「元十二鬼月の下弦の陸か。血鬼術は厄介だったけど難無く倒せたな」
「そうね。部屋を回転されても一足飛びに接近すれば関係なかったわ。斬撃が飛んできた時は一瞬ヒヤリとしたけど」
「ほんとだぞしのぶ!! あれもろに喰らってたら下手をすると死んでたじゃないか! 頼むからあんな危険で迂闊な攻め方はしないでくれ! 俺心配したんだぞ!?」
「ご・・・ごめんなさい・・・炭治郎」
私たちは鼓を鳴らし血鬼術を使う響凱という鬼を討伐した。鼓を叩くと部屋が回転したり斬撃を飛ばして来たりする割と厄介で殺傷能力の高い攻撃をしてくる鬼だった。しかし本体は比較的弱かった。
まず私が血鬼術の起こりを先読みして一気に距離を詰め鬼を串刺しにし藤の花の抽出物で動きを鈍らせた。続いてその隙に炭治郎が接敵して頸を一閃し刎ねた。
けど私は飛ぶ斬撃が突進した際に掠り、左腕をやや斬られてしまった。本来ならこれくらい呼吸で簡単に止血しどうとでもなるのだが・・・
「これで良し。鱗滝さんから貰った薬を縫って包帯を巻いたからな。これで傷痕も残りにくいだろう」
「あ・・・ありがとう・・・炭治郎///」
どうとでもなるのだが・・・私が血鬼術を受けた事実に動揺した炭治郎が大慌てで私の隊服を着崩して薬を塗り始めたのだ。
いきなり隊服のボタンを外され始めた時は顔が真っ赤になり心臓が口からまろび出るかと思った。でも炭治郎のことだからやましい気持ちなんて一切無くて、きっと私を心配する一心だったのだろう。
私は成されるがままに左上半身だけさらし姿になった。柔肌が意中の男の子の前で露わになり、私の肌は生理現象で赤くならなかっただろうか。
そんな心配で気が気じゃないまま固まっていた私だが、炭治郎も鱗滝さん仕込みの怪我の手当てができるので非常に手早く済んだ。すぐに包帯は巻かれ、私は隊服を着直した。
「・・・・・・」
「どうした? しのぶ」
き、気まずい。下心なんて炭治郎には微塵もないって頭ではわかってるけど、彼の前で肌を晒すなんて・・・
思わず頬含め全身が朱色に染まるのを感じた。でも炭治郎はそんな様子で黙ってる私を見ても首を傾げるだけだった。私は溜息をつく。
「な、なんでもない。行きましょ? 禰豆子ちゃんが鬼だって善逸にバレてないか心配だわ」
「ああ。それなら大丈夫。多分善逸は俺が鬼を連れ歩いてるって最初から気づいていたと思うから」
「は? え・・・は? えっ!!??」
私は驚き炭治郎を二度見する。彼は相変わらず笑顔のままだった。
「善逸は耳が良いからさ。箱の中に鬼の禰豆子が居たことなんて会った時点で気づいてたと思うぞ? 俺も鼻が良いからそういうのすぐ気付くし」
「じゃ、じゃあ! どうして禰豆子ちゃんを善逸に任せるようなことしたのよ!? もし彼が鬼を問答無用で斬り殺す奴なら今頃・・・!!」
「だから平気だよ。善逸はそんな奴じゃない。ちょっと怖がりだけど、あいつからは俺を信頼してる匂いがしたからさ。そこはしのぶと同じなんだ」
「・・・・・・」
私は、善逸を余り信用していなかった。すぐ泣くし、縋り付くし、怒るし、僻むし、情けない男だと思っていたから。
けど炭治郎は善逸を信頼していたんだ。善逸から私が炭治郎を信頼するのと同じ匂いがしたから信頼した。だから命よりも大事な禰豆子ちゃんを託して自分は鬼の棲む屋敷に入ったんだ。
「そう・・・なんだ・・・善逸ってそういう奴だったのね」
私は善逸に対する見方を少し変えた。普段のあいつはみっともなくてどうしようもない奴だけど、少なくとも炭治郎が約束を反故にするはずないって信じられるくらいまともな奴だったんだ。今までの善逸に対する私の態度、ちょっと酷かったかも。悪く言ったり脅したり、あんな酷いこと言うんじゃなかったな。私は罪悪感を覚える。
「今は兎に角、稀血のあの子を連れて屋敷を出よう。他にも鬼が居るかもしれないしなるべく早くここを出た方が良い。行くよ、しのぶ」
「うん。炭治郎」
そうして私たちは別部屋で待機してる稀血を理由に攫われた清君と合流し屋敷の外に出た。ところが・・・
「刀を抜いて戦え!! この弱味噌が!!」
「・・・え? 伊之助? なんで・・・」
私は目の前の光景を見て固まった。そこには禰豆子ちゃんの木箱を必死に庇い、全身青あざや腫れ、出血の痕ができていた善逸の姿があった。善逸は私たちの気配に気づき、か細い声で私たちに呼びかけた。
「炭治郎・・・俺・・・約束守ったよ・・・炭治郎の命が懸かってるって・・・お前言ってたから・・・」
私はその光景を見て胸を打たれるものがあった。私はそのまま移動し、善逸を庇う形で伊之助の前に立ちふさがり貼り付けたような笑顔を見せた。
「こんにちわ。伊之助君。今日はよく晴れていますね? 久々に会ったと思ったらこんなところで一体何をしてたのかしら?」
「うおっ!? お前!! あの時の毒女!? なんでこんなところにっ!?」
「さあなんででしょうね? ところでお願いがあるんですけど伊之助君。今すぐその日輪刀捨ててくれる?」
私が注射器を一本取り出すと、伊之助は牙が抜け落ちた獣のようにシュンとして日輪刀を手放した。
「ハイ・・・ゴメンナサイ・・・オレアタマワルクテ」
正直な話、伊之助に対しても相当の罪悪感を覚えてしまう。なぜなら、炭治郎や善逸目線だと一方的に危害を加えた伊之助が悪いように見えるのだが、実のところ悪いのは私達だ。
伊之助は鬼殺隊士として正しいことをしていた。
なぜなら箱の中に居る鬼の気配に一早く気づいて、周囲の人を離れた距離まで避難させ、隊律に則り鬼を討伐しようとしていたのだから。寧ろ鬼を庇い立てする私たちの方が問題だ。
本来少しでも頭の回る隊士なら、そのことを指摘し上に報告すると脅せば私たちは何も言い返せないし何もできない。それこそ相手を口封じするか鬼殺隊を抜けるかぐらいしか選択肢がないのだ。
でも伊之助はそもそもの話、鬼殺隊の規則とか微塵も把握してないはず。なぜなら彼は山育ちで、「他の生き物との力比べだけが俺の唯一の楽しみだ!!」と藤襲山で言ってたからだ。
多分鬼を殺すことに関係する内容以外、一つも頭に入ってないと思われる。だから私のこのような暴論に対し反論ができないのだ。本当は私たちの方が間違ってるのに・・・ごめんね伊之助・・・
「善逸。禰豆子ちゃんが鬼だってもう知ってるんでしょ? それでも守ってくれてありがとう。貴方は禰豆子ちゃんだけじゃない。私や炭治郎の命の恩人でもあるのよ。本当にありがとう」
「あ、ん? えっ!?」
私が善逸に頭を下げる。その様子に善逸は面食らっていた。
「いやいや! え!? しのぶちゃんが俺に頭下げてる!! これってひょっとして夢!? 俺伊之助に蹴られ過ぎて死んじゃった!?」
すると炭治郎が近づき善逸の肩に手を置く。
「大丈夫。ちゃんと生きてるよ。ありがとな善逸。禰豆子を庇ってくれて。鬼だと分かってるのにそれでも守ってくれたんだ。善逸は本当に良いやつだ」
「うぅ・・・炭治郎~・・・俺・・・俺・・・」
そうして善逸は泣き出した。そして炭治郎に縋り付く。以前藤重山でみっともなく縋り付いたのとは違う。善逸は必死に炭治郎との約束を守って、炭治郎から心からの感謝を伝えられてそれで泣いているのだ。
炭治郎は本当に凄い。炭治郎は・・・必要としてくれる。私たちの想いや行動に意味を見出してくれる。だから私も善逸も炭治郎の為に頑張りたいって思えるんだろう。今の善逸の気持ちが私にはよくわかる気がした。
「良し。じゃあみんなで手分けして亡くなった人達の埋葬をして、今回巻き込まれた清、正一、てる子の三人を最寄りの町まで送ってあげよう。しのぶ、伊之助も手伝ってくれるか?」
「ええ。勿論」
「生き物の死体埋めてどうすんだよ。意味あんのか?」
「伊之助君?」
「ハイ・・・ゴメンナサイ・・・オレアタマワルクテ」
私が笑みを浮かべて伊之助に振り向くと、彼は再び牙の抜かれた獣のように従順になる。藤襲山で仕込んだ教育が行き届いてるようだ。これなら暫くの間言う事を聞かせられるだろう。
そうして私達は埋葬を済ませ、巻き込まれた子たちを町まで送って、最寄りの藤の花の家紋の家でお世話してもらうことになった。
続く
???「伊之助は犠牲になったのだ。しのぶの教育による犠牲。その犠牲にな」
伊之助は鬼殺隊士として正しいことをしてたんですけどね。鬼を斬るのが鬼殺隊の仕事で、鬼を斬らないと一般人犠牲になっちゃうかもだからね。でも筆者は初めて鬼滅読んだ時は何となく伊之助の方が悪いと思ってました。前提を知らないままのレッテルって本当に怖い。ごめんね伊之助・・・
読みたい路線はどっち?
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一部の層(継国兄弟ファン)にぶっ刺さる話
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万人受けしそう(マイルド)な話