「と、都会ってこんなに発展してるのか!? 夜なのにまっ昼間みたいに明るいじゃないか!! しのぶはこんなところで生まれ育ったのか!?」
「馬鹿言わないで。私が住んでた街は流石にここまで発展してなかったわよ。でもそうね。昔お父さんとお母さんに浅草には何度か連れて来てもらったから何だか懐かしいわ」
私たちは初任務を終えた後、すぐに次の目的地へと移動していた。到着直後、炭治郎は目ん玉を出目金のようにひん剥いてそんな田舎者丸出しのような発言をしていた。
彼が手を繋いでいる鬼の禰豆子ちゃんも人酔いしてるのか目を瞑りフラフラしていた。二人を見て私は思わず苦笑する。
「ほら。私が適当に休めるところ案内してあげるから。手繋ぐわね?」
そうして私はさりげなく炭治郎の手を握る。その瞬間、私の鼓動が僅かに高鳴り早くなる。私はそれがむず痒く、加えてあまり意識してると症状が悪化しそうだったので、炭治郎にそっぽを向いたまま街中をズンズン進み出した。
「あ、しのぶ! もう少しゆっくり歩いてくれ! 禰豆子もふら付いてるんだ! こけたら危ない!」
「もう・・・仕方ないわね」
私は歩く速度を僅かに緩めた。私は炭治郎に振り返るようなことはしない。今は正直、炭治郎に対し自分が今どんな表情をしてるのか、何故だかそれを見せる訳にはいかないような気がしてた。
やがてふら付く二人を人気のない街はずれまで誘導する。目の前には綺麗な噴水があり、私たちはそこで一度立ち止まる。
「ほら。ここなら人酔いも覚めるでしょう? 暫くここで休憩しなさい」
「あ、ありがとう、しのぶ。わあ~! 凄く綺麗だ! しのぶはこの場所にこんな立派な噴水があることを知っていたのか?」
「ええ。ここは瓢箪池って言って、ちょっとした観光名所なの。今でこそ浅草六区が一番有名だけど、ここも明治からある由緒正しい名所よ。以前お父さんが肩車して連れて来てくれたわ」
「そうなんだな。じゃあここはしのぶにとって大切な思い出の場所だ」
「うん。そうね・・・」
私は今、儚げに微笑を浮かべているのだろうか。かつての家族との思い出に浸って二度と取り戻せない過去を懐かしむ。そんな私を見て炭治郎は一体どう思ったんだろうか。
「ありがとうしのぶ。俺、任務中は鬼を斬ることしか考えちゃいけないって思ってた。誰も傷つけさせないよう気を張ってないといけないって思ってた。だから、こんな風にしのぶとちょっとした観光名所巡りできるだなんて思ってもみなかった。凄く嬉しいよ。今日しのぶと浅草に来れて本当に良かった」
「っ!」
私は再び炭治郎から顔を背ける。
もう・・・この子はまたそうやって・・・ひょっとしてわざと思わせぶりなこと言ってるんじゃないでしょうね?
まあでも炭治郎はそんなことしないか。だって炭治郎だもの。きっと無自覚でこういうこと言うのね。私もあまり舞い上がらないようにしないと・・・
「むー! むー!」
「ああ、ごめん禰豆子。もちろん禰豆子とも来れて兄ちゃん嬉しいぞ? 禰豆子が人間に戻ったら昼にまた来ような?」
「むー♪ むー♪」
「ふふっ、禰豆子ちゃん可愛いわね。とても鬼には見えないわ」
「禰豆子は可愛いぞ? でも鬼になる前はもっと可愛いかったし町でも評判の別嬪さんだったからな。いつかしのぶにも見せてやりたいよ」
「あら、いいわね。楽しみにしてるわ。禰豆子ちゃんも早く日の下を歩けるようになれると良いわね?」
「むー! むー!」
炭治郎に加え、私が禰豆子ちゃんの頭を撫で始めると一層彼女は嬉しそうにしていた。
こんな良い子が鬼にされるなんて。神様は本当に酷いことをする。まあ、でも、もし神様が本当に全知全能な存在なら、今頃鬼なんて理不尽な生き物がこの世を跋扈しているはずもないか。だからこそ私達が一人でも多くの人の幸せを守らないと。
「あ! しのぶ! あっちに大きな建物があるぞ! あれって何かな?」
「あれはね、凌雲閣って言うの。通称浅草十二階と呼ばれる建物よ」
「へー、そうなのか。折角だし任務が終わったら二人で中登ってみないか? 中に何があるのか気になるし」
「確か西洋から伝わったエレベーターがあるはずよ。十二階建てだと階段移動はしんどいものね。ただ不具合が出てからはずっと停止中じゃなかったかしら」
「エレベーター? 聞いたことないな」
「建物の中に設置してる一階と最上階を行き来する装置のことよ。人を乗せて昇降するの。とっても便利だけど構造が複雑みたいで、一度壊れると中々直せないみたいなの」
「そ、そんなものがあるのか! 都会って凄いな~。他には何か飾ってあったりしないのか?」
「そうね。他には確か・・・」
そこで私は、脳裏にある光景が過り閉口する。炭治郎は私のその様子を見て首を傾げる。
「どうした? しのぶ。中には一体何が・・・」
「炭治郎にはまだ早いわ。もっと大人になってからにしなさい」
「え?」
確か、中には人気の遊女や芸妓の写真が沢山飾ってあったはず。子供の頃お父さんがそれを眺めてお母さんが凄く不機嫌になったのを覚えてる。正直私も炭治郎がそれに釘付けになってるところとか見たくない。なんでかわからないけど物凄く嫌。
「なあ、しのぶ。なんで大人になってからじゃないと駄目なんだ? それに俺もう十五だし小さい頃のしのぶも見れたなら別に・・・」
「駄目って言ったら駄目っ!! この話はさっさと忘れてっ!!」
つい大声を出してしまう。何をしてるの私は。炭治郎はただ気になったことを聞いてきただけじゃない。でも炭治郎が他の女の人に釘付けになってる光景を想像するだけで感情の制御ができない。私、どうしちゃったんだろう。
「ほ、ほら! 炭治郎長距離歩いてお腹減ったでしょう? 丁度あそこに屋台があるわ! まずは空腹を満たさないと!」
「あ! ほんとだ! 俺もうお腹ペコペコだったんだ。しのぶ、早速食べに行こう!」
「え、ええ! そうしましょう!」
そうして私たちはうどん屋の屋台の人に声を掛け、炭治郎は山かけうどん、私は大根おろしとおろし生姜が入った生醤油うどんを注文した。
「美味しいわね。炭治郎」
「ああ! 今まで食べたうどんの中で一番だ!」
「そうだろうそうだろう! 兄ちゃんわかってんじゃねぇか! よし! 替え玉おまけしてやる!」
「ほんとですか!? ありがとうございます!!」
炭治郎。ちゃっかり無料でうどん貰ってる。なんて子なの。恐ろしく速いおかわり。私じゃなきゃ見逃しちゃうわ。もしかして炭治郎って男女関係ない天然人たらしなんじゃ・・・
「っ!!??」
ところが急に突然、炭治郎は凄まじい動揺を見せ、食べかけのうどんの器を取り落とした。呼吸が乱れてる。どう見てもただ事じゃない。
「た、炭治郎っ!? 一体どうしたの!?」
炭治郎は分け目も振らず、突如その場から走り出した。向かう先は浅草六区だ。
「あ! おい兄ちゃん! どうしたって言うんだ!?」
「すみません! 屋台のお兄さん! 私、彼を追いかけないといけないんです! この子置いてきます! 後で必ず戻ってお代も弁償もしますから!」
「あ! 姉ちゃんまで! おい!」
炭治郎のあの慌てぶり。尋常じゃない。ひょっとして強い鬼の匂いをかぎ取った? もしかして上弦!? だとしたら炭治郎一人じゃ危なすぎるっ!! 私が、私が!! 炭治郎を守らないとっ!!
そして私は炭治郎の豆粒のように小さくなった背中を追って全速力で駆けだした。
でも私の方が足が速くて本当に良かった。これならきっと見失わない。
やがて炭治郎が街中の往来でモダンな紳士服を着た男性の肩を掴んで振り向かせる。そいつはとぼけた風だったが、突如通りすがりの手近な男性をひっかいて鬼にする。私はそれでこいつが鬼舞辻無惨だと確信した。
「やめろぉおおお!!!!」
炭治郎は災いの元凶に目もくれないで鬼になった人を取り押さえる。私は鬼の首領がすぐ傍にいる事実に冷や汗が噴き出し動けないでいた。
駄目だ。絶対に目を合わせるな。普通に。普通にしてなければ。その気になればこいつは瞬きする間もなく私たちを殺すことができる。奴の目に留まるようなことがあってはならない。
私は宿敵を前にし、一歩も動けずにいた。悲しみの因果を断ち切る。炭治郎とそう約束したのに。でもいざその元凶を前にしたら、怖くて身動き一つ取れないでいた。
気の遠くなるような時間が過ぎたかと思ったが、それは実際数秒だったのだろう。無惨は私に目もくれず偽装家族らしき連れを誘導してその場を離れて行った。
(た・・・助かったの?)
私は安堵した。そして間髪入れず自身の現状を俯瞰して腹の底から情けなく思った。私は死ぬことが怖くて何もしないでただ見ているだけの臆病者だ。本当に自分が嫌になる。
「鬼舞辻無惨!! 俺はお前を逃がさない!! どこへ行こうと・・・地獄の果てまで追いかけて、必ずお前の頸に刃を振るう!!! 絶対にお前を!!! 許さない!!!!!」
「炭治郎・・・」
私は震えて見てることしかできなかった。なのに炭治郎は、無惨の前で鬼にされた人をすぐさま拘束し、連れの人を庇い、元凶に対してあそこまで強烈な啖呵を切ることができたのだ。
どうして? どうして貴方はそこまでできるの? 私は炭治郎の姿が眩しかった。何もできない私とは対照的で彼の行動は鬼殺隊士の模範そのもの。不屈と慈愛の精神の象徴だった。
私もただ突っ立っているままじゃいられない。すぐに肩を噛まれた女性に駆け寄って、即座に止血し応急処置をする。
「これでもう貴方は大丈夫です。これ以上血が流れることはありません。ただ・・・」
「グゥウオオ!!!」
旦那さんだったのだろうか。鬼化の直後で正気を失っている。暴れようとしているが炭治郎が必死にそれを押さえている。
「ありがとうしのぶ!! そっちの女性を頼む!! 俺はこの人を絶対に人殺しにはさせない!! 何があろうと絶対に!!!」
そうか。炭治郎が無惨の前でも迷わずあの人を抑えに掛かれたのは、何の罪もない市井の人に人殺しの業を背負わせないためだったんだ。
そのために死の恐怖も家族を殺された恨みも一時は忘れて、あの人の尊厳を守り通すことを最優先にしたんだ。
炭治郎・・・貴方はなんて強い子なの・・・そして底抜けに優しくて・・・本当に・・・
「少年を引き剝がせ!!」
気が付けば交番のお巡りさんが駆け寄っていた。炭治郎が引き剥がされそうになる。
「やめてくれ!! この人に誰も殺させたくないんだ!!邪魔をしないでくれ!! お願いだから!!」
私が炭治郎に加勢しようと駆けだした次の瞬間、周囲に嗅いだことのない香りが充満する。するとあたり一帯を花の紋様が多い、術を仕掛けた人物が寄ってくる。
「あなたは、鬼になった者にも、人という言葉を使ってくださるのですね。そして助けようとしている。ならば私もあなたを手助けしましょう」
「なぜですか? あなたは・・・あなたの匂いは・・・」
「そう、私は・・・鬼ですが、医者でもあり、あの男鬼舞辻を抹殺したいと思っている」
その時炭治郎を助けてくれたのは、のちに私の鬼殺の人生を大きく変えた、薬学の師となる珠世さんだった。
続く
最後若干触れてますが、本作のしのぶは珠世さんに弟子入りする予定です。数話後に描写が入ると思うんで楽しみにしてて下さい。
読みたい路線はどっち?
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一部の層(継国兄弟ファン)にぶっ刺さる話
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万人受けしそう(マイルド)な話