「行こうか。しのぶ」
「ええ。炭治郎」
最終選別が終わり、鱗滝さんの下へと帰還し、十五日が経過した。私達は日輪刀を支給され、隊服に着替えたのち小屋の外に出る。
「二人とも。気を付けて行ってくるのだぞ。どんな鬼が相手でも決して油断するな。努々そのことを忘れるでないぞ」
「はい! 鱗滝さん! 今までありがとうございました!」
「鱗滝さん。八年もの長い間、本当にお世話になりました。貴方が居なければ今の私はなかった。姉弟弟子二人で力を合わせ、鬼殺隊に献身して参ります」
「うむ。達者でな」
そうして私達は、鱗滝さんの下を巣立っていった。お互い共通の衣装の隊服を着て、その上から炭治郎は市松模様の羽織を、私は白無地の羽織を着込んでその場を去った。
任務先への移動中、私は炭治郎に対して気になった疑問をぶつける。
「炭治郎。貴方の日輪刀の色は黒だったわよね」
「ん? ああ。そうだな。正直意外だったよ。俺はてっきり青い日輪刀に変わると思っていたから」
「そうね。なんででしょうね」
「まあ、わからないことを考えてもしょうがないよ。それにしのぶの日輪刀も青じゃなくて藤の花みたいな色だったじゃないか。あれって一体何の呼吸の適正なんだ?」
「さあ。わからないわ。もしかしたら派生の呼吸に適性があるのかも」
「派生の呼吸?」
「ええ。水からは花。風からは霞といった感じで、五大呼吸から枝分かれして新たに生まれた呼吸があるの。他にも雷から音、水から蛇、炎から恋に派生した事例もあるわ。かなり限られるけど」
「恋!? それって呼吸なのか!? そんな呼吸一体誰が・・・!?」
「最近恋柱になった甘露寺蜜璃さんが使うわ。もともとは炎柱 煉獄杏寿郎さんの継子だったんだけど、余りに独特な体質と感性で炎の呼吸が変質して恋の呼吸が派生したらしいわ」
「へー、派生の呼吸かぁ。じゃあ俺のも何かの派生なのかな?」
「どうでしょうね。正直、黒色に似た日輪刀の色がパッと思い浮かばないわ。一番似てるのは岩の呼吸の灰色だけど・・・ひょっとしたら大昔に失伝した呼吸なのかも」
「えぇ!? そしたら俺、仮に適した呼吸があったとしても使えないってことじゃないか!?」
「まだわからないわ。とりあえず、任務がひと段落したら悲鳴嶼さんに相談してみようと思うの。一応もう文は送ってるんだけど・・・」
「流石しのぶ! 仕事が早くてほんとに助かるよ! じゃあそれまでは鱗滝さんに教えられた水の呼吸で頑張らないとな!」
「そうね。問題は私の呼吸なんだけど・・・」
「藤色? 薄紫色かな? 何か似てる色の日輪刀の事例ってないのか?」
「直接見たことはないけど蛇の呼吸が紫色だから一番怪しいのはそれなんだけど・・・あれって蛇柱の伊黒さんが自分用に編み出した呼吸だから多分違う気がするのよね」
「蛇の呼吸か。しのぶは突き技に適性があるから蛇の呼吸が突き主体ならそうなんじゃないか?」
「なら違うわね。蛇の呼吸はどちらかと言うと太刀筋をくねらせて独特な軌道を描く斬撃が売りだもの。私はそんな変幻自在な太刀筋が向いてるようには思えないわ」
「そうか。じゃあやっぱり新たに開発するしかないんじゃないか? そもそもしのぶは前例のない剣士なんだから。余り型にはめ込まずしのぶが自作して行った方がいいと思うな」
「そうね。私もそう思う。暫くは水の呼吸に頼りながら少しずつ派生させていくしかないわね」
「お互い大変だな」
「そうね。でも二人で試行錯誤し合えばきっと大丈夫よ」
「ああ。しのぶが居てくれて本当に良かった」
「・・・私の方こそ・・・炭治郎と一緒に居られて・・・本当に・・・」
私がそこまで呟いたところで目的の街が見えて来た。この町では夜な夜な少女が消えているらしい。嫌らしい鬼だ。かつて姉さんを傷つけた上弦の弐、童磨を思い出す。
「よし。じゃあまずは聞き込みだ。どうやって探す?」
「噂話がされやすい飲み屋が相場だと聞いているけれど、私達お酒飲めないものね」
「うーん。地道に街を練り歩くしかないのか。ん?」
すると炭治郎がある人物とすれ違い異変に気付く。酷くやつれて、絶望し切った男性の方だった。私も周囲のひそひそ話が気になり聞き耳を立てた。
「ほら和巳さんよ。可哀そうに。やつれて・・・」
「一緒に居た時に里子ちゃんが攫われたから・・・」
私は炭治郎の袖を引く。
「炭治郎。あの人多分・・・」
「ああ。最愛の人を失った悲しみの匂いがする。きっと間違いない!」
そうして私たちは和巳と呼ばれていた男性に聞き取りを行った。見事に当たりだった。
「信じて貰えないかもしれないが・・・」
「信じますよ!」
「大丈夫。任せてください。私たちはその為にこの街に来たんですから」
「えっと・・・貴方たちは・・・」
炭治郎が周囲を犬のように嗅ぎまわっているので、私は彼を安心させようと穏やかに答える。
「私たちは鬼を斬る仕事をしています。必ず貴方の婚約者を攫った鬼は殺します。私達を信じていて下さい」
夜になった。未だに炭治郎は根気強く鬼の匂いを追っている。
「炭治郎。見つかりそう?」
「かすかに鬼の匂いが残っているけど・・・斑で・・・っ!! 匂いが濃くなったっ!! 鬼が現れている!!」
「失礼」
「えっ!? なっ!?」
炭治郎はその場を駆けだし、私は和巳さんを横抱きに抱える。そうしてそのまま炭治郎を追いかけた。一瞬にも満たない速度で。
私が追い付く頃には炭治郎は既に鬼と戦闘になっていた。沼のような影から鬼が三体同時に出現し、一斉に炭治郎に飛び掛かろうとしていた。だが・・・
ー水の呼吸 弐ノ型・改 横水車ー
一瞬だった。三体のうち、二体の鬼の頸は刎ねられ、残る一体も両腕を斬り飛ばされていた。そして即座に炭治郎が左手で首を掴み、近くの塀に叩きつける。
「がはっ!?」
「攫った女の人達はどうした?」
「ぐっ・・・全員喰ったに決まってんだろ!!」
「そうか・・・じゃあ次の質問だ」
炭治郎は両目を切り裂いた。鬼は痛みに叫ぼうとするが、炭治郎が喉を更に締め上げるので声すら出せないでいた。
「鬼を人間に戻す方法を知っているか?」
「し・・・知らねえ・・・」
「そうか・・・じゃあ最後の質問だ」
炭治郎は膝蹴りを鬼の鳩尾に叩き込んだ。鬼は喉を締め上げられたまま吐血することもできず赤い泡を口元から溢していた。
「鬼舞辻無惨について知っていることを話してもらう」
「っ!!」
明らかに鬼の怯え方が変わった。凄まじい冷や汗が噴き出し、全身が震えあがっている。
「い・・・言えない・・・言えないんだ・・・言えば殺される・・・頼む・・・どうか見逃してくれ・・・!」
「お前はそうやって命乞いした女性たちに情けを掛けたのか?」
炭治郎は冷たい声で言い返し、そのまま鬼の頸はストンと落ちた。鬼の身体が塵へと還っていく。
「・・・里子さんは・・・」
私が横抱きにして抱えてた和巳さんを地面に降ろした後、彼は涙を浮かべたままそう私たちに尋ねた。
炭治郎は残念そうに眉を寄せ、目を瞑り首を振る。
「・・・お気の毒ですが・・・これしか取り戻せませんでした・・・この中に里子さんの持ち物があると良いのですが・・・」
すると炭治郎は鬼の衣服からちぎり取ったであろう簪の収集帯を手渡しする。それを握りしめ、和巳さんは泣き崩れて下を向く。
「ごめんなさい。間に合わなくて。私たちも鬼に家族を殺されました。それでも生きていくしかないんです。どうかお元気で」
私は和巳さんの背を優しく撫でで、去り際にそう言い残し、炭治郎と共にその場を去っていった。
「次ハ東京府浅草ァ!! 鬼ガ潜ンデイルトノ噂アリ!! カァアア!!」
「嘘でしょ・・・私達・・・初任務先で被害者が出てやるせない心境だったのに・・・もう次の任務先行くなんて貴方人の心とかないんじゃないの?」
「一人デモ被害者ヲ減ラス為ニ今スグ行クノヨォ!!」
「しのぶ。一刻でも早く鬼舞辻無惨を見つけ出し悲しみの連鎖を断ち切らないと。俺達はこんなところで足踏みなんてしていちゃいけないんだ。行こう」
「炭治郎・・・わかったわ」
そうして私たちは次の任務先、浅草へと移動した。
「私に何か用ですか? 随分と慌てていらっしゃる様子ですが・・・人違いではないでしょうか」
その男は突如往来の男性のうなじを爪でひっかいた。すると引っかかれた男性は急に苦しみだし、鬼となって傍の女性に襲い掛かった。
嘘でしょ!!?? こいつが鬼舞辻無惨なのっ!!?? 待って!!?? 昨日の今日でほんとにすぐ見つかったんだけど・・・!!?? 鬼の首領がこんな街中であっさり見つかっていい訳!!??
そもそもこいつ本当に私たちから隠れる気ある!!?? 普通に出歩いてて馬鹿じゃないの!!?? どうせならもっと見つかりにくい所に隠れていなさいよ頭無惨っ!!!!!
いやいや!!! 今はそれどころじゃなくて炭治郎を早くこいつから逃がさないと・・・ってええっ!!?? 炭治郎っ!!??
続く
最後の下りについてはゴリ押しフィニッシュ感が凄いですがやはりユーモアは必須だと思ったので強行しました。筆者はギャグセンがいまいちですが、それでもなるべく読み手に楽しんで貰いたいなとは思っています。
読みたい路線はどっち?
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一部の層(継国兄弟ファン)にぶっ刺さる話
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万人受けしそう(マイルド)な話