胡蝶家の縁壱とお労しい姉上   作:科学大好き人間

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しのぶ視点です。誤解されそうなので先に言っておきます。筆者は鬼滅ヒロインの中だとしのぶさんが最推しです。なので本作は彼女を貶めるような意図では執筆していない旨何卒ご理解下さい。じゃあこんな話書くなよと思われるかもしれないですが・・・この手が勝手にっ!


2話 気味が悪かった

私は姉さんがだあいすき。この世の誰よりも。私が物心つく前から姉さんは私の傍らにいた。いつも優しい笑顔で私を見つめ世話を焼いてくれる。姉さんとの時間は私にとって宝物だった。

 

一方、双子の片割れであるカナヲは不思議な妹だった。なんでもずり這いを卒業するのが早かったらしい。私が言葉を発するころには両の足で立ち上がり、一人で歩いたりもしていたようだ。

 

けどカナヲは喋れなかった。言葉を一切発さなかった。私が立ち上がる頃になってもそれは同じで、私が歩き回る頃になってもそれは変わらなかった。

 

 

「カナヲ! もし喋れないなら私がずっと傍にいて力になってあげる! だって私、カナヲのお姉ちゃんだから!」

 

 

私は姉さんの真似っ子で、そう言ってカナヲの前でよく胸を張っていた。カナヲはそんな私を見て薄っすらと笑ったように思えた。

 

そして六つになる頃には、私はカナヲの手を引いて街中を歩いたりもした。時々「奔放過ぎる」と、お父さんもお母さんも困っていた。だが、

 

 

「大丈夫よ~。しのぶはしっかり者だもの~。それに私もついていくわ~」

 

 

私が出掛けようとする度に、決まって姉さんがお父さんとお母さんを説得した。そして嫌な顔一つせずついて来てくれる。私はそんな姉さんが堪らなく好きだった。

 

 

「ほらカナヲ! お姉ちゃんが手握っててあげるから! これなら迷子にならないでしょ?」

 

 

私がカナヲの手を引いてそう言うと、カナヲはコクッと頷く。不思議な妹。私たちに対しても喋らないんだから。こうなったら私がしっかり面倒見てあげないと!

 

ある日私は街に出歩いた際に小さな露店であるものに目が止まった。そしてすぐさま姉さんに頼み込んだ。

 

 

「姉さん! お金出して! これ買いたい!」

 

「あらあら~。しのぶは笛が好きなのね~。将来演奏できるかもしれないわ~」

 

 

姉さんはそんな見当違いなことを言いながらニコニコしている。私は店主さんに頼んで笛に紐をつけてもらい、輪っかを作って隣のカナヲの首に掛けた。

 

 

「カナヲ! もし私たちとはぐれたり、何か困ったことがあればすぐにこれを吹きなさい! お姉ちゃんがすぐ助けに行くから!」

 

「あらあら~。しのぶったらカナヲのために買ってあげたのね~。なんて妹思いの良い子なのかしら~」

 

 

そう言って姉さんは私をギュッと抱きしめてくれる。私は感無量だった。姉さんに愛を注がれてるようで天にも昇る心地だった。

 

 

「しのぶ。貴方は自分に欲しいものとか無いの? 姉さんしのぶにも何か買ってあげたいわ~」

 

「じゃあ姉さんとお揃いの髪飾り! 蝶の髪飾り欲しい! 姉さん買ってっ!」

 

「あら~・・・どうしましょう・・・手持ちのお金じゃ足りないわねぇ・・・」

 

「ええっ! そんなっ!」

 

 

遂に姉さんとお揃いの髪飾りが手に入ると思ったのも束の間、手持ちのお金が足りないと知ってがっかりした。肩を落とすその様子に、姉さんは困ったように笑った。

 

 

「じゃあ帰ったらお父さんとお母さんに私から頼んでみるわね? 約束するわ」

 

「ホント!? いいの姉さん!!」

 

「勿論よ~。姉さんに任せなさい!」

 

 

私の表情は再びパアッと明るくなる。遂に念願の姉さんとのお揃いだ。今後は自分でつけられるよう頑張って髪の結い方も覚えなくっちゃ!

 

 

「じゃあそれとは別に今日は皆で甘味処に行きましょ~。しのぶ、一杯食べていいからね~」

 

「やった! ありがとう姉さん!!」

 

 

私は嬉しさの余り姉さんに抱き着く。姉さんはそんな私の頭を優しく撫でてくれる。

 

 

「うふふ~。カナヲの手握って上げなくていいのかしら~? やっぱりしのぶはまだまだ妹ちゃんね~? 」

 

「っ! そんなことないから! 私だって立派なお姉ちゃんなんだからね! ほらカナヲ! はぐれないようお姉ちゃんがしっかり手を握っててあげるから!」

 

 

私は姉さんにからかわれたのが恥ずかしくて、すぐにカナヲに振り返り手を差し出す。するとカナヲはコクッと頷いて、私の手をそっと握った。

 

 

「それじゃあ三人で甘味処に行きましょ~?」

 

「わかったわ! じゃあ走るわよカナヲ! 私についてこられるかしら!?」

 

 

コクッと頷くカナヲ。それを見て姉さんは苦笑する。

 

 

「あらあら~。こけないよう気を付けるのよ~?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんな何気ないひと時を過ごす。幸せな日常がみるみるうちに過ぎ去っていく。気が付けば姉さんは十四、私たちは八つになっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「大丈夫。大丈夫よ。いざとなったら姉さんが時間を稼ぐから・・・」

 

「で・・・でもっ・・・!」

 

 

私たちの日常は驚くほどあっさりと壊された。破壊されて初めてその幸福が薄い硝子の上に乗っていたものだと気が付いた。

 

お父さんとお母さんは物言わぬ屍となった。目の前で死肉をむさぼる異形の化け物のせいで。

 

どうして? どうして私たちがこんな目に遭わなければならないの? どうして大切な家族を無残に殺されなければならないの?

 

許せない。許せない。そう思うのに、私の身体は震えて姉さんにしがみつくことしかできない。

 

こんな時姉さんが居てくれてよかった。私一人じゃきっと堪えられず泣き喚くことしかできなかっただろうから。

 

けどどうすれば。隙を見て逃げる? どうやって? きっと目の前のこいつは私たちよりも足が速いだろう。そうなると誰かが囮になるしか・・・

 

 

「あ・・・あれ・・・カナヲは・・・?」

 

「・・・え・・・」

 

 

私は姉さんがそう呟くまで、カナヲの存在を忘れていた。姉失格だ。私は自分の身の安全を考えるばかりで自分の妹を守ることなんてこれっぽっちも考えることができなかった。その事実にどうしようもない悔しさと憤りを感じる。

 

カナヲは喋れない。助けを呼ぶこともできない。だから笛をあげたけど、こんな状況じゃ使えるはずもない。私がカナヲを守ってあげないと。

 

あの子はどうものんびり屋さんだし、一人で逃げ切ることなんてきっとできない。どうにかして探し出してあげないと。

 

そう思い、部屋中を眼だけで探し回り、カナヲの姿を見つけようとした。しかしその瞬間、私は信じられないものを見た。

 

凄まじい物音がした。何かとんでもなく大きな物を叩きつけるような音。そしてそれと同時に肉と骨が潰れて砕け散る音が。

 

それを化け物相手にやってのけたのが、妹のカナヲだった。

 

カナヲは表情一つ動かさず、動きを痙攣し手足を動かそうとしている鬼の身体に何度も石臼を叩きつけた。

 

信じられない。あの石臼何貫あると思ってるの? あんな軽々と持ち上げて何度も叩きつけられる訳ないでしょ?

 

到底目の前の光景が信じられない。目の前にいるのはカナヲのはずなのに。私はそれが両親を殺した化け物を遥かに超越したそれ以上の化け物に見えた。

 

カナヲが石臼を叩きつけるのを辞めると、突如カナヲは何かを察知したのかその場を急いで離れた。一拍遅れて鎖の音と凄まじい重量物が叩きつけられる音がした。

 

石臼は粉々に砕け、異形の化け物もそれを皮切りに動かなくなった。

 

 

「驚いた。君のような幼子がまさか日輪刀も無しに鬼をこのような肉塊に変えるなど・・・」

 

 

私は声の主の方を反射的に振り返った。その主は庭先で立つ大木のような男だった。夜の暗闇のせいで何者かは見えない。けど凄まじい存在感と気配を感じる。

 

 

「君の名はなんという?」

 

 

その主は男の人のようだった。どうやらカナヲに問いかけているらしい。けどカナヲは残念ながら口が利けない。問いかけたりしても無駄なのよ。だから私が代わりに答えてあげようとした。だが・・・

 

 

「胡蝶カナヲ・・・私の名前は胡蝶カナヲ・・・貴方は・・・?」

 

 

なんで喋れるの・・・? 今まで一度も私たちに対してすら口を開いたことなんてなかったのに。

 

ずっと黙って隠してたの? なんで? わざわざ? なんのために? 姉さんがどれだけ今まで貴方のことを心配して来たか、わかってたはずよね?

 

 

「カナヲ!? 貴方喋れて・・・!!」

 

 

ほうら。姉さんだって驚いている。どうして黙っていたのかって。まるで裏切られたみたい。あんな石臼振り回す腕力も隠してたなんて一体どういうつもりだったの? 姉さんだってきっと怒って・・・

 

 

「・・・っ!」

 

 

私は姉さんを見て表情が引きつった。姉さんは安堵していた。恐らく妹に対する一番の心配事が払拭できて。そうか。そうよね。姉さんは優しいから、怒ったりしない。寧ろ喜ぶはずよね。

 

わかっていなかった。私は姉さんのことを。いや違う。私は姉さんに怒って欲しかったんだ。カナヲに対して。どうして今まで面倒見て来た私たちにそんな隠し立てなんて真似したのかって。

 

それと同時に私は自身の考えを恥じた。そんな下らない憤りを感じたのは私だけだったと気づいて。私はその事実に一層の不快感を抱いた。

 

けど私はカナヲがわからなくなってしまった。今夜の出来事で。

 

ずっと喋れなくて、私たちの庇護下にいないと危なっかしくて、いざという時は私たちが助けてあげなくちゃいけない目の離せない妹だと思ってたのに。

 

そうか。私はずっと哀れんでいたんだ。カナヲのことを。私と同じ歳なのに、口も利けず、家事もできず、家業を継ぐための薬の知識も身に着けられない。私よりもずっと劣った妹だと。だから守ってあげないとってずっとずっと思ってた。

 

けど違った。少なくとも今日守られたのは私だった。私は姉さんにしがみつき泣くばかりで何もできなかった。日頃賢くて、機転が利いて、しっかり者って言われてるのに、何一つ役立てられなかった。

 

一方、カナヲは命の危険も顧みずその身一つで私たちを守り通した。

 

今まで何もできないと哀れんでいた者は、己より遥かに優れた存在だった。

 

カナヲは今も尚涼し気な表情を浮かべている。両親が死に、化け物を殺し、返り血を浴びて凄惨な現場の中心に立っているにも関わらず。

 

今のカナヲはこれ程の惨状を目の当たりにした上で、日頃と一切変わらぬ雰囲気を纏っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私はそんなカナヲを見て思った。気味が悪かった、と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

続く

 

 

 

 




「妹超強ぇえええ!!! このまま醜い鬼共全員ぶっ◯していこうぜ!!!」とはなりませんよね。デンジな兄上は超偉大。

読みたい路線はどっち?

  • 一部の層(継国兄弟ファン)にぶっ刺さる話
  • 万人受けしそう(マイルド)な話
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