「悲鳴嶼行冥様のお宅ですね?」
「・・・・・・」
あの晩、街の薬師の家に突如鬼が出たとの知らせを聞いて、私はすぐさま駆け付けた。今目の前にいるのは、その時の家の遺族、二人の少女であり、どうやら私の下へ訪ねて来たようだ。
「どうしてここが・・・?」
「隠しの方にお聞きしました。」
「・・・・・・」
「父と母の葬儀も無事に終わりました。全ては悲鳴嶼様と隠の皆様のおかげです。本当にありがとうございました」
「私は何もしていない。ただ鬼の止めを刺しただけだ。君達の命を救ったのは・・・」
「そうです。今日はそのカナヲの様子を見にお伺いに参りました。そして・・・」
「私たちに鬼を殺す方法を教えて欲しいの! それと今はカナヲはどうしてるの!? 教えておじさん!」
「私はまだおじさんと言われる年齢ではない・・・」
長女の娘の言葉を遮って、次女の方が私にそのような頼みごとをしてくる。私がどう答えようかと思案していると・・・
「姉さん・・・?」
ふと私の背後より
「カナヲっ!! どうして私たちの元から立ち去ったの!? 私たちのことが嫌いになったの!? どうして悲鳴嶼さんに付いて行ったの!?」
「・・・カナエ姉さん・・・」
カナヲは思案しているようだった。私が振り返り彼女を屋敷の中に戻そうとするのを見て、次女のしのぶが声を上げた。
「ちょっと! 姉さんがまだ話してるじゃない! 邪魔しないでよおじさん!」
「・・・だから・・・私はおじさんではない・・・悲鳴嶼と呼べ・・・」
おじさん呼ばわりされて内心へこむが、そんなことはどうでもいいと自身に言い聞かせて私はカナヲを屋敷の中に下げようとする。しかしその手をカナヲが抑える。私の手はそこからビクともしなくなる。
「カナエ姉さん。あの日言ったはず。私は鬼殺隊に入る。私はきっとそのためだけに生まれて来たの。」
「そ、そんな訳ないじゃない!! 貴方は私たちの大切な妹なのよ!?」
「うん。カナエ姉さんとしのぶ姉さんは私にとって大切な家族」
「だったら・・・!!」
「でもだからこそ、力を持った私が守らないといけない。私は遠くない将来、鬼の首領を滅ぼす。私は恐らく、鬼舞辻無惨を倒すために特別強く造られて生まれて来たんだと思うから。だからそれまで、姉さんたちには安全なところで生き続けて欲しい。きっと私は・・・姉さんたちに死なれたらもう二度と戦うことはできないと思うから」
「カナヲ・・・」
長女のカナエは表情を落とす。妹がそのような決意で自分たちの前から立ち去ったと聞き、言い返せなかったのだろう。一方次女のしのぶはカナヲに対し物申す。
「貴方一人で・・・あの夜の化け物みたいなの、一匹残らず全滅させられる訳ないじゃない!! 私たちだって協力するわ! 今日はそのために来たんだから!!」
「先ほど鬼を殺す方法を教えろと言ったな? つまりお前達も鬼殺隊に入りたいのか?」
「そうよ!」
「無理だな」
「はあっ!?」
「ちょっ・・・こらやめなさい・・・しのぶったら!」
私がはっきり言い捨てると、しのぶが私に食って掛かる。羽織に掴みかかるもやはりその力は脆弱そのもの。こんな小さな手と細い腕で鬼の頸など刎ねられる訳がない。
そんなしのぶを引き剥がし息を付くカナエ。すると今度は彼女より頼み込まれる。
「お願いです、悲鳴嶼さん。どうか私たちを鬼殺隊に入れて下さい」
「君達姉妹に鬼殺は無理だ」
「どうしてよ! 女性隊士だっているんでしょ!? なら私たちだって・・・!!」
「確かに女性隊士が居ないわけではない。だが男の隊士に比べ圧倒的に数が少ない。皆最終選別を突破できないからだ」
「最終選別って何? もしかして試験? なら大丈夫よ。私も姉さんも頭は悪くはないから」
「そうではない。」
私はしのぶが見当違いの話をし始めるので、カナヲ連れて庭先にある大岩の前に移動する。
「最低でもこれを自力で動かすぐらいできなければ、鬼の頸など切れない。最終選別とは、七日七晩山籠りし鬼を斬り生き延びる試練のことだ。大概の女性隊士はその時に命を落とす。もしこの大岩が動かせれば、鬼殺の術を教える育手を紹介しよう」
「はあっ!? バカじゃないの!? こんな大岩動かせる訳ないでしょ!? 誰ができるって言うのよ!! そんなこと!!」
「そうか。ではカナヲ。やってみなさい」
「はい。悲鳴嶼さん」
私は実演をカナヲに促す。するとカナヲは両手を岩の表面に押し当てて無表情のまま黙々と動かし始めた。
「は・・・え・・・嘘・・・カナヲ!?」
「因みに私はこれを一町押して歩くことができる」
「そりゃ悲鳴嶼さんは分かるわよ!! 熊みたいに大きんだから!! でもカナヲはなんでこんな大きな岩を押せる訳!? 意味わかんないわよ!!」
「しのぶ姉さん。私は恐らく、鬼舞辻無惨を倒すために特別強く造られて生まれて来たんだと思うの」
「それさっき聞いたんだけどっ!!」
「もういい。これでわかっただろう」
私は二人を説得しようと結論を下す。
「できなければ、鬼から人を守れない。自分の命のみならず、他の誰かが死ぬ。鬼を前にして、言い訳は許されない。できるできないじゃない。やらねければならない。鬼狩りになるというのは、人の命を背負うというのはそういうことだ」
「・・・・・・」
「わかったらさっさと家に帰れ。カナヲのことは心配するな。ここには女性の隠も多く来る。カナヲの世話はその者らに全て任せている。無下にはしない」
するとしのぶは踵を返しカナエに近づき耳元で呟く。盲目の私ですら聞き取れない小さな声でだ。
するとカナエの表情がパアッと明るくなる。そしてしのぶは勝気な表情で私に振り返った。
「岩を自力で動かせればいいんでしょ? 後で前言撤回しないわよね?」
「無論だが・・・」
「良し! じゃあ姉さんその辺から硬い棒状の物持ってきて!! 私はクワとかで穴掘っておくから!!」
「わかったわ!」
すると二人は勝手に私の屋敷の中に入り
「じゃあまずは手前に穴を掘るわ!」
しのぶはそう一声かけて懸命にクワで岩の手前にくぼみを作る。そして穴周辺を整え始めた。
「じゃあ差し込むわね!」
「お願い姉さん!!」
そしてあろうことか、二人はくぼみに棒状のものを思いっきり差し込んで、二人掛かりで全体重をかけて棒を押し下げようとする。
「くうっ~~~~!!!」
「ふぅうううううっ!!! あぁああああああっ!!!」
(これは・・・梃子か)
私は静観していた。二人の少女が必死に汗を拭きだしながら、呻き声を捻りだしながらも懸命に力を掛け続ける。だがそれでも一向に岩は動かない。彼女たちの手に血豆ができる。
「痛つうっ!! ああっ! もうっ!! 血豆が出来たくらいで諦めないわっ!! 姉さんもう一度っ!!」
「くぅうううう~~~!!!」
信じられない。育ちの良さそうな上品な娘たちが何度掌を血みどろにしても、一度たりとも岩を動かす事を諦めようとしない。私は彼女たちの執念に圧倒される。
だが無情にも大岩はビクともしなかった。こんな無理難題を真に受けてこれ以上彼女たちを悪戯に傷つけるのは流石に心が痛む。私はすぐに無理だと判断して中断させようとした。ところが・・・
「・・・なぜだ、カナヲ」
「・・・・・・」
なんと姉たちの鬼殺隊入隊に反対していたであろうカナヲが私の手を掴む。細腕とは思えぬ尋常ならざる握力に抑え込まれ、私は腕を振り払うことすらできずにいた。
「姉さんたちが納得するまで続けさせて欲しいの。途中で中断したら諦めきれないと思うから」
「いいのか? 姉たちに辛い思いをさせてまで。それに万が一これで大岩が動いたら・・・」
「その時は・・・私が二人を傍で守る・・・私もそれくらいの覚悟は固めてるから」
「・・・・・・」
カナヲの言葉に私は観念する。もしこれで心置きなく挑戦して諦められるのならある意味それが一番幸せなのかもしれない。カナヲの言う事も一理ある。私は静観することに決めた。
だが私たちの考えとは裏腹に、彼女たちはやがて半刻以上それを繰り返したのちに、大岩を移動させることに成功した。
「ハアッ! ハアッ! できたっ!! やったわ姉さんっ!!」
「うふふっ! 流石はしのぶね! 本当に機転が利くんだから!」
「どうよ悲鳴嶼さん! 約束通り岩動かしたわ! まさか約束を反故にするわけじゃないでしょうね!?」
今この場で、岩を押せないと冷静に状況を分析し、用意できるものの中で最適な道具を駆使してそれを成し遂げようとする知恵。
そして両の掌を血みどろにしても目的遂行のために決して諦めない不屈の精神。その意志の強さ。こんな状態になっても岩を動かしてしまうとは。なんという精神力。一般の町娘のそれとは思えない。
私はしぶしぶ観念した。
「わかった。私は君達を認める。カナヲも自分で言い出したことだ。今更姉たちの決断を引き留めはしまいな?」
「・・・・・はい」
「では二人に育手を紹介しよう。だがまずは両手の治療が最優先だ。恐らく数日はまともにものを掴めないだろう。屋敷の中に入りなさい」
二人はその一言で一気に現実に戻ったのか、咳を切ったように大層痛がり始めた。
こうしてみるとただの年頃の少女だが。しかしやはりと言うべきか、あのカナヲの姉妹が普通の娘のはずがなかった。
あの日、私が駆け付けた時には既に、鬼は頭蓋を叩き割られうつぶせに転がっていた。さらにその身に何度も石臼を打ち付ける影が居た。私はその様子に驚愕した。
その少女は僅か八つの幼子だった。上背も小さく、両の手も特別に鍛え上げているようには思えなかった。
だが彼女は、常人が到底一人で持ち上げられないであろう重さの石臼を両手で振り上げ、それを何度も鬼に打ち下ろしていたのだ。尋常ならざる膂力と言わざるを得ない。
加えて彼女は息ひとつ乱れていなかった。呼吸は落ち着いており・・・いやそもそも・・・初めから全集中の呼吸を常に行っていた。あたかもそれが生まれながらに当然であるかのように。
そして極めつけはその気配だった。これ程のことを成して置きながら、一切気配が揺らがなかった。まるで植物と相対しているようなそんな奇妙な感覚。
盲目の私だからこそ分かる。彼女は人の子でありながら人を遥かに超越した理外の存在であると。私は思わず彼女に語り掛けた。
「君の名はなんという?」
「胡蝶カナヲ・・・私の名前は胡蝶カナヲ・・・貴方は・・・?」
私は自身が鬼殺隊の柱であることを明かし、加えてすぐさま鬼殺隊に入隊してほしいと懇願した。鬼の首領を滅すれば、二度とこのようなことは起こらないとも。カナヲはそれを聞き関心を示したが、遺された他の姉妹たちは信じられない様子だった。
「私が鬼殺隊に入隊すれば・・・私たちと同じ思いを誰もしないで済むようになるの?」
彼女はそう問いかけるので私は静かに頷いた。これは確信だった。この少女がいれば、長きに渡る鬼との戦いに終止符が打てるのだと。
すると彼女は姉妹たちを置き去りにして私の傍らへと移動した。
「カナヲっ!! どうして!? お願いだから戻って来てっ!!」
長女らしき娘が悲痛な声を上げる。だがその声に振り返り、カナヲは血濡れた姿で返答した。
「大丈夫、カナエ姉さん。何も心配いらない。きっと私は、鬼を滅するために特別強く造られて生まれて来たと思うの。姉さん達はどうか元気で。さよなら」
そうして彼女は、私たち鬼殺隊と共に歩むことを決めた。
続く
本作のしのぶさん、原作に比べて怒りっぽい性格になってるかも。まあ筆者は好きですが(え)。
読みたい路線はどっち?
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一部の層(継国兄弟ファン)にぶっ刺さる話
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万人受けしそう(マイルド)な話