

 

 

 

 

 

その瞬間、落雷のような音が聞こえたと思ったら一瞬で鬼の背後から黄色い閃光が通り過ぎ、鬼の頸は宙を舞っていた。下手人は何と意識を失ってるはずの善逸だった。

 

 

「凄い・・・」

 

 

私は善逸の居合切りに見惚れる。私も一度、雷の呼吸が自分に合わないか確かめる為にカナヲに見本を見せてもらって壱ノ型だけやってみたことがある。

 

形だけは再現できたが、結局岩を斬る程の練度にならなくて早々に習得を諦めた。今の一撃は常中を修めた私自身の一撃と遜色ない速さだった。

 

 

「んがっ!?」

 

 

妙な声が聞こえたと思ったら、善逸が突如として我に返る。今のって鼻提灯が割れた音? え・・・てことは善逸今の今まで寝てたってこと? 鬼に襲われていたのに?

 

 

「ひぃいいい!!! 鬼死んでるぅうう!!! なんでぇええ!!??」

 

 

いや・・・アンタが今さっき頸刎ねたんでしょうが・・・なんで認識してないのよ善逸は・・・

 

 

「凄いじゃないか善逸!!」

 

 

すると炭治郎は表情を明るくして善逸に駆け寄る。

 

 

「え? 何が?」

 

「何って一瞬で鬼の頸を刎ねてたじゃないか!! そもそも眠り始めてから常中ずっと使ってただろ? 斬り込む瞬間の移動速度も俺よりずっと速かったぞ! それもしのぶの突進突きと同じくらいに速かった! やっぱり善逸は強いじゃないか!」

 

「は? 強くねえよ。だから助け求めてるんだよ。寝言言ってんじゃねえぞ。殺すぞ」

 

「?」

 

「なんで何もわかんねぇって面してんだよ炭治郎!! 良いから俺を守れよ!! 七日七晩ずっと!! 俺が鬼に喰い殺されたら一生お前のこと呪うからな!!!」

 

「大丈夫だ善逸は強い。そんなことにはならないと思う」

 

「いいやなるね!! お前が俺を見捨てたら絶対なる!! 俺に呪われたくなかったら死ぬ気で守れよ!!」

 

「?」

 

「だから何もわかってねぇ風な顔で俺を見るんじゃねぇよ!!! お願いだから俺を守ってくれよ炭治郎~~~!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

とりあえずそんなやり取りをしてるうちにまた多数の鬼が寄って来た。そして全く同じことを繰り返した。そんな感じで初日は終わった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

続く

 

 

 




書いてて気づいてしまった。善逸喋らすのめっちゃ楽しい。やっぱり善逸はいいぞぉ。今後は炭しの増やす予定なので、善逸には血涙流しながら協力してもらおうと思います。

???「善逸は犠牲になったのだ。炭しのをより盛り上げる為の犠牲。その犠牲にな」

読みたい路線はどっち?

  • 一部の層(継国兄弟ファン)にぶっ刺さる話
  • 万人受けしそう(マイルド)な話
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