31話 那田蜘蛛山
「カァアア!! 那田蜘蛛山へ向カエ!! 那田蜘蛛山へ向カエェ!! 他ノ隊士トノ合同任務デアル!! 日ガ暮レ次第任務開始ィ!! 急ゲ!! 急ゲェ!!」
善逸と伊之助に常中の鍛錬を課してから約一週間が過ぎた。ある朝、突如鎹鴉からそのような司令を出される。今回は私達四人だけでなく、他にも大勢隊士が参加するようだ。私はとても嫌な予感がした。
「しのぶ。今回俺達の他に相当の人数の隊士が参加するらしいぞ? しかも何名かはかなり階級が高い。もしかしたらこれって・・・!」
「ええ。十二鬼月討伐任務の可能性があるわね。柱を派遣しないってことはまだ確定してないんでしょうけど・・・」
流石に甲は居ないけど、それに準ずる階級の隊士が二名はいる。この感じだと既に村数個分は被害が出てても可笑しくない。となるとその鬼は那田蜘蛛山周辺だけで百人以上喰い殺してる可能性が高い。
被害の規模的に十二鬼月の下弦と言ったところかしら? 私は思わず手を震わせる。だが・・・
「大丈夫だよしのぶ。俺達ならやれる。力を合わせればどんな鬼とも戦える。俺はしのぶが隣に居てくれるだけで百人力だよ?」
「炭治郎・・・」
炭治郎は私の不安を嗅覚で感じ取ったのか、私の手をそっと握り優しく声を掛けてくれる。私はそれだけで安心することができた。
「それに、しのぶなら十二鬼月の下弦位なら後れを取ることもないはずだ。しのぶが弱らせて俺が止めを刺す。相手が上弦でもない限り可能なはずだ。それに今回は善逸も伊之助も居る。もしかしたら上弦が相手でも何とかなるかもしれないぞ?」
「いや、それはねえだろ炭治郎。上弦なんて真っ先に俺が死ぬわ。その時は逃げるからな俺」
「ガハハハッ!! この伊之助様の手に掛かれば、どんな鬼もイチコロだぜっ!! 勝負勝負ゥ!!!」
「な? 二人とも平気って言ってるだろ? だから大丈夫だ。自信を持とう、しのぶ」
「炭治郎・・・」
気づけば私の震えは止まっていた。私は笑みを浮かべて炭治郎を見つめ返す。
「ええ。私達四人ならきっと平気ね? 一晩で十二鬼月なんて倒してさっさと帰りましょう」
「いや、少なくとも俺は平気じゃないです。十二鬼月と戦う前に帰らせてください。お願いします」
善逸の小声が聞こえたような気がするがこの際全て無視するものとする。私たちはテキパキと身支度を整えて那田蜘蛛山へと向かった。
「お久しぶりです村田さん。貴方も今回の任務には参加するんですね?」
「へ? えっ!? し、しのぶ!!?? どうして君がこんなところに・・・!!」
「はい。私も先月、最終選別を突破して漸く鬼殺隊士になれたんです。ほら、ちゃんと日輪刀も持ってるんですよ?」
「まさか・・・しのぶが前線に出て来る日が来るなんて・・・それで最近蝶屋敷には居なかったんだね。納得したよ」
「しのぶ。この人は?」
私達は那田蜘蛛山の麓で待機する数名の隊士達と合流する。その中に見知った顔があったので私はキチンと挨拶した。思った通り村田さんだった。
「炭治郎。紹介するわね。この人は村田さん。私たちの兄弟子、冨岡さんと同期の人なの。ちゃんと挨拶なさい」
「と、冨岡さんと同期!? 凄いっ!! 初めまして!! 俺、しのぶと同じ鱗滝さんに育ててもらった竈門炭治郎ですっ!! 本日はよろしくお願いします!!」
「成る程。同じ育手のよしみか。しかし炭治郎はまた随分と活発な子だな。正直心強いよ」
「はい!! 俺も村田さんが居てくれて心強いです!! これならいざ十二鬼月の上弦が相手でもみんなで力を合わせれば何とかなりそうですね!!」
「ん??? なんで??? というか上弦っ!? あの・・・炭治郎・・・滅多なことは言うもんじゃないよ・・・俺達だけで戦えるような相手じゃない・・・その時は即時撤退しよう」
「えっ!? どうしてですか!? 村田さんを中心に俺達が援護に回って支えれば充分勝算があると思うんですが!」
「は??? え??? 何!? どういうこと!!??」
「え? だって村田さんは冨岡さんの同期なんですよね? 冨岡さんは柱に成るくらい凄い人だから村田さんだって同じ位強いんじゃ・・・」
「いやいや!!!! 俺がそんな強いはずないだろ!!?? 俺なんてまだ柱でもない庚だ!!!! とてもじゃないが十二鬼月となんて戦えないって!!!!」
「え? でも村田さんは冨岡さんと同期なんだから同じ位強いはずじゃ・・・」
「あのね!! 炭治郎さ!! 同期が何も全員同じ位強いって訳じゃないんだよ!? 俺は年期重ねているだけで下から四番目の階級なの!!!!」
「え? でも村田さんは・・・」
「待って!? そんな期待に満ち満ちた目で俺を見ないで!? いやがっかりされるのもそれはそれで堪えるけど!! 兎に角、俺は冨岡みたいに強くないから!! 頼りにしてくれるのは嬉しいけどそんなに過度な期待しないでって!!」
「ぷっ!」
村田さんの弁明の途中、他の隊士達の中から突如噴き出して笑う者が現れた。私はそいつを睨む。
「何が可笑しいんですか?」
「おいおい。水柱様の弟弟子だか何だか知らねぇがよ、村田みたいな歳だけ喰った万年平隊士に頼るなんて程度が知れてんな? せいぜい下の階級共は鬼の餌にならねぇよう気を付けるんだな」
「は?」
私は青筋を浮かべる。目の前の男は如何にも傲慢そうで不遜な態度を取ってる男だった。
「貴方この任務がどれだけ危険かわかっているんですか? 恐らく十二鬼月の下弦位なら当たり前に出てくると思いますよ?」
「ああ? 誰かと思えばお前、胡蝶妹か。なんでただの医療従事者がこんな任務の最前線に顔出してんだ? お前、あれから岩切れるようになったのかよ?」
「・・・・・・」
「ふん。その様子だとお情けで最終選別の許可貰って偶々生き残った口か。良いご身分だな。元花柱様の妹ってだけで鬼の頸すら斬れないくせに剣士の真似事できんだからよ」
思い出した。こいつ以前、蝶屋敷に重傷を負って運び込まれた一般隊士だ。確か私が治療したんだっけ。入院中私が育手の下と蝶屋敷間を往復してる話を聞いて、今みたいに舐めた口利いてた奴だ。確か余りに口が過ぎたから、木刀の手合わせで一度私が灸を据えたんだっけ。
「はっ! お前みたいな半端者は鬼を前にちょこまかと逃げ回ってれば良いんだよ。まあ鬼を討伐できなきゃいつまで経っても癸のままだろうがな。ハハハッ!」
「・・・・・・」
私は言い返せなかった。事実、私は未だに鬼の頸が斬れない。炭治郎が居なくちゃ鬼を一匹も殺せない不完全な隊士だ。それは自分が一番わかってた。だからこそ、私は目の前の男の暴言に何一つ異議を唱えることができない。私が口を引き結んで黙っていると・・・
「おい!! そこのお前!! お前にしのぶの何が分かるって言うんだ!!!」
「ああ?」
「あ、ちょっと! 炭治郎やめなさい・・・!!」
何故か炭治郎の堪忍袋の緒が切れて目の前の男と言い合いをすることになってしまった。私は慌てて炭治郎を止めようとするが、それでも炭治郎は主張を止めない。
「しのぶは鬼と戦うだけじゃない!! 隊士達の治療だって出来るんだ!! 俺達が瀕死の重傷を負った時、誰のおかげで死なずに済んでいると思ってるんだ!! しのぶを侮辱するな!!!」
「はあ? 鬼と戦うなんて隊士ならやって当たり前。傷の治療も金を握らせて外部の医者に任せればいい。どっちも中途半端な奴なんか、鬼殺隊の中じゃ誰も一人前なんて認めねぇんだよ」
「しのぶはどちらも中途半端なんかじゃない!! しのぶは俺よりも強いし町医者よりも迅速に治療ができる!! どちらも一人前にこなせる立派な隊士だ!!! 言いがかりは止めろ!!!」
「ははっ! なんだよお前、そこまで啖呵切っておきながら胡蝶妹よりも弱いのかよ。やっぱり癸の奴らは駄目だな。お前らはそこそこの鬼一匹倒してさっさと下山した方が身のためだぜ。良し、長話はこんくらいにしてそろそろ俺達は行くか」
するとそいつは四名程隊士を引き連れて、先に那田蜘蛛山へと足を踏み入れようとする。
「あ! おい! 君達! まだ他の隊士が全員揃っていないぞ!! 君らだけ先に入山したら危険だ!!」
「ああ? 今なんて言った? 万年平隊士の村田さんよぉ。俺はお前よりも入隊は遅いが、階級は俺の方が上なんだぜ? いちいち指図してんじゃねぇよ」
そうしてそのまま、その男は山の中へと入り、やがて姿が見えなくなってしまった。村田さんは苦虫を噛み潰したような声で絞り出す。
「クソ・・・!! 最近の若い奴らは・・・!! 命令違反なんて何を考えているんだ・・・!! 命が惜しくないのか・・・!!」
「村田さん」
すると炭治郎は村田さんに声を掛ける。
「この中で恐らく村田さんが一番経験豊富な方だと思います。その経験を活かして、大勢の隊士の居る合同任務を成功させる為に、俺達に助言いただけませんか?」
「炭治郎・・・わかった・・・少し待ってくれ。隊の編成を一度組み直す」
すると村田さんは書き物を取り出して、隊編成の草案を練り始めた。炭治郎はそれを確認し、私の方へと歩み寄った。
「ごめん。しのぶ。勝手に騒いで。どうしても我慢できなかったんだ」
「炭治郎・・・」
「あの人、多分常中すら習得していない。そんな奴にしのぶのこれまでの努力を否定されたくなかった。だから思わず言い返してしまったんだ。本当にごめん」
「いや、炭治郎が謝るようなことじゃないわよ」
すると私の後ろから善逸と伊之助が声を掛けてくる。
「ほんとな。アイツ大して強くないと思うぜ? 音でだいたいわかったし。先に入山するとか自殺行為としか思えねぇな」
「弱い犬程良く吠えるって言うからな! あの勘違い雑魚助のことなんてほっときゃ良いんだよ! しのぶは気にすることねぇぜ!」
「・・・そうね・・・」
二人の意見に私は苦笑する。やがて到着が遅れた隊士達も集い、村田さんが残りの隊士全員を含めた隊編成をこの場で最も高い階級の隊士に提案する。
「尾崎さん。これでお願いします」
「承知しました」
すると、その女性隊士は村田さんの書き記した書類に目を通し、全隊士に呼びかける。
「ここに居る半数以上が階級癸の経験の浅い隊士達だ。それでも私たちは鬼に立ち向かわねばならない。階級庚の村田に改めて隊の編成案を練ってもらった。班分けをする。各自作戦の指示に従ってくれ」
そうして私たちは、班の編成に従い、那田蜘蛛山へと入山した。
続く
もしサイコロステーキ先輩のガチファンの方が居たら大変に申し訳ございません。謝罪いたします。コイツ程かませが似合うキャラが思いつかなかったんです。因みに本作では累とは違うキャラにサイコロステーキにされる予定です。
読みたい路線はどっち?
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一部の層(継国兄弟ファン)にぶっ刺さる話
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万人受けしそう(マイルド)な話