「あれ? ずっと探してるのに鬼いないな。どうしてだろう」
「私達が全部狩り終えてしまったんじゃないかしら。まあいいんじゃない? 正直藤重山の鬼って血鬼術すら使ってこないし弱いのばっかりで大した経験も積めないと思うから」
「血鬼術?」
「え・・・嘘でしょ・・・なんでアンタ知らないのよ」
最終選別五日目。遂に藤重山から鬼を一匹残らず駆逐した。思いの他楽だった。
「ありがとう炭治郎~! しのぶちゃ~ん! おかげで助かったよ~! お給金入ったらウナギ奢るよ~! 絶対お礼するからね~?」
「私、この山降りたら二度とアンタの顔見たくないんだけど」
「言い方酷くない!!?? 俺そんなに嫌われるようなことした!!??」
「自覚ないの? アンタはもう少し女性と接する基本的な振舞いとか学びなさい。じゃなきゃ一生独り身になるわよ」
「しのぶちゃんに将来の心配までされてる!!?? ごめんよ~! どこが悪かったか言ってよ~! 俺全部直すから~!」
「じゃあまずはその金髪。次に下心満載のそのにやけ面。軽薄な態度。汚い高音。男のくせに頼りないところ。そのくせ妬み僻みが辞められない言動。あとは・・・」
「がはっ!! もうやめてっ!! 俺死んじゃうっ!! それ以上は俺の精神が持たない!! もう充分ですっ!!!」
五月蠅い。何なのよコイツ。私と違って鬼の頸切れる癖に何でこんなに死ぬ死ぬ言ってるのよ。私なんて炭治郎が居てくれなきゃ鬼一匹も殺せないのに。まあ、もし一人で参加してたとしても足で逃げ切ってると思うけど。
「なあしのぶ。血鬼術ってなんだ?」
「炭治郎。鱗滝さんから聞いてないの? 血鬼術って言うのは鬼が使う妖術みたいなもので、結論から言うとなんでもできるインチキ技なのよ。毒出したり、幻見せて来たり、分身増やしたり、遠くへ移動したりとなんでもアリ。一方こっちは日輪刀だけで戦わなくちゃいけないの。だから鬼殺隊士は観察眼や戦闘中の考察力とかも大事なのよ」
「へ~! そうなのか。じゃあ俺は安心だな」
「は? なんでよ」
「え? だってしのぶがずっと傍に居てくれるんだろう? しのぶは賢くて抜け目ないから、俺が下手打っても、もしもの時はしのぶが力になってくれるはずだし。だから安心できるって言ったんだ」
「っ!」
私はとっさに顔を炭治郎から逸らす。頬が熱い。少なくとも今だけは、炭治郎に私の顔を見られたくない。
「か~~~!!! いいですねぇ!! いつでもどこでもこんな可愛い女の子に守ってもらえる御身分で!! そりゃあ口説くのも上手くなるでしょうが!! 炭治郎ばっかり狡い!! あんまりだ~~~!!」
「は? 善逸? 今なんて言った? 適当なこと言うなら後ろから刺すわよ」
「ひぃいいい!!! しのぶちゃんが一番怖いぃいい!!! こんなに可愛くて綺麗な顔してるのに勿体ないよ~~~!!」
「良し。よっぽどその命要らないようね。折角だから私が調合した薬の治験台になってもらおうかしら。どんな副作用が出るか知らないけどアンタくらいの命ならどうなっても別に構わないでしょ」
「酷いっ!!! 人の事なんだと思ってんの!!?? 頼むからそんなに怒らないで~~~!!」
これだけ善逸が叫んでるっていうのに一匹も鬼が現れない。本当に藤重山の鬼は全部斬り終えてしまったようね。私は内心自身が鬼に怯えていることを隠す為に緊張の糸が切れないようにしていたが、もういいかと思い肩の力を抜いた。ところが・・・
「猪突猛進っ!!! ガハハハッ!! 俺にはわかるぜ! そこのでこっぱちがここの親玉だな!! 勝負勝負ゥ!!!」
「イィイヤアアア!!!!! 鬼ィイイ!!! 鬼出たぁああ!!!」
「善逸落ち着け。匂いからして鬼じゃないぞ。これは被り物か?」
「これは山の主の皮を剥いで作ったんだぜ!!! どうだすげぇだろ!!!!」
「動物の皮を剥ぐなんて酷いじゃないか。ちゃんと命に感謝したか?」
「うるせぇ! 死んだ生き物は皆土に還るだけなんだよ!! ごちゃごちゃ言ってねぇで俺と勝負しろでこっぱち!!!」
ズンッ
鈍くて低い重厚な音をさせてその猪頭は地に臥した。私が鳩尾に思いっきり肘を打ち込んだからだ。これで暫く意識は戻らないだろう。
「行きましょ」
「ちょっ!? えぇええ!!?? しのぶちゃんいくら何でも容赦無さすぎじゃない!!??」
「こんな訳の分からない猪頭相手に時間使ってるのが勿体ないわ。私藤の花の採集しにいくから。帰ったらできるだけ抽出物作りたいし。炭治郎、籠作れる?」
「ああ。いいぞ」
「なんで何事もなかったようにしてんの!!??」
そうして私達はその場をあとにした。もう鬼も居ないし放っておいても死にはしないでしょ。折角これだけ立派な藤が沢山咲いてる訳だし集めなくちゃ勿体ない。
炭治郎から即席で作った籠を受け取り、私はそれを背負う。そうして二人に言い放つ。
「確か途中で泉のような水源があったわよね。用事が終わったらそこで合流しましょう?」
「わかった。鬼は居ないだろうけどしのぶも気をつけてな。もし万が一鬼に襲われて怪我したらすぐ血の匂いを頼りに助けに行くから。約束する」
「っ! あ、ありがとう・・・」
私はそそくさとその場をあとにする。炭治郎は時々こちらのドキッとするようなことを言ってくるから困る。無自覚で言ってるのかしら。正直心臓に悪い。
そのあと後ろの方で善逸が炭治郎に怒鳴り散らかす声が聞こえた。「てめえ!! 一々しのぶちゃんのこと口説いてんじゃねぇよ!!! ぶっ殺すぞ!!!!!」みたいな野蛮な内容だった。うん。善逸には何言われてもドキッとすることはない気がする。さっさと離れよ。そうして私は藤の花が咲き狂う端の地点まで移動した。
「ふ~、一杯採れたわね。そろそろ戻らないと・・・ん?」
私が藤の花の採集を行っていると、木の根元の陰に誰かが寄りかかっているのを発見した。
「っ!? 凄い出血量!! 早く手当てしないとっ・・・!!」
私は籠を下ろし、白無地の羽織の裏から止血剤を取り出した。そうして血塗れの男の子の状態を診察するが、途中であることに気づく。
「え・・・出血してるのに・・・傷が全部塞がってる? どうして・・・」
すると目の前の男の子は目を開けて、反射的に肩をびくつかせた。
「えっ! ちょっ! おっ! まっ・・・! ・・・・・・っ!」
「あ、ごめんなさい。驚かせてしまったわね。安心して。私は鬼じゃないわ」
私はその子の傷の様子を確認しようと、勝手に服を着崩して肌を触診していた。それで動揺したのだろう。その釣り目の男の子は暫く無言になる。
「不思議ね。血だらけだったはずなのに傷口が全て塞がってるわ。呼吸で止血したのかしら。それにしても見事ね」
「・・・・・・」
「そんなに警戒しないで。止血剤を塗ろうとしてただけだから。ひょっとして仮眠を取っていたところだったのかしら。なら悪いことをしたわね。私もう行くわ」
そうして私は止血剤を白無地の羽織の裏に戻し、藤の花を命一杯詰め込んだ籠を背に担いだ。
「・・・貴方名前は?」
「・・・・・・不死川玄弥」
「不死川玄弥君ね・・・え・・・不死川っ!!??」
私は驚き目を見開く。
不死川って現風柱の不死川さんと同じ苗字! もしかして弟!? よく蝶屋敷に止血剤取りに来る全身傷だらけの男の人で印象に残っている。最近は姉さんが良く対応していて、そのままお喋りしてることも多い。姉さんが気にかけてる人。まさか弟さんが居たなんてっ!!
「お兄さんと同じ鬼殺隊に入るの?」
「っ!! 兄貴を知ってるのか!?」
すると玄弥君はその場を立ち上がり私の肩を掴む。凄い力。怖い。私の腕力じゃとてもじゃないけど振り払えない。私は思わず目を硬く瞑る。
「あっ・・・ごめん・・・」
すると玄弥君は私の様子に気づいたようで、バツが悪そうに下がった。頭を掻きながら申し訳なさそうに距離を取る。
「俺、兄貴に会いたくて鬼殺隊に入ろうって思ってるんだ。漸く掴んだ手掛かりに思わず。ほんとごめん」
「だ、大丈夫よ。平気。気にしてないから。それにしても貴方力強いのね? 一瞬鬼に掴まれたかと勘違いしちゃったわ」
すると玄弥君は無言になる。さっきとは少し違ったバツの悪さをしている。どうしてだろうか。
「不死川さんは良く蝶屋敷に来るわ。私、こう見えて隊士達の治療とかもしてるから。それで面識があるの」
「っ!! 本当かっ!! それで兄貴は今どうしてるんだ!? 平気なのか!? 元気にしてるのか!?」
「う、うん。とても元気よ。全身傷跡だらけだけど、風柱として毎日お務めを果たしているわ。最近は姉さんと仲良くお喋りしてるわね」
「そうか。良かった・・・・」
玄弥君は安心して胸を撫で降ろしていた。お兄さん思いの良い子なのね。思わず共感してしまう。
「じゃあ今度玄弥君のお兄さんに会わせてあげるわ? 私と姉さんで屋敷に呼び出せば、忙しくても少しの間だけなら顔を出しに来てくれると思うから」
「本当かっ!? 頼むっ!! 俺、兄貴に謝りたいんだっ!! あの時酷いこと言ってごめんって!! 兄貴のこと恨んでなんかいないって!! そう伝えたくて・・・!!」
玄弥君は目を潤ませてそう嘆願するので、私はその熱意に圧倒されながらも了承する。ちょっと気になること言ってたけど余計な詮索はしない方が良いわよね。ここは敢えて触れないでおこう。
「じゃあ折角だからこのまま私と来ない? もう昨晩で鬼は全滅させたから。最悪一人で居ても平気だろうけど、やることも無いと思うし一緒に来て情報交換した方がいいんじゃないかしら? 勿論無理強いはしないけど・・・」
「え・・・鬼を全滅って・・・アンタがやったのか!? 昨晩鬼の数が異常に少なくて可笑しいとは思ってたんだけど・・・」
「まあ私一人でやった訳じゃないけれど。でも鬼がもういないのは間違いないと思う。ただここだと水や食料の確保が一人だと大変だから、折角なら生き残った人全員で固まって時間を潰した方がいいかなって思って」
「ああ。わかった。俺を連れて行ってくれ。兄貴のこともっと聞きたいしな」
「ええ。いいわよ。ついていらっしゃい」
そうして、私は玄弥君を連れて炭治郎達と合流した。いつの間にか例の猪頭もその場に駆け付けていた。炭治郎が組み伏せているので平気だとは思うが、余り五月蠅いようなら鎮静剤でも打っておこうかな。
そうして最終選別の期日が来るまで、私達は可能な範囲でお互いの事情を共有し過ごした。
続く
しのぶは平日蝶屋敷で働いているので実弥と面識があるはずと思い、玄弥との会話の描写を多めにしました。逆に伊之助は少なめです。ごめんね伊之助。君は数話後出番増えるから・・・
とりあえず五感組はまとまった時間で交友を持つので、原作より面識の度合いは深まることになりました。これで再登場時に「誰だお前」とはならんでしょう。伊之助が言いそうで若干怖いが・・・(汗)
読みたい路線はどっち?
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一部の層(継国兄弟ファン)にぶっ刺さる話
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万人受けしそう(マイルド)な話