「おかえりなさいませ」
「おめでとうございます。ご無事で何よりです」
まさか最終選別に生き残ったのが私達含めたったの五人だけだなんて。五日掛ったとは言え、鬼は全滅させたはず。こんなにも生き残りが少ないなんて。まさかそれまでに全員喰い殺されたってこと?
鱗滝さんが早々に最終選別に行く許可を出さない理由がわかった気がした。もし私が常中を習得せず、藤の花の抽出物も開発せず、岩も切れないままで一人で参加してたら死んでたかもしれない。
ギリギリまで育ててくれた鱗滝さんと、一緒に戦うと約束してくれた炭治郎には感謝してもしきれない。私は内心二人に頭が上がらなかった。
「刀は?」
玄弥君がそうはやる様に捲し立てる。彼から事情を聞いたけど、玄弥君は呼吸の適正が無いらしい。ある意味私と正反対で、呼吸が使えない代わりに持ち前の膂力だけで鬼を倒していたようだ。寧ろ私より遥かに険しい道のりだっただろう。それでも彼は諦めなかった。生き別れたお兄さんに会いたい一心で。ただ、気持ちはわかるのだけど・・・
「玄弥君。目の前に居るのはお館様のご子息ご息女様よ? 余り失礼な態度は頂けないわ。もう少し丁寧に質問しなさい」
「っ!! 鬼殺隊当主のっ!? ・・・すみません。失礼を働きました。この通りです」
「構いません。私たちも意図的に身分を隠しておりますので」
玄弥君は私の指摘にすぐさま自身の非を認め頭を下げた。お兄さんと同じでガラは悪いけど、根はいい子なのね。ちゃんと説明すれば言う事を聞いてくれるようだ。一方で・・・
「お前ら鬼殺隊の偉い奴のガキか!! ならさぞかし強ぇんだろうな!? 今すぐ俺と勝負勝負ゥ!!!」
「馬鹿にも程があんだろっ!!??」
猪突猛進でお館様のご子息ご息女様に突っ込もうとする伊之助。すかさずそれを善逸が止める。私は肝が冷え、冷たい声で伊之助に忠告する。
「伊之助君? また注射器打たれたいの? 次はもっとキツイの使おうかしら」
「ゴメン・・・オレアタマワルクテ・・・」
伊之助は私の脅しですぐさま大人しくなる。藤重山での教育が行き届いているようだ。これならなんとか御せそうね。
それからお館様のご子息ご息女様より、隊服、階級、玉鋼、鎹鴉の説明がなされる。そしてなぜか善逸だけ支給されたのが雀だった。ひょっとして鎹鴉足りてないのかな。
そして玉鋼を選ぶことになる。炭治郎は持ち前の嗅覚で的確に選んでいた。善逸や伊之助も聴覚肌感覚が鋭いらしく最適なものを選んでいるようだった。
凄い。羨ましい。私はそんな超感覚がないから適当に選ぶしかない。玄弥君もひとしきり悩んでしぶしぶ決めていた。
最後に隊服の寸法を測るそうだ。目の前に現れた隠の人が私に対して名乗りを上げる。
「前田まさおと言います。女性の隊服を主に担当しています。まずは採寸しますね」
「へえ・・・貴方が例の・・・」
私はその名前に心当たりしかなく青筋を浮かべる。作り笑いを浮かべて採寸を受けているが内心心穏やかではなかった。さてどうしてくれようか。
「こちらが胡蝶しのぶ様の隊服です。あちらで試着できますので着替えてください」
私はマッチを取り出し火を灯してかざす。前田の表情に恐れの色が見える。私は笑顔で言いたかったこと全部目の前の男にぶつけた。
「なんですかこれ。馬鹿にしてるんですか? 上は兎も角、下の隊服はなぜ短袴なんですか? 可笑しいですよね? こんな太もも丸出しの隊服で鬼と戦えと? うっかり大動脈斬られたらどうするんですか? 普通に死にますよね? どう責任取るおつもりですか? まさか女性隊士は鬼殺などせず男の前で媚びた装いでもしていろと? 全く以て腹立たしいです。いっそこの隊服燃やした後は貴方に油かけて火あぶりにしてあげたいくらいです」
「め、滅相もない!! この隊服は女性隊士が少しでも動きやすいよう改良に改良を重ね漸く完成させたものなんです!! 現に恋柱様はこの仕様を甚く気に入っております!! 可動域の大きい女性の強みを妨げない良い造りとも感想を頂戴しております故!!!」
「は? 隊服の機能を追求した結果だとでも? その為だけにこんな馬鹿げた装いの隊服を着ろと?」
「い、いえ!! それだけではありません!! これは正確には短袴ではなくキュロットスカートと申しまして、西洋では女性らしい身だしなみと機能美を両立した画期的な洋装なのです!! 昨今の大正デモクラシーにおける職業婦人や女性運動の流れを尊重しまして、女性が女性らしさを損なわれぬまま地位向上に少しでもお役に立てればと願った上での私なりの取り組みなのです!! どうか今一度考え直して下さ・・・ぎゃああああ!!! 油かけないでぇええ!!! 死ぬ死ぬ!!! 火あぶりはマジで死んじゃうからぁあああああ!!!」
私はゲスメガネとも言うべき糞野郎の顔面に思わず油をぶっかけて反射的にマッチを擦っていた。こいつはここで灸を据えてやった方が今後入隊する女性隊士全員の為だ。
「しのぶ。そんな怖い顔をするんじゃない。折角の綺麗な顔が台無しじゃないか」
「っ!!」
しかし、火をつけようと一歩前に進み出ると同時に、思わず炭治郎から思いがけない言葉を投げかけられる。私は反射的に固まってしまう。その隙に炭治郎がゲスメガネに弁明する。
「すみません。前田さん。しのぶは生まれが名家のお嬢様だから、こういう前衛的な意匠の隊服は受け入れがたいと思うんです。確かに一見女性らしさと機能性を兼ね備えたしのぶの魅力をも引き出せる素晴らしい隊服だとは思うのですが、残念ながら受け取れません。なので、できれば俺達と同じ一般的な隊服を用意して貰えないでしょうか? 折角ご用意して頂いたにも関わらず申し訳ない。お気持ちだけは有難く受け取っておきますので」
炭治郎は私にちゃんとした隊服を用意するようそう促したつもりだったのだろう。けど途中聞き流すには惜しい内容が炭治郎の口から飛び出していた。私は無意識に無言でマッチの火を消し油をしまっていた。
「あ、ありがとうございます・・・助かりました・・・竈門炭治郎様・・・貴方は私の命の恩人です」
「じゃあこの隊服は処分してください。本当に申し訳ないのですが」
「い、いえ! 滅相もない! では胡蝶しのぶ様! こちらは私の方で回収しておきます! 採寸に合った一般仕様の隊服もすぐご用意できると思うので今一度お待ちを・・・え・・・」
私は反射的にその回収されるべき隊服を掴んでいた。ゲスメガネがあっけに取られている。炭治郎も首を傾げていた。
「どうした? しのぶ? それは嫌なんじゃないのか?」
「・・・炭治郎は・・・」
「ん?」
私は無意識のうちにとんでもないことを宣っていた。
「炭治郎は私にこれ着て欲しいって思う? 似合うって思う?」
「え? うーん。まあ似合うとは思うし着てるところは折角なら見てみたいけど・・・でもしのぶが嫌なら流石に無理強いはしないぞ?」
「・・・・・・わかった」
そして私は力ずくでゲスメガネから目の前の隊服を引ったくった。
「じゃあ折角なのでこれも予備で貰います」
「え?」
私がそう言うので、ゲスメガネはあっけに取られる。一方私は逆に差すような目線でゲスメガネを一睨みする。
「何してるんですか? さっさと一般仕様の隊服持ってきてください。時間が勿体ないです。何もたもたしてるんですか? またマッチに火つけますよ? いいから早くしてください」
「ひっ!? た、只今!!!」
そうしてゲスメガネは逃げるように別の隊服を取りに戻っていった。私は溜息をつく。
「しのぶ。俺はしのぶが納得した仕様の隊服を着るべきだと思うぞ? 他の人の意見なんて無視していいからな?」
「わかってるわよ炭治郎。こっちはただの予備だから。あと夏とか涼しそうだしそれ用よ。普段は着ることないと思うわ」
「そうか。そういう使い方もあるのか。やっぱりしのぶは良く考えてるなぁ」
そんな見当違いの発言をする炭治郎から顔を逸らして、私は手持ちの手提げ袋にその隊服を強引に押し込んだ。やがてゲスメガネが一般用の隊服も持ってくるのでそれを乱暴にひったくり、それも同じ袋に入れる。
そうして私達は一週間滞在し続けた藤重山をあとにした。
「良く無事に戻った。しのぶ。儂はお前たちのことを信じていたぞ」
「はい。鱗滝さん。それと禰豆子ちゃん漸く目を覚ましたんですね?」
私は狭霧山の麓に帰り、鱗滝さんに一通りの報告をする。その間、小屋の戸を蹴り飛ばした禰豆子ちゃんが帰宅した炭治郎に駆け寄り抱き着いたので二人は抱擁を続けていた。炭治郎もずっと禰豆子ちゃんが目を覚まさなくなって心配だっただろうから、それは大層号泣していた。私も私で8年にも及ぶ鍛錬生活に漸く終止符が打てそうで実に感慨深かった。
「ところでしのぶ。お前の手提げは随分とものが入っているな。隊服以外にも支給されたのか?」
「えっと・・・念のため二着貰ったためです・・・他に他意はありません」
「そうか。何はともあれ、これでしのぶも立派な鬼殺隊の一員だ。胸を張って自身を誇れ。お前ほど切実な思いで鬼殺隊に入隊する者もそうは居まい。儂はいつでもお前の無事を祈っている」
「ありがとうございます。鱗滝さん」
そうして私たちは小屋に戻り、ゆっくりと休んで一夜を過ごした。
そして私は早朝、一人でこっそり小屋を抜け出した。そして周囲に誰も居ないのを警戒しながら、小川の周辺で例の隊服に着替えて全身の装いを確認していた。
うん。まあ上は普通かと思う、若干胸元が苦しいけど、ボタン一個開けると丁度いい位かな? とどのつまりはそういうことか。
そして下の隊服。なによこれ。真菰さんの時より丈短くなってない? あの時は膝下一寸位だったけど、私のはどう見ても膝上を優に超えている。こんな姿を人目に晒すなんて。私はその時のことを想像し全身が真っ赤になるのを感じ取った。
でも炭治郎の前だけでなら、いつか着てみてもいいかもしれない。私が着たら似合いそうって言ってくれたし。
それに・・・炭治郎になら・・・そんな風に見られたとしても・・・正直嫌じゃないかもしれない。
私は暫く悶々としていたが、ずっとそうしてる訳にもいかないと小川の水で頭を冷やして、元の服装に着替えて炭治郎が眠る小屋へと戻った。
続く
恐ろしいことに気づいてしまった。ゲスメガネ喋らすの楽しい。善逸に並ぶかも。でもコイツ登場させる機会殆どないからなぁ。どうしよう。ストーリー改変して再登場させるか否か。正直悩み中。
そしてそして、順調に炭しのフラグは建設中です。しのぶはいつ自分の気持ちに気づくのでしょうか。カナエ姉さんが最後のしのぶ見たら赤飯焚きだすかも。そしてやはり悲鳴嶼さんには「炭しの・・・キテル・・・尊い」って言わせたい。実現するかはわからないですが。何はともあれ読者の方に楽しんで頂けてれば幸いです。
読みたい路線はどっち?
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一部の層(継国兄弟ファン)にぶっ刺さる話
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万人受けしそう(マイルド)な話